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忘れられない夜と旅立ちの朝
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アルンフォルトに旅立つ前夜。
「君と離れたくない‥‥本当に辛くてどうにかなりそうだ」
遅くに私の部屋に飛び込んできたベルラードからは少しお酒の匂いがした。
ナイトウェアに身を包んだ私は抱きしめられ、いつもよりも体温を感じて頬が熱くなる。
「ルリアが他の男の妻になると思うと耐えられない。
解ってる、理解している。
どうにもならないことも‥‥
俺の我儘だということも全部‥‥
それでも」
私の頬をベルラードの大きな手が包む。
温かい手。
「こんなに好きでも愛していても離れなければいけないのか?
国を優先しなければならないのか?」
「ベルラード‥‥」
綺麗な満月の月明かりが差し込む。
「ん‥ん‥っ」
ベルラードの熱い口付けに体が蕩けそうだ。
ワインの香りに酔ったわけでもないのに、熱い口付けに目眩がして力が入らない。
彼の腕の中で溶けてしまいそうだ。
「私の妃はルリアだけだ。誰にも渡したくないのに」
その切ない表情に胸が苦しい。
「一生ルリアだけを愛すると誓う。だから今だけは、この国にいる間だけは俺のものだ。ルリアを抱いて眠りたい」
「え‥‥」
「ルリアのすべてが欲しい。一生忘れないために」
ベルラードは無理強いはしない。
私が拒めばきっと手を離す。
でも離してほしくない‥‥
「私も一生忘れてほしくない‥‥あなたのものになりたい」
ベルラードに腕をまわした。
最初で最後になると分かっていて、余計に別れが辛いことも分かっているのに、彼の腕の中から離れたくなかった。
拒みたくなかった。
今だけでも愛する人に抱かれる幸せに身を委ねたい。
「愛してるルリア。言葉だけじゃ足りないくらいに」
ベルラードの優しくて熱い口付けが頭から足の先まで落とされ、それはまるで自分のものだとしるしをつけていくみたいに感じられた‥‥
きっとこの夜を私は忘れられない‥‥
翌朝、ベルラードの腕の中で目覚めると、支度の為に部屋に来たエマは悲鳴を上げた。
ベルラードは私をギュウゥっと抱きしめて、なかなか離してくれなかったが、いつまでもそうしているわけにもいかず、何とかベルラードを説得し部屋へ帰ってもらった。
アルンフォルトへ行く船はいつでも準備ができている。
あとは私が乗る時を待つのみだ。
いつまでも先延ばしにするわけにはいかない。
私は覚悟を決め、両陛下への挨拶に伺い、身勝手すぎると怒られることを覚悟していた。
でも何故か両陛下は、
「一日も早く戻って来てくれることを信じている」
と手を握ってくれた。
ベルラードを見れば、相変わらず辛くて悲しいという表情だが、両陛下はまるで私が戻ることを本当に信じているかのように穏やかだった。
それが余計に申し訳なくて、こんなに振り回した私に優しくしてくださった両陛下に感謝と謝罪を申し上げ部屋を出た。
エマとフィナには、私の名が刻まれたネックレスとイヤリング、ブローチを手渡した。
「これは両親が私の名を刻んでくれた物なの。ひとつはカリンが戻ってきたら渡してほしいの。
もし何か困ったことがあったら、これを持って私の所へ来て。
これがあれば我が王家はいつでも迎え入れるわ」
「ルリア様!」
二人を抱きしめ今まで私を支えてくれたことを感謝した。
本当はエマ、フィナ、カリンを連れて行きたいくらいだ。
王太子宮の皆にもできる限り一人ずつに挨拶をした。
突然やって来た私を迎え入れてくれた優しい人達。
いつか‥‥皆にまた会える日がきたら嬉しい‥‥
「ルリア様、これを」
ジェイフは美しい花束を作って渡してくれた。
「ありがとう。いつもジェイフの花に癒されていたわ。これからも綺麗な花を咲かせてね」
そう言うと泣きながら頷いていた。
「紫の薔薇を咲かせます!」
「ありがとう‥‥。皆さん、どうもありがとう。突然ここへ来た私に親切にしてくださったご恩は忘れません。
困ったことがあれば、アルンフォルトの王家を訪ねて来てください。
私ができる限り協力します」
皆が下を向いて泣いていた。
何度この人達を傷つけてきただろう。
謝っても謝りきれない。
「また絶対戻って来てください!」
「私達ルリア様を待っています!」
「いつまでだって俺達待ってますから!」
口々にそう言ってくれ、私は嬉しさとその約束を守れないだろうことが辛くて涙が溢れた。
一度はこの国の王太子妃になることを決めたのに‥‥運命とはいたずらで、こうも簡単に人生の歯車が狂ってしまう。
「ルリア、馬車の用意ができている。行こう」
ベルラードに手を引かれ馬車に向かう。
乗ろうと足をかけたところで、遠くから私の名を呼んで走って来る者がいる。
見ればジオンだった。
「ルリア様!ルリア様!」
汗をかいて目の前まで来ると、
「俺も連れてってください!俺一人だけですから」
「ジオン?どうして」
「その、もし‥‥アルンフォルトの王家のことで、エリックさんが関わっているなら‥‥俺が証言することで何か変えられるかもしれないと思って。
ルリア様の力になりたいんです」
「ジオン‥‥」
「よし、お前も一緒に来い」
ベルラードは頷くと、ヘイルズに後ろの馬車に案内させた。
こうして私は逃げ出した国に戻ることになったのである‥‥。
「君と離れたくない‥‥本当に辛くてどうにかなりそうだ」
遅くに私の部屋に飛び込んできたベルラードからは少しお酒の匂いがした。
ナイトウェアに身を包んだ私は抱きしめられ、いつもよりも体温を感じて頬が熱くなる。
「ルリアが他の男の妻になると思うと耐えられない。
解ってる、理解している。
どうにもならないことも‥‥
俺の我儘だということも全部‥‥
それでも」
私の頬をベルラードの大きな手が包む。
温かい手。
「こんなに好きでも愛していても離れなければいけないのか?
国を優先しなければならないのか?」
「ベルラード‥‥」
綺麗な満月の月明かりが差し込む。
「ん‥ん‥っ」
ベルラードの熱い口付けに体が蕩けそうだ。
ワインの香りに酔ったわけでもないのに、熱い口付けに目眩がして力が入らない。
彼の腕の中で溶けてしまいそうだ。
「私の妃はルリアだけだ。誰にも渡したくないのに」
その切ない表情に胸が苦しい。
「一生ルリアだけを愛すると誓う。だから今だけは、この国にいる間だけは俺のものだ。ルリアを抱いて眠りたい」
「え‥‥」
「ルリアのすべてが欲しい。一生忘れないために」
ベルラードは無理強いはしない。
私が拒めばきっと手を離す。
でも離してほしくない‥‥
「私も一生忘れてほしくない‥‥あなたのものになりたい」
ベルラードに腕をまわした。
最初で最後になると分かっていて、余計に別れが辛いことも分かっているのに、彼の腕の中から離れたくなかった。
拒みたくなかった。
今だけでも愛する人に抱かれる幸せに身を委ねたい。
「愛してるルリア。言葉だけじゃ足りないくらいに」
ベルラードの優しくて熱い口付けが頭から足の先まで落とされ、それはまるで自分のものだとしるしをつけていくみたいに感じられた‥‥
きっとこの夜を私は忘れられない‥‥
翌朝、ベルラードの腕の中で目覚めると、支度の為に部屋に来たエマは悲鳴を上げた。
ベルラードは私をギュウゥっと抱きしめて、なかなか離してくれなかったが、いつまでもそうしているわけにもいかず、何とかベルラードを説得し部屋へ帰ってもらった。
アルンフォルトへ行く船はいつでも準備ができている。
あとは私が乗る時を待つのみだ。
いつまでも先延ばしにするわけにはいかない。
私は覚悟を決め、両陛下への挨拶に伺い、身勝手すぎると怒られることを覚悟していた。
でも何故か両陛下は、
「一日も早く戻って来てくれることを信じている」
と手を握ってくれた。
ベルラードを見れば、相変わらず辛くて悲しいという表情だが、両陛下はまるで私が戻ることを本当に信じているかのように穏やかだった。
それが余計に申し訳なくて、こんなに振り回した私に優しくしてくださった両陛下に感謝と謝罪を申し上げ部屋を出た。
エマとフィナには、私の名が刻まれたネックレスとイヤリング、ブローチを手渡した。
「これは両親が私の名を刻んでくれた物なの。ひとつはカリンが戻ってきたら渡してほしいの。
もし何か困ったことがあったら、これを持って私の所へ来て。
これがあれば我が王家はいつでも迎え入れるわ」
「ルリア様!」
二人を抱きしめ今まで私を支えてくれたことを感謝した。
本当はエマ、フィナ、カリンを連れて行きたいくらいだ。
王太子宮の皆にもできる限り一人ずつに挨拶をした。
突然やって来た私を迎え入れてくれた優しい人達。
いつか‥‥皆にまた会える日がきたら嬉しい‥‥
「ルリア様、これを」
ジェイフは美しい花束を作って渡してくれた。
「ありがとう。いつもジェイフの花に癒されていたわ。これからも綺麗な花を咲かせてね」
そう言うと泣きながら頷いていた。
「紫の薔薇を咲かせます!」
「ありがとう‥‥。皆さん、どうもありがとう。突然ここへ来た私に親切にしてくださったご恩は忘れません。
困ったことがあれば、アルンフォルトの王家を訪ねて来てください。
私ができる限り協力します」
皆が下を向いて泣いていた。
何度この人達を傷つけてきただろう。
謝っても謝りきれない。
「また絶対戻って来てください!」
「私達ルリア様を待っています!」
「いつまでだって俺達待ってますから!」
口々にそう言ってくれ、私は嬉しさとその約束を守れないだろうことが辛くて涙が溢れた。
一度はこの国の王太子妃になることを決めたのに‥‥運命とはいたずらで、こうも簡単に人生の歯車が狂ってしまう。
「ルリア、馬車の用意ができている。行こう」
ベルラードに手を引かれ馬車に向かう。
乗ろうと足をかけたところで、遠くから私の名を呼んで走って来る者がいる。
見ればジオンだった。
「ルリア様!ルリア様!」
汗をかいて目の前まで来ると、
「俺も連れてってください!俺一人だけですから」
「ジオン?どうして」
「その、もし‥‥アルンフォルトの王家のことで、エリックさんが関わっているなら‥‥俺が証言することで何か変えられるかもしれないと思って。
ルリア様の力になりたいんです」
「ジオン‥‥」
「よし、お前も一緒に来い」
ベルラードは頷くと、ヘイルズに後ろの馬車に案内させた。
こうして私は逃げ出した国に戻ることになったのである‥‥。
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