告白してきたヤツを寝取られたらイケメンαが本気で囲ってきて逃げられない

ネコフク

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運命の番を拒否したようです

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 運命の番―――――

 フェロモンで惹かれ合うαとΩの中でも本能で惹かれ合う唯一無二の相手。

 その言葉の通り出合った瞬間、本能で分かり合うという。その相手しか見えなくなるとか突然発情期ヒートになるとか噂があるが、出会う事自体稀なので実際は分からない。

 神楽と良規さんもそうらしいが、先ほど知ったばかりなので2人がどうだったかは分からないけど、俺を含め周りは『運命』とは気づいていないくらい隠してたのは凄い。だってそんなに惹かれる2人なら所構わずキャッキャウフフしたいハズだ。

 そんな運命の相手に伊月さんは高校の時に出会ってるのだ。なのに俺を囲う?2号さんってコト?勘弁願いたい。

「伊月さん『運命の番』に出会ってますよね?それなのに俺を囲うんですか?」

 かなり不信感丸出しだったんだろう、伊月さんが今までにないくらい焦った顔で首を凄い勢いで振っている。

「違う!違うよ!きちんとこの文章の後半を読んで!"運命の番を拒否"って書いてるでしょ!」

 男の人にしてはすらっとした指先がなぞるとこにはそう書いてるんだけど、運命って強く惹き会って離れられないもんじゃないのかな?

 それでも胡乱うろんげな目で見ている俺に、深く息を吐ききりっと顔を引き締めたと思ったら、へにょりと眉を下げ、

「『運命の番』って本能なんだよ」

「……まあ、運命って言うくらいですからね」

「うん、本当に本能なんだよ。そこに感情や理性なんてないんだ」

 ソファーに座っている時と変わりテーブルに出されているコーヒーを一口飲み、浮かべる表情は運命の番と出会って喜ぶ顔ではなかった。

「良規と神楽はね、互いに「会った瞬間に恋に落ちた」って言ってたんだよ。2人は本能だけじゃなく気持ちもリンクしてたんだ。それを見て僕も好きな子を忘れてそうなるのかと思ってたんだけどね。実際は絶望しかなかったよ。αの本能はこのΩだと訴えるけど、感情と理性が違うと叫ぶんだ。コイツじゃない、僕のΩは三波瀬名だけだって。そう、心と体が一致しなかったんだよ。だから拒否した」

 それって感情と理性で本能をねじ伏せたって事か。実際そんな事が出来るんだろうか。

「それに運命の番だからって上手くいくわけじゃないんだよ。番った後にそりが合わなくて険悪になったり、αが別に好きな人ができたり……結局本能だけで気持ちが伴ってないんだよ。所詮αとΩの相性が一番良いってだけの運命なんだと僕は思ってる。実際そのΩが目の前でヒートを起こしたけど、他のΩのヒートに会った時と同じ衝動しか感じなかったしね」

 伊月さんが『運命の番』についてどう思ったのかは分かった。でも相手のΩはどうだったんだろう。

「伊月さんの運命の相手はどうだったんですか?まさか伊月さんと同じ考えの人だったとか?」

「そうだったら良かったんだけどねぇ」

 そう言う伊月さんの顔が苦々しくなる。その表情で何となく察する。

「まあ大変だったよ。出会ってヒートを起こしたけどすぐ病院に運ばれたまでは良かったんだけどね、僕を呼ぶんだよ。「運命のあの人を連れてきて」って。ヒートで辛いのは分かるけど、僕にその気は無いから何度連絡を寄越してもその度拒否したよ。それにヒートが明けてからの話し合いも大変だったね。僕は参加しなかったけど、向こうの親もうちが花ノ宮家だと知ったら「運命なんだから番わせろ」と言い出してさ。かなりの額を提示したらあっさり引いたけどね。当の本人はゴネにゴネたよ。どうやら僕に一目惚れしたらしくて番いたいの一点張りだったみたい。こっちは穏便にと思ってたんだけど埒があかなくて電話越しに僕が説得したよ。「僕には運命の君より好きな人がいるから無理」って」

「それで相手は引いたんですか?」

「最初は「その人より僕の事を好きにさせます!」とか言ってたかな。でも「そもそも君の顔は好みじゃない」ってやんわり言ったら黙ったからちょっとは納得したんじゃない?」

 いや、やんわりじゃなくてハッキリ言っちゃってますがな。もしかしてやんわりって柔らかい声のやんわりじゃいよね?それならちょっと相手に同情する。

「まあ弁護士の元で書類を交わしているからこれ以上の接触は無いよ」

 そうかな?運命の番がこんなに極上の相手だって分かったら簡単に諦められるか?でも伊月さんの口ぶりからは今まで接触が無かったようだから大丈夫なんだろうな。

「僕は運命なんて勝手に決められたくないからね。自分で決めるし決めたから」

 そうか、だからか。運命に見向きもせず俺だけを求めていたから父親も協力したのか。ちょっとでもなびく素振りを見せてたら多額の寄付を貰っていたとしても父親もさすがに拒否したよな。……と信じたい。

「それとこれ、伊月さんの運命の相手の苗字が「飯坂」なんですけど」

 運命の番に出会うと書かれていた箇所にあった名前。何度見ようが変わらない苗字。

「ソイツは瀬名に言い寄ってきた飯坂知久の弟だ」

 やっぱりアイツの弟か。それが分かると見えてくるものがある。

「告白してきたのは俺経由で伊月さんと関わりたかったのかな?」

 伊月さんは見た目から周囲に人は集まるけど、良規さん以外の人を傍に置かなかったし、最低限の関わりしかしない。ただ俺と神楽はよく話をしていた。従兄弟の神楽と話すのはおかしな事ではないし、後輩として俺が話すのもおかしくはないが、会えば食堂で一緒に食べたりしていた。それで仲が良いと思われたのかもしれない。
 だから俺に近づけば伊月さんの情報を聞けるかもって考えたのかも。そしてそれを弟に回す。まあ、弟が伊月さんの事を諦めていない前提だけど。

「弟の為かそれとも瀬名が綺麗過ぎたのか……」

「いや、俺はナイ」

 飯坂の前ではボサボサヨレヨレスタイルしか見せた事がないから、んなワケないと言い切れるぞ。

「やっぱり家族ごと消しておくべきだったかな」

「だから言う事が物騒!」

 清廉潔白そうな顔して言う事は過激だ。これは大学に入って中高より話すようになってから知った事。他はあまりにも接触が無かったから知りようがない。

「伊月さんが運命の相手を拒否して会っていないのは分かりました」

「うん、それは保証する」

「だからといって今すぐ婚約とか無理です」

「なんで?何の支障もないけど?」

「まあ待って下さい。……出会ってから7年、俺は伊月さんの事をファイルの内容しか知りません。しかも経歴だけで何が好きで嫌いか、何をしたら喜ぶか分かりません。それは伊月さんも同じですよね?だから俺の被験期間が終わるまでお互いを知る、ということから始めませんか?」

「お互いを知る……」

「はい。俺の今の状態って伊月さんが言ってた「感情が伴っていない」状態なんです。だから伊月さんを知ってからこれからの事を考えたいんです」

 そうなのだ。中学の時は流されて付き合ったりしたけど、もうハタチだ。これからの選択で人生が決まってしまう。だから流されてではなく、自分の感情、意思で相手を決めたい。もちろん違うと思えば伊月さんを選ばないかもしれない。でもそれが俺の選択だ。

 伊月さんが向かいからじっと探るように俺を見つめ、ふっ、と頬を緩める。

「やっぱり瀬名は良いね。花ノ宮ではなくきちんと僕を見て決めようとしてくれる。それがどれだけ僕を喜ばせているか分かってる?ふふっ、これから被験期間が終わるまでどろどろに甘やかして僕を選んで貰えるようにするから覚悟してね」

「ハハ……お手柔らかにお願いします」

 この時点で俺は知らなかった。伊月さんの「甘やかす」という意味を。まさかこの直後から思い知らされる事となるとは分かるわけないじゃないか!
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