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ヴィルの暴走1

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翌日、薬湯のおかげですっかり体調が良くなった

「アリアンお嬢様、お体の具合は如何ですか?」

「サアラのおかげで良くなったわ。ありがとう、大丈夫よ」

「それは本当に良かったです。お熱も下がりましたし、安心しました。ルドルフ様も大変ご心配なさっていました。それからヴィルドルフ殿下もきっとご心配をされているでしょう」

「そうね‥皆には心配や迷惑を掛けてしまって本当に申し訳ないわ」

「アリアンお嬢様‥」

「ごめんなさい」

「元気な姿を見せて差し上げてください」

「ええ、そうね」

「さぁ、準備をいたしましょう」

汗を拭いて顔を洗い、朝の支度を次々と済ませていく
足の腫れも少しずつ良くなっているようだが、強く踏まれたせいで、まだ立ち上がると痛みがある

「まだ足が痛むのでしょう?早く医者に診て貰えれば安心できるのですが‥」

「大丈夫よ。少しずつ良くなっているから」

今日のドレスはサファイア色の美しいシンプルなドレスが用意されている
飾りが少なく軽い為、動きやすい

「ルドルフ様がお嬢様に着ていただきたいとご用意くださいました」

「ルドルフ様が?それはとてもありがたいわ。素敵なドレスね」



サアラはその姿を見て思った
そのドレスを着たアリアンお嬢様は美しい
スラリとした体型にシンプルなドレスは映える
女性にしては背も高い方であるアリアンお嬢様は、どんなドレスも美しく着こなす
男性が自分の瞳の色のドレスを贈るのは愛の証だ
ルドルフ様の気持ちを知っている私からすれば、一度でもこの色を着て貰いたかったのだと解る
アリアンお嬢様は疎い方だから、その様な事には気付かないであろうけれど、この姿を一目でもルドルフ様に見せて差し上げたかったと私は心の中で思っていた



着替えを済ませると、部屋の外で何かを叩く音が聞こえた

「お嬢様、お迎えが来たようです」

「えっ?」

「大丈夫です。心配いりませんよ」

そしてサアラが戸を開けると、そこには会いたかった人が立っていた

「アリー、無事で良かった!」

すぐに私を強く抱き締める
私の存在を確認するように、長い時間彼は良かったと言いながら抱き締めていた
顔を埋めるように、きつく抱き締められると、少し体が痛んだ

「うっいたっ」

「あぁごめん!無事とは言えないよね。強く抱き締めすぎてしまった。許してくれ」

「大丈夫です。ご心配をお掛けしてしまって申し訳ありません」

「アリーのせいじゃない!悪い奴らは判っている。俺のアリーをこんなに傷つけた奴は絶対に許さない」

「ヴィル様‥」

「あぁ、アリーに会いたかった。君に会えなくて死にそうだったよ。もっと顔をよく見せて」

両手で頬を包み顔を近付ける

「ヴィ‥」

そのまま温かく柔らかい唇に口を塞がれた
チュッと音を立てると、角度を変え何度も口付けされた
どうしていいか分からずされるがままの状態である

「殿下!」

キーラ様の声にやっと唇から離れたと思えば、今度は額や頬、耳や髪にまで次々と口付けを落としていく
キーラ様によって無理やり引き剥がされると

「何をする、不敬であろう」

と言っているが、

「‥いい加減にしてくださいよ」

と低く小さい声で言われてやっと止まった

「アリーの存在を確かめているだけだろう。大目に見ろ」

「見ましたよ、十分!」

チッと舌打ちするとハァーと大きく息を吐き

「アリーごめんね。ずっと心配だったものだから止められなくて」

「いえ、ご心配をお掛けした私が悪いのですから」

「アリアン様、殿下を甘やかしすぎです!」

「えっ?」

「あぁアリーは何て可愛いらしいんだ。今すぐここで君の全てを食べてしまいたいよ」

「食べるのですか?」

「あぁ全て食べさせて欲しい」

「殿下!変態もいい加減にしろ!」
「お嬢様!」

キーラ様とサアラが何やら焦っているが、ヴィル様は蕩けそうな笑顔で私を見つめた

「馬車が待っております」

「解った。行こうアリー」

頭に口付けを落とし、腰に手を回して歩き出した
が、私は足がもつれて転びそうになってしまった

「危ない!ごめんよアリー、足がまだ動かないんだね」

慌てて支えるとヴィル様は、私を横抱きにしお姫様抱っこで馬車に向かった

「違います!咄嗟の動きによろけてしまっただけです」

「この方が安全だろう」

「申し訳ありません、ヴィル様」

「気にしないで。アリーのことなら永遠に抱いていられるからね」

歩きながらまたチュッと口付けされた

サアラは恥ずかしくて見ていられないと思っていた

王宮に着くと、ヴィル様の護衛の者に隠されるようにしながら、懐かしの離宮に入った

「今私の関係者は離宮で寝泊まりをしている。アリーも久しぶりだろう?」

「ええ、まさかまた入れるとは思っておりませんでした」

「スペンサー国王に頼んで離宮で過ごさせて貰っている。アリーとマリア側妃の為の離宮だろう。君のものだ」

「ありがとうございます」

「夜会の日までここで過ごしてくれ。俺専属の侍医を連れて来ている。まずは診て貰おう」

「申し訳ありません」

「アリーは、謝ってばかりだね。俺がしたい事をするだけだから気にしないで欲しい」

ふっと優しい瞳で微笑む

いつもヴィル様は、私に優しくしてくださる
こんなに迷惑ばかり掛けてしまっているのに
自分の無力さを今までどれだけ感じてきただろう
そんな私でも、こんなに大切にしてくれる人達が居てくれるなんて、私は本当に幸せだ

私は何かお返しが出来るのだろうか‥




















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