44 / 90
夜会事件1
しおりを挟む
夜会の日を迎えた。
私は自分の意思でベルラードの婚約者になることを決め、ここに留まることを決めた。
問題は山積みだ。
何よりアルンフォルトを逃げ出してきた王女が婚約者と知れればベルラードの立場が悪くなるのは間違いない。
リベール叔父様に何とか連絡が取れればいいのだけど‥‥
ライナに見つかっては困るし‥‥
コンコン
「はい」
戸が開くとベルラードが入って来た。
「ルリア。今日は正式な婚約者として夜会で発表しても良いか?
その‥‥心配なのでもう一度確認したくて‥‥」
本当に不安そうな顔で私を見る。
最初に出会った頃とは随分な変わりようだ。
ふふっと思わず笑ってしまった。
「ルリア⁈まさか!やっぱり出て行くとは言わないよな?」
焦って私の手を握る。
「言うのか?ルリア!!」
「いいえ。ここにいます。ですが、私が正式な婚約者として発表されれば今後の問題が多くて‥‥」
ガバッと勢いよく私に抱きついたベルラードは、
「何の問題もない。心配することはない。ルリアはここに居てくれればそれでいい。全部俺に任せておけ」
その頼もしさが嬉しかった。
彼ならきっと‥‥何とかしてくれる。
「はい」
素直に頷くとベルラードは安心したように体を離した。
「今日の夜会では、あの黒バラの飾りを着けてほしい。今日のドレスに似合うはずだ」
以前二人で買い物をした黒バラのアクセサリーのことだろう。
ベルラードが戸に目をやると、アロンが戸を開けティナさんがドレスを抱えている。
「まぁ、素敵!」
薄紫色のドレスに大きな黒バラが肩のところと腰の所に付いている。
大胆なデザインの中にも品のある素敵なドレスだ。
「形はマーメイドドレスにしてあります。ここでは珍しいですが、ルリア様なら着こなして頂けるかと思いデザインしました」
「どうもありがとう。着こなせるように努力します」
「ルリアしか着こなせないだろう」
嬉しそうに答えるベルラードにヘイルズは笑った。
「殿下はすっかり変わられましたね」
「ええ、骨抜きにされておりますね」
とアロンが同調する。
気まずそうにコホンと咳払いをすると、
「準備が終わった頃、迎えに来る。両陛下も来られるから今日の発表は正式に認められ、国内外に知れ渡るだろう」
国内外‥‥つまりアルンフォルトにも‥‥
「心配しなくていい。手は打ってある。では後でまた来る」
ベルラードが出て行くと私の支度が始まった。
心配しなくていいと言われても、アルンフォルトのことがどうしても気になる。
一体どうなるのだろう‥‥
ティナさんも手伝ってくれてエマ、フィナ、カリンも張り切っている。
ドレスはぴったりと体に沿って美しいラインとなっている。
裾は広がりダンスにも支障はない。
この形のドレスは初めてだがとても素敵だ。
支度を終えた頃、部屋に来たのはマリーだった。
マリーは部屋に来るなり、
「あなた達、皆下がって」
とティナさんやエマ達を出した後
「ねーさま!ついに決心されたのですね?お兄様は本当に幸せそうだもの」
「ええ、まぁ‥‥そうなの。ここに残らせてもらうことにしたわ」
「まぁ!良かったわ!私もそう願っておりましたの。お兄様ったら意外とやるのね」
「⁈」
「それで、ねーさまはお国のことが心配でしょう?」
「ええ、そうなの。ベルラードに迷惑を掛けてしまうから‥‥」
「私、こう見えても王女ですわ!私の姉になるねーさまを守るのも妹の務め。
ですから私に仕えている影をすでにアルンフォルトへ送り込んでおります。
ねーさまの不利にならぬよう、王妃側の動きを調べさせております。
ですから私を信じて、ねーさまは堂々と王太子妃としての務めを果たすようお願いしますわ」
「マリー‥‥あなたそんなこと」
「きっとお兄様はもっと動かれているはずよ。ですからご安心を。
それだけねーさまを皆が必要としているということですわ」
「マリー!やっぱりあなた良い人ね」
「相変わらず単純ですこと」
「マリーとこれからも一緒にいれることが嬉しいわ」
「そ、そう?」
マリーは少し照れたように横を向いた。
なんて頼もしくて可愛い妹なのだろう。
私は幸せだわ‥‥
その時、また戸を叩く音がした。
ベルラードが迎えに来たのかしら‥‥
「どうぞ」
部屋に入って来たのはアロンだった。
「どうしたの?アロン」
「これはマリエット王女様もご一緒でしたか。ベルラード殿下が夜会前にルリア様に見せたい物があるそうです」
「⁈見せたい物?」
「はい。ご一緒に来ていただけますか?」
「ええ、もちろん」
「そのドレスもよくお似合いですね。本当にお美しいです」
「ありがとう。ドレスが素敵なのよ」
「アロン、惚れては駄目よ!お兄様に殺されるわよ!」
「ははっ、承知しております」
「では、私も付いて行くわ」
「殿下はルリア様だけをお連れするようにと仰ってましたが‥」
「いいのよ、どうせねーさまを独り占めして甘い時間を過ごそうと考えているのでしょう?邪魔してやるわ」
「はははっ、それは何とも分かりませんが‥‥では、ご一緒にどうぞ」
私とマリーはアロンについて部屋を出た。
普段は通らない廊下を歩く。
「こちらに何かあったかしら」
「なんでも国の宝とされる宝石をお渡ししたいそうです」
「まぁ、そうなの?」
マリーは首を傾げる。
ひと気の無い廊下を三人で歩いていると、突然黒い外套と黒い頭巾を被った男達が現れた。
「何だ!お前達は!誰だ!」
アロンは急いで私達を背に庇うように前に立つ。
「お前は邪魔だ!どけ!」
そう言うとアロンを剣で斬りつけた。
ガハッ
「アロン!!」
「キャャ!!アロン!!」
私とマリーは同時に叫ぶとアロンは目の前で倒れてしまった。
驚いているうちに、あっという間に私とマリーは手を後ろに縛られ、マリーは首の後ろを叩かれ意識が朦朧としている。
「ねー‥さま」
と消えそうな声で私の名を呼んだ。
一瞬の油断でこんなことに‥‥
マリーを助けなきゃ!
私はショックを受けて気を失ったふりをした。
ガクンと倒れ込むとすぐに抱えられ、連れて行かれるのを黙って耐えるしかなかった。
私は自分の意思でベルラードの婚約者になることを決め、ここに留まることを決めた。
問題は山積みだ。
何よりアルンフォルトを逃げ出してきた王女が婚約者と知れればベルラードの立場が悪くなるのは間違いない。
リベール叔父様に何とか連絡が取れればいいのだけど‥‥
ライナに見つかっては困るし‥‥
コンコン
「はい」
戸が開くとベルラードが入って来た。
「ルリア。今日は正式な婚約者として夜会で発表しても良いか?
その‥‥心配なのでもう一度確認したくて‥‥」
本当に不安そうな顔で私を見る。
最初に出会った頃とは随分な変わりようだ。
ふふっと思わず笑ってしまった。
「ルリア⁈まさか!やっぱり出て行くとは言わないよな?」
焦って私の手を握る。
「言うのか?ルリア!!」
「いいえ。ここにいます。ですが、私が正式な婚約者として発表されれば今後の問題が多くて‥‥」
ガバッと勢いよく私に抱きついたベルラードは、
「何の問題もない。心配することはない。ルリアはここに居てくれればそれでいい。全部俺に任せておけ」
その頼もしさが嬉しかった。
彼ならきっと‥‥何とかしてくれる。
「はい」
素直に頷くとベルラードは安心したように体を離した。
「今日の夜会では、あの黒バラの飾りを着けてほしい。今日のドレスに似合うはずだ」
以前二人で買い物をした黒バラのアクセサリーのことだろう。
ベルラードが戸に目をやると、アロンが戸を開けティナさんがドレスを抱えている。
「まぁ、素敵!」
薄紫色のドレスに大きな黒バラが肩のところと腰の所に付いている。
大胆なデザインの中にも品のある素敵なドレスだ。
「形はマーメイドドレスにしてあります。ここでは珍しいですが、ルリア様なら着こなして頂けるかと思いデザインしました」
「どうもありがとう。着こなせるように努力します」
「ルリアしか着こなせないだろう」
嬉しそうに答えるベルラードにヘイルズは笑った。
「殿下はすっかり変わられましたね」
「ええ、骨抜きにされておりますね」
とアロンが同調する。
気まずそうにコホンと咳払いをすると、
「準備が終わった頃、迎えに来る。両陛下も来られるから今日の発表は正式に認められ、国内外に知れ渡るだろう」
国内外‥‥つまりアルンフォルトにも‥‥
「心配しなくていい。手は打ってある。では後でまた来る」
ベルラードが出て行くと私の支度が始まった。
心配しなくていいと言われても、アルンフォルトのことがどうしても気になる。
一体どうなるのだろう‥‥
ティナさんも手伝ってくれてエマ、フィナ、カリンも張り切っている。
ドレスはぴったりと体に沿って美しいラインとなっている。
裾は広がりダンスにも支障はない。
この形のドレスは初めてだがとても素敵だ。
支度を終えた頃、部屋に来たのはマリーだった。
マリーは部屋に来るなり、
「あなた達、皆下がって」
とティナさんやエマ達を出した後
「ねーさま!ついに決心されたのですね?お兄様は本当に幸せそうだもの」
「ええ、まぁ‥‥そうなの。ここに残らせてもらうことにしたわ」
「まぁ!良かったわ!私もそう願っておりましたの。お兄様ったら意外とやるのね」
「⁈」
「それで、ねーさまはお国のことが心配でしょう?」
「ええ、そうなの。ベルラードに迷惑を掛けてしまうから‥‥」
「私、こう見えても王女ですわ!私の姉になるねーさまを守るのも妹の務め。
ですから私に仕えている影をすでにアルンフォルトへ送り込んでおります。
ねーさまの不利にならぬよう、王妃側の動きを調べさせております。
ですから私を信じて、ねーさまは堂々と王太子妃としての務めを果たすようお願いしますわ」
「マリー‥‥あなたそんなこと」
「きっとお兄様はもっと動かれているはずよ。ですからご安心を。
それだけねーさまを皆が必要としているということですわ」
「マリー!やっぱりあなた良い人ね」
「相変わらず単純ですこと」
「マリーとこれからも一緒にいれることが嬉しいわ」
「そ、そう?」
マリーは少し照れたように横を向いた。
なんて頼もしくて可愛い妹なのだろう。
私は幸せだわ‥‥
その時、また戸を叩く音がした。
ベルラードが迎えに来たのかしら‥‥
「どうぞ」
部屋に入って来たのはアロンだった。
「どうしたの?アロン」
「これはマリエット王女様もご一緒でしたか。ベルラード殿下が夜会前にルリア様に見せたい物があるそうです」
「⁈見せたい物?」
「はい。ご一緒に来ていただけますか?」
「ええ、もちろん」
「そのドレスもよくお似合いですね。本当にお美しいです」
「ありがとう。ドレスが素敵なのよ」
「アロン、惚れては駄目よ!お兄様に殺されるわよ!」
「ははっ、承知しております」
「では、私も付いて行くわ」
「殿下はルリア様だけをお連れするようにと仰ってましたが‥」
「いいのよ、どうせねーさまを独り占めして甘い時間を過ごそうと考えているのでしょう?邪魔してやるわ」
「はははっ、それは何とも分かりませんが‥‥では、ご一緒にどうぞ」
私とマリーはアロンについて部屋を出た。
普段は通らない廊下を歩く。
「こちらに何かあったかしら」
「なんでも国の宝とされる宝石をお渡ししたいそうです」
「まぁ、そうなの?」
マリーは首を傾げる。
ひと気の無い廊下を三人で歩いていると、突然黒い外套と黒い頭巾を被った男達が現れた。
「何だ!お前達は!誰だ!」
アロンは急いで私達を背に庇うように前に立つ。
「お前は邪魔だ!どけ!」
そう言うとアロンを剣で斬りつけた。
ガハッ
「アロン!!」
「キャャ!!アロン!!」
私とマリーは同時に叫ぶとアロンは目の前で倒れてしまった。
驚いているうちに、あっという間に私とマリーは手を後ろに縛られ、マリーは首の後ろを叩かれ意識が朦朧としている。
「ねー‥さま」
と消えそうな声で私の名を呼んだ。
一瞬の油断でこんなことに‥‥
マリーを助けなきゃ!
私はショックを受けて気を失ったふりをした。
ガクンと倒れ込むとすぐに抱えられ、連れて行かれるのを黙って耐えるしかなかった。
8
お気に入りに追加
176
あなたにおすすめの小説


純白の牢獄
ゆる
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)
青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。
だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。
けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。
「なぜですか?」
「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」
イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの?
これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない)
因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる