逃げ出した王女は隣国の王太子妃に熱望される

風子

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揺らぐ決意

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翌朝、馬車の通る音で目が覚めた。
何台も続けて小屋の側を通る。
その度に小屋がギシッと音を立てる。
何事かと戸を少し開けてみると、外はまだ薄暗い。

こんな朝早くから馬車は何処へ向かってるのかしら‥‥
皆同じ方向だわ‥‥

急いで支度をすると外へ出た。
一台の馬車が来ると、思い切って両手を広げて馬車の前に飛び出した。

ヒヒィーーン!!

馬が前足を上げた。

「危ない!!」
「キャアア!!」

思わず目を瞑り座り込む。

「何やってんだてめぇ!!危ねぇだろ!!」

怒鳴り声に片目をそっと開けると、何とかギリギリに止まらせた御者が怒りが収まらずに叫んでいる

「突然飛び出してきやがって!!てめぇ死にてぇのか!!」

顔を真っ赤にして怒っている。
それは当然だろう‥

「ごめんなさい、本当に悪いと思ってるわ」

「死ぬならよそへ行ってやれよ!俺は急いでるんだよ!早くどいてくれ」

私は立ち上がると、怒り続ける御者にしがみ付くように聞いた。

「ねぇ、この馬車は何処へ行かれるの?」

こっちも必死だ。
王都の街に居るより少しでも遠くへ行きたい。

「ああ?何だよお前‥」

私は頭から被っていたショールをはらりと取った。

「あ?あ⁈‥え⁈」

私の髪色は父譲りで瞳の色は母譲り。
王都に住む者なら、黄金色の髪が王家の血を引く者だとわかるはずだ。
そして白バラ姫と呼ばれた母は珍しい紫の瞳をしていた。
私の顔を見たことがなくても、この容姿は王家の人間だとわかるはずだ。

「あんた、もしかして‥」

怒りから驚きの表情に変わった御者は固まっている。

「ねぇお願い!教えて!馬車は皆同じ方向に走っていくわ。何処へ向かっているの?」

「ふ、船着場です。セールディス川の商船に荷を積むんです」

「商船?」

「はい、ダルトタナード国へ行く商船に皆が荷を積むのに急いでいるんです」

ダルトタナードは隣国の中でも一番大きい。
だったら何処か住む所が見つけられるだろう。
ダルトタナードの言葉は我が国と大して変わらない、読み書きも問題ない。
何とか暮らせるはずだ‥‥

「ねえ、お願い。船着場まで乗せてもらいたいの。お礼はしますから」

必死に彼の服を握りしめる。

「れ、礼などいりませんが、これは荷馬車なんで座るとこなんて荷の隙間しかないですよ」

一転しておどおどとしだす彼に、

「構いません。隙間に座らせてもらえませんか?ダルトタナードへ行きたいの」

無理を承知で頼み込む。

「それで良ければ荷の間へどうぞ」

トランクを抱え、積荷の箱の隙間に体を入れる。
御者の彼は馬車に乗りたがる私に理由を聞きたそうな顔をしているが、詳しい事は説明できない。

「ごめんなさい‥理由は言えないし、このことは秘密にしてもらいたいの。勝手ばかりで悪いのだけど‥‥」

「い‥いえ、かまいません。分かりました。船着場まではここから1時間程ですから我慢していて下さい」

「ありがとう、助かるわ」

私は再び頭からショールを深く被った。

空が少しずつ明るくなるのを見ながら痛むお尻に我慢していると川が見えてきた。
表面がキラッキラッと光って見える。
先には何艘もの商船が連なっている。

勢いに任せてここまで来たけれど、本当に国を出ていいのかしら‥‥

一抹の不安が心をよぎる。

先王の娘が無許可で国を出るなど大罪だろう。
もし見つかれば、国に戻され公開処刑されるかもしれない。
ライナなら私に極刑を望むだろう。

王宮を逃げ出した時に覚悟は決めたはずだった。
けれど船を見て心が揺らぐ。
父と母が今の私を見たら何と言うだろう。
民に愛され慕われた両親を裏切って国を出るのだから、きっと怒っているだろう。
今すぐにでも王宮に戻れと言うかしら‥

見れば手が震えている。
私は意気地なしね‥

鎖に繋がれた人生を送るより、自分の納得した人生を送りたい。
頭の中で何度も思考が行ったり来たりしながら震える手を握りしめた。
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