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気が重いお茶会
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王妃宮は王宮の雰囲気とは違い、白を基調とした美しい宮殿であった。
周りは緑豊かで、堅牢な造りの王宮とは反対に可愛らしく見える。
「生まれ育った田園風景を愛しているものだから、窓から見える景色にはこだわっているのよ」
わざわざ私を出迎えてくださった王妃様は、自慢の離宮を説明してくれた。
「私、本当は田舎者なのよ」
と、ふふっと笑った王妃様は、この離宮の雰囲気と同じでとても可愛らしい。
「お母様はおっとりした性格なの。だから私はいつも心配で」
マリーがはぁ‥と心配そうにため息を吐く。
「マリーはとてもしっかりしているから頼もしいわ」
「ええ、そうですね。私よりもずっとしっかりしていますから、私も頼りにしております」
そう返すと、
「あら!あなた達。すっかり姉妹で仲良しね」
と嬉しそうに王妃様は笑った。
‥‥姉妹‥‥にはなれないけど、親友にはなれたと思っている。
「お母様もねーさまも、甘すぎるのですわ!国の中枢がこの様な純真無垢の集まりでは困ります」
フンッと呆れたようにそっぽを向いたマリーに、私と王妃様は思わず顔を見合わせて笑った。
王妃もマリーもいい人だわ。
この国は、こんな私に優しいわね。
「さぁ、皆がもう待っているわ」
「私の支度が遅くなってしまったせいで申し訳ございません」
「いいのよ!主役は最後と決まっているわ」
‥‥主役ではないけれど、皆の関心の中心になることは間違いないかもしれない。
部屋に案内されると、10人程の令嬢が集まっていた。
私の姿を見て固まっている。
王妃と王女と共に入って来るなど、普通の令嬢ではない‥‥
誰なの?という視線は想定内だが、やはり気持ちの良いものではない。
冷たい視線は突き刺さる。
「皆さんにご紹介するわ。ベルラードの婚約者のルリアさんよ」
ドレスを摘み挨拶をすると、早速一人の令嬢が声を上げる。
「王妃様。失礼ながら申し上げます。ベルラード殿下の婚約者は、私メアリー・フォルターか、アンナ・サーヴァン侯爵令嬢のどちらかになると陛下からお話がすでにありました。新たな婚約者候補の一人ということでしょうか?」
思わず「はい」と言いたくなる。
候補の一人にして欲しい。
「いいえ。ルリアさんはベルラード本人が決めた婚約者です。陛下も了承したことです。きっと今陛下が、フォルター公爵とサーヴァン侯爵にも話をしている頃でしょう。我が王家として、ルリアさんをベルラードの婚約者にすることを決めました」
「そんな‥‥」
ざわざわとしだす令嬢達の動揺が伝わってくる。
「さぁ、皆さん。お茶にいたしましょう。今日は新作の焼き菓子をうちのパティシエが張り切って作りましたのよ」
重苦しい空気を感じながら、お茶会は始まった。
楕円の長いテーブルの中心に、何故か王妃様とマリーの間に挟まれて座らされた私は、正面にあの二人の令嬢がいる。
この配置おかしくない?
楕円のテーブルはあまり我が国のお茶会では見かけない。
王妃様のこだわりの物だろうか‥
目の前に置かれたケーキスタンドの美味しいお菓子や、紅茶を引き立てる綺麗なティーカップは優雅な雰囲気だが、正面の令嬢二人とその周りにずらりと並んだ令嬢達は殺伐としている。
理解できるけど、あからさまね‥‥
「皆さん、どうぞ召し上がって」
王妃様はその雰囲気を全く気にせずお茶を口にした。
「王妃様。失礼を承知で申し上げます。先程ご紹介いただいた、そちらのルリア様ですけれど、突然この様なお話になるなど私達としましては納得できませんわ」
正面の赤茶色のゆるいウェーブが美しい髪の女性。
彼女がメアリー・フォルター公爵令嬢ね。
確かに!あなたの言う通りよ!
「そうですわ。私達二人は王太子妃教育を受け、ベルラード殿下に相応しい妃となるように努力して参りました」
金髪のウェーブが美しい女性は、アンナ・サーヴァン侯爵令嬢ね。
確かに!そう思うのも無理ないわ!
私は王太子妃になりたいわけではない。
もう少しで市井で暮らすことになるかもしれないんだもの。
このままもう少しだけ待ってほしい。
「メアリー様、アンナ様。兄が選び決めたことですわ。この話はこれで終わりにしてくださる?」
「王女様はこの話に納得していらっしゃるのですか?」
「ええ、もちろん。私はルリア様をすでにお姉様と呼んでおりますわ」
周りの令嬢達は驚きまた少しざわついた。
このままでは、私も国を抜けづらくなる‥
「ルリアと申します。私が突然現れたことで、皆様を混乱させてしまったこと、まずはお詫びしますわ。ですが、まだ先のことは分かりませんから。
殿下の心変わりもありますでしょうし、私に決まったというわけではありません。
一時の気の迷いということもございますから」
「気の迷い?」
「ええ。先のことなど分からないものですわ」
こう言っておけば、私も消えやすい。
「ねーさま!決定事項ですわ!」
「ルリアさん!陛下もすでに認めて結婚式の準備も始めましたのよ!」
ちよっと‥話をややこしくして、揉めさせないでほしいわ。
上手く濁してくれないかしら‥‥
「式の話まで進んでいらっしゃるのですか?そんな!あんまりですわ!」
メアリー様が声を大きくする。
「いえ、ですから。男性とは気が多いと聞きますから、今だけかもしれません。
時が経てば変わることもありますわ」
「まぁ!謙遜して殿下の気を引いたのかしら!」
引いておりません‥
「アンナ様!それはお姉様に失礼ですわ。それに王妃の前であるのに無礼でしょう」
「‥申し訳ございません」
事態が悪化していくわね‥‥
バン!!
「楽しそうな茶会であるな!俺も混ぜてもらおう」
「王太子殿下!!」
皆の声が揃う。
余計にややこしくなりそうだわ‥‥
「まぁ、ベルラード!茶会に顔を出すなど珍しいこともあるものですね」
「母上、突然申し訳ありません。ですが、ルリアがここに居るとなれば、顔を見にこないわけにはいきません。我が妃の顔が見えないと心配で」
‥‥より悪化させたわね‥‥
令嬢達はさらにざわつく。
目の前の二人の視線はより鋭く私に突き刺さる。
‥‥痛いわ
王太子殿下はすぐに私とマリーの間に椅子を用意させ座ると、皆に見せるかのように私の手を持ち上げ指先に口付けをする。
キャッと令嬢達が驚きの声を上げるのも気にせずに、驚いた私の頬にまで軽い口付けをした。
これって‥‥わざとかしら‥
揉めさせようとしている?
「まぁ!お兄様!人前ではその様なこと、お止めください!いくらお姉様を愛しておられるからと言って人前ではいけませんわ」
‥‥人前以外でもダメだと言って!
あなた達、裏で手を組んでないわよね?
「ああ、皆の前ですまないな。あまりにも我が妃が美しいもので、抑えられなかった」
完全にわざとよね?
「まだ妃ではございませんわ」
「妃はルリアしかいないと決めている。ちょうど良い機会だ。メアリー嬢とアンナ嬢にも伝えておきたい。
私はルリアを妃にすると決めた。
そなた達が婚約者候補に決まったと聞いていたが、それは私の本意ではない。
私がルリア以外を妃にすることはない。
陛下も貴族皆にそのことを伝えるはずだ。
父が先走ったことをして、そなた達に迷惑をかけたこと、本当にすまなかった」
「ベルラード殿下。失礼ながら申し上げます。今ほどそちらのルリア様は、一時的なもので先のことは分からないとおっしゃいました。それならば、このまま王太子妃教育を続けさせて頂いてもよろしいですか?」
「ルリアは何か勘違いをしているようだな。私にはルリアしかいない。もっと私の想いをよく伝えておこう。
王太子妃教育はもう必要ない。
では、ご令嬢達はゆっくり楽しんでくれ。俺は妃を連れて行かせてもらおう」
「妃ではございません!」
王太子殿下は、皆の前でエスコートの手を差し出した‥
ここに取り残されるのも針のむしろに座っているようだが、こうやって二人で出て行くことも私の立つ瀬がない‥
はぁ‥困ったものだわ‥
周りは緑豊かで、堅牢な造りの王宮とは反対に可愛らしく見える。
「生まれ育った田園風景を愛しているものだから、窓から見える景色にはこだわっているのよ」
わざわざ私を出迎えてくださった王妃様は、自慢の離宮を説明してくれた。
「私、本当は田舎者なのよ」
と、ふふっと笑った王妃様は、この離宮の雰囲気と同じでとても可愛らしい。
「お母様はおっとりした性格なの。だから私はいつも心配で」
マリーがはぁ‥と心配そうにため息を吐く。
「マリーはとてもしっかりしているから頼もしいわ」
「ええ、そうですね。私よりもずっとしっかりしていますから、私も頼りにしております」
そう返すと、
「あら!あなた達。すっかり姉妹で仲良しね」
と嬉しそうに王妃様は笑った。
‥‥姉妹‥‥にはなれないけど、親友にはなれたと思っている。
「お母様もねーさまも、甘すぎるのですわ!国の中枢がこの様な純真無垢の集まりでは困ります」
フンッと呆れたようにそっぽを向いたマリーに、私と王妃様は思わず顔を見合わせて笑った。
王妃もマリーもいい人だわ。
この国は、こんな私に優しいわね。
「さぁ、皆がもう待っているわ」
「私の支度が遅くなってしまったせいで申し訳ございません」
「いいのよ!主役は最後と決まっているわ」
‥‥主役ではないけれど、皆の関心の中心になることは間違いないかもしれない。
部屋に案内されると、10人程の令嬢が集まっていた。
私の姿を見て固まっている。
王妃と王女と共に入って来るなど、普通の令嬢ではない‥‥
誰なの?という視線は想定内だが、やはり気持ちの良いものではない。
冷たい視線は突き刺さる。
「皆さんにご紹介するわ。ベルラードの婚約者のルリアさんよ」
ドレスを摘み挨拶をすると、早速一人の令嬢が声を上げる。
「王妃様。失礼ながら申し上げます。ベルラード殿下の婚約者は、私メアリー・フォルターか、アンナ・サーヴァン侯爵令嬢のどちらかになると陛下からお話がすでにありました。新たな婚約者候補の一人ということでしょうか?」
思わず「はい」と言いたくなる。
候補の一人にして欲しい。
「いいえ。ルリアさんはベルラード本人が決めた婚約者です。陛下も了承したことです。きっと今陛下が、フォルター公爵とサーヴァン侯爵にも話をしている頃でしょう。我が王家として、ルリアさんをベルラードの婚約者にすることを決めました」
「そんな‥‥」
ざわざわとしだす令嬢達の動揺が伝わってくる。
「さぁ、皆さん。お茶にいたしましょう。今日は新作の焼き菓子をうちのパティシエが張り切って作りましたのよ」
重苦しい空気を感じながら、お茶会は始まった。
楕円の長いテーブルの中心に、何故か王妃様とマリーの間に挟まれて座らされた私は、正面にあの二人の令嬢がいる。
この配置おかしくない?
楕円のテーブルはあまり我が国のお茶会では見かけない。
王妃様のこだわりの物だろうか‥
目の前に置かれたケーキスタンドの美味しいお菓子や、紅茶を引き立てる綺麗なティーカップは優雅な雰囲気だが、正面の令嬢二人とその周りにずらりと並んだ令嬢達は殺伐としている。
理解できるけど、あからさまね‥‥
「皆さん、どうぞ召し上がって」
王妃様はその雰囲気を全く気にせずお茶を口にした。
「王妃様。失礼を承知で申し上げます。先程ご紹介いただいた、そちらのルリア様ですけれど、突然この様なお話になるなど私達としましては納得できませんわ」
正面の赤茶色のゆるいウェーブが美しい髪の女性。
彼女がメアリー・フォルター公爵令嬢ね。
確かに!あなたの言う通りよ!
「そうですわ。私達二人は王太子妃教育を受け、ベルラード殿下に相応しい妃となるように努力して参りました」
金髪のウェーブが美しい女性は、アンナ・サーヴァン侯爵令嬢ね。
確かに!そう思うのも無理ないわ!
私は王太子妃になりたいわけではない。
もう少しで市井で暮らすことになるかもしれないんだもの。
このままもう少しだけ待ってほしい。
「メアリー様、アンナ様。兄が選び決めたことですわ。この話はこれで終わりにしてくださる?」
「王女様はこの話に納得していらっしゃるのですか?」
「ええ、もちろん。私はルリア様をすでにお姉様と呼んでおりますわ」
周りの令嬢達は驚きまた少しざわついた。
このままでは、私も国を抜けづらくなる‥
「ルリアと申します。私が突然現れたことで、皆様を混乱させてしまったこと、まずはお詫びしますわ。ですが、まだ先のことは分かりませんから。
殿下の心変わりもありますでしょうし、私に決まったというわけではありません。
一時の気の迷いということもございますから」
「気の迷い?」
「ええ。先のことなど分からないものですわ」
こう言っておけば、私も消えやすい。
「ねーさま!決定事項ですわ!」
「ルリアさん!陛下もすでに認めて結婚式の準備も始めましたのよ!」
ちよっと‥話をややこしくして、揉めさせないでほしいわ。
上手く濁してくれないかしら‥‥
「式の話まで進んでいらっしゃるのですか?そんな!あんまりですわ!」
メアリー様が声を大きくする。
「いえ、ですから。男性とは気が多いと聞きますから、今だけかもしれません。
時が経てば変わることもありますわ」
「まぁ!謙遜して殿下の気を引いたのかしら!」
引いておりません‥
「アンナ様!それはお姉様に失礼ですわ。それに王妃の前であるのに無礼でしょう」
「‥申し訳ございません」
事態が悪化していくわね‥‥
バン!!
「楽しそうな茶会であるな!俺も混ぜてもらおう」
「王太子殿下!!」
皆の声が揃う。
余計にややこしくなりそうだわ‥‥
「まぁ、ベルラード!茶会に顔を出すなど珍しいこともあるものですね」
「母上、突然申し訳ありません。ですが、ルリアがここに居るとなれば、顔を見にこないわけにはいきません。我が妃の顔が見えないと心配で」
‥‥より悪化させたわね‥‥
令嬢達はさらにざわつく。
目の前の二人の視線はより鋭く私に突き刺さる。
‥‥痛いわ
王太子殿下はすぐに私とマリーの間に椅子を用意させ座ると、皆に見せるかのように私の手を持ち上げ指先に口付けをする。
キャッと令嬢達が驚きの声を上げるのも気にせずに、驚いた私の頬にまで軽い口付けをした。
これって‥‥わざとかしら‥
揉めさせようとしている?
「まぁ!お兄様!人前ではその様なこと、お止めください!いくらお姉様を愛しておられるからと言って人前ではいけませんわ」
‥‥人前以外でもダメだと言って!
あなた達、裏で手を組んでないわよね?
「ああ、皆の前ですまないな。あまりにも我が妃が美しいもので、抑えられなかった」
完全にわざとよね?
「まだ妃ではございませんわ」
「妃はルリアしかいないと決めている。ちょうど良い機会だ。メアリー嬢とアンナ嬢にも伝えておきたい。
私はルリアを妃にすると決めた。
そなた達が婚約者候補に決まったと聞いていたが、それは私の本意ではない。
私がルリア以外を妃にすることはない。
陛下も貴族皆にそのことを伝えるはずだ。
父が先走ったことをして、そなた達に迷惑をかけたこと、本当にすまなかった」
「ベルラード殿下。失礼ながら申し上げます。今ほどそちらのルリア様は、一時的なもので先のことは分からないとおっしゃいました。それならば、このまま王太子妃教育を続けさせて頂いてもよろしいですか?」
「ルリアは何か勘違いをしているようだな。私にはルリアしかいない。もっと私の想いをよく伝えておこう。
王太子妃教育はもう必要ない。
では、ご令嬢達はゆっくり楽しんでくれ。俺は妃を連れて行かせてもらおう」
「妃ではございません!」
王太子殿下は、皆の前でエスコートの手を差し出した‥
ここに取り残されるのも針のむしろに座っているようだが、こうやって二人で出て行くことも私の立つ瀬がない‥
はぁ‥困ったものだわ‥
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