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サボり仲間の心配

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南の棟で授業を受けるようになって数日経った。
ここは集中できてとても良い環境だ。
教師は説明もわかりやすく知識も豊富で、私が疑問に思うことには何でも答えてくれた。

「非常に優秀な方なのですね。このように理解の早い方は一人しか知りません。
女性では初めてです。偏見ではございませんが、女性は政治の話には疎いのかと思っておりましたので、反省しております」

「?‥いえ」

「そういえば、もうご存知でしたか?創立記念日の式典の話」

「式典?学園が休みになるだけですよね?」

「今年は大きな節目の年なので、式典が行われるそうです」

「まぁ、それは知りませんでした」

「来月ですから、今は準備が忙しいようです」

「‥‥まぁ。そんなに大掛かりにするのですか?」

「ええ、節目ですから」

「‥‥」

創立何年だったかしら?

「それで、皆が特別な衣装を着ることになっています」

「え⁈衣装?この学園の制服ではないのですか?」

「華やかな式典にしたいという関係者側の意向で、式典用に作るそうです」

「‥わざわざ?作るのですか?」

「それで、これから採寸をさせていただきたいので、係の者を呼んできます」

「これからですか?唐突ですね」

「お作りするのに時間が必要ですから」

「あの、他のクラスの方達も皆そうなのですか?」

「さあ、他のクラスはもう終わっているのではないですか?イザベラさんは皆さんと一緒ではなかったので」

「‥‥」

サボっているうちに他の生徒達は終えていたのかしら。
それにしても創立記念日の為に服まで新しく作るなんて大掛かりすぎるわね‥‥
まぁ、節目というならそういうものかもしれないけど‥‥



採寸を終えた私は、他の生徒よりも一時間ほど早く終わり教室を出た。
帰り際、あのベンチが少し気になって自然と足が向いた。
久しぶりに行ってみると誰もいない。

三男坊のハーラルは、授業に出たのかしら?
サボってばかりいたけれど、大丈夫かしら?
人のことは言えないけど、彼の成績が気になった。
私に難しい本を用意するくらいだから、そんなに悪いとは思わないけど、二ヶ月以上も私と一緒にサボっていたのだから、授業についていけるのだろうか‥‥
人ごとではあるけど、サボり仲間として少し心配になった。

ベンチに座り、向かいのベンチを見る。
こんなに長くて大きなベンチだったかしら‥
いつも彼が寝ていたせいで見え方が違う。
彼はベンチが小さそうに膝を曲げて寝ていたけれど、意外と長いベンチだ。
三男坊は背が高かったものね‥

ついこの間まで一緒にサボっていたのに、ずっと昔のように思えた。

先生に怒られていないかしら‥
友人はいたのかしら‥

誰もいないベンチを眺めながら彼を思い出した。
ホワイトブロンドの髪は珍しかった。
そのうえアイスブルーの瞳は宝石のように美しかった。
三男坊だから、わりと自由な身であったのだろう。
女性と話すことも慣れているようだったし、私が居るこの場所にも抵抗なく入り込んで来た。
きっと女性との付き合いが多い方なんだわ‥‥

別に私には関係ないことだけど‥‥

このガゼボ、意外と広いわね。
いつも下ばかり見て本を読んでいたけれど、もう少しだけ話してみれば良かったかしら‥‥

私は彼の名前すらずっと知らないままだった。
お互いに何も知らない不思議な関係だった。
でも何故か一人で長い時間を過ごすよりも安心できていた。
あと半年もすれば、私は卒業してここを出る。
もう二度と会うこともないだろう‥

私は立ち上がると、家に帰る為その場を後にした。























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