【完結】勘違いの多い二人

勘違い二人目

突然婚約を解消しないかと言われ、頭が真っ白になった。
俺は何を言われた？
解消？無かったことにしてくれということか？

「どうして？それは、リナちゃんの本心かな？」

返事が怖かった。

「はい」

そう言われて崩れ落ちそうになった。

「そうか‥‥なら仕方ないね‥‥そうしよう」

やっと言葉を絞り出すと屋敷を出た。
その後のことは思い出せない。


リナ•ルーベルトンは、一つ下の学年で、初めて見たのは姉セレナと一緒に歩いている姿だった。
姉のセレナは同学年で同じクラスだった。
二人が歩いて俺の横を通り過ぎた後、友人達が皆言った。

「あれがセレナの妹だそうだけど、全然似てないな」

「やっぱりセレナの方が美人だな」

「あの妹、うちのネコに似てる気がする」

「セレナと違ってぽっちゃりだな」

「だいぶ幼く見えるよな、セレナと違って」

は⁈何を言っている？

セレナと違って、あの妹は可愛すぎるだろう。
通り過ぎる瞬間、チラリとこちらを見て目が合ったが、あのぱっちりとした青いつり目の美しさ‥‥
あの可愛らしさは異常だ。
完全に心が持っていかれた‥‥

他の男にとられたら大変だ‥‥
何とかしなければ‥‥

すぐに調べると、まだ婚約者は決まっていないようだ。
その日、家に帰ると父に相談をしたが、我が家は公爵家であり、家のためにならない者とは婚約させられないと聞き入れてもらえなかった。
けれど諦められなかった。
日に何度も彼女を見たい為に、下の学年とすれ違いやすい中庭を通るようにしていた。
セレナと話している姿で安心してくれたのか、すれ違うと俺に頭を下げて時々笑ってくれた。
あまりに可愛すぎて肖像画を描いてもらおうと心に決めた。

父には何度もルーベルトン家に婚約を申し入れたいと頼み込んでいた。
ルーベルトン家は伯爵家であったが、あまり裕福な家庭ではなさそうで、領地もだいぶ田舎であることから、父の反対は強かった。
でも熱心に父親を説得し、成績で常にトップを取ることを条件に許しがもらえた。
勉強はもともと得意だ、問題ない。

やっと許しがもらえたことが嬉しくて、翌日にはルーベルトン家に申し入れをした。
なぜか姉のセレナですか？と何度も確認される。
なぜだ？
妹のリナ•ルーベルトンに決まっている。

それから何度も足を運んで、一緒にお茶を飲んだ。
あまりの緊張に何も話せない。
でも向かいにリナちゃんがいるというだけで、幸せな気持ちに満たされていた。

不思議だったのは、なぜかいつも姉のセレナが邪魔をしに来た。
必ずやって来る。

リナちゃんの姉だから、あまり邪険にするわけにもいかない。
リナちゃんに冷たい男だと嫌われたら大変だ。
それに緊張しすぎて、リナちゃんとはうまく話せないけれど、セレナなら緊張は全くしない為、話して時間稼ぎができた。

少しでも長くリナちゃんの側に居たい。

時々リナちゃんと目が合った。
あまりの可愛らしさに直視できない。
心臓の音がうるさくて聞こえてしまいそうで、すぐにセレナに話しかけては心臓のバクバクをごまかそうとした。

あんな綺麗な瞳に真っ直ぐ見つめられては、心臓がもたない。

時々勇気を出してリナちゃんに質問してみるが、一言しか返してくれない。

俺のことが嫌いなのかもしれない‥‥
突然婚約を申し込まれたのだからな‥‥
しかも我が家の方が上位階級のせいで、無理に婚約させたようなものだ。
下位であるルーベルトン家としては、断りづらいだろう。
そこに付け込んだ俺を嫌っているのかもしれない。

一ヶ月ほど前、リナちゃんの様子はおかしかった。
目も赤く腫れていた。
泣いていたのかもしれない。
何かあったのではないかと気になって、頻繁にルーベルトン家を訪れた。
俺に一言でも相談してもらえたら嬉しい。
そう思って通い詰めた。
相変わらず姉のセレナは毎回やって来る。
ちょっとは遠慮ということを知らないのか？
本当に気の利かない女だ。
しかも行くたびに慌てて豪華に着飾ってやって来る。
お前のことなど見ていないと言いたいが、紳士的に振る舞わなければリナちゃんに嫌われてしまうかもしれない。

しかも今は何だかリナちゃんは気落ちしているようだ。

何か力になってあげたい‥‥

「ルイス様、少しお話があるのですが、よろしいですか？」

やっと俺に相談してくれる気になったのだろうか？
とても嬉しい。

「ああ、もちろん、何の話でも聞くよ」

少しでもリナちゃんの心が軽くなってくれたらいい‥‥
そう思っていたのに‥‥

「私達、この婚約を解消しませんか？」

やっぱり俺のことが嫌いだったんだな‥‥