上 下
8 / 20

問題児

しおりを挟む
「ルディ様、とても素敵でしたわ。こんなに心が弾んだのは初めてです」

 ダンスで高揚したサリーニァが、上目遣いでルディを見つめ頬を染めた。

「わたくし、ルディ様をもっと知りたいです」
「…サリーニァ嬢」

 絡ませてくる腕を振り払えるわけもなく―――
 誰に押しつけようかとルディが思案していると、見覚えのある男が話しかけてきた。

「珍しいこともあるモノだな。お前が舞踏会に顔を出すなんて」

 黒髪をピッシリと整え、野心に満ちた赤い瞳の男が目の前で立ち止まった。
 令嬢を両脇に連れており、いやらしく腰を撫で回している。

「ヤンジッチか…」
「おいおい、そんな嫌そうな顔をするなよ。同じだろ」
「……」

 わざわざ強調して話すヤンジッチにルディの中にある嫌悪感が増していく。

 伴侶がいる令嬢に手を出そうとしたり、能力を使い相手を快楽に堕とすだけ堕として狂わせる…
 ボレッチム家に逆らえない相手にヤンジッチは三大貴族の名を使い、やりたい放題だった。

 そんな三大貴族の名に恥じるような問題ばかり起こすヤンジッチにルディは、関わり合いたくなかった。

「おや?いつもくっついて歩いている、金髪のはどうした?」
「ほほっ、ヤンジッチ様ったらそんな犬みたいに」
「混血なぞ、なり損ないだろ?俺なら恥ずかしくて、連れて歩けないな」
「わたくしも一緒は嫌ですわ」
「わたくしも嫌よ」

 この場にいないエイリアに対して、盛り上がる連中にルディの苛立ちが増した。
 周りはルディが一切笑っていないことに気づかない。

「あの容姿じゃ、踊る相手も伴侶も望めまい。ああ!なんならルディ、なり損ないを俺が飼っている犬と番わせてやってもいいぞ」
「もうっ、ヤンジッチ様ったら」
「やだーっ、それって獣以下じゃない」

「黙れ」

 ルディの放った一言で、会話がピタリと止まった。

 令嬢達は、今話していたのがルディのだったこと思い出し、顔が青ざめる。

「…俺の前でこれ以上、エイリアを侮辱してみろ」

 ただならぬ雰囲気のルディにサリーニァも思わず身をすくめ、腕を離した。

 ヤンジッチだけは、澄ました顔で話を続ける。

「側近のジールもいないお前に何ができる、ルディ=ライディア。いまだにヴァンパイアの能力が戻っていないお前など、脅威も何もないわ。俺の前にひざまずかせることも造作ではないんだぞ」

 その言葉にますます令嬢達の顔が青ざめていく。

 三大貴族同士とはいえ、当主と三男とでは格が違う。ライディア家の当主に手を出したとなったら、自分達もとばっちりを受ける。

 危機を感じた令嬢達が、ヤンジッチを次々と戒めようと言葉を投げかけた。

「ヤンジッチ様!おやめになって!」
「ルディ様に対して、それはいけませんわ!」
「そうですわ!ライディア家の御当主相手に、いけません!」

 令嬢達は、必死に訴えかけた。しかし、令嬢達の思いもむなしくヤンジッチには届かない。

「ふんっ、お前達が心配しなくても俺が、コイツなどに負けるわけないだろう」

「ヤンジッチ=ボレッチム。これ以上、ルディ様に不敬な態度は許しませんよ」

 突然、ルディの側へと現れたジールへと視線が集まった。

 睨みを効かせる男は、この場で一番強く、容赦なくねじ伏せられるちからを持っている。
 男の鋭い瞳に恐怖を覚えつつ、ヤンジッチが暴れられない状況になった事に令嬢達は、ホッと胸を撫で下ろした。

「…ちっ、じゃあな。ライディア家の

 ジールの登場に分が悪いと感じたヤンジッチは、令嬢を引き連れ去っていった。
 苛立ちを隠せないジールが、ルディと向き合い愚痴をこぼす。

「ルディ様!ヤンジッチのあの態度は何ですか!?あんな三下に我が主人を侮辱されるなんて!」
「ジール、そう怒るな」
「怒りますよ!大体、ちからを失っていなければルディ様の方が――」

 自分の言葉にハッとし、ジールは口籠もった。

「気にするな、ちからが戻らないのは、本当なのだから。それより、エイリアはどうした?」
「それが、少し席を外しているうちに何処かへいってしまったようで…」
「見つけに戻るぞ、先に行く!」

 急ぎ足でその場から立ち去ってしまったルディに、サリーニァが唖然としているとジールが近くにいた男に声をかけた。

「貴方にサリーニァ嬢のエスコートを頼みたいのですが…」
「ジール様!?」
「いいですね?」
「も、もちろん!喜んで!」

「サリーニァ嬢。すみませんが、ルディ様の具合が悪くなったみたいなので、下がらせていただきますね」
「あ…そ、そうですわよね。あんな言葉を投げかけられたのですもの、お大事になさってください」

 ジールはニッコリと微笑み、サリーニァと男を見送った。

 さっさと行ってしまった主人の後始末をしつつ、急いでジールもルディの後を追っていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

処理中です...