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遊び人だと思っていた王子が実は初心でした

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 あえぐ声を部屋に響かせ息も荒くまぐわり合う2つの気配を息を殺しながら終わるのを待っているわたくし、ヨアンナ=マーベルは今軋むベッドの下に隠れている。

 ただ恋人のウィルを驚かそうとしてベッドの下に隠れただけなのに・・・

 しかも相手が親友だと思っていたミティスだったなんて!

 やりながらわたくしの悪口を言うなんて器用ですこと!

(舐められたものね)

 段々と怒りが湧いてきたわたくしはベッドの下から抜け出しまだ動いている彼らに見える様にゆっくり姿を見せる。

「なっ・・・!」

「きゃあ!」

 驚く2人をよそに大きく息を吸い込み叫ぶ。

「きゃーーーー誰かーーー!!」

 そして扉まで走り扉を全開放してまたきゃーと叫ぶと後ろの方で「あっ、痛いっ!」「抜けない・・・!力を抜いてくれ!」と騒ぐ声が聞こえるけどシラネ。
 駆けつけた侍従に取り乱しながら「部屋に行ったら・・・ぐすん」と訴え支えられながらシュートリカ伯爵邸を後にする。

 その後「恋人の親友と関係を持ったら抜けなくなった」という醜聞が恐ろしいほどの速さで出回り2人は社交界に出れなくなってしまった。

(自業自得だわ)

 夜会に出ると気の毒そうな目で見られたり励まされたりするのが面倒だがあんな男と関係を持たなくて良かった。不埒な女と言われないだけマシだ。

 社交界はまず問題無いだろう。
 問題は父、宰相のセインタリウス=マーベルだ。
 今回の事でわたくしに夫探しはさせられない、自分が探すと宣言されてしまった。ありがたいのだが父はやたらムキムキマッチョの男性を薦めてくるので辟易してしまう。

 だってわたくしの好みは細マッチョだから。

 きかん坊になってしまった父に体型の条件は必ず守るのを条件にGOサインを出したのだがまさか、まさかの第二王子を持ってくるとは思わなかった。

「父・・・ちょっとツラ貸せや・・・」

「ヨナちゃ~ん、パパ怖いよ~」

 父の胸ぐらを掴みドスの効いた声で

「お前はホント体型しか見なかったんか?娘、可愛いよな?」

「勿論だよ~。ママに似て可憐で清楚な見た目のヨナちゃんの事愛してるよ~」

「じゃあ何でよりにもよって遊び人と噂されている第二王子の縁談を持って来るん?」

「人は見た目や噂が本当ではない場合があるよ。ヨナちゃんだって見た目と性格が真反対じゃないか~」

「ちっ!」

 ぷるぷる震えながら父が反論する。
 そう、わたくしヨアンナ=マーベルは銀糸の髪に碧眼の胸がもう少し欲しかった17歳。その容姿で周りからは真珠姫と呼ばれてはいるが中身は豪快・豪胆・行動力の鬼なのである。ただひた隠している為、家族と屋敷の者以外は知らない。

 王族の縁談という事は陛下も関わっているはずだ。自分達からお願いした形になっているので仕方なく会う事に。

(第二王子と会うまで日数があるからお茶会や夜会で情報を集めておくか)

 情報を集めてみると違和感が出てくる。

「令嬢をはべらせてワインを飲んでいた」

「話しかけても照れて話にならない」

「いかがわしい場所に出入りしている」

「本屋で経済学の本を選んでいた」

(???)

 第二王子の人物像が一貫しないのである。

(おかしい・・・)

 これは本当に一人の話なのか?不思議に思って見た目を聞いたが金髪碧眼の長身の美麗な男性・・・一致しているのである。
 ますます意味が分からない。

 詳しく話を聞いてみると夜会にはナンパ目的で来ているらしい。色んな令嬢が声をかけられているようだ。しかも後腐れなく遊んでいる。

 第二王子は百人切りでもする気なんか?

 嫌いだ、嫌いだわーそんなヤツ。そんなヤツの婚約者になったら我が侯爵家の名に傷が付いてしまうではないか。何考えとんじゃ父!

 沸々と怒りが沸いてきたわたくしは屋敷に帰ってきている父の執務室に乗り込む。

「父!話がある!」

「きゃー、ヨナちゃんもう少し静かに開けて!」

 バーン!と両手で扉を開けズカズカと部屋に入り机に座り腕と足を組み父を睨む。

「第二王子の噂を調べてみたんだが。あちこちの令嬢に手ぇ出してんじゃねぇか。父、侯爵家の名に傷が付いてもいいんか?」

「ん~、噂ってそれだけ?」

 怒っているわたくしに少し怯えながらも返事を返す。

「いや恥ずかしがり屋とか本屋に行くとかあったけど・・・」

「その話についてはどう思うの?」

「そこだ、人物像が一貫してねえ。何故だ?」

「・・・ヨナちゃん、そう思うならいつもみたいに調べたら?君は僕が話してもモヤモヤするだろ?」

「・・・・・・分かった。邪魔したな」

 ツカツカと部屋を出ていくわたくしの背中に「ヨナちゃんが男だったら・・・」と聞こえてきたけどうるせぇ。

「風磨聞いてたな、第二王子を調べろ。・・・いや、王子全員だな。わたくしは明日市井しせいの本屋へ行く」

「御意」

 わたくしの後ろに控えている風磨に指示を出し軽く微笑むと黒髪茶目の整いすぎている顔立ちの風磨は頬を染め頷いている。
 よく働いてくれるが国の暗部にいる者が主人に惚れているのがバレバレとは。応える気はないので無視を決めこむ。

 次の日街の本屋を巡っていく。毎週水曜日に行くという事だけで王子の行く本屋を特定出来なかったからだ。

 服のセンスが壊滅的なわたくしは全て侍女にお任せの格好で街を歩く。水色のふんわりしたワンピースにつばの広い帽子を身につけ「ちょっといいトコのお嬢さん風」になっている。

 数件本屋をはしごすると・・・いた!

 市民の格好をしているが見た目の麗しさと品のある佇まいは隠せていない。

 やはり経済学のコーナーにいる。集中して本棚を見ているのかわたくしの気配には気づいていないようだ。
 そっと近くに行き王子が取ろうとした本を偶然を装って手を出してみる。

 するとこちらを見たと思ったら一瞬目を見開き「真珠姫・・・」とぼそりと言ってハッと口をつぐみ顔を赤くしもじもじしている。

「すみません」

「いえ、こちらこそ」

 何だこの反応は。まあいい、こちらも一応頬を染め恥ずかしがっておこう。

「経済学をお読みになるのですか?」

「おかしいでしょうか?」

「あっ、いいえ。この経済学書はあまり知られていない著者が書いているものなので珍しくて・・・気分を悪くさせてしまいましたか、すみませんでした」

「いいえ、お気になさらず。ああ、わたくしったら持っている本でしたわ。うっかりしてました」

「本当ですか⁉これを読まれるなんて見識がある方なんですね」

 偽りではないだろう。ぱあっと目を輝かせて話す第二王子は本が本当に好きなのが見て取れる。これが令嬢をとっかえひっかえする人間なのか?

 ついつい経済学の話で盛り上がりかなりの時間話しこんでしまった。侍女に促され挨拶をして屋敷に戻る。
 部屋には風磨が待っていて報告をうける。王室には王子か3人。第一王子から第三王子まで年子らしく背格好もそっくりらしい。

(昼間の第二王子の様子からみて噂は第二王子を語った第一、第三王子か・・・いや、昼はあんな感じだけど夜羽目を外すタイプなのかも・・・とりあえず顔合わせしてから考えるか)

 二日後第二王子に会いに王宮へ赴くと長い廊下で第一王子に遭遇し話しかけられる。

「おや、お前は真珠姫か?」

「ヨアンナ=マーベルです。第一王子殿下にご挨拶申し上げます」

 見よ、この猫かぶり!カテーシーを決めるわたくしを舐めるように見られて不快感がこみ上げてくるがぐっと腹に溜め込み笑顔を維持する。

「なんだ、俺に会いに来たのか?」

「いいえ、第二王子との顔合わせで参りました」

「はあ?何であいつと顔を合わせないといけないんだ」

「婚約前の顔合わせにございます」

「何だと⁉聞いてないぞ!あっ、待てっ!」

 面倒なので不敬になるが話の途中で失礼、と言って立ち去る。後ろで何か喚いているがシラネ。

 第二王子が待つ庭園へ行くと本を読み待つ姿が見える。

「お待たせしました。ヨアンナ=マーベルでございます。第二王子殿下にご挨拶申し上げます」

「あぁ、やはりあなたでしたか。二日ぶりですね、第二王子のルキエルです」

「先日は失礼いたしました」

 やはり本屋の時と同じ。女遊びをするような感じには見えない。あまり女性と話した事がないのか時たま目線がズレる。

「あの・・・あなたから見て僕はどう思いますか?」

「どう・・・とは?」

「いえ、経済の話ばかりでつまらない男だと思っているのではと」

「殿下と経済のお話をするのは楽しいですし民の為に何かしようとする姿はとても素晴らしいと思いますわ」

 嬉しかったのか頬を染め照れている。可愛い。

「ところでわたくし今まで夜会でルキエル殿下をお見かけしたことがないのですが」

「あぁ、それは僕がからだと思います」

「そうなんですか。だから今まで出会えなかったんですのね」

「はい。あの・・・もし僕達が婚約したらなんですがその・・・一緒に晩餐会に出てもらえますか?」

「もちろんですわ。喜んでご一緒させてください」

 第二王子はその美麗な魅力を最大限発揮したような笑顔を向ける。その屈託のない笑顔に影は見えない。

(眩しっ!これがロイヤルスマイル・・・!)

 無事顔合わせを終わりその足で王宮にある父の執務室へ向かい丁寧にノックして部屋に入る。
 わたくしが来たと同時にわたくしの裏の顔を知っている人以外を下がらせる。父、分かってるじゃないか。

「父、来週から第二王子が通っている学園に通うから手続き宜しく」

「えっ?急にどうしたの?」

「第二王子の婚約者になるなら同じ学校に通った方がいいだろ?」

「それは縁談を進めていいってこと?」

「ああ、"婚約者候補"で学園に乗り込む。それとニキと風磨を控えさせて行けるようにしてくれ」

 それだけ言うと部屋を出る。近くにいた執務官が「そのように手配します」と言い動き出す。相変わらず話が早くて助かる。

 次の日に第二王子から花束と手紙が届く。それには良かったら婚約者になってほしいという内容が書かれていた。手紙を持って来た侍従を待たせ早速返事を書く。
 昨日のお礼と花束のお礼、婚約は前向きに検討すること、来週から学園に編入することを書き侍従に持たせる。

 さて、来週の準備でもするか。風磨とニキを呼び命令をする。

「風磨とニキは来週から侍従として学園に行くこと。その際風磨は第一王子と第三王子の調査、ニキは情報収集だ。わたくしは第二王子と行動を共にして周りの反応を見る」

「御意」

 第二王子の噂はほぼ違う人物だろう。だったら噂の元を叩き潰し王子の名誉を回復させる。そうしたら婚約しても家名に傷はつかない。断じて笑顔にやられて好きになっちゃったからではない。
 後ろで風磨が普通の令嬢はそんなことしないって言っているがお仕置きするぞコラ。・・・喜ぶなソコ!

 父の優秀な政務官のおかげでつつがなく学園へ編入できた。優秀な政務官を持ったな父!
 編入先は第二王子と同じクラスだ。

「ローズリリー学園から編入して参りましたヨアンナ=マーベルでございます」

 それは見事なカテーシーを決め挨拶をする。
 流れような所作に教室のいたる所からため息が漏れる。

 見たか、猫かぶり学園編!

 休み時間になるとわたくしの周りに人だかりができた。これは想定内。色んな質問が飛んでくる。主な質問は前の学園のことと何故編入してきたか。
 ローズリリー学園は5歳から入る淑女になる為の女子校。入る条件も厳しくそこを卒業すると縁談が引く手あまたになるくらいのステータスで令嬢の憧れの学園なのだ。勿論未来の旦那様の為に政治経済も必修になっている。
 編入した理由については素直に「第二王子殿下の婚約者候補だから」と答えておく。

 にっこり答えた瞬間、全員本を読んでいる王子を驚きの視線を向ける。王子も読みながら会話を聞いていたのだろう同じく驚きの表情でこちらを見る。こてんと首を傾げ微笑むと頬を染め慌てて本に視線を戻す。

 ふふっ、可愛らしい。

 わたくしの編入は理由と共にまたたく間に広がった。休み時間にはわたくしをひと目見ようとひとだかりができてしまった為に先生方が出る事態となったのは申し訳ない。

 昼休みになり第二王子を誘ったらいつも食堂で食べていると言うので一緒に食堂へ向かいテラス席で食べる。
 位の低い貴族の家庭も多いので値段は安いが味はかなり美味しい。

 照れながら食べている姿にほっこりしつつ話かけようとするところに第一王子が学友を二人引き連れテーブルに来る。一人は騎士だろうか。もう一人はわたくしの兄だ。

「やあ、真珠姫」

「兄さん・・・」

「お前に話かけていないルキエル」

 呼ばれてもいないのに椅子にどっかりと座り脚を組み尊大な態度で王宮で見せた舐めるような目つきでわたくしを眺める。全身が粟立つのを抑え微笑む。

「花園から編入してきたんだってな」

「はい、これからはこちらの学園でルキエル殿下の婚約者候補として精進していきたいと思います」

「ハハッ、なんと弟には勿体ない。どうだ、俺の妃にならないか真珠姫」

「兄さん‼」

 わたくしの方に身を乗り出し戯言たわごとを言う第一王子クズの顔面を殴りたくなる衝動を抑えてたおやかに笑う。

「お戯れを。わたくしでは偉大な第一王子殿下の妃など務まりませんわ」

「お前ほどの美姫ではないと俺の隣は務まらない。大丈夫、夜の努めも満足させてやれるぞ。弟と違い俺はからな」

「兄さんそれ以上はお止めください!彼女に失礼ですよ!」

 初めて見る第二王子の荒げる声に少しびっくりするが努めてにこやかに「御冗談を」と返す。
 ふと第一王子の後ろを見ると兄がわたくしの笑顔の裏に気づいて顔を青くしている。

「カサエル様、もうこの辺で・・・」

 これ以上何か言うと家に帰ってから自分の身が危ないと思ったのか兄が第一王子に声をかけ席移動を促す。舌打ちした第一王子は促されるまま席を立ち足早に去っていく。
 第二王子がわたくしに深々と頭をさげ

「マーベル嬢、兄が不快な思いをさせてしまいすみませんでした!」

「ルキエル殿下、顔をお上げくださいな。わたくし第一王子殿下から守ろうとしてくれたお優しい気持ちがとても嬉しいですわ」

「そんな、たいして守れなかった自分が不甲斐ないです。・・・でも次からはしっかり貴女の事を守りますからチャンスをください」

 わたくしの手を両手で優しく包み込み真っすぐ見つめる瞳に頬が染まるのがわかる。こくんと頷くと第二王子は耳を赤くし

「それと貴女の事を・・・ヨアンナと呼んでいいでしょうか?」

「・・・はい」

「では僕の事をルキエル、と呼んでください」

「・・・ルキエル様」

「ヨアンナ、様はいらないよ」

「・・・ルキエル」

「うん」

 何?何なのこの甘い感じ⁉恋愛に関しては経験値が低すぎて対応出来ない自分を知った。その後のランチの味など分からず午後の授業ですら耳に入らなくて帰宅してしまった。

「はぁ~・・・」

「姫の可愛いところありがとうございます」

 昼休みの事を言ってるのだろう。風磨が無表情で頬を染め正座をして礼を言っている。それに怒る気にもなれずうなだれる。うなだれながら

「とりあえず二人の王子から言質はとった。初日に知りたい事を話してくれるとはラッキーだったな。第二王子は、第一王子は。確定だな。風磨、兄を呼んでこい」

 呼ばれた兄をわたくしの足元に正座させる。

「兄、分かってるよな?」

「・・・・・・はい」

「わたくしに第二王子の縁談がきた時点で報告すべきじゃなかったのか?」

「えっと・・・それは・・・」

「はっきり言え!!」

 顔を青くし震える兄の膝にヒールをぐりぐりと押し付ける。風磨が恍惚としながら「姫、俺にも」と言ってるのは無視だ無視。

「父上が話すなと・・・」

「あんのクソ父!」

 第一王子が第二王子の名を語りいかがわしい事をしているのを始めから教えてくれればあんな気持ち悪い視線を受けず潰してやったのに!

 カツカツとかかとを鳴らし執務室の扉をバーンと開く。

「父!よくもやってくれたな!」

「ヨナちゃん怖いっ!顔がいつも以上に怖いよっ!」

「第一王子が第二王子の名前を語ってやりたい放題してたの知ってて教えなかったな!おかげでいやらしい目で見られて粟立ったわ!」

「ごめーん、でもヨナちゃんルキエル殿下本人の人となりをきちんと知れたでしょ?僕からだけの情報じゃあ納得しなかったんじゃない?それに何でそうなったかも分かったんじゃないの?」

「・・・分かったよ。分かったから余計怒ってるんだよ!陛下と父あんたら私を王妃にする気だな?」

「ヨナちゃん男気の塊だからね。ルキエル殿下に惚れちゃったら守るし支えるでしょ?」

「ほほほほほ惚れてないっ!!」

 図星を突かれたわたくしは動揺を隠せずどもってしまう。
 にやにやとしている父の顔が憎い。

「ヨナちゃんがその気になってくれたから話がスムーズに進んで助かるよ」

「わたくしはまだそこまでっ・・・」

「近々第二王子が王太子にと王命がくだる。ヨナちゃん、分かるよね?」

 父が宰相の顔になりわたくしに覚悟を促す。

「・・・・・・分かりましたわ。父上、縁談の件進めてください」

 うやうやしくカテーシーをすると父が満足そうに頷きわたくしは執務室を後にする。

 わたくしは覚悟を決めた。ルキエルの気持ちは分からないが初めて芽生えた気持ちのままにルキエルを守り支える。

 ・・・・・・怖がられそうだからは出さないでおこう。

 わたくしはルキエルに婚約を受け入れた事、それを当分伏せるお願いをしたため手紙を送った。ルキエルからはすぐ返事が来て婚約を伏せる了承とわたくしと婚約できた事がとても嬉しいと書かれていて顔がにやけてしまった。

 それから任命式までは学園でルキエルとの距離を縮めつつ第一王子の証拠収集をし忙しく過ごす。

 そして任命式当日、わたくしは王宮の一室でドレスに身を包んでいた。

 金色のドレスは金のレースと刺繍、サファイアを散りばめられたそれは見事なものだ。勿論ネックレスとイヤリングもサファイアだ。
 髪はハーフアップにされ青い薔薇の生花が刺してある。
 
 侍女達はため息と共に賛辞の嵐だ。

 父が迎えに来てくれ一緒に王の間に入る。ため息と感嘆の声が聞こえ父が満足そうに「やはりうちのヨナちゃんは最高だ」と親バカを発揮する。
 陛下と王妃殿下の隣にいる王子達も息を飲んでわたくしを見つめているがルキエルだけ柔らかな微笑みを浮かべている。

「王太子任命会議の結果、知識・見識は目をみはるものがあり民の為になそうする姿勢、どれをとっても素晴らしいと全会一致で第二王子ルキエルを王太子とする事が決まった。これよりルキエルが王太子となりゆくゆくは王としてこの国をおさめていくことになる」

 高らかに陛下が宣言すると驚いた第一王子が陛下へ食ってかかる。

「何故ですか陛下!なんで第一王子の私ではなく第二王子のルキエルなんですか!」

「胸に手を当てて考えてみろ。心当たりがあるだろう。ルキエルの名を語り好き放題していたな」

「なっ・・・!」

「優秀な弟に嫉妬して道を間違えたな。そなたの沙汰は後日言い渡す」

「そんな・・・・・・」

 その場にへたり込む第一王子を無視し陛下が続ける。

「さらに本日ヨアンナ=マーベル侯爵令嬢を第二王子ルキエルの婚約者とする」

 会場にいる全員の視線が集中する中一歩前へ進み礼をする。

「ヨアンナ、こちらへ」

 微笑みながら手を差し出すルキエルに微笑み返し歩み寄る。
 途中いまだにへたり込んでいる第一王子に屈んで小さな声で

「やる事間違えるとこうなるんだよ。これ以上ルキエルに何かしようとするなら潰すぞゴラ!」

 わたくしの言葉に驚き見つめる第一王子にニヤリと不敵な笑顔をすると徐々に顔が紅潮し恍惚とした表情になっていく。

(あ、やべぇ。風磨あちら側の顔になった)

 うふふとドレスの裾を翻しルキエルの元へ行き手を重ねる。

「本屋で会った時からヨアンナに恋をしているよ。これからずっと僕の隣にいてね。愛してる」

 そう言うと手の甲に口づけをし「さっきの君も素敵だよ」と小声て囁かれる。

 ・・・速攻バレたか。

 後日第一王子は成人後侯爵の爵位を譲り受け降臣し王太子を支えることとなった。
 寛大な処遇となったのは本人の反省とヨアンナへの崇拝ともとれる忠誠を見せたからである。
 父がああなると風磨の様にヨアンナの言葉しか聞き入れなくなるからと陛下に進言したのも大きかったようだ。

 その後ルキエルとわたくしは学園を卒業後結婚、政務をこなしつつ互いだけを慈しみ過ごしている。

 そして毎日のように愛してくれるルキエルのおかげで胸が大きくなったのを爆上がりで喜んでいるわたくしである。


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