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食後の談話

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いつも優しい笑顔で気遣ってくれるヴィル様が何だか別人のように冷たく見えた
きっと私のせいで、心を鬼にしてリリアーナやエリナに冷たく当たっているのだろう
無理をさせているのだと思うと申し訳ない気持ちになる
ヴィル様は本当に優しい方だから、きっと心苦しいに違いない
ごめんなさい‥
そう思いながら食堂を後にした


キーラはヴィルドルフの後ろを歩きながら思った
これが本来の姿だと‥
令嬢に対しての態度はこれが普通で気遣いが出来る様な男ではない
思ったことを口に出し、時には泣き出した令嬢もいたほどだ
アリアンが特別だ
アリアンに対する態度の方がよっぽど異質に見える
こんなにも女性に対して極端になれるものだろうかと不思議に思うのであった



ヴィルドルフの為に用意された客間にラリーが案内をする
客間にヴィルドルフとアリアン、キーラが入るとラリーは扉を閉めた
3人はソファに座り、キーラだけが少し離れて後ろに立った

コンコン

すぐに扉を叩く音がする
「失礼いたします」
扉が開くとメイドがお茶を運んできた

テーブルに置きながらチラチラとこちらを見ている
私の前にもお茶が置かれ、思わず目が合うと大きく目を見開いて慌てて出て行ってしまった
それはそうだろうと思う
先程まで厨房で鍋や皿洗いをしていたような平民の下働きが、綺麗なドレスを着せられて王太子殿下の隣に座っているのだから‥
図々しいと呆れられているのだろう‥


「それにしても、宰相の娘はやはりなかなか気が強そうだな」

お茶を口にした後、ヴィルドルフは嘲笑うように言った

「はい、その娘も同じです。あんな奴らのせいで私のマリアが亡くなったと思うと今にも殺してやりたい程憎いです。マリアを守る為にあの女と再婚したのに、逆に殺されたんです」

伯父のラリーはよほど母への思いが強いようだ

「あぁ良く解るよラリー。マリア様を愛する君とスペンサー王の為、何よりアリーの為に我が国アルンフォルトの力を使って報復しよう」

「有り難き幸せ。感謝いたします。マリアが亡くなってから今日まで、スペンサー王とどうやってアリーを守りながら復讐するか悩んで参りました。私とスペンサー王の心は一つです」

「解った。愛する者を失う辛さは想像を絶する。辛かったであろう」

ヴィル様の悲しそうな声に伯父は私を見た

「わたしにとってマリアは全てでした。この美しい瞳を持つマリアの側に居たかった。ただそれだけでした。今はアリーを守らねばと思っております」

「あぁそうだ。アリーを王女に返り咲かせて王妃とローズに鉄槌を下す」

「リリアーナは宰相に連絡するはずです。アリーがマリアの娘だと知りました。きっと命を狙う者達が来るはずです」

「解った。こちらの準備は出来ている。夜会が本番だ。それまでアリーは私と共に行動する」

「かしこまりました」

「アリー?少し危険になるかも知れない。君を殺そうとした奴らは失敗した事を知る」

「構いませんヴィル様。もう逃げる事は辞めました。私もお役に立てる事でしたら何でもやります」

「強いねアリー」

「いいえ、今までが弱すぎたのでしょう。私がもっと強くいれたのなら父も伯父様も辛い思いをせずに済んだかも知れません。そして母をもっと‥私が支えることが出来ていたのなら変わっていたかも知れません。私はあまりにも弱すぎたのです」

「自分を責めないでアリー」

「アリー、君は何も悪くない、君もマリアも何も悪く無いんだ」

「ごめんなさい‥」

自分の不甲斐なさに自然と視界がぼやける
ほろりと涙が一筋流れた

「アリー」
「アリー」

「大丈夫です。今日は、少し疲れました」

笑ってみせるとヴィル様が指でそっと涙を拭ってくれた

「今日はもう休もう」

抱き寄せると瞼にそっと口付けを落としてくれた
とても温かくて優しい口付けだった


その二人の姿を悲しそうな笑顔でラリーは見つめていた
まるで自分のマリアが取られてしまうような感覚だった
私のマリアはもう居ない
私のマリアはもうこの世には居ないのだ
何度も自分に言い聞かせていた


「では、お部屋は殿下の隣にご用意いたしましょう」

「同じで構わないよ」

「いいえ、アリーはまだ嫁入り前でございますのでいけません」

「手厳しいな」

「ええ、まだお渡しするわけには参りません」

二人の間に小さな火花が散った

チッと舌打ちをする

「殿下、当たり前です」

と、キーラはキッパリと言い、この変態ヤローが‥とボソッと呟いたのは誰にも聞こえなかった


私の部屋の前にはヴィル様の護衛騎士が三人も立ち、厳重な警戒をされ申し訳ない気持ちになった
部屋の中には私を心配するサアラが付き添ってくれている
晩餐でのリリアーナやエリナを思い出すと背筋が寒くなるような気がした
私ももっと気を引き締めなければと改めて思うのだった
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