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流行り病?2

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「イザベラさん、こっちこっち」

長い回廊を歩いていた私が、部屋の前を通ると急に呼び止められた。
扉が大きく開いたままの部屋には、立ち上がって私を呼ぶ王妃様の姿。

「⁈‥王妃様?」

王太子妃教育で、王宮を訪れた私を手招きしているのは、ハーラルの母である王妃様だった。

「イザベラさんを待っていたのよ!遅かったわね」 

「申し訳ありません‥‥」

いつもと同じ時間のはずだけど、王妃様を待たせていたのなら謝るしかない。

王妃様はとても気さくな方で、初めてお会いした時から私を娘のように可愛がってくださる優しい方だ。
金色の髪とライトブラウンの瞳の王妃様はとても美しい方で、顔立ちはハーラルによく似ている‥‥というか、ハーラルが王妃様似ということになる。

部屋には一人の若い男性が、何枚もの大きな紙を持って立っている。

「こちらはドレスの仕立て屋のリュゼルよ。彼のデザインはとても素敵なの」

「初めまして、リュゼルと申します。お会いできて光栄です。王太子妃様」

「あ、いえ。まだ婚約者ですから、イザベラとお呼びください」

「では、イザベラ様。本日はよろしくお願い致します」

彼は深く頭を下げた。

「⁈王妃様?私、今日はこれからダンスの練習があるのですが‥」

「イザベラさん!今日はダンスはいいから、新しいドレスのデザインを決めましょう!隣国を廻る時には何着も必要ですからね。さぁ座って」

「はい。王妃様‥」

言われるまま、ソファーに腰掛けるとテーブルの上にはズラリとデザイン画が並べられた。

「まぁ、とても素敵ですね」

思わず口にすると、王妃様は得意げになって、

「そうでしょう?彼は若いけれどとても才能があるのよ!私のドレスは全て彼に任せることにしたの。だからイザベラさんも彼に頼みましょう」

「身に余るお言葉を頂き光栄です」

彼は王妃様の前に跪いた。

「リュゼル、イザベラさんを見て新しいデザインを思い付くようなら、デザイン画を作り直してもいいのよ」

彼はその言葉に私を見た。

「イザベラ様のアンバーの瞳は大変珍しく、ぜひこの色で一着デザインさせて頂きたいと思います」

「そうねぇ。とても綺麗な色ですものね」

二人は頷き合っている。
と、そこへ王妃様を呼びにメイドが現れた。

「王妃様、お時間でございます」

「ああ、そう!これから公爵夫人と会う予定なの。後は二人で決めてね。リュゼル、デザイン画は後で見せてちょうだいね」

「かしこまりました」

王妃様は部屋を出て行き、私は取り残された。

「もう少し、瞳の色をよく見せていただいてもよろしいですか?」

「え?ええ、もちろん」

そう言うと彼は私に顔を近付けじっと見ている。

「深いアンバーはお美しいですね。光の加減で透き通る色も綺麗です。グラデーションにしましょうか?この黒髪との組み合わせもお美しいですから、ドレスにデザインしてみます」

「‥‥はい」

真剣に見つめられ緊張する。
‥‥とにかく近いわね。

「何をしている!!」

突然ハーラルの声がしたかと思うと、目の前に居た彼が床に突き飛ばされている。

「⁈ハーラル!!リュゼルさん大丈夫ですか⁇」

びっくりして立ち上がるとハーラルはギュッと私を抱きしめた。

「大丈夫か?イザベラ」

「ええ‥」

何が何だか‥

「貴様!俺の婚約者に何をしている!無礼だろう」

彼は痛そうに肩の辺りをさすりながら起き上がった。
突然突き飛ばされ驚いただろう。
とても痛そうで可哀想だ‥

「ちょっとハーラル!彼はリュゼルさんといってドレスのデザインをしてくださる方です!」

「ドレスのデザイン?」

「申し訳ございません。王太子殿下。リュゼルと申します。今イザベラ様のドレスのデザインを考えておりました」

ハーラルは私を抱きしめたまま離そうとしない。

「何故あんなに近付く必要がある!」

「申し訳ありません。イザベラ様の瞳の色が綺麗でしたので、もっとよく見せて頂こうかと思いまして」

彼は私達の足元に跪いたまま、まだ肩から腕の辺りをさすっている。

「リュゼルさん、大丈夫ですか?ハーラルが何か勘違いをしていたみたいで、ごめんなさい。折れたりしてないかしら?」

私はハーラルの腕の中から出ると、リュゼルさんの肩をさすった。
万が一にも折れていたら大変だわ。
彼の仕事にも影響してしまうかもしれない‥‥
王妃様の専属の仕立て屋さんだというのに、どうしたらいいのかしら‥‥

「イザベラ‥‥心配か?」

「え?ええ‥それはそうでしょう」

何故かハーラルはリュゼルさんを睨んでいるが、自分が突き飛ばしておいて、その態度はおかしい。

「ごめんなさい‥今日はもう‥‥」

彼は頷いて私を見ると、

「明日、出直して参ります。明日デザインを決めましょう。今日と同じ時間に待っております」

そう言って部屋を出て行った。

「もぅ!ハーラルったら突然あのようなことは危ないわ!」

「イザベラに近付き過ぎだろ!あんなの異常だ。テーブルを挟んだ距離で十分だろう」

「‥‥」

まぁ、確かに近かったけれど、専門家としては色にこだわっていたのだろうから、仕事の一環だと思うのだけど‥‥





翌日、同じ時間に同じ部屋を訪れたが誰も居ない。

「あれ?」

少し部屋の中を見回していると、

「イザベラ?」

その声に振り返るとハーラルが立っている。

「ハーラル!昨日のリュゼルさんがまだ来ていないみたいで‥‥」

「ああ、昨日の男か?彼は夜に熱を出したらしくて、どうも流行り病に罹ったらしい」

「え?流行り病?」

ついこの間も聞いたような話ね‥‥

「しばらくは外に出られないそうだよ」

「まぁ‥‥本当に今流行っているのね」

「ああ。だからイザベラも気を付けなければいけない」

私の手に長い口付けをしたハーラルは、

「さぁ、今日は珍しい医学書が入ったんだ!一緒に読まないか?」

と嬉しそうに手を引いた。

「医学書?とても興味があるわ!」

「そうだろう?さぁ図書室へ行こう」

‥でもドレスはどうなるのだろう‥‥。
























































































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