逃げ出した王女は隣国の王太子妃に熱望される

風子

文字の大きさ
上 下
40 / 90

お出掛け2

しおりを挟む
「そこで休憩しよう」

ケーキの看板が付いている店に入ると女性客が大勢座っている。

ひとつだけ空いたテーブルに通されるとベルラードと二人で座った。
ヘイルズ達は外で待機させられている。

「ここで人気の物は何だ?」

「うちはパンケーキが人気の店で、中でもチョコレートと生クリームがたっぷりの物が一番人気です」

「そうか、ならそれをくれ」

可愛らしい店内にベルラードと二人でいるのは何だか落ち着かないような不思議な感じがする。

少し待つと厚みのあるパンケーキが運ばれてきた。

「まぁ、こんなに高さがあるなんて」

ふっくらと厚みのあるパンケーキを思わずフォークで触るとフワフワしている。
上には大好きなチョコレートと生クリーム。
パクリと食べれば客が多いのも納得できる美味しさだった。

「とても美味しいわ!」

ベルラードを見れば一口食べて眉間にしわを寄せている。



「甘すぎる」

そんなベルラードの姿がおかしくて笑ってしまった。

「ふふふっ、そんなに甘くないわよ」

「いいや、甘すぎる!歯が全部溶けそうだ!」

ふふっあはははっ

「それは言い過ぎです」

おかしくて笑いが止まらない。
困った顔をしてそんなことを言うものだから可愛く見えてしまう‥‥

「そんなに笑うことか?」

ちょっとムスッとしているが余計におかしい‥‥

「ごめんなさい‥ふふっ」

「まぁ、ルリアの笑い顔が見れたから許そう」

そう言って私のずり落ちた眼鏡を直してくれる。
その自然な仕草にドキッとしてしまう‥

赤く染まる顔を隠すようにパンケーキを食べ、結局ベルラードの分も食べてしまった‥‥。

「美味しそうに食べるな」

「美味しいからです」

いつの間にかベルラードとのやり取りは自然で、何故か楽しく感じていた。

「市井はどう感じた?」

「民がいきいきとしていて、自分達の仕事に熱心であることが分かりました」

「そなたは市井に降りて、野菜作りでも学ぶのか?それとも野菜の売り方を学ぶのか?小物作りの修行でも始めるか?ケーキ作りで雇ってもらうつもりか?
民は生きる為に仕事に必要な知識や技術を持っている。
市井は逃げ道にするような甘いところではない」

「‥‥」

ベルラードの言うことは正しい。
確かにその通りだ。
安易に市井で暮らすと言った私はあまりにも無知だ。

「俺はその民を守る為、国の王となる。
それが俺の仕事だ。そなたの仕事は何だ?
アルンフォルトほどの大国で王女として育ちながら、両親が守ってきた国を飛び出して、ルリアのしたいことは何なのだ?」

「‥‥」

私が生きる為に身につけてきたことは、市井の暮らしでは何ひとつ役に立たないだろう。
七カ国語を話せることなど、ここでは必要ない。
剣術を得意としてもここでは何にもならない。
淑女としてのマナーも関係ない。

私には‥‥何もない。

「さあ、今日はもう帰ろう。
夜会が終わるまでに考えれば良いことだ」

チクリと胸が痛んだ‥‥

夜会を終えたら、私は何をするのだろう。
何がしたかったのだろう。
何ができるのだろう。

あんなに早く終われば良いと思っていた夜会のカウントダウンが私の首をゆっくり絞めていくようで‥‥恐ろしく感じた。










しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

純白の牢獄

ゆる
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

処理中です...