告白してきたヤツを寝取られたらイケメンαが本気で囲ってきて逃げられない

ネコフク

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燻る嵐が一つとは限らない

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 マンションに来てから1か月、ついこの間神楽に発情期ヒートがきて良規さんと番った。めでたかったけど、発情期ヒート明けの神楽がいつもりよやつれてて良規さんが満面の笑みだったのが空恐ろしかったのをここにご報告しよう。

 そして本日、テーラーさんの頑張りで仕上がった物が届いた。

 一緒に届いたラペルピンを見て俺ビビる。

 いや、ラペルピンだけじゃない。カフスやネクタイピンにもビビってる。だって花ノ宮家の家紋が入ってるんだ。

 そりゃビビるだろ。まだ婚約者や番ってもいないのにこれって……もちろん普通のカフスやラペルピンもあったけど、桐箱に一式入れて渡された時は慄いたよ。突き返そうにも伊月さんの笑顔の圧に負けて受け取ってしまった。小心者の俺ぇ……

「ほら、早く着替えておいでよ。今日はそうだね……こっちかな」

 そう言ってにっこりスーツを手渡される。

 ……みなさんお気づきになっただろうか。伊月さんは今と言いました。そう、前回テーラーさんに頼んで作ってもらったスーツは一着ではない。色、形を変え三着も作られていたのだ!(ババーン!)あ、靴もだ。

 いや唖然としたね。テーラーさんの荷物がやたら多くて、伊月さんも頼んだんだと思ったら全部俺のってね。そりや決めるの2時間かかるよな。俺ぼーっとしてて気づかなかったわ。

 それに気づいた時、震えたよね。俺バイブ機能付いてたんだってくらい。届けに来た人が苦笑いしてたけど、伊月さんはにこにこだったよ。

 恐ろしや上流社会ハイソサエティ……

 ずっとバイブ機能を使っているわけにもいかないので、言われた通りに部屋で着替える。薄いピンクのシャツを着て黒に近い濃紺のジャケットに袖を通す。おおっ、間近で見たらクリーム色のドット柄だ。肌触りも大学の入学式で着たスーツとは比べものにならないくらい滑らか。赤いネクタイも艶々している。

 入学式以来のスーツ姿に七五三感が出ていないか不安ではあるが、今日は伊月さんの添え物程度の存在なので大丈夫だろう。

 着替えてリビングに行くと、伊月さんも着替えていて髪もサイドを後ろに流していていつもより大人っぽい。いや、大人なんだけどな。

「瀬名、ここに座って。髪を整えてあげる」

 言われた通り椅子に座るとワックスで整えられ、その間に大藤さんがカフスやネクタイピン、ラペルピンを着けてくれる。お礼を言おうとしてカフスに目をやると、ぎょっとしてまたバイブ機能が発動しそうになる。
 だってカフスに……いやネクタイピンやネクタイピンにも緑色の物体……宝石っぽいのが付いているんだよ。

 慌てて振り向くと首を傾げた伊月さんのカフスも同じでした。

「ん?どうしたの?」

 どうしたのじゃねーですよ!これエメラルドって宝石じゃねーですの⁉え、お揃い?あ、そーですか!(やけくそ)

 もう怖くて全ての金額を聞けない……

 父よ母よ、俺、歩く身代金になったみたいです。




 伊月さんに整えられ、ロータリーに横付けされていた車(国産車だったけど高級車!)に乗り着いた先は某高級ホテル。
 今日はここで母校の歴代生徒会役員の同窓生と現生徒会役員が集まり、交流会という名のパーティーが行われる。歴代といっても過去10年ほどしかさかのぼらないようだ。それ以上の人達はそちらで集まりがあるらしい。そうだよな、若者とおっさんじゃあ話が合わないだろうし。
 それに今日は学校が違う神楽と良規さんはいない。

「あ、フリスクー忘れた」

 車を降りスーツのポケットを探ると、いつも眠気や気分転換に口にするフリスクーを忘れて来たことに気付く。

「すみません、フリスクー忘れたのでそこのコンビニで買って来ます」

「あっ、僕も行くよ」

「すぐそこなんで大丈夫!」

「瀬名っ!」

 返事を待たずに走り出した後、声が聞こえたので振り返ると誰かに話しかけられているのが見え、チラチラとこちらを見ながら対応している。あれでは来ないだろうと速度を速めコンビニに駆け込み、レジの向かいにある陳列棚手を伸ばし商品を取り会計に並ぶ。店内を見渡すと、混んでいる割に時間帯のせいか同じ年代の客が数人であとは中高年層ばかりだった。

 会計をして戻ると、ロータリーに伊月さんの姿は無く、中に入ったのだろうと入り口のドアマンに会釈をしつつ入ると、ロビーにいた伊月さんが足早に俺に向かって来る。しかしあと数メートルという所でピタリと足が止まり、眉間には深い皺が刻まれる。そしてゆっくりと俺に近づいて来る。なんか雰囲気が怖い。

「伊月さん?」

「ねえ瀬名、さっき誰かとぶつかった?」

「えっ?」

 ぶつかったブツカッタぶつかった……俺コンビニに行っただけだしなぁ。コンビニも混んでいたとはいえぶつかるほどではなかったし……

「……ああ、会計に並んでる時に後ろの客がよろけて背中にぶつかったかも」

「チッ」

 え?伊月さん今舌打ちした?しかもめっちゃ顔しかめてるよ。やっばこんな時にフリスクー買いに走っちゃダメだったかー

「あっ、瀬名は何も悪くないよ。ただ瀬名から他のΩのフェロモンがしたから。不快だから消そうね」

 悪い事したなとしょんぼりしたら慌てた伊月さんが「あっ、怒ってないからね」と言いながらポーターからバース性専用の消臭剤を借りスーツ全体にかける。特に背中を念入りに。

 そんな臭かったかなー?後ろの客がうずくまった時に少し擦っただけだと思うけど。
 スプレーをして匂いが消えたのか満足そうに頷く伊月さんが今度は抱きつきすりすりしてくる。

「ちょっ、こんな所で恥ずかしいんですけど⁉」

「大丈夫、誰も見てないから」

「めっちゃガン見されてるから!」

 うごうご動いて逃げようにも腕の力が強くて逃げられない。諦めて周りから顔が見えないように胸元に顔を埋めると、頭の上からくすくす笑い声が聞こえ「瀬名は可愛いねぇ」と耳元で囁かれる。いや、そんなイケボで感想はいいから離してくれ。

 しばらくして満足したのかそのまま俺の手を取り、上階の会場へ行き受け付けを済ませ中へ入ると、各テーブルには華やかに彩られたドーム状の花があり、その傍らに「◯期生徒会」と札が置かれていてどこに身を置けばいいのか分かるようになっている。食事は立食形式になっており、飲み物もボーイがお盆に乗せ歩いている。

「なんか思ったより人がいますね」

「番や恋人を連れて来ている人が多いからね」

 確かに役員だけにしては広い会場だし、見ると同級生にしては距離が近く感じる人達が結構いる。その中でよく分からず連れて来られた俺は場違い感が凄くないか?凄いチラチラ見られてる気がするんだけど……あ、俺を通り越して伊月さんを見てるのか。

 納得した!とばかりに顔を向けると「違うと思うよ」と言われてしまった。思考を読んだのか?エスパー⁉

 むぅっと口をへの字にして伊月さんを見上げていると、タッタッタッた背後から優雅な空間に似つかわしくない走る音が聞こえ、振り返ると強い衝撃が体を襲う。

「おにぃーーーーーー!!」

「グハッ!!」

「瀬名!?」

 あまりの衝撃に息が詰まり一瞬三途の川が見えた気がしたけど気の所為ではない。今もぎゅうぎゅうと締め付けられる度に三途の川がチラチラと見えている。たのむ、俺が昇天しそうなのを早く気づいてくれ。

「ちょっと、瀬名を苦しめないでくれるかな」

「あ゙あっ⁉……!!あっ!おにぃ!おにぃーーーーー!」

「うるせーーーーー!!」

 腕の力が弱まりやっと息が吸え、反射的に抱き締めたヤツを殴る。コイツはいつも強く殴ってもけろりとしているから大丈夫。寧ろふにゃりと笑う。何故だ。

「おにぃ何でここにいんだよ」

「お前こそどうしているんだ⁉」

「え、生徒会長だから?」

 何言ってるの?と気の強そうな顔をキョトンとさせ見つめられる。そうだ、コイツ今生徒会長だった。


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