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サマフォート公爵邸の火事

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その時バタバタと走る足音が大きく聞こえてきた
扉の外で何やら騒いでいるかと思うと突然大きく扉が開かれた

「失礼致します!旦那様、火事でございます!」

「何?何処だ?」

「外の使用人宿舎でございます」

「何だと?」

皆が一斉に立ち上がる

「殿下、安全な所へ。私は使用人宿舎に向かいます」

ラリーとラウルは慌てて駆け出して行く
キーラが青ざめた顔をする

「キーラ!俺も行くぞ」

「はっ!」

「お待ちください殿下、危険です。安全な所へ避難してください」

宰相の言葉を振り切り駆け出した



「どういう事だキーラ、部屋の中に入ったのを見届けたのか?」

「はい、お二人が会話をしながら支度を始めたのを聞いてからこちらに向かいました。外には怪しい者が居ない事も確認してから参りました」

「まさか火まで放つとはな」

「何処かの部屋の中にでも居たのでしょうか?」

「そうかもしれない、クソッ」

「申し訳ありません殿下」

屋敷の外に出ると黒い煙が上がっているのが見える
宿舎は古い建物の為、火のまわりが早い

「アリーは何処だ!無事なのか?キーラは厨房を見に行ってくれ」

「かしこまりました」

キーラが走って屋敷に戻って行く
ヴィルドルフは、使用人達が水を掛け火消しに走り回っている姿を見ながらアリーを探した
アリーの姿は見えない
アリーは何処に居るのだ‥アリー‥
不安で頭がおかしくなりそうだった
もしアリーに何かあったらと思うと気が狂いそうになる

あまりの火の勢いにラリーが大声を上げた

「煙を吸っては危険だ!皆離れろ!ここは離れで屋敷には影響は無い!燃え尽きても構わない!トーマス、護民官に連絡し消防隊に来るよう急ぎ伝えよ」

「かしこまりました」

執事のトーマスは走って行った
皆が燃える宿舎を何も出来ずにただ見つめる
立ち尽くしていたヴィルドルフの後ろに宰相のレオボルトと息子のルドルフがやって来た

「これは酷いですね。大変危険です。今日は王宮にお戻りいただきます。馬車が用意できました。私は一足先に王宮に向かいます」

宰相は息子と共に乗り込むと馬車を走らせた

「殿下!」

キーラが急いで戻ってくるとヴィルドルフの耳元で伝えた

「アリアン様は、厨房には行ってないそうです」

握り締めた手に力が入る

「殿下、今日は王宮にお戻りになった方がよろしいかと思います」

「‥解った。戻ろう」

キーラを従え宰相の用意した馬車に乗り込むと、中にはローズがすでに座っていた

「殿下、ご無事で何よりでございます。火事など恐ろしい事ですわ。私は見る事も出来ませんわ」

ハンカチを口に当て、風で流れてくる煙を遮る
馬車の中では、ローズは嬉しそうにヴィルドルフに話しかけてくる
しかしヴィルドルフは、一切の関心を見せず会話が続くことは無かった
アリアンに会う以前のヴィルドルフは、常に令嬢に対して興味を持たなかった
軽蔑の眼差しで見ていたのだ
だからこそ、キーラにとってはこの態度の方が自然で、アリアンだけが異常な事であり、この無表情の顔の方が馴染みがあるのだ

「ヴィルドルフ殿下、明日は私と一緒にお出掛けなさいませんか?」

「行くつもりは無い」

「まぁ、それは残念でございますわ。でも夜会もじきにございますものね。私とても楽しみにしておりますの」

「‥‥」

「自慢のドレスも仕上がっておりますのよ。殿下に見ていただくのが楽しみですわ。エスコートはしてくださるのですよね?」

「婚約者をエスコートする」

「私が婚約者ですのに、おかしな事を言われますのね」

「‥‥」

馬車は王宮に着いた
中に入ると玉座の間に通された
玉座にはスペンサー王が座り、その隣には王妃が座っていた
その下には、先程着いたばかりの宰相が居て、その他にラリーを除いた残りの二人の公爵の姿もあった
ヴィルドルフが玉座の前まで来ると、

「この度は大変危険な思いをさせて申し訳ない。ヴィルドルフ王太子」

スペンサーが声を掛けた

「いいえ、ご心配には及びません」

「今日はゆっくり休んでくれ」

頭を下げ戻ろうとしたその時、

「スペンサー王、ヴィルドルフ王太子殿下、少しよろしいでしょうか?」

宰相が動きを止めさせる

「何か?」

「サマフォート公爵邸の火事は、公爵としての信用を失わせる事態です。自分の屋敷ひとつもまともに管理出来ない者が領地の民を束ね管理することが出来ますでしょうか。火事は重罪でございます。
公爵を剥奪し、爵位の降下をさせる必要があるかと考えますが如何でしょうか?」

「宰相の言う通りですわ。公爵であるにもかかわらず、貴族の信用を失わせる事態ですわ」

王妃が大声で賛同する

なるほど‥
邪魔なのはアリアンだけではなく、サマフォート公爵も同様であったようだ
国を支える貴族の筆頭である公爵
現在公爵を名乗れるのは四大公爵家のみ
中でも宰相レオボルトのバルヘルム公爵家は、王家の血筋を一番色濃く受け継ぐ家系であるという
王族に次ぐ筆頭公爵家である
そのレオボルトに異を唱えるのは、いつもラリー・サマフォート公爵だけのようだ
前々から邪魔な相手であっただろう
しかし今は、娘のリリアーナの嫁ぎ先でもあるのだ
この男は何を考えているのか‥


「その様な事は今ここで決める事ではなかろう。ラリー・サマフォート公爵に事情も聞かぬうちに勝手な判断を下す事はできぬ」

「申し訳ございません。大変失礼致しました」

頭を下げてみせるレオボルトに対し

「随分とラリー・サマフォート公爵が邪魔なようだな」

と一言去り際に言い残すと、ヴィルドルフは玉座の間を出て行った

レオボルトの歯ぎしりが届くことは無かったのである





















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