逃げ出した王女は隣国の王太子妃に熱望される

風子

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隠しきれなかった素性2

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「では、まず聞こう。そなたの名は?」

「ルリア‥‥と申します」

王太子の眉がぴくりと動き、驚いたように目を大きく開いた。

「俺はベルラード•エルフィリオ。この国の王位第一継承者だ。この国を治める側の立場として、この国に害をなす者を見過ごすわけにはいかない」

「ちょっ‥ちょっとお待ち下さい!ベルラード王太子殿下!私は何も!」

「そなたが平民というのは嘘だ。何故だか分かるか?」

「‥‥」


「まずその立ち振る舞い、話し方。どう見ても平民では無理があるだろう。カーテシーを完璧にする平民などいない」

「‥‥」

「そのドレスを着こなし、食事のマナーも心得ている」

「それを見る為に私にこのドレスを着せ食事をさせたのですね‥」

「そのうえ、そなたはラヌー語を話す。この国ではラヌー語を学べるのは限られている。外交に携わる者か王族だけだ。だが、俺はそなたを見たことがない。つまりこの国の人間ではないということだ」

ヨハンさんをチラリと見ると困ったように頭をかいた。

「嘘をついてこの国に居る理由が知りたい。それだけの教養のある人間が平民だと言って姿を隠すように人混みに紛れていた。理由が無ければそのような事はしないだろう」

これ以上変に誤魔化しても、余計に怪しまれるだけかもしれない。

「確かに私はこの国の人間ではございません。ですが、この国に害をなすなどその様な企みはございません。ただこの国で静かな暮らしがしたいと思って来たのです。
この国で仕事を探し、平民として暮らしたかったのです」

「仕事を探す?収穫祭の観光に来たのではないの?」

「ごめんなさい、ヨハンさんにも何も言えないままでこの様なご迷惑をお掛けしてしまって‥‥本当に申し訳ありません」

「いや、初めから平民だとは思っていないし、商人の娘だとも思っていないよ」

「え⁇」

「ルリアちゃんが平民だと言うから合わせただけで、君が貴族令嬢であることは気が付いていたよ。君は平民を知らなさすぎる。真似さえもできていなかったからね」

「そうですか‥‥」

「フェルネス伯父さんが知り合いの令嬢を収穫祭にでも連れて来たのかと思っていたよ。厳しい家柄か何かで正体を明かせないのかとね」

完全に私の勉強不足だ。
平民になるつもりなら、平民の話し方、態度を学ばねばならなかった。
私は所詮、生きてきたこの生き方しか出来ない‥‥
学んできたことしか出来ない私は、自分の立場を捨てようとした罰を受けるんだ。

「何処の国から来たのだ?」

「アルンフォルトです」

「大国だな」

私は諦めた‥
処刑台がチラつく。
ライナ王妃のほくそ笑む姿さえ見えてくる。

「私の名は‥ルリア•アルンフォルト。先代国王のひとり娘です」

「⁈王女‥‥」

予想を上回ったのか四人とも目を丸くしている。
驚くのも無理はない。
平民になりたがっていた女は隣国の王女で、しかも身を隠すようにやって来ている。
完全なる訳ありだ。

四人の時は止まってしまったのだろうか‥‥
一言も発せず固まったままだ。

ここで捕まって送還されるまで幽閉か‥‥
我が国からは誰が私を連れ戻しにやって来るのだろう‥‥
連れ戻されるのなら、ここで命を断つ方がいいかもしれないとさえ思う。

四人はまだ固まったままだが、私は話を続けた。

「先代の王ヴィルドルフ、王妃アリアンのひとり娘として十七年間王宮で暮らして参りましたが、私の誕生日の二週間前、公爵家の領地へ鉱山の視察に訪れた両親は事故で亡くなりました。
私は十八の誕生日に結婚式を挙げる予定でおりましたが、我が国のしきたりにより三ヶ月の喪に服すことになりました。
その為、式は延期になり私は大聖堂で祈りの儀に入りました。
そして先日、三ヶ月振りに王宮に戻ると、婚約者との婚約は解消され、三十歳も年上の公爵家に嫁がされることが決まっておりました。
公爵は三度の離婚歴があり、その全部が暴力によるものでした。
私はその方との結婚はどうしても受け入れられず、国を逃げて来たのです‥‥」

四人は黙ったままだ。
私は続けた。

「いかなる理由があろうとも、王族の身である私が無断で国を出ることは許されないことです。ですから、見つからないようにと‥‥顔を隠しておりました。この国に何か害をなすつもりは全くございません。
どうか、お許しください」

「そうか‥‥」

低く艶のある声が響く。
全てを飲み込むような漆黒の瞳は、真っ直ぐ私を見た。
沈黙が息苦しい。

「ルリアちゃん‥‥婚約者がいたんだね」

「え?ええ‥‥。この様な理由で逃げて来た私は罰を受けることになるでしょう」

ヨハンさんが首を振って私を見る。

「そんな事ない!君は悪くないはずだ。勝手に婚約を解消し、何の相談もなく暴力男に嫁がせられるなんて誰だって許せないはずだよ。聞いてる私だって腹が立つよ!逃げて当然さ」

「ヨハンさん」

彼は眉を下げ、辛かっただろう?と私の気持ちを察してくれる。
とてもありがたい。
けれど問題はこの先の事だ。

目線を王太子殿下に移すと、彼はふぅーっと長いため息を吐いた。

「ここは王太子宮で、陛下達には幸いまだ君の話は届いていないようだ。だがすぐに知られるだろう」

「ベルラード王太子殿下。無理を承知でお願いしたいのです。このまま私を見逃していただければ、私はこの国を出ます」

「そうやって一生逃げ続けるか?そなたが何処の国のどの場所に行こうと、その美貌と立ち振る舞いは目立つ。平民の中で暮らすことは不可能だ。アルンフォルトの大国で王女として育ったそなたに平民の暮らしなど出来るはずもない」

「ならば、我が商会でルリアちゃんを匿い、私が責任を持って一生彼女を面倒見ます」

「‥‥え?」

ヨハンさんは立ち上がって頬を紅潮させている。

「あの、ヨハンさん。そんなご面倒をお掛けするわけにはいきません。私はこの国を出て行きますので、その後の事などお気になさらないで下さい。ただ見逃していただければ良いだけです」

「それは出来ない。そなたの話が本当かどうかもまだ分からない。怪しい所がないか俺が側で見張ることにする」

「え?」

だからどうしてそういう方向にいくのだろう‥‥
嘘などついていないのに‥‥

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