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謎の美女

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馬車に揺られ人気のカフェ・キルシュにもう少しという所で人が多くて馬車が進めなくなった
カフェ・キルシュの店主は、ラウルから連絡を貰うと、嬉しさのあまり自慢してしまった

「隣国の王太子様が我が店に来てくださる事になった。今日はうちは貸切だから客は入れないよ」

その為、王太子を一目見ようと店の前の通りは人だかりができ埋め尽くされていた

「ヴィルドルフ王太子殿下、私が口止めをきちんとしておかなかったばかりに申し訳ございません」

ラウル様は顔を真っ青にして頭を深く下げている

「急な私の申し出であったのだ。気にする事はない」

「殿下、これ以上は馬車で進むのは危険な様です。街の人々にぶつかりそうです」

ゆっくり走っても離れるどころか少しでも見ようとする人々に囲まれるばかりだった

「危険です、離れてください」

護衛騎士が馬を降り、馬車の脇を歩きながら人々を退けるがなかなか進めない

「店は何処だ?ラウル」

「店はこの先の赤い屋根の店です。二軒程先です」

「ならすぐだ。ここで降りよう。キーラ」

「殿下!このように人が多いと危険です」

「その為にお前と護衛騎士がいる」

「ヴィル様?ヴィル様が危険になる様な事は止めましょう。私の為に無理にお店に行く必要はございません」

お祭り騒ぎのようになった街の中心に隣国の王太子を降ろすわけにはいかない
何かあれば謝って済む問題では無いのだから‥

「いや、どうしてもアリーの喜ぶ顔が見たい。絶対に行く。キーラ降ろせ」

「殿下‥まったくあなたという人は‥本当に狂ってますね」

「あぁそうだな」

初めて素直に認める主君に驚いたキーラは、呆れたものの叶えてやりたくなった
結局私は主君とアリアンが喜ぶ事がしたいのだ

馬車を止める合図をすると、キーラは護衛騎士を集めヴィルドルフを降ろした

ヴィルドルフの姿が見えると皆の歓声が聞こえる

「あぁやっぱり王子様は素敵ねー」
「背も高くて金髪よ」
「あの目を見て!綺麗な緑色よ」
「こちらを見たわ!きゃあ格好良い」
「あの美しいお顔に見つめられたい」
「素敵すぎる!本物の王子様ね」

あちこちから、きゃあきゃあと女性達の甲高い声が飛び交う
ヴィルドルフは慣れているようで、全く動じない
周りに居た者達を更に遠ざけると、アリアンに手を差し伸べた
馬車からは一人の女性がエスコートを受けてゆっくりと降りて来た

辺りは急に静まり返った
先程までのきゃあきゃあと飛び交った声が無くなり、皆一言も発せず息を呑んだのだ
アリアンは降りると少し左右を見回し、
そのままヴィルドルフのエスコートのもと、キルシュに向かって二人は歩き出した
道は自然と開けられた
二人からは距離を取る様に皆が後退りしていく
アリアンは大勢の人だかりを見回し、時折恥ずかしそうに俯きながら店の前まで着くと、開けられた店の中へ入って行った
店の扉がバタンと完全に閉まる音が聞こえると、集まっていた者達がようやく口を開いた

「誰だよ、あの美人」
「人形じゃないよな?」
「あんな綺麗な顔した人が居るのか?」
「あの目を見たか?紫色だぞ」
「宝石みたいに綺麗だったな」
「色白で美しかったわね」
「あの濃紺の髪が素敵だったわ」
「何処の国の王女なんだろうな」
「王子がエスコートだぞ。すごいな」
「王宮で夜会があるらしいから、何処かの王女も招待されたんじゃないのか?」
「やっぱり王族は違うよなぁ」
「そりゃそうよ!いつも綺麗に着飾ってるんだから。私みたいに掃除や洗濯なんてしないのさ」
「ハハハッ、あんな美人に洗濯されたら緊張して服は汚せないな」
「それより緊張して着れないよ」
「そりゃそうだ!ハハハッ」


店の外では初めて見るアリアンの姿に街中の人達が驚き関心を寄せた
アリアンは一度も王都の街へ出た事は無かった
民は自分の国の王女だとは知らなかったのである
第一王女のローズは、王族として肖像画が出回っていた
国の祝い事には、国王、王妃、王女ローズが顔を出すこともあった為知られていた
しかし、側妃マリアと娘の第二王女アリアンの存在は一切民の目に触れることは無かった
王妃によって許されなかったのである
これが初めてのお披露目となったのだった
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