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流行り病?

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あれから一ヶ月が過ぎた今、私の生活環境は大きく変わった。

授業は南の棟でハーラルと共に学ぶようになり、そして休憩は二人であのベンチで過ごしている。
ハーラルはいつも膝枕を要求し、その度に頭や髪を撫でることを望むのだ。
まるで猫を飼っているような気分だ。

「ああ、幸せだ」

「そう?」

とても満足そうに目を瞑り、微笑んでいる。

「一番俺が幸せを感じる時間なんだ」

「そう?」

これが一番?
何だか不思議でちょっと理解できないけれど、嘘はついていないようだし、確かに表情は幸せそうに見える‥‥

学園が終わる頃にはいつも王宮から迎えの馬車が来て、私はハーラルと王宮へ行く。

王太子妃教育というものを受け、近々王太子の婚約者として他国に同行することが決まっている。
その為の勉強もさせられているのだ。

今はこれが日課となり、家に帰るとララや皆が心配するほどに疲れている。

「私‥‥婚約者を辞退しようかしら」

時々家で弱音を吐くが、そうするときまって翌日にはハーラルが、

「俺にはイザベラしかいない。離すつもりはない」

と笑って抱きついてくる。

内通者がいるのである‥‥

父達が家を出て行ってから、王家からは使用人や護衛騎士が侯爵家に何人も入れられた。

「イザベラのことが心配なんだ」

言葉巧みに送り込まれ、我が家には使用人が溢れている。
これは由々しき問題である。

別に本当に婚約者を辞めるつもりはないけれど、囲い込まれて逃げられそうにない。

何と言うか‥つまり、やり過ぎよ‥‥



クラスメイトだった人達は、一ヶ月領地に戻されたが、今は皆が学園に戻された。
私の所に謝りに来てくれて、あの時は一方的に責めて悪かったと言ってくれた。

それから時々、あの男子生徒は私を見かけると声を掛けてくれるようになった。

「クラスに戻って来ないか?皆もクラスメイトとして一緒に学びたいと言っているし‥」

まさか皆がその様に言ってくれるとは思っていなかった。
私は領地に送るようなことをしたのに、恨んではいないのかしら‥‥

「ありがとう、嬉しいわ。先生に聞いてみるわ」

私は嬉しかった。
クラスではいつも一人だったけど、本当は仲良くしてみたかったから。
残りわずかな学園生活が楽しい時間になってくれたら嬉しい。
サリー先生の元へ行き、説明すると喜んでくれた。

「良かったわね。あんな事があったけれど、クラスの皆と一緒に学べるのなら、お互いに成長した証拠ですもの。先生も賛成よ」

そう言ってくれた。

私は翌日、あの辛かった思い出のあるクラスへ行った。
今度は私からも話し掛けてみよう‥‥
そう思っていた。
けれど、クラスには誰もいない。
一人もいない‥‥

「あれ?」

休みの日ではないのに不思議だ。

「イザベラ?」

呼ばれて振り返るとハーラルが立っている。

「ハーラル!どうしたの?私、今日からまたクラスに戻れることになったのだけど、今誰もいなくて‥‥」

「ああ。このクラスで流行り病に罹った者がいたそうだ。だから、しばらくはこのクラスの授業はできないと聞いたよ」

「え?流行り病?そうなの?」

「移ると悪いから、このクラスは閉鎖だそうだ」

「閉鎖?‥‥」

せっかく楽しみにしていたクラスメイトとの時間。
今日は自分から挨拶してみようと決めていたのに残念だわ‥‥。

「さぁ、南の棟へ行こう。そうだ!今日はあのガゼボで昼食をとろうと思って、うちのコックを呼んでおいた。授業が終わったら一緒に行こう」

「ええ、それは楽しみね」

「イザベラの好きな物をたくさん作らせるよ」

「まぁ‥。申し訳ないわ」

「いいんだ。イザベラが喜んでくれることがしたくてさ」

「ありがとう、ハーラル」

「イザベラが側にいてくれれば、それでいい」

ハーラルは私の手を取ると、南の棟に向かって歩き出した。

早く皆の流行り病が治ってくれるといいけど‥‥

皆の心配をしながら、私はまた南の棟で授業を受けた‥。






























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