告白してきたヤツを寝取られたらイケメンαが本気で囲ってきて逃げられない

ネコフク

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運命の番専用抑制剤

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 父親の研究室で伊月さんに再会したと思ったら、あれよあれよという間に車に乗せられ会見場のホテルに連れ込まれた俺。
 待機部屋と言うには些か……かなり豪華な一室にて父親と伊月さんが1人の男性と共に打ち合わせをしている周りでバタバタとスタッフが動いている。
 そこにお茶を出されポツンと俺1人。

 場違いじゃね?

 ふっかふかのソファーに座らされ、あまりにも手持ち無沙汰なので何か手伝おうとすると「お願いだから座ってて」と青い顔で懇願されてしまう。まあ、何も分からない俺が手伝っても邪魔になるだけかと大人しくしておくがヒマである。

 会見開始10分前になり、3人が部屋を出るのを見送ろうとしたら俺も部屋を追い出されてしまった。どうやらついて行かなければいけないようでついて行くが、クエスチョンだ。聞きたくても聞ける状況じゃないし、高級スーツに身を包んでいる3人に比べ伊月さんから貰った服とはいえTシャツとスキニーにジャケットを羽織っている俺はどう見ても浮いている。

 会見場に着くと、既に席は記者や関係者で埋まっていて壁側には何台もカメラが設置されている。袖口にいてもざわめきが聞こえ、関心の高さが伺える。

『本日はお忙しい中お越し頂きありがとうございます。時間になりましたのでこれから祐善製薬株式会社並びに花ノ宮ホールディングスが共同開発した新しい抑制剤の記者会見を始めたいと思います』

 進行役の一言で会場が静まり3人が出ていくとカメラの音どフラッシュの光が激しくその場を波打たせる。1段高くなっている所に用意された机には豪華な花が活けてあり、記者側から見て真ん中に男性、右に伊月さん、左に父親が座る。

『まずは壇上の方の紹介をします。祐善製薬株式会社専務祐善寺新羅しんら、花ノ宮ホールディングス常任理事花ノ宮伊月、薬学研究所マスター研究員で大学教授三波宇佐です』

『本日は我々の開発した新薬の発表にお越し頂きありがとうございます。今回開発した薬は抑制剤、「運命の番専用抑制剤」です』

 軽く会釈をし話し始めた男性は神楽の兄だったようだ。俺名前しか知らなかったから全然気づかなかった。穏やかな神楽より厳しい空気を纏っている気がする。「運命の番専用抑制剤」と発表した途端、ざわつく会場も何のその、淡々と話すあたりこういう場面に慣れているとみた。

『この抑制剤は恋人や家族を持つ人が本能ではなく心から愛する人を選ぶ事ができるようにするものです。愛する人がいるのに運命の番と出会う絶望、本能は運命に惹かれるのに心は違う相手を求める……それで体調や精神を崩す人もいるのです』

 伊月さんも体調を崩したりしたのだろうか。無表情で話す伊月さんからは何も読み取れない。

 その後、αとΩの器官の説明や抑制剤の効能・効力・持続時間などの説明が続く。

 質問時間になると「本当に運命の番に効くのか」「ずっと飲み続けなければいけないのか」などポンポンと質問が出て壇上の3人が答えていく。その中「抑制剤を作ろうと思ったきっかけは」という質問に2人が伊月さんを見る。

『それは私が5年前、運命の番と出会ったからです』

 はい、今日イチのざわめきが起こりました。もうこの時点で伊月さんが運命を拒否したのが分かったのだろう、大きくざわりとした会場が次の言葉を聞き逃さないように静かになる。

『プライベートの事なので詳しくは話せませんが、その時私には愛する人がいたので拒否しました。しかし相手はいまだ私を望んでいます。いくら接近禁止の契約を交わしていたとしてもそれを破り近づかれたら本能が認識してしまう。Ωが別のαと番になれば互いに運命からのがれられますがそうでない場合、αは物理的に逃げる事しかできない。それにいつまでも愛する人を不安にさせてしまう。だからこの抑制剤を作ろうと思ったのです』

 うん、さっき父親の研究室で聞いたな。で、記者からの質問だったのに何故袖口にいる俺を見ながら話した?記者達もあれっ?ってざわつき始めてるぞ。

「あの、もしかして袖口に……」

『はい、会見を見守ってくれています(にっこり)』

 はいーーー⁉俺意味も分からず連れて来られただけなんですけど⁉記者の人も「おおっ」「姿を見せてもらう事はできますか?」とか言ってるし。やめてくれ!

 ぶんぶんと首を振りながら足を踏ん張って拒否するが、スタッフに後ろから押されてずるずると袖口から出てしまった。スタッフ力強いな!

「瀬名」

 伊月さんが椅子から立ち上がり、俺の所まで来て腰に腕を回し逃げないように密着する。カメラを向けられ物凄い勢いで写真を撮られテンパって目線をさ迷わせ父親に目だけでタスケテと見るが、机の下でサムズアップして助ける気はないようだ。
 てか、新羅さんも真面目な顔してサムズアップしないでくれ!

 そんな中でも伊月さんはご機嫌な様子で腹立たしい。

「ご機嫌ですね」

「ああ、みんなに瀬名は僕のものだって公表できるからね。これで変なαは寄って来ないでしょ。それにね」

『私には彼がいるし抑制剤もある。運命に振り向く事は無い』

「だから諦めろ」

 マイクでは拾わない小さな声。一点を見つめる伊月さん。記者達は興奮して壇上しか見ていないので気づかれていない小さなシルエット。そのシルエットは口と両脇を抑えられそのまま会場から出て行った。あれは、

「伊月さんの」

 そのあとの言葉は何故か言いたくなかった。言うと認める事になるから。

「僕は瀬名しかいらない。7年前からね」

 騒がしい会場の中でその囁く声だけがやけに耳に響いた。






 そしてハッ、と我に返り気づく。







 俺、もう世間的に伊月さんから逃げられなくね?
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