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別れの選択
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翌日は体を休める為、一日中部屋でゆっくり過ごした私のもとにベルラードがやってきたのは、その次の日だった。
天気の良い昼過ぎ。
ベルラードは顔を見せてくれた。
「体調はどうだ?」
「ええ、何ともないわ。大丈夫よ」
「それなら良かった。少し出掛けないか?」
愛情に満ちたその微笑みは私を魅了する。
「ええ、もちろん」
彼が連れて行ってくれたのは、あのラベンダー畑だった。
ヘイルズや護衛を遠くに待機させ、私と二人で大きな木の下に来ると、何故か上着を脱いで地面に敷いた。
「さぁ、座ってくれ」
「?駄目よ!王太子の上着に座るなんてできないわ!」
「いいから早く!」
強引なところは今も健在だ。
「‥‥もぅ‥‥」
仕方なく腰を下ろすとベルラードは嬉しそうに笑った。
「昔視察で出掛けた時に、湖の側の公園に恋人同士がいて、見てると男が上着を脱いで女性を座らせたんだ。
俺は何故地面になど座るのかと思ったが、足を伸ばして寄り添う二人は幸せそうに見えた。
やってみたいと思っても俺の場合、難しいことだからな。
まぁ‥したい相手もいなかったが」
「ふふっ、こんなことがしてみたかったの?王太子様が?」
「恋人同士らしいだろう?」
風になびく髪を梳いてくれるその手の温もりが心地良かった。
私を見つめる美しい顔が近づいて自然と唇が重なる。
恥ずかしさよりベルラードを感じられることが幸せに思えた。
ラベンダーも風に揺れ心地良い香りが広がる。
青い空の下、紫の絨毯は美しくて、まるで夢の中にいるような錯覚をおこすほどだ。
「今の私、とても幸せだわ」
「俺も。‥‥ルリアと過ごした日々は一生忘れない」
「ええ‥私も‥‥忘れないわ」
握られた手の指先に力を入れると、さらに強く握られ少しの沈黙が続いた。
先に口を開いたのはベルラードだった。
「君は王女で‥‥国を守らなければならない」
「‥‥ええ。あなたは国王にならねばならない」
また二人で黙り込む。
言われる言葉は分かっていた。
言わなければいけない事も分かっていた。
でも口に出すことが怖かった。
父と母の死の原因が解り、ライナの子が王家の血を継いでいないのなら、叔父の跡を継ぐのは今は私しかいない。
でも女性が継承者になれないままならば、私の子に男子が生まれれば王位継承者になるだろう。
どちらにしても、アルンフォルトの王家の血を絶やさない為には、私が今国に戻る必要がある。
ここでベルラードの妃になることはできない。
ベルラードはこの国の王となるべき人、国を離れるわけにはいかない。
‥‥私達には‥‥別れの選択しかないのだ。
「あの日‥‥君が両親の死の真相を知らないままなら、ずっとここに居てくれただろうか‥‥そんなことを考えていた。
でも君が王女である以上、王家を‥民達を守らねばならないだろう。あれだけの大国だ。
それがその立場で生まれた者の宿命だ」
「‥‥解っています」
「頭では俺も解っている。
それでも心はままならない。
君と離れることを受け入れることができないでいる。
同じ立場の俺が一番理解できていることなのに‥‥」
「ずっと‥‥離れてもずっと‥‥ベルラードのことは忘れない。ずっと好きなままでいるわ」
握った手を持ち上げて、私は自分の頬にベルラードの手を押し当てた。
「ルリアは‥‥伴侶が必要になるだろう。
世継ぎを生まねばならない‥‥
考えるだけで嫉妬で気が狂いそうになるが‥‥」
「あなたも‥‥国王として跡継ぎが必要になるわ」
「俺にはマリーがいる。マリーの子に俺の後の王位を譲るつもりだ。
マリーの子なら、俺よりずっとしっかりした王になるだろう‥。
だから俺は妃は娶らない。
俺の妃はルリアただ一人と心に決めている。
他の女を愛することなどできない」
「ベルラード‥‥」
熱く真剣な眼差しは、そこに嘘がないことを物語っている。
彼の愛は本物だと信じられる。
私も彼を愛しているから。
彼と同じ想いを私も持っているからだ‥‥
ベルラードが他の女性を好きになるなんて考えただけで胸が苦しいし、この美しい瞳には私だけを映してほしいと思ってしまう。
でも‥‥
「私はここへ来て、皆を‥‥苦しめただけだったわね」
「来てくれなければ会えなかった。
この先に何があろうとも、それでもルリアに会えて君を愛した事を後悔することはない。絶対だ。
もし俺が皇帝の生まれ変わりで、君が皇妃の生まれ変わりで、運命が悲劇しか待っていなかったとしても、それでも何度でも君に会えるのなら生まれ変わる。
この美しい瞳に俺を映してくれるのなら何度だって会いに来る。
それほどに‥‥愛しているんだ」
そうして再び私に口付けをした。
私が皇妃の生まれ変わりなら、何度でも彼を愛する人に恨まれ憎まれ命を狙われる。
そんな残酷な運命が繰り返されるとしても‥‥
そう、私もきっとまた生まれ変わってこの深い愛を受け入れるのだろう‥‥
天気の良い昼過ぎ。
ベルラードは顔を見せてくれた。
「体調はどうだ?」
「ええ、何ともないわ。大丈夫よ」
「それなら良かった。少し出掛けないか?」
愛情に満ちたその微笑みは私を魅了する。
「ええ、もちろん」
彼が連れて行ってくれたのは、あのラベンダー畑だった。
ヘイルズや護衛を遠くに待機させ、私と二人で大きな木の下に来ると、何故か上着を脱いで地面に敷いた。
「さぁ、座ってくれ」
「?駄目よ!王太子の上着に座るなんてできないわ!」
「いいから早く!」
強引なところは今も健在だ。
「‥‥もぅ‥‥」
仕方なく腰を下ろすとベルラードは嬉しそうに笑った。
「昔視察で出掛けた時に、湖の側の公園に恋人同士がいて、見てると男が上着を脱いで女性を座らせたんだ。
俺は何故地面になど座るのかと思ったが、足を伸ばして寄り添う二人は幸せそうに見えた。
やってみたいと思っても俺の場合、難しいことだからな。
まぁ‥したい相手もいなかったが」
「ふふっ、こんなことがしてみたかったの?王太子様が?」
「恋人同士らしいだろう?」
風になびく髪を梳いてくれるその手の温もりが心地良かった。
私を見つめる美しい顔が近づいて自然と唇が重なる。
恥ずかしさよりベルラードを感じられることが幸せに思えた。
ラベンダーも風に揺れ心地良い香りが広がる。
青い空の下、紫の絨毯は美しくて、まるで夢の中にいるような錯覚をおこすほどだ。
「今の私、とても幸せだわ」
「俺も。‥‥ルリアと過ごした日々は一生忘れない」
「ええ‥私も‥‥忘れないわ」
握られた手の指先に力を入れると、さらに強く握られ少しの沈黙が続いた。
先に口を開いたのはベルラードだった。
「君は王女で‥‥国を守らなければならない」
「‥‥ええ。あなたは国王にならねばならない」
また二人で黙り込む。
言われる言葉は分かっていた。
言わなければいけない事も分かっていた。
でも口に出すことが怖かった。
父と母の死の原因が解り、ライナの子が王家の血を継いでいないのなら、叔父の跡を継ぐのは今は私しかいない。
でも女性が継承者になれないままならば、私の子に男子が生まれれば王位継承者になるだろう。
どちらにしても、アルンフォルトの王家の血を絶やさない為には、私が今国に戻る必要がある。
ここでベルラードの妃になることはできない。
ベルラードはこの国の王となるべき人、国を離れるわけにはいかない。
‥‥私達には‥‥別れの選択しかないのだ。
「あの日‥‥君が両親の死の真相を知らないままなら、ずっとここに居てくれただろうか‥‥そんなことを考えていた。
でも君が王女である以上、王家を‥民達を守らねばならないだろう。あれだけの大国だ。
それがその立場で生まれた者の宿命だ」
「‥‥解っています」
「頭では俺も解っている。
それでも心はままならない。
君と離れることを受け入れることができないでいる。
同じ立場の俺が一番理解できていることなのに‥‥」
「ずっと‥‥離れてもずっと‥‥ベルラードのことは忘れない。ずっと好きなままでいるわ」
握った手を持ち上げて、私は自分の頬にベルラードの手を押し当てた。
「ルリアは‥‥伴侶が必要になるだろう。
世継ぎを生まねばならない‥‥
考えるだけで嫉妬で気が狂いそうになるが‥‥」
「あなたも‥‥国王として跡継ぎが必要になるわ」
「俺にはマリーがいる。マリーの子に俺の後の王位を譲るつもりだ。
マリーの子なら、俺よりずっとしっかりした王になるだろう‥。
だから俺は妃は娶らない。
俺の妃はルリアただ一人と心に決めている。
他の女を愛することなどできない」
「ベルラード‥‥」
熱く真剣な眼差しは、そこに嘘がないことを物語っている。
彼の愛は本物だと信じられる。
私も彼を愛しているから。
彼と同じ想いを私も持っているからだ‥‥
ベルラードが他の女性を好きになるなんて考えただけで胸が苦しいし、この美しい瞳には私だけを映してほしいと思ってしまう。
でも‥‥
「私はここへ来て、皆を‥‥苦しめただけだったわね」
「来てくれなければ会えなかった。
この先に何があろうとも、それでもルリアに会えて君を愛した事を後悔することはない。絶対だ。
もし俺が皇帝の生まれ変わりで、君が皇妃の生まれ変わりで、運命が悲劇しか待っていなかったとしても、それでも何度でも君に会えるのなら生まれ変わる。
この美しい瞳に俺を映してくれるのなら何度だって会いに来る。
それほどに‥‥愛しているんだ」
そうして再び私に口付けをした。
私が皇妃の生まれ変わりなら、何度でも彼を愛する人に恨まれ憎まれ命を狙われる。
そんな残酷な運命が繰り返されるとしても‥‥
そう、私もきっとまた生まれ変わってこの深い愛を受け入れるのだろう‥‥
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