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番外編 飯坂理久
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〈話し合いから5年後〉
「理久」
「兄ちゃん」
メンタルクリニックの一室、Ω専用の病棟にある飯坂理久の部屋は自宅の部屋と変わらない家具が置かれ、外出と連絡手段以外本やゲームなど娯楽の持ち込みが許されている。テレビは見れるが、インターネットやSNSは使用禁止されている。
そこに週1で兄の知久が様子を見に来ていた。
「調子はどうだ?」
「んーまずまず。いつもと変わらないよ」
ここに入院されられた当初の理久は暴言を吐き、暴れ、それは酷いものだった。ここから逃げようとして何度も建物から出る前に捕まり暴れる。運命の番に受け入れられなかったαやΩが相手に会いに行こうとする行動らしいが、前もって説明されていてもそれを見た知久は将来自分がそうなったらと考えゾッとしていた。
自分はそうなりたくない。そう思い、運命の番専用抑制剤を服用するようになった。
「兄ちゃんこそどうなの?今度結婚するんでしょ?」
入院から5年、カウンセリングを受け続けここ1年ほどでやっと前向きになってきたこともあり、知久は彼女の事などを話すようになっていた。
「うん、来年の春に予定してる」
「そっかー、おめでとう」
「ありがとうな」
少し寂しそうな笑顔を見せる理久に複雑な気持ちになる。
運命を見つけた途端に拒否をされてしまった弟。その時にきちんとカウンセリングを受けていれはここまで拗らせることは無かったと話し合いの後に聞いたからだ。知らなかったとはいえカウンセリングを受けさせなかった両親には憤りを今も感じている。
「そうそう、これ由美から」
「わあ、ありがとう。由美さんの作るサンドウィッチ僕好きなんだよね。お礼言っといて」
料理上手な知久の彼女からの差し入れは理久の密かな楽しみになっている。その無邪気な笑顔に知久も笑みが零れる。
「ああ、今日は忙しくて来れなかったけど次は一緒に来るよ」
「うん。そうだ、そう言えば伊月さん結婚したんでしょ?」
理久にそう言われドキリとする。カウンセラーから伊月や瀬名の話はしないようにと言われていたからだ。
「……何で知ってるんだ?」
「カウンセラーの人から聞いた。これからは情報を耳に入れてカウンセリングしてくんだって」
それを聞いてホッと胸をなでおろす。5年前に後戻りするのかと思ったからだ。
「聞いても大丈夫なのか?」
「んー……まだチクリとするけど仕方ないかなって今は思うかな」
カウンセリング受け続けたら平気になりそう、と笑う理久に早く忘れて新しい幸せを見つけて欲しいと思う知久だった。
◇◇◇◇◇
〈話し合いから18年後〉
飯坂理久は今義姉となった由美が趣味で出した小さな喫茶店で働いている。
入院して10年、自分と向き合い折り合いをつけられたのと、『運命の番専用抑制剤』を飲み続ける事を条件に退院できたのは30歳になった年だった。ただカウンセラーからは確率は低いが、何かの切っ掛けでまたぶり返す可能性はあると言われている。
それもあって兄夫婦からの提案で義姉の喫茶店を手伝いひっそりと生活している。そう、38歳になった今もひっそりと生活していたのだ。
ただたまたま、本当に偶然だった。
兄夫婦の間に生まれた甥を連れ買い物をしていた時に、転んだ甥を抱き上げてくれた少年を見て息を飲む。
「大丈夫かい?」
「うん、お兄ちゃんありがとう!」
「ふふっ、お礼を言えて偉いね」
「えへへ」
そんな些細なやり取りをし、少年が去って行くまで理久は固まったまま動けなかった。
「伊月さん……」
「理久ちゃん?」
キョトンとして話しかける甥に気づかずボソリと口にする運命の番の名前。
茶色い柔らかそうな髪、優しそうな笑顔。でも記憶の彼とは違う幼い顔。何よりも瞳の色が違った。
僕の運命を奪った奴の色。
2人の子供だと理解し嫉妬する。理久の初恋は運命の番だった。だから余計にカウンセリングを受けても改善するのに時間がかかったのだ。
そしてさっきの少年を見てその思いがぶり返す。
愛しい愛しい僕の伊月さん。
僕と番えないから伊月さんに似た子を僕の為に作ってくれたの?
それとも伊月さんにそっくりなその子と僕と3人で暮らしたいの?
やっぱり三波瀬名より僕の方がいいよね。僕が元気になったからアイツと番を解消して本当の番を噛んでくれるよね?
そっかー、この18年はその為の準備期間たったんだね。だから僕が誰の番にもならないように入院していたんだね!
あ、僕伊月さんがどこにいるかも連絡先も知らないや。
でもあの子がここにいたって事はここにいれば会えるかな?ふふふ、楽しみだな。早く来て僕の運命。
その後理久はヒマさえあれば出かけるようになり、不審に思った義姉の由美が知久に相談、理久が伊月に執着し始めたのに気づき伊月に連絡、即前回より厳しい監視がある場所に入れられる事になった。
そしてその事に関して瀬名や子供は知る事はなかった。
ーーーーーーーーーー
飯坂理久バッドエンド。
この作品は第11回BL大賞にエントリーしていますので良かったら投票宜しくお願いします。
「理久」
「兄ちゃん」
メンタルクリニックの一室、Ω専用の病棟にある飯坂理久の部屋は自宅の部屋と変わらない家具が置かれ、外出と連絡手段以外本やゲームなど娯楽の持ち込みが許されている。テレビは見れるが、インターネットやSNSは使用禁止されている。
そこに週1で兄の知久が様子を見に来ていた。
「調子はどうだ?」
「んーまずまず。いつもと変わらないよ」
ここに入院されられた当初の理久は暴言を吐き、暴れ、それは酷いものだった。ここから逃げようとして何度も建物から出る前に捕まり暴れる。運命の番に受け入れられなかったαやΩが相手に会いに行こうとする行動らしいが、前もって説明されていてもそれを見た知久は将来自分がそうなったらと考えゾッとしていた。
自分はそうなりたくない。そう思い、運命の番専用抑制剤を服用するようになった。
「兄ちゃんこそどうなの?今度結婚するんでしょ?」
入院から5年、カウンセリングを受け続けここ1年ほどでやっと前向きになってきたこともあり、知久は彼女の事などを話すようになっていた。
「うん、来年の春に予定してる」
「そっかー、おめでとう」
「ありがとうな」
少し寂しそうな笑顔を見せる理久に複雑な気持ちになる。
運命を見つけた途端に拒否をされてしまった弟。その時にきちんとカウンセリングを受けていれはここまで拗らせることは無かったと話し合いの後に聞いたからだ。知らなかったとはいえカウンセリングを受けさせなかった両親には憤りを今も感じている。
「そうそう、これ由美から」
「わあ、ありがとう。由美さんの作るサンドウィッチ僕好きなんだよね。お礼言っといて」
料理上手な知久の彼女からの差し入れは理久の密かな楽しみになっている。その無邪気な笑顔に知久も笑みが零れる。
「ああ、今日は忙しくて来れなかったけど次は一緒に来るよ」
「うん。そうだ、そう言えば伊月さん結婚したんでしょ?」
理久にそう言われドキリとする。カウンセラーから伊月や瀬名の話はしないようにと言われていたからだ。
「……何で知ってるんだ?」
「カウンセラーの人から聞いた。これからは情報を耳に入れてカウンセリングしてくんだって」
それを聞いてホッと胸をなでおろす。5年前に後戻りするのかと思ったからだ。
「聞いても大丈夫なのか?」
「んー……まだチクリとするけど仕方ないかなって今は思うかな」
カウンセリング受け続けたら平気になりそう、と笑う理久に早く忘れて新しい幸せを見つけて欲しいと思う知久だった。
◇◇◇◇◇
〈話し合いから18年後〉
飯坂理久は今義姉となった由美が趣味で出した小さな喫茶店で働いている。
入院して10年、自分と向き合い折り合いをつけられたのと、『運命の番専用抑制剤』を飲み続ける事を条件に退院できたのは30歳になった年だった。ただカウンセラーからは確率は低いが、何かの切っ掛けでまたぶり返す可能性はあると言われている。
それもあって兄夫婦からの提案で義姉の喫茶店を手伝いひっそりと生活している。そう、38歳になった今もひっそりと生活していたのだ。
ただたまたま、本当に偶然だった。
兄夫婦の間に生まれた甥を連れ買い物をしていた時に、転んだ甥を抱き上げてくれた少年を見て息を飲む。
「大丈夫かい?」
「うん、お兄ちゃんありがとう!」
「ふふっ、お礼を言えて偉いね」
「えへへ」
そんな些細なやり取りをし、少年が去って行くまで理久は固まったまま動けなかった。
「伊月さん……」
「理久ちゃん?」
キョトンとして話しかける甥に気づかずボソリと口にする運命の番の名前。
茶色い柔らかそうな髪、優しそうな笑顔。でも記憶の彼とは違う幼い顔。何よりも瞳の色が違った。
僕の運命を奪った奴の色。
2人の子供だと理解し嫉妬する。理久の初恋は運命の番だった。だから余計にカウンセリングを受けても改善するのに時間がかかったのだ。
そしてさっきの少年を見てその思いがぶり返す。
愛しい愛しい僕の伊月さん。
僕と番えないから伊月さんに似た子を僕の為に作ってくれたの?
それとも伊月さんにそっくりなその子と僕と3人で暮らしたいの?
やっぱり三波瀬名より僕の方がいいよね。僕が元気になったからアイツと番を解消して本当の番を噛んでくれるよね?
そっかー、この18年はその為の準備期間たったんだね。だから僕が誰の番にもならないように入院していたんだね!
あ、僕伊月さんがどこにいるかも連絡先も知らないや。
でもあの子がここにいたって事はここにいれば会えるかな?ふふふ、楽しみだな。早く来て僕の運命。
その後理久はヒマさえあれば出かけるようになり、不審に思った義姉の由美が知久に相談、理久が伊月に執着し始めたのに気づき伊月に連絡、即前回より厳しい監視がある場所に入れられる事になった。
そしてその事に関して瀬名や子供は知る事はなかった。
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飯坂理久バッドエンド。
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