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収穫祭

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四日後の昼近くになると、船からダルトタナードの王宮が見えてきた。

「ルリアさん、もうすぐ到着です。この時期王宮前の大広場は、収穫祭で賑わっていますよ。見に行ってみませんか?」

「ですが、もし人に見つかってしまったら大変なことに‥‥」

「この国では、我が国と違って金髪の者が多いので、少しくらいなら大丈夫でしょう。目立たないようにショールを被っていれば安心ですよ。それにこの国の者はルリアさんの姿は知らないでしょうし、あまり気にし過ぎると体に悪いですよ。この収穫祭では露店も多くありますし、大道芸も行われますし楽しいですよ」

「まぁ、それは楽しそう。こんな機会はもうないかもしれないものね。行ってみようかしら」

「ええ、少し気を緩めてから私が田舎の知り合いの所にお連れしますよ。古くからの友人なので信頼できる者です」

「何から何までお気遣いありがとう。感謝します」

「いいえ、私が陛下にご恩をお返しできないまま、あのようなことに‥‥ですから、娘のルリアさんにはできることをしたいと思うだけです」

「ありがとう」

父は、国王として立派に民を守ってきていたのね。
こんなに慕われていたのに、父も母もあまりにも早過ぎる死を迎えてしまった。
心の中に空いた穴はあの日からずっと埋まらないままだ。

船着場はとても賑わっていた。
荷馬車が所狭しと並び、船から下ろす荷を待っている。
先に着いている船の前には商人が大勢詰めかけ、とても活気のある風景だ。
知識として学んでいた国だが、実際来るのは初めてで見るものは何もかもが新鮮に思える。
フェルネスさんは他の船員達に指示を出すと、

「さぁ、私達は広場へ参りましょう」

と、降り口に目をやった。
私はまた深くショールを頭から被った。

船を降りるとフェルネスさんと私の前に一人の青年が駆け寄って来た。

「フェルネス伯父さん!」

「おお!ヨハンか!」

栗色の髪のスラリとした美貌の青年は、ワインレッドの上着がよく似合っている。

「私の妹の子です。ヨハン•モーガンといいます」

「まぁ、フェルネスさんの妹さんの?」

慌ててショールを取りながら、軽く膝を曲げて
「ルリアです」
と挨拶をした。

「初めましてヨハンです。伯父さん、こんな美人を連れて来てどうしたんですか⁈」

大きく開いた瞳は琥珀色で、婚約者であったカイトを思い出してしまう‥‥

彼は私と伯父であるフェルネスさんを交互に見て驚いている。

「こら!ヨハン。失礼だろう」

「ああ‥これは失礼しました。ルリアさんがお綺麗でしたので舞い上がってしまいました」

申し訳なさそうに頭をかいている。

「ルリアさん、甥が無礼で申し訳ありません」

「いいえ、急に付いてきたのは私の方ですから、驚かせてしまってごめんなさい」

ヨハンさんは何故か私の顔をじっと見て固まっている。

「こら!ヨハン!初めて会う女性をじろじろ見るのは失礼だぞ!早く馬車に案内しろ」

「あっはい、伯父さん」

ハッとしたようにまた頭をかく。
これは彼の癖かしら?
品の良い身なりで貴族のようだが話し方はとても気さくな感じがする。
フェルネスさんの甥だから商人の方なのかしら?‥‥

「この国に月に一度来ると、こうやって甥のヨハンが迎えに来てくれるんです。妹の所にはいつも二泊ほどしているんですよ」

「まぁ、そうですか。それでは他の船員の方達はどうされているのですか?」

「他の者は近くに宿をいつも取っておりますのでご安心を」

「うちの商会が経営している宿があるので、船が着く時にはいつも空けてあるんです」

「商会?」

「うちのモーガン商会は、この国では有名だと思いますよ。宿の他にもドレスの仕立て屋を何軒か経営しています」

先頭を歩きながら何度も振り返り、会話をしながら人混みをかき分ける姿はとても器用だ。
一際目を引く金の装飾のある馬車。
とても裕福な家柄らしい。

「さあ、どうぞ、ルリアさん」

馬車に乗りやすいように手を貸してくれる自然さは、まるで貴族子息のようだ。

「ヨハン、今日は大広場へ行ってくれ」

「ああ、収穫祭だね。今日も観光客で賑わっているよ」

「観光客ですか?」

「ええ、王宮前通りの大広場で開かれている収穫祭は、国中の皆が楽しみにしているお祭りなんですよ。露店が通りにずらりと並び、広場では大道芸も有名な劇団も来ていますから。国中のあちこちから集まりますよ」

「まぁ、そんな有名なお祭りだとは知りませんでしたわ。私の勉強不足ですね」

手を口に当て驚くと、

「ルリアさんて‥‥貴族令嬢かな?」

「こら!ヨハン!ルリアさんは私の仕事仲間の娘さんだ」

「わ、私はただの平民です!」

彼は困ったようにまた頭をかいているが、私は心臓がバクバクと大きな音を立て、二人に聞こえてしまうのではないかと焦ってしまった。

‥‥私もっと平民らしくしなきゃいけないわ。
‥‥というか、平民らしいってどういうことかしら。

思わず下を向いて黙ってしまう。
余計なことは話さないように気をつけないと‥‥
万が一にも気付かれたら国に戻されて死刑よ!
気を引き締めなきゃ。

沈黙が続く中、馬車は収穫祭の大通りまでやって来た。

「さぁ、ルリアさん。少し見て回って楽しみましょう。心配ならショールを被って私の側を離れないで下さいね」

フェルネスさんは小声でそっと言った。

馬車を降りると何とも素敵な光景が広がっている。
奥に見える石造りの屈強な王宮は、重厚感のあるとても古い宮殿に見える。
我が王宮とはまた違った美しさがある。
王宮へ続く大通りの開けた場所は、聞いていた通り人で溢れ返っている。
多くの店が立ち並び、美味しそうな匂いが漂っている。
鈴や笛の音色も聞こえ、笑い声や手拍子も聞こえてくる。

「まぁ、本当に素敵」

自然と声が漏れる。

「あはははっ、ルリアちゃん、ちょっと店も覗いてみないかい?」

ちゃん‥とは言われたことがないけれど、平民なら普通なのかしら‥‥

「ええ、そうね」

ヨハンさんは先程よりも距離が近い。

「ヨハン!」

「人混みからちゃんと守るから安心してよ。伯父さん」

フェルネスさんのため息をよそにヨハンさんはニコニコと楽しそうだ。

「ショールをそんなに深く被っていたら前が見えずらいだろう?私がちゃんと案内してあげるよ」

「あ、ありがとうございます」

人混みの中を歩くことは今までない。
護衛も付けずに外に出ることも今まではなかった。
王宮を飛び出してから初めてのことばかりで、まるで別の人間になったような気がする。

この国で、この環境で私は生きていけるのだろうか‥‥








































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