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問題児
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「ルディ様、とても素敵でしたわ。こんなに心が弾んだのは初めてです」
ダンスで高揚したサリーニァが、上目遣いでルディを見つめ頬を染めた。
「わたくし、ルディ様をもっと知りたいです」
「…サリーニァ嬢」
絡ませてくる腕を振り払えるわけもなく―――
誰に押しつけようかとルディが思案していると、見覚えのある男が話しかけてきた。
「珍しいこともあるモノだな。お前が舞踏会に顔を出すなんて」
黒髪をピッシリと整え、野心に満ちた赤い瞳の男が目の前で立ち止まった。
令嬢を両脇に連れており、いやらしく腰を撫で回している。
「ヤンジッチか…」
「おいおい、そんな嫌そうな顔をするなよ。同じ三大貴族様だろ」
「……」
わざわざ強調して話すヤンジッチにルディの中にある嫌悪感が増していく。
伴侶がいる令嬢に手を出そうとしたり、能力を使い相手を快楽に堕とすだけ堕として狂わせる…
ボレッチム家に逆らえない相手にヤンジッチは三大貴族の名を使い、やりたい放題だった。
そんな三大貴族の名に恥じるような問題ばかり起こすヤンジッチにルディは、関わり合いたくなかった。
「おや?いつもくっついて歩いている、金髪のなり損ないはどうした?」
「ほほっ、ヤンジッチ様ったらそんな犬みたいに」
「混血なぞ、なり損ないだろ?俺なら恥ずかしくて、連れて歩けないな」
「わたくしも一緒は嫌ですわ」
「わたくしも嫌よ」
この場にいないエイリアに対して、盛り上がる連中にルディの苛立ちが増した。
周りはルディが一切笑っていないことに気づかない。
「あの容姿じゃ、踊る相手も伴侶も望めまい。ああ!なんならルディ、なり損ないを俺が飼っている犬と番わせてやってもいいぞ」
「もうっ、ヤンジッチ様ったら」
「やだーっ、それって獣以下じゃない」
「黙れ」
ルディの放った一言で、会話がピタリと止まった。
令嬢達は、今話していたのがルディの近くにいる者だったこと思い出し、顔が青ざめる。
「…俺の前でこれ以上、エイリアを侮辱してみろ」
ただならぬ雰囲気のルディにサリーニァも思わず身をすくめ、腕を離した。
ヤンジッチだけは、澄ました顔で話を続ける。
「側近のジールもいないお前に何ができる、ルディ=ライディア。いまだにヴァンパイアの能力が戻っていないお前など、脅威も何もないわ。俺の前に跪かせることも造作ではないんだぞ」
その言葉にますます令嬢達の顔が青ざめていく。
三大貴族同士とはいえ、当主と三男とでは格が違う。ライディア家の当主に手を出したとなったら、自分達もとばっちりを受ける。
危機を感じた令嬢達が、ヤンジッチを次々と戒めようと言葉を投げかけた。
「ヤンジッチ様!おやめになって!」
「ルディ様に対して、それはいけませんわ!」
「そうですわ!ライディア家の御当主相手に、いけません!」
令嬢達は、必死に訴えかけた。しかし、令嬢達の思いもむなしくヤンジッチには届かない。
「ふんっ、お前達が心配しなくても俺が、コイツなどに負けるわけないだろう」
「ヤンジッチ=ボレッチム。これ以上、ルディ様に不敬な態度は許しませんよ」
突然、ルディの側へと現れたジールへと視線が集まった。
睨みを効かせる男は、この場で一番強く、容赦なくねじ伏せられる力を持っている。
男の鋭い瞳に恐怖を覚えつつ、ヤンジッチが暴れられない状況になった事に令嬢達は、ホッと胸を撫で下ろした。
「…ちっ、じゃあな。ライディア家のエセ当主」
ジールの登場に分が悪いと感じたヤンジッチは、令嬢を引き連れ去っていった。
苛立ちを隠せないジールが、ルディと向き合い愚痴をこぼす。
「ルディ様!ヤンジッチのあの態度は何ですか!?あんな三下に我が主人を侮辱されるなんて!」
「ジール、そう怒るな」
「怒りますよ!大体、力を失っていなければルディ様の方が――」
自分の言葉にハッとし、ジールは口籠もった。
「気にするな、力が戻らないのは、本当なのだから。それより、エイリアはどうした?」
「それが、少し席を外しているうちに何処かへいってしまったようで…」
「見つけに戻るぞ、先に行く!」
急ぎ足でその場から立ち去ってしまったルディに、サリーニァが唖然としているとジールが近くにいた男に声をかけた。
「貴方にサリーニァ嬢のエスコートを頼みたいのですが…」
「ジール様!?」
「いいですね?」
「も、もちろん!喜んで!」
「サリーニァ嬢。すみませんが、ルディ様の具合が悪くなったみたいなので、下がらせていただきますね」
「あ…そ、そうですわよね。あんな言葉を投げかけられたのですもの、お大事になさってください」
ジールはニッコリと微笑み、サリーニァと男を見送った。
さっさと行ってしまった主人の後始末をしつつ、急いでジールもルディの後を追っていった。
ダンスで高揚したサリーニァが、上目遣いでルディを見つめ頬を染めた。
「わたくし、ルディ様をもっと知りたいです」
「…サリーニァ嬢」
絡ませてくる腕を振り払えるわけもなく―――
誰に押しつけようかとルディが思案していると、見覚えのある男が話しかけてきた。
「珍しいこともあるモノだな。お前が舞踏会に顔を出すなんて」
黒髪をピッシリと整え、野心に満ちた赤い瞳の男が目の前で立ち止まった。
令嬢を両脇に連れており、いやらしく腰を撫で回している。
「ヤンジッチか…」
「おいおい、そんな嫌そうな顔をするなよ。同じ三大貴族様だろ」
「……」
わざわざ強調して話すヤンジッチにルディの中にある嫌悪感が増していく。
伴侶がいる令嬢に手を出そうとしたり、能力を使い相手を快楽に堕とすだけ堕として狂わせる…
ボレッチム家に逆らえない相手にヤンジッチは三大貴族の名を使い、やりたい放題だった。
そんな三大貴族の名に恥じるような問題ばかり起こすヤンジッチにルディは、関わり合いたくなかった。
「おや?いつもくっついて歩いている、金髪のなり損ないはどうした?」
「ほほっ、ヤンジッチ様ったらそんな犬みたいに」
「混血なぞ、なり損ないだろ?俺なら恥ずかしくて、連れて歩けないな」
「わたくしも一緒は嫌ですわ」
「わたくしも嫌よ」
この場にいないエイリアに対して、盛り上がる連中にルディの苛立ちが増した。
周りはルディが一切笑っていないことに気づかない。
「あの容姿じゃ、踊る相手も伴侶も望めまい。ああ!なんならルディ、なり損ないを俺が飼っている犬と番わせてやってもいいぞ」
「もうっ、ヤンジッチ様ったら」
「やだーっ、それって獣以下じゃない」
「黙れ」
ルディの放った一言で、会話がピタリと止まった。
令嬢達は、今話していたのがルディの近くにいる者だったこと思い出し、顔が青ざめる。
「…俺の前でこれ以上、エイリアを侮辱してみろ」
ただならぬ雰囲気のルディにサリーニァも思わず身をすくめ、腕を離した。
ヤンジッチだけは、澄ました顔で話を続ける。
「側近のジールもいないお前に何ができる、ルディ=ライディア。いまだにヴァンパイアの能力が戻っていないお前など、脅威も何もないわ。俺の前に跪かせることも造作ではないんだぞ」
その言葉にますます令嬢達の顔が青ざめていく。
三大貴族同士とはいえ、当主と三男とでは格が違う。ライディア家の当主に手を出したとなったら、自分達もとばっちりを受ける。
危機を感じた令嬢達が、ヤンジッチを次々と戒めようと言葉を投げかけた。
「ヤンジッチ様!おやめになって!」
「ルディ様に対して、それはいけませんわ!」
「そうですわ!ライディア家の御当主相手に、いけません!」
令嬢達は、必死に訴えかけた。しかし、令嬢達の思いもむなしくヤンジッチには届かない。
「ふんっ、お前達が心配しなくても俺が、コイツなどに負けるわけないだろう」
「ヤンジッチ=ボレッチム。これ以上、ルディ様に不敬な態度は許しませんよ」
突然、ルディの側へと現れたジールへと視線が集まった。
睨みを効かせる男は、この場で一番強く、容赦なくねじ伏せられる力を持っている。
男の鋭い瞳に恐怖を覚えつつ、ヤンジッチが暴れられない状況になった事に令嬢達は、ホッと胸を撫で下ろした。
「…ちっ、じゃあな。ライディア家のエセ当主」
ジールの登場に分が悪いと感じたヤンジッチは、令嬢を引き連れ去っていった。
苛立ちを隠せないジールが、ルディと向き合い愚痴をこぼす。
「ルディ様!ヤンジッチのあの態度は何ですか!?あんな三下に我が主人を侮辱されるなんて!」
「ジール、そう怒るな」
「怒りますよ!大体、力を失っていなければルディ様の方が――」
自分の言葉にハッとし、ジールは口籠もった。
「気にするな、力が戻らないのは、本当なのだから。それより、エイリアはどうした?」
「それが、少し席を外しているうちに何処かへいってしまったようで…」
「見つけに戻るぞ、先に行く!」
急ぎ足でその場から立ち去ってしまったルディに、サリーニァが唖然としているとジールが近くにいた男に声をかけた。
「貴方にサリーニァ嬢のエスコートを頼みたいのですが…」
「ジール様!?」
「いいですね?」
「も、もちろん!喜んで!」
「サリーニァ嬢。すみませんが、ルディ様の具合が悪くなったみたいなので、下がらせていただきますね」
「あ…そ、そうですわよね。あんな言葉を投げかけられたのですもの、お大事になさってください」
ジールはニッコリと微笑み、サリーニァと男を見送った。
さっさと行ってしまった主人の後始末をしつつ、急いでジールもルディの後を追っていった。
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