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夜会事件1

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夜会の日を迎えた。

私は自分の意思でベルラードの婚約者になることを決め、ここに留まることを決めた。

問題は山積みだ。

何よりアルンフォルトを逃げ出してきた王女が婚約者と知れればベルラードの立場が悪くなるのは間違いない。
リベール叔父様に何とか連絡が取れればいいのだけど‥‥
ライナに見つかっては困るし‥‥

コンコン

「はい」

戸が開くとベルラードが入って来た。

「ルリア。今日は正式な婚約者として夜会で発表しても良いか?
その‥‥心配なのでもう一度確認したくて‥‥」

本当に不安そうな顔で私を見る。
最初に出会った頃とは随分な変わりようだ。

ふふっと思わず笑ってしまった。

「ルリア⁈まさか!やっぱり出て行くとは言わないよな?」

焦って私の手を握る。

「言うのか?ルリア!!」

「いいえ。ここにいます。ですが、私が正式な婚約者として発表されれば今後の問題が多くて‥‥」

ガバッと勢いよく私に抱きついたベルラードは、

「何の問題もない。心配することはない。ルリアはここに居てくれればそれでいい。全部俺に任せておけ」

その頼もしさが嬉しかった。
彼ならきっと‥‥何とかしてくれる。

「はい」

素直に頷くとベルラードは安心したように体を離した。

「今日の夜会では、あの黒バラの飾りを着けてほしい。今日のドレスに似合うはずだ」

以前二人で買い物をした黒バラのアクセサリーのことだろう。

ベルラードが戸に目をやると、アロンが戸を開けティナさんがドレスを抱えている。

「まぁ、素敵!」

薄紫色のドレスに大きな黒バラが肩のところと腰の所に付いている。
大胆なデザインの中にも品のある素敵なドレスだ。

「形はマーメイドドレスにしてあります。ここでは珍しいですが、ルリア様なら着こなして頂けるかと思いデザインしました」

「どうもありがとう。着こなせるように努力します」

「ルリアしか着こなせないだろう」

嬉しそうに答えるベルラードにヘイルズは笑った。

「殿下はすっかり変わられましたね」

「ええ、骨抜きにされておりますね」

とアロンが同調する。
気まずそうにコホンと咳払いをすると、

「準備が終わった頃、迎えに来る。両陛下も来られるから今日の発表は正式に認められ、国内外に知れ渡るだろう」

国内外‥‥つまりアルンフォルトにも‥‥

「心配しなくていい。手は打ってある。では後でまた来る」

ベルラードが出て行くと私の支度が始まった。
心配しなくていいと言われても、アルンフォルトのことがどうしても気になる。
一体どうなるのだろう‥‥


ティナさんも手伝ってくれてエマ、フィナ、カリンも張り切っている。
ドレスはぴったりと体に沿って美しいラインとなっている。
裾は広がりダンスにも支障はない。
この形のドレスは初めてだがとても素敵だ。

支度を終えた頃、部屋に来たのはマリーだった。
マリーは部屋に来るなり、

「あなた達、皆下がって」

とティナさんやエマ達を出した後

「ねーさま!ついに決心されたのですね?お兄様は本当に幸せそうだもの」

「ええ、まぁ‥‥そうなの。ここに残らせてもらうことにしたわ」

「まぁ!良かったわ!私もそう願っておりましたの。お兄様ったら意外とやるのね」

「⁈」

「それで、ねーさまはお国のことが心配でしょう?」

「ええ、そうなの。ベルラードに迷惑を掛けてしまうから‥‥」

「私、こう見えても王女ですわ!私の姉になるねーさまを守るのも妹の務め。
ですから私に仕えている影をすでにアルンフォルトへ送り込んでおります。
ねーさまの不利にならぬよう、王妃側の動きを調べさせております。
ですから私を信じて、ねーさまは堂々と王太子妃としての務めを果たすようお願いしますわ」

「マリー‥‥あなたそんなこと」

「きっとお兄様はもっと動かれているはずよ。ですからご安心を。
それだけねーさまを皆が必要としているということですわ」

「マリー!やっぱりあなた良い人ね」

「相変わらず単純ですこと」

「マリーとこれからも一緒にいれることが嬉しいわ」

「そ、そう?」

マリーは少し照れたように横を向いた。
なんて頼もしくて可愛い妹なのだろう。
私は幸せだわ‥‥

その時、また戸を叩く音がした。
ベルラードが迎えに来たのかしら‥‥

「どうぞ」

部屋に入って来たのはアロンだった。

「どうしたの?アロン」

「これはマリエット王女様もご一緒でしたか。ベルラード殿下が夜会前にルリア様に見せたい物があるそうです」

「⁈見せたい物?」

「はい。ご一緒に来ていただけますか?」

「ええ、もちろん」

「そのドレスもよくお似合いですね。本当にお美しいです」

「ありがとう。ドレスが素敵なのよ」

「アロン、惚れては駄目よ!お兄様に殺されるわよ!」

「ははっ、承知しております」

「では、私も付いて行くわ」

「殿下はルリア様だけをお連れするようにと仰ってましたが‥」

「いいのよ、どうせねーさまを独り占めして甘い時間を過ごそうと考えているのでしょう?邪魔してやるわ」

「はははっ、それは何とも分かりませんが‥‥では、ご一緒にどうぞ」

私とマリーはアロンについて部屋を出た。
普段は通らない廊下を歩く。

「こちらに何かあったかしら」

「なんでも国の宝とされる宝石をお渡ししたいそうです」

「まぁ、そうなの?」

マリーは首を傾げる。

ひと気の無い廊下を三人で歩いていると、突然黒い外套と黒い頭巾を被った男達が現れた。

「何だ!お前達は!誰だ!」

アロンは急いで私達を背に庇うように前に立つ。

「お前は邪魔だ!どけ!」

そう言うとアロンを剣で斬りつけた。
ガハッ

「アロン!!」
「キャャ!!アロン!!」

私とマリーは同時に叫ぶとアロンは目の前で倒れてしまった。

驚いているうちに、あっという間に私とマリーは手を後ろに縛られ、マリーは首の後ろを叩かれ意識が朦朧としている。

「ねー‥さま」

と消えそうな声で私の名を呼んだ。
一瞬の油断でこんなことに‥‥
マリーを助けなきゃ!

私はショックを受けて気を失ったふりをした。
ガクンと倒れ込むとすぐに抱えられ、連れて行かれるのを黙って耐えるしかなかった。






















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