逃げ出した王女は隣国の王太子妃に熱望される

風子

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戴冠の間5

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扉が開くと皆が驚愕し混乱してる様子が伝わってくる。
緊張した面持ちで入ってきたのは総勢九人。

思っていたよりも多い‥‥
私は思わずスタンリーを見た。

彼は誰をも魅了するような美しい顔で
「証人は多い方がいいと思いまして」
と笑ってみせた。

すべてのお膳立てはスタンリーがしてくれていた。
いつも私の為に先回りして準備をしてくれる。
今日のこの日を迎えられたのはスタンリーのお陰だ。
本当に彼や彼の下で動いてくれた者達には感謝しかない。
だからこそ、その努力を無駄にしてはいけないし、無駄にしないことが私の役目。
皆が私の為に動いたことを後悔しないように、最後までやりきらなければならない。
あの日、父や母と共に亡くなったすべての者達の為にも。
私が負けるわけにはいかないのだから。

先頭を歩く男性の顔は、浅黒いがエリックにそっくりである。
その後ろに並んで歩く青年二人は、顔も体格もマルクスによく似ている。
初めて見る私でさえ、ここに来た者達の関係性が分かる。

ジオンの所までくると、無言でお互いに肩や背中を叩き合っている。
ジオンの表情は先程とは違い、ほっとしたような表情に変わった。
仲間の顔を久しぶりに見たせいか、目が潤んでいるようにも見える。

陛下の前までくると全員が一斉に土下座をした。
突然のその行動に私も少し驚いてしまったけれど、陛下は冷静に尋ねた。

「そなた達は何者であるか、まずは名を名乗るがよい」

「はい。私はエリックの双子の弟でフリックと申します。
後ろにいるのは、私の双子の息子。
その後ろは叔父とその子供である従兄弟。
その後ろは、鉱山で共に働く仲間です」

「そうか。‥では、ルリア?」

「はい、陛下。
では、あなた達に聞きたいことがあります。
嘘偽りなく話すと約束できますか?
もし、嘘だと分かればその首を刎ねられても文句は言えません」

「はい。もちろん。一同命をかけて正直に話すとお約束いたします」

「信じます。では立ち上がって大きな声で、ここにいる皆に聞こえるように答えてください」

「‥‥はい」

九人が立ち上がる。

「まず、あなた達が働くバーラス鉱山に王家の視察があることを知っていましたか?」

「‥‥いいえ。私は聞いていませんでした」

私も、私も、‥次々と首を振り、知らなかったと答えた。

「誰か聞いていた者はいませんでしたか?」

「いいえ、私の知る限り、皆があの事故があって初めて王家の馬車がバーラス鉱山に向かっていたことを知りました」

「あれは事故だと思っていますか?」

「‥‥いいえ。皆が‥‥あれは事故ではないと思っています」

「何故ですか?」

「それは‥‥領主様が‥‥」

チラリと見たフリックに

「おい!!お前達!!」

と怒鳴り声を上げたバンホワイトの頭をシルヴィオはすぐに床にぐっと押し付けた。

「うっ‥くっ‥」

シルヴィオの息子もあの事故で亡くなったのだから、バンホワイトに対する怒りは相当なものだろう。
親よりも子を失ったシルヴィオの方が辛いはずだ。
今すぐに仇を討ちたい気持ちを必死に堪えているのがその表情から伝わる。
シルヴィオ‥‥

「それでバンホワイト公爵がどうしたのですか?」

「そこにいるジオンに橋の縄を切るように言っていたからです。
鉱山の仲間はそのことを知っていました。
だから橋が落ちて大勢の人が亡くなったと聞いた時、これは‥‥ただの不運な事故ではないと思いました」

「そうですか、ジオンの話と同じですね」

「わ‥私の兄のエリックがこのことに関わっていたとは知らず‥本当に申し訳ありませんでした!
私達家族はどのような罰も受ける覚悟で参りました!
王様の命を奪ったなどと‥私は首を斬られてもかまいません!!
何とお詫びしていいのか‥‥」

「覚悟を決めてここへ来たのですね?」

「はい」

エリックは青ざめ、先程の得意げな態度から一転、今にも崩れ落ちそうだ。

「エリック?
あなたの家族はあなたよりも罪の重さを解っています」

「‥違う‥俺は」

「お前のことを鉱山の皆は英雄だと褒め称えてた!
それなのにこの裏切りは何だエリック!!
家族も親戚も仲間もみんなを苦しめて、この国を壊して、お前ほどバーラスの恥さらしはいない!!
お前の命ひとつで償いきれない罪を犯してお前は一体何やってんだよ!!」

フリックは堪えきれずに怒りをぶちまけ涙をボロボロと流した。

「違‥そんな」

「親父は真相を知ってから倒れて食事もとれなくなった。
お前を誇りに思ってた親まで‥‥くそっ‥‥」

「そ‥んな‥」

エリックは膝から崩れ落ちた。
九人全員が声を殺して泣いている。
ジオンの目からも涙がポロポロと零れた。

「フリック、あなたの家系は双子が多いわね?」

「‥‥はい。
昔は貧乏で親戚同士の結婚を繰り返したせいなのかわかりませんが、何故か双子が多く、女性は短命の傾向があると思います」

「そう‥。王子と王女は双子だけど、あなたの目から見てどうかしら?」

フリックは止まらない涙を拭いながらマルクスとメルディナを交互に見て頷いた。

「私の息子によく似ていて‥‥うちの家系だと思います」

「違うわ!!無関係よ!!マルクスとメルディナは陛下の子だと何度言ったら分かるの!!いい加減にしなさい!!」

叫び出したライナは縛られているというのに私に飛びかかろうとして押さえられた。

私はフリック達九人に、後で申し伝えるからと戻るように言い退出させた。

スタンリーが大勢の証人を準備してくれたお陰で、皆が自分の目で真実を知ることができたはず。
エリックが双子であること、フリックの息子がマルクスとよく似ていること‥‥
この事実は実際目にしないと信じられなかったはずだもの。

「陛下。証人はこれですべてですが、陛下のお考えをお聞かせ頂いてもよろしいでしょうか」

「分かった‥‥。ライナ、バンホワイト、エリック。
お前達は今の証人の話を聞いて罪を認めるか?」

「いいえ。絶対に認めません!
そんな馬鹿げた話、誰が信じるものですか!!
マルクスとメルディナは陛下の子なのですよ!陛下と私の子なのです!!
貧乏な民を言いくるめたその女の作り話なんて認めませんわ」

「そうか」

一歩、二歩と前に出た陛下は大きく息を吸い、

「では皆によく聞いてもらいたい。
この様に国を揺るがせた原因は私にあるだろう。
王としての器でなかった私の責任だ!
父や兄のように、国を治めるだけの器量が私には足りなかった。
私は王位を退き、新たな王に継承する!」

「なっ!!」

さすがにこの一言に貴族達は声を漏らしたが、この状況で誰が継ぐのか‥
その言葉を聞き逃さないよう異様に静まり返った。
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