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#57 密命⑪
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「ちょっと、クリス、あなた、そんなとこで何やってるのよ?」
柳眉を逆立て、人垣を割って現れたのは、もちろんアグネスである。
「あなたはまだ囚人なのよ! 明日までお部屋でおとなしくしてなきゃだめじゃないの!」
よそ行きのドレス、金銀の首飾りや腕輪で着飾ったアグネスは、いかにも王子の婚約者でございといった雰囲気だ。
でも、性格が顔に出るたちなのか、目元と口元のいやしさはどうにも隠しきれないでいるようだ。
「えーっと、あんまり退屈なんで、少し散歩でもしようかと…」
私はわざととぼけてみせた。
「なにのんきなこと言ってるのよ。ここはあんたなんかの来るとこじゃないわ。しかもそんなはしたない恰好で! これが何の集まりかわかってるの?」
はしたない恰好って、これ、もとはといえばあんたが選んでくれた服じゃない!
それに、何のパーティーかなんて、一介の女子高生に過ぎないこの私にわかるはずがない。
「クリス、頼む、部屋に戻ってくれ」
王子が大きく盛り上がった私のビスチェ風スポーツブラに目を釘付けにしたまま、あわただしい口調で言った。
「忘れたのか。きょうは母上の誕生日だ。これは、その60回目のパーティーなんだ。おまえのような者が来るところではない」
母上?
つまり、王妃ってこと?
そういえば、こっちに来てから王妃にはまだお目にかかっていない気がする。
あの裁判の場にも姿をみせなかったのだ。
このイケメン王子のお母さんって、いったいどんな人なのだろう?
私は王子とアグネスを無視して、伸び上がって周囲を見渡した。
遠くのほうで、王様が恰幅のいい紳士たちに囲まれて、グラス片手に談笑している。
けれど、王妃らしい人の姿はどこにもない。
いないじゃん。
首をかしげた時だった。
「だあれ? けがらわしい娼婦を私のパーティーに呼んだのは」
びっくりするほど近くで、不機嫌そうな声がした。
「王妃さま…」
そのひと声で、勝ち誇ったようなアグネスの顔が、たちまち凍りついた。
柳眉を逆立て、人垣を割って現れたのは、もちろんアグネスである。
「あなたはまだ囚人なのよ! 明日までお部屋でおとなしくしてなきゃだめじゃないの!」
よそ行きのドレス、金銀の首飾りや腕輪で着飾ったアグネスは、いかにも王子の婚約者でございといった雰囲気だ。
でも、性格が顔に出るたちなのか、目元と口元のいやしさはどうにも隠しきれないでいるようだ。
「えーっと、あんまり退屈なんで、少し散歩でもしようかと…」
私はわざととぼけてみせた。
「なにのんきなこと言ってるのよ。ここはあんたなんかの来るとこじゃないわ。しかもそんなはしたない恰好で! これが何の集まりかわかってるの?」
はしたない恰好って、これ、もとはといえばあんたが選んでくれた服じゃない!
それに、何のパーティーかなんて、一介の女子高生に過ぎないこの私にわかるはずがない。
「クリス、頼む、部屋に戻ってくれ」
王子が大きく盛り上がった私のビスチェ風スポーツブラに目を釘付けにしたまま、あわただしい口調で言った。
「忘れたのか。きょうは母上の誕生日だ。これは、その60回目のパーティーなんだ。おまえのような者が来るところではない」
母上?
つまり、王妃ってこと?
そういえば、こっちに来てから王妃にはまだお目にかかっていない気がする。
あの裁判の場にも姿をみせなかったのだ。
このイケメン王子のお母さんって、いったいどんな人なのだろう?
私は王子とアグネスを無視して、伸び上がって周囲を見渡した。
遠くのほうで、王様が恰幅のいい紳士たちに囲まれて、グラス片手に談笑している。
けれど、王妃らしい人の姿はどこにもない。
いないじゃん。
首をかしげた時だった。
「だあれ? けがらわしい娼婦を私のパーティーに呼んだのは」
びっくりするほど近くで、不機嫌そうな声がした。
「王妃さま…」
そのひと声で、勝ち誇ったようなアグネスの顔が、たちまち凍りついた。
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