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サボるのは卒業

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朝、ララに押し出されるように学園へ行かされた。
三日も休むと、いつもより足が重い。
けれどララに、

「今日も休んだら何が届くか分かりません。これ以上部屋は何も入りませんから!」

そう言われると行かないわけにはいかない‥‥
三男坊には、やり過ぎだと言わなければならない。
学園に着くと、何故か教師が立っていて呼び止められた。

「イザベラ•ボルヴァンド、一緒に来なさい」

その表情は険しい。
毎日授業に出ていないことを怒られるのか、アリサをいじめているという噂話で怒られるのか‥どちらにしても私が責められる立場で連れて行かれるのだろう。

「入りなさい」

部屋には学園長が座っている。
私を怒るのに、学園長直々とは‥もしかしたら辞めさせられるのかしら。

まぁ‥もうそれでもいいわ。

「イザベラ•ボルヴァンド。君は最近授業に出ていないそうだね」

「はい」

「それは何故ですか?」

「‥‥授業を受けなくてもテストでは上位を取れるからです」

「授業は必要ないと?」

「クラスで授業を受けると体調が悪くなるので受けたくありません」

「それは最近噂になっていることが原因ですか」

「‥‥」

「では、君には別の部屋で授業が受けられるように配慮しましょう」

「⁈どうしてですか?辞めさせるのではないのですか?」

「いや、君は随分と優秀な生徒だ。教師も優秀な者を付けよう」

「‥‥」

「明日からは南の棟に行きなさい」

「⁈そちら側は生徒用ではない棟ですよね?」

「空いてる教室が無いので、ひとまず南の空いてる部屋を使いなさい」

「‥はい」

思っていたことと違って気が抜けた。
怒られると思っていたのに、不思議だ‥

皆は授業中なので一人ベンチに向かった。
明日から授業を受けるなら、もうあのベンチで時間を潰す必要はない。
男爵家の三男坊に、お礼と嫌味を言うなら今日しかない。

中庭を奥に入って行くと、今日もベンチで寝ていた。

「お!今日はサボらずに来たのか?」

「サボりではなく熱があったのよ」

「そうか、それは大変だったな」

「あの、それで‥‥お見舞いどうもありがとう。とても高価な物をいただいてしまってごめんなさい」

「今人気のある物を人に聞いてみただけだよ」

「それから、あまりにもやり過ぎよ。部屋は足の踏み場もないほど花が届いたわ」

「あはははっ、王都中の花屋から送るように頼んだんだ。あそこまですれば今日は学園に来るだろうと思ってね」

「三男坊が随分大胆なことを考えるのね」

「まぁな。俺も初めてやってみたよ」

「何かあなたにお返ししなくてはね。高価な物を貰ったままというわけにはいかないわ。私は侯爵家の人間ですもの」

「なら、あの本の感想を聞かせてくれ。」

「カードにもあったけど、何故私の感想が聞きたいの?」

「お前は頭が良いのだろう?いつも二位だったか?その人間が何を思ったか聞いてみたい」

「普通の女性にはもっと違う本を選ぶものだと思うけど」

「ん?そうか?お前は普通の女性と違うから、難しい本の方がいいだろう?」

「‥‥」

「で?全体的な感想は?」

「はぁ‥‥。我が国の貿易に関して言えば、輸出量があまりにも少ないことが気になります。アルコールの輸出は多いですが、他に強みになるものがあまりありません。私でしたら職人の多いこの国の工芸品をもっと輸出してみるのはどうかと思いました」

「へぇ、それで?」

私は何故か貿易やら他国との関わり方など、無意味に思える感想を延々とさせられ、三男坊はうんうんと聞いていた。

あなたにこの話、関係あるのかしら?

「明日から私、もうベンチには来ないわ」

「へぇ、サボるのは卒業か?」

「あなたも授業に出たら?いくら男爵家の三男と言っても学力は必要でしょう?見下しているのではなく、あなたの為よ」

「あははは、親切だな」

「ではこれで会うこともないでしょう。そう言えば、名前も知らないままだわ。あなたは何処の家?」

「気になるか?イザベラ」

「あなたは私の名前を知っていたのね」

「君は有名人だから」

「‥‥」

「俺はハーラルだ。それじゃあな。もうサボるなよ!」

彼は立ち上がると歩いて行ってしまった。

サボり仲間の彼と同じ時間を過ごすことはもうないだろう。

いつも言葉は少ししか交わさず、一人は寝てるだけ、もう一人は本を読んでいるだけの静かな時間。

私にとっては心安らぐ時間だったのかもしれない‥‥




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