逃げ出した王女は隣国の王太子妃に熱望される

風子

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ルリアの失踪3

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「フォルター公爵。そんなに自分の娘を俺の妃にしたかったのか?」

「‥‥私の娘ほど王妃に相応しい者はいなかった。それなのに何を血迷ったか突然現れた女を妃にするなど有り得ん話だ。
どうかしている!私がこれまで王家にどれだけ尽くしてきたと思っている?
私が貴族達をどれだけ助けてやってきたか知ってるのか!!」

「助けてきたのではない!人の弱みにつけ込んで利用してきただけだ。
自分の野心の為にアロンを犠牲にしたんだ!」

「それはあなたの方でしょう?血迷った選択をしなければアロンは一生あなたの侍従であったはずだ。アロンの命を奪ったのは他でもないあなた自身だ!」

勢いに任せて大声で叫んだフォルターは、ハァハァと肩で息をしている。

「言っておくが、ルリアがこの国に来なかったとしてもお前の娘を妃にするつもりなど毛頭ない。
今はただお前も娘も我が妃を殺そうとした罪人だ。
家は取り潰しお前達は極刑だ」

ガシャン!!

鉄格子にしがみつくと苛立ったフォルターは何度もガシャンガシャンと強く揺らし、

「お前のせいだ!全てお前が壊したんだ!この出来損ないの王子め!お前が全てを壊したんだ!!」

狂ったように叫び続ける。

「血迷ったのはお前の方だ、フォルター!
王家を我がものにしようと企むなど言語道断!!アロンの他にも弱みにつけ込み、操ってきた人間がいるだろう!誰だ!」

ベルラードの怒鳴り声にフォルターは笑い出した。

ははははははっ

「狂ってるな」

ははははははっ
「せいぜい婚約者とやらを守れるか足掻いて下さいよ、殿下!」

「スタンリー、娘の牢へ行くぞ」

地下室に異様な笑い声が響く。

ギィィと重い鉄の扉を開けるともうひとつの牢へ繋がる。
牢の中には女性がうずくまっている。

「メアリー嬢?」

声を掛けるとびくりと体を震わせ余計に隅で小さくなる。

「顔を見せよ!」

女性は頭から被った布を取ろうとしない。

「顔を見せろと言っている。もう一度同じことを言わせるのなら即刻処刑台行きだぞ」

女性は震えながら布を取ると振り返った。

「⁈誰だ?お前は‥‥」

見たこともない女性が涙を流しながら顔を上げた。

「⁈」

そこへ慌てた様子で、顔に黒い面をつけた男が駆け込んで来た。

「殿下、スタンリー様。仲間から連絡が入りました」

「申せ」

「殿下に付いていた者がルリア様の居場所を突き止めております。
フォルター家別邸の地下。
そこにメイド、門番、騎士も共にいるとのこと。
ルリア様は薬で眠らされ連れ去られたようです。
今は手足を縛られ地下に監禁状態であるとのこと。
殿下、スタンリー様もお急ぎ下さい。
首謀者はメアリー・フォルター公爵令嬢であるとの報告です」

「解った!急ごう。
おい、身代わりの女、話は後で聞かせてもらおう!
スタンリー行くぞ」

「はっ」





~フォルター公爵家別邸~


「目が覚めたかしら、泥棒猫」

体が重くて痛い‥‥

ここは、ベッドの上ではない‥‥わね

「ルリア様?」

「⁈カリン!!」

「申し訳ありません、ルリア様!
私がルリア様に眠り薬を飲ませてしまったんです」

泣き崩れるように私の目の前で冷たい床に額を付け謝る。

「どういうこと?」

手足が縄で縛られている。
見れば私とカリンは鉄格子の中。
ここは‥‥地下牢

外にはメアリー様とレオンとジェイクの姿。

「レオン‥‥ジェイク‥‥あなた達、フォルター家の‥‥人間?」

「ええ、ルリア様。申し訳ありません。
お嬢様の為ですから」

「どういうこと?メアリー様は夜会で牢へ入ったはず」

「ふふっ、咄嗟に侍女を連れて行かせましたの、ジェイクに。
万が一の時の為に用意しておいて良かったわ」

「‥‥そう」

冷たい石の床に横になりながらカリンを見る。

「どうして?」

「‥‥母の‥‥病気の薬をフォルター様からいただいていて‥逆らうことができませんでした。
でも私ルリア様のことが大好きで、エマさんもフィナのことも本当に好きで‥‥裏切りたくなかった。
あんなに楽しい日々は初めてでした」

泣き続けるカリンは哀れだった。

「アロン様と私は同じ目的でフォルター家から送り込まれたのです。
アロン様も悩んでおられました。
ですが、アロン様がやらなければ、私が手を汚す事になると‥‥アロン様は自分を犠牲にしたんです。
そこにいる、レオンとジェイクが私とアロン様の見張り役でした。
どちらかがルリア様の命を奪わなければ、公爵様に家族を殺されるから‥‥」

「何て卑怯なの‥‥」

「いいから早くその水を飲ませなさい!!カリン!!」

目の前のコップには水が入っている。
つまり、毒‥‥ということね。

「嫌です!ルリア様の命は奪えません!
もう無理です!」

ガシャン!!

「ここを開けなさいカリン!私がやるわ。こんな女、私の婚約者を突然やって来て奪うなど許さないわ。
この女が来たせいで全て狂ったのよ!
こんな女は死んで当然なのよ。
私は幼い頃からベルラード様の婚約者になることが決まっていたのに、人の国に来て私の人生をめちゃくちゃにしたこんな女は死ぬべきよ!死んで当然だわ!」


これは‥‥あの夢の続き?
皇妃の記憶と重なる‥皇后に言われたその言葉‥‥
私が生きてるから皆を不幸にする?


「違います、ルリア様が来てくれたから私メイドになれて、本当に楽しかった。ルリア様、私の言ってること信じて下さい!
ベルラード殿下は必ず迎えに来てくださいます。ですから、もう少しだけ待っていて下さい。
鍵は私が持っています。開けられません」

そう言いながらカリンは私の手足の縄を解こうと必死だ。

「何をしているの!カリン!母親が死んでもいいのね?」

「メアリー様‥‥母に薬など、もう届けていないのでしょう?
母の薬は高いうえに頻繁に飲まなければならないはずです。きっと‥そんな事、してくれるはずないわ。今ならわかる‥‥。
フォルター家は母の為にお金など使わないはずです」

カリンの涙が頬を伝い、石の床にポタリポタリと落ちていく。
私の手首の太い縄を解きながら、次々に溢れ出るカリンの涙を私は見ているしかなかった。

私がここへ来てから、カリンはアロンと同じ様に誰にも気づかれないように苦しんでいた‥‥
アロンはカリンに罪を背負わせたくないから、私を殺そうとした‥‥
けれど、私が死なずにアロンが亡くなった。
生き残っている私を殺すため、今度はカリンに命令が下った‥‥
フォルター家は何としてでも私を葬り去りたいようね。

真実は辛いことしかないようだ。
知れば知るほど、どんなことも辛い。
何も知らずに殺された方が幸せかもしれない‥‥




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