逃げ出した王女は隣国の王太子妃に熱望される

風子

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マルクスとの再会

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「ほぉ、これは見事だな‥‥」

「見たことがありませんね」

二人は言葉を失ってしばらく天井を見上げていた。

私が案内したのは王宮の礼拝堂。
クーポールはステンドグラスで作られ美しい日差しが心地良い空間だ。
この美しい光に包まれると、どんな時も癒される。

「円天井がステンドグラスとは‥‥何と‥‥アルンフォルトは素晴らしいな」

「素敵でしょう?喜んでもらえたなら嬉しいわ」

「ああ、これは見る価値のある素晴らしいものだ」

「殿下、我が国にもこのような礼拝堂があったら皆喜ぶでしょうね」

「そうだな。これを見たら皆幸せな気持ちになるだろうな」

「ははははっ、どこの田舎者だ?」

奥から一人の男性が笑いながら歩いてくる。

「⁈誰だ」

「お前こそ何者だ!ここは私の王宮だ」

「‥‥マルクス」



「メルディナの双子の弟よ」

一瞬ベルラードとヘイルズの表情が強張る。

「ふん。逃げ出した人間が戻ってきたのか?ルリア」

「ええ‥‥久しぶりね、マルクス」

まるで騎士のようにがっちりとした体格の良いその姿は、やはり叔父に似ていない。

「わざわざ戻ってきたのは何故だ?言ってみろ。
それに随分と親しい男を作ったようだな。
ここは王家の許可した者しか立ち入ることができないのに、その者達を連れてきたということは、それだけの仲だということだ」

「こちらはダルトタナード国の王太子殿下であられるベルラード様です。
失礼な言い方はやめて下さい」

「ダルトタナード?ふん、小国の王子か?」

背の高いベルラードと同じ目線で見下すように言った。

「ベルラード・エルフィリオと申します。
マルクス王子」

「ふん。何の用でルリアと共に来たのだ?
理由を言え」

「このアルンフォルトとの関係をより良いものにする為、陛下にご挨拶に参りました」

「はっ、見え透いた嘘だな。
父は俺達とも会おうとしない。
倒れてからは他人と会うことを避けているのに、今挨拶を受け入れるなど考えられない。
ルリアと共に来たということは父が呼んだのだろう?」

「いいえ」

「はっ、生意気な目つきだ。
これだから小国の人間は気に入らない」

椅子に腰掛けるとマルクスは天井を見上げた。

「何を掴んだ?」

「え?」

ポツリと言われた言葉にドクンと胸が大きな音を立てる。

「ルリア‥‥お前は昔から負けん気の強い女だ。
母やメルディナにやりこめられるだけの女じゃないだろ。
逃げ出したお前がわざわざ王宮に戻ってきたんだ。
それだけの理由があるだろう。
全てをひっくり返すくらいのことをやるつもりじゃないのか?‥」

「‥‥」

先程よりもトーンダウンした声が礼拝堂に響く。
マルクスは天井を見上げたまま動かない。

王位継承者であるマルクスがたった一人でここに居るのは何だか不自然に思えた。
よく見れば顔色も心なしか悪いように見える。

「俺が王になる道を断ちにきたか?」

「⁈‥‥どうしてそう思うの?」

「はっ、わざとらしいな。
ルリア、お前は昔から顔に出る。
単純な性格は変わらないようだな」

「あなたも昔から変わらないわよ」

憎まれ口は相変わらずだが、それも以前よりは大人しいものだ。

「俺がひねくれて育ったのはあの両親のせいだろう。
父親は俺なんかよりお前を可愛がっていた。
それも察しがついてる。
お前の母親を好きだったからだ」

「え?」

先程よりも心臓が大きく音を立て鼓動が速くなっていく。
マルクスは固まった私を見て笑うと、立ち上がり正面に立った。

「知らなかったのか?暇さえあればお前の母親に会いに行き、息子の俺など眼中になかっただろう?
でもそれも当たり前だ。
俺はお前のように王家の金の髪を受け継いでいない、王家初の双子だ。
容姿も父親に似てるところがひとつもない。
そう言えば解るだろう?」

「マルクス!!あなた」

「俺は随分と前から気付いている。
誰にも言ったことはないがな‥‥。
ふん。お前はそのことをひっさげてわざわざ隣国の王子まで連れて戻ったのか?」

「‥‥」

「正直な女だな。お前のような女は上に立つのに向いてない」

「ルリアに失礼なことを言うのはやめてもらいたい」

私とマルクスの間に割って入ったベルラードは、庇うように前に立った。

「ははっ、そちらの王子も同じタイプか?
わかりやすい人間は足をすくわれやすいぞ。
よほど頭のキレる者が付いていないとすぐに引き摺り下ろされる。
おい!そこの側近」

「はっ、何でございましょうか?」

突然話を振られたヘイルズは背筋をピンと伸ばし体を強張らせた。

「主君がこのようであれば側近であるお前が賢くなくてはならない。
ずる賢い奴はごまんといる。
それを凌駕する賢さがなくては主君は守れないだろう。
こんな馬鹿正直で分かりやすい人間は敵も味方も多く作る。
せいぜい頑張るんだな」

「はい、肝に銘じます」

「マルクス?‥」

私を嫌ってるはずのマルクスがこれでは私とベルラードを心配しているかのようだ‥‥

「勘違いするなルリア。
俺はお前のことが嫌いだ、昔からな。
いつだってお前は平気な顔で何でもやってのける。
剣の手合わせも一度もお前に勝てたことがない。
語学でもお前の半分も話せない。
お前の顔を見るだけで気分が悪くなる。
だからここから出て行ってくれて清々していた」

私を見下ろす緑色の瞳はメルディナと同じ深い色‥‥

「おい、いい加減にし」
「殿下!!」

掴み掛かろうとしたベルラードの手をヘイルズは止めた。

「言っておくが俺は王位に興味はない。
お前達が何をしようと企んでいようと俺は構わない。
ルリア、せいぜい面白いものを見せてくれよ!ははは」

マルクスはそう言い残すと笑いながら礼拝堂を出て行った。

「あの男は俺のルリアに失礼なことばかり。許せぬな」

「殿下、私にはそう見えませんでしたが‥」

「私も何だか‥‥気にかけてくれたような気がしたわ。意外だけど‥」

「ルリア様、あの王太子は気付いていたということでしょうか?」

「ええ‥そうだと思うわ‥」

直系ならば皆受け継がれてきたものが自分とは違う‥‥
そして双子である自分に彼は疑問を抱いていた。
あの様子ではきっと‥‥ずっと前から。

昔からメルディナと共に私を嫌っていたマルクス。
私を心配することなどないはずだ。
でも何だか今の素振りは今までとどこか違う気がした。

彼に何かあったのだろうか‥‥









~~~~~~~~~~~~
色々ありまして(>人<;)
読んでくださってる方、遅くなってすみませんm(_ _)m
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