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戴冠の間4
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誰の目から見てもエリックのその姿は動揺していた。
「陛下!その者は貧しい身の上ゆえ、きっと金を渡され嘘の証言をしているのです。
金に目が眩んだ人間の言うことなど、何の信憑性もございません」
「そうです陛下!
金で民に嘘の証言をさせるなど、王族としてあるまじき卑しい行い。聞くに堪えませんわ」
ライナの援護が墓穴を掘っていることに気づかないらしい。
本人達が必死になるほど、周りから見れば不自然に見える。
このまま放っておいても皆の不信感は広がりそうだけど、私はお人好しではないから手を緩めるつもりはない。
「陛下、そちらのエリック騎士団長は双子であり、その叔父もまた双子であるそうです。そしてその子も双子であると。
私からしましたら、とても珍しい家系のように思えます。
王家の血が濃いように、彼の家系もまた血が濃いように思えますが、」
「待って下さい!!
ルリア様は勝手な憶測で皆を惑わせております。
私はマルクス王子とメルディナ王女とは全く関係のない身です。
陛下!何故このように大勢の前で、何の関係もない私が吊るし上げられるような発言を許すのですか!」
「エリック、お前の発言を許していないのにお前こそ勝手に何のつもりだ」
エリックを睨み付けた陛下は同様に縛るように合図を出したが、私はあえてそれを止めた。
「陛下、お待ち下さい。口を塞がずに私は話し合いを望みます。
どちらが真実を言っているのか話し合わねば分かりません」
私の一言に陛下は頷いた。
口を塞がれないことにほっとしたのか、より一層大きい声を上げたエリックは、
「ルリア様、この様な茶番はもうおやめください!
ルリア様がご両親を亡くされてお辛いことは承知しております。
ですがあれは不幸な事故、ただの不運な事故なのです。
受け入れられず、その様な妄想をされたのでしょう?
人はあまりに辛いことがあると、精神を病むものです。
ルリア様は精神の病に冒され、現実にはあり得ない空想の世界におられるのです。
お可哀想に」
エリックは急に私を憐れむような態度に変えた。
会場が一瞬、あぁぁ‥というような空気に変わる。
まるで私が突拍子もないことを言い出したのは精神病を患った頭のおかしな人間だからというように。
なるほど‥‥
この男もライナと王家を狙うだけのことはある。
ジオンは優しい兄のような存在だと言っていたけれど、長い間バンホワイト家に仕え、そしてライナと共にいることで彼は完全に欲深い善の心を失った人間になってしまったようね。
両親を殺しておきながら、娘の私を精神病だと思わせる演技をはじめるとは。
ますますやる気が出てきたわ。
「まぁ!私の親の命を奪った方にその様な気遣いができるとは思いませんでしたわ」
「やはりルリア様は頭がもう正常ではないようですね。
陛下、ルリア様をもう休ませて差し上げて下さい。
あまりにお気の毒です。
護衛を付け部屋までお連れします」
「私の命まで奪うつもりとは大胆ね。
言っておくけど、あなたの率いる偽騎士達に私の命は奪えないわよ。
私の師はオリバーケイル。この国一番の剣豪だったのよ。あなた達は足元にも及ばないわ」
「その様な被害妄想はやはり精神を病んでおられる症状です。
ルリア様は現実を受け入れられないことで、まともな思考ができないご様子。
一度医師に診てもらい療養された方がよいかと思われます。
皆もルリア様を心配しております」
会場に居る皆を巻き込むように後ろを振り返りながら何度か頷いて、同意を得ているかのようにもっともらしく意見する。
エリックという男はライナの態度とは対照的に人の情に訴えるような姑息な真似をする。
ジオンを見れば悔しそうに拳を握り締め、ギュッと目を瞑った。
ジオンは真っ直ぐな男なのだと思う。
正直に話したことを、信じていたエリックから否定され、挙げ句の果てには金目当てだと言われてやりきれないだろう。
「大丈夫よ、ジオン」
もう一度背をさすり、「真実を語る者は負けないわ」そう声を掛けると、チラリと後ろを振り返った。
少し私も心細くなったのかもしれない。
皆の顔は強張っている。
けれど一人だけニヤニヤと楽しそうな表情を浮かべる者がいる。
‥‥マリーだ。
彼女だけは、まるでこの状況を楽しんでいるかのように緊張感のかけらも感じない。
どういうこと?
今私は精神病者にされそうになってるのですけど‥‥
場の空気は一気にエリックに傾いたようなのに、マリーは楽しんでる?
‥‥恐ろしいわ‥‥やはり只者ではない。
‥‥この王女だけは敵に回してはいけないわね‥‥
でもおかげで私もまた腹が据わる。
マリーにみっともない姿など見せていられない。
「私の頭が狂っているのか、あなた達が嘘をついているのか、それはここに居る全ての者にまずは判断してもらえばいいのではないですか?
陛下、私にお任せ頂いてもよろしいでしょうか?」
「ああ、許そう」
「ルリア様‥‥どういう意味でしょう‥‥」
顔色を変える。
「私が何の用意もなくこの様な話を持ち出すと思っているのなら、それこそあなたの頭がおかしいのではなくて?」
「‥‥」
「扉を開けなさい!!」
私の声に白騎士達が動く。
皆がまたざわついた‥‥
「陛下!その者は貧しい身の上ゆえ、きっと金を渡され嘘の証言をしているのです。
金に目が眩んだ人間の言うことなど、何の信憑性もございません」
「そうです陛下!
金で民に嘘の証言をさせるなど、王族としてあるまじき卑しい行い。聞くに堪えませんわ」
ライナの援護が墓穴を掘っていることに気づかないらしい。
本人達が必死になるほど、周りから見れば不自然に見える。
このまま放っておいても皆の不信感は広がりそうだけど、私はお人好しではないから手を緩めるつもりはない。
「陛下、そちらのエリック騎士団長は双子であり、その叔父もまた双子であるそうです。そしてその子も双子であると。
私からしましたら、とても珍しい家系のように思えます。
王家の血が濃いように、彼の家系もまた血が濃いように思えますが、」
「待って下さい!!
ルリア様は勝手な憶測で皆を惑わせております。
私はマルクス王子とメルディナ王女とは全く関係のない身です。
陛下!何故このように大勢の前で、何の関係もない私が吊るし上げられるような発言を許すのですか!」
「エリック、お前の発言を許していないのにお前こそ勝手に何のつもりだ」
エリックを睨み付けた陛下は同様に縛るように合図を出したが、私はあえてそれを止めた。
「陛下、お待ち下さい。口を塞がずに私は話し合いを望みます。
どちらが真実を言っているのか話し合わねば分かりません」
私の一言に陛下は頷いた。
口を塞がれないことにほっとしたのか、より一層大きい声を上げたエリックは、
「ルリア様、この様な茶番はもうおやめください!
ルリア様がご両親を亡くされてお辛いことは承知しております。
ですがあれは不幸な事故、ただの不運な事故なのです。
受け入れられず、その様な妄想をされたのでしょう?
人はあまりに辛いことがあると、精神を病むものです。
ルリア様は精神の病に冒され、現実にはあり得ない空想の世界におられるのです。
お可哀想に」
エリックは急に私を憐れむような態度に変えた。
会場が一瞬、あぁぁ‥というような空気に変わる。
まるで私が突拍子もないことを言い出したのは精神病を患った頭のおかしな人間だからというように。
なるほど‥‥
この男もライナと王家を狙うだけのことはある。
ジオンは優しい兄のような存在だと言っていたけれど、長い間バンホワイト家に仕え、そしてライナと共にいることで彼は完全に欲深い善の心を失った人間になってしまったようね。
両親を殺しておきながら、娘の私を精神病だと思わせる演技をはじめるとは。
ますますやる気が出てきたわ。
「まぁ!私の親の命を奪った方にその様な気遣いができるとは思いませんでしたわ」
「やはりルリア様は頭がもう正常ではないようですね。
陛下、ルリア様をもう休ませて差し上げて下さい。
あまりにお気の毒です。
護衛を付け部屋までお連れします」
「私の命まで奪うつもりとは大胆ね。
言っておくけど、あなたの率いる偽騎士達に私の命は奪えないわよ。
私の師はオリバーケイル。この国一番の剣豪だったのよ。あなた達は足元にも及ばないわ」
「その様な被害妄想はやはり精神を病んでおられる症状です。
ルリア様は現実を受け入れられないことで、まともな思考ができないご様子。
一度医師に診てもらい療養された方がよいかと思われます。
皆もルリア様を心配しております」
会場に居る皆を巻き込むように後ろを振り返りながら何度か頷いて、同意を得ているかのようにもっともらしく意見する。
エリックという男はライナの態度とは対照的に人の情に訴えるような姑息な真似をする。
ジオンを見れば悔しそうに拳を握り締め、ギュッと目を瞑った。
ジオンは真っ直ぐな男なのだと思う。
正直に話したことを、信じていたエリックから否定され、挙げ句の果てには金目当てだと言われてやりきれないだろう。
「大丈夫よ、ジオン」
もう一度背をさすり、「真実を語る者は負けないわ」そう声を掛けると、チラリと後ろを振り返った。
少し私も心細くなったのかもしれない。
皆の顔は強張っている。
けれど一人だけニヤニヤと楽しそうな表情を浮かべる者がいる。
‥‥マリーだ。
彼女だけは、まるでこの状況を楽しんでいるかのように緊張感のかけらも感じない。
どういうこと?
今私は精神病者にされそうになってるのですけど‥‥
場の空気は一気にエリックに傾いたようなのに、マリーは楽しんでる?
‥‥恐ろしいわ‥‥やはり只者ではない。
‥‥この王女だけは敵に回してはいけないわね‥‥
でもおかげで私もまた腹が据わる。
マリーにみっともない姿など見せていられない。
「私の頭が狂っているのか、あなた達が嘘をついているのか、それはここに居る全ての者にまずは判断してもらえばいいのではないですか?
陛下、私にお任せ頂いてもよろしいでしょうか?」
「ああ、許そう」
「ルリア様‥‥どういう意味でしょう‥‥」
顔色を変える。
「私が何の用意もなくこの様な話を持ち出すと思っているのなら、それこそあなたの頭がおかしいのではなくて?」
「‥‥」
「扉を開けなさい!!」
私の声に白騎士達が動く。
皆がまたざわついた‥‥
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