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入学編

不穏な動き

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「はあ~」

 本日俺は体のダルさにムチ打って登校した。昨日早めに解放されたがぐずぐずに溶かされ、ヘロヘロになりながら自分の部屋に戻ったのが午後9時。もう何もする気が起きなくて夕飯も食べずに寝てしまった。

「王子~姫~おはー……って朝から濃いな⁉」

 濃いとは俺が宏太の膝の上に乗っている事か?あー、何にも考えず座ってたわ。腰が辛くて擦ってくれるし椅子に座るより楽だし中等部の頃から当たり前にやってたよ。

「あー、降りる降りる。…もう少ししてから」

「すぐじゃないんかい。それより姫、気だるさが……ヤヴァい。って、何で白畑まで朝からそんなに色気駄々漏れなんだ⁉」

「なんだそりゃ」

 それより姫とか王子とか井上、お前もそれ呼びすんのか。別にいいんだけどちょっとこっ恥ずかしいんだがな。男に姫って何なのさ。

「ダメだ、白畑を直視すんな」

 机に肘をつきアンニュイな感じの白畑を井上から隠すように貴島が立ち、白畑を遠目から見ているクラスメイトには睨みをきかせている。

「誰のせいだと」

「悪かったよ~。白畑の色気が凄すぎて止まれなかった俺が悪い。でも昨日の白畑は可愛かった」

「………バカ」

「えっ?えっ?」

 意味が分からない井上に頬を染める白畑を隠しながら「そういうこと」と貴島がのたまう。

「えーーーーーー⁉」

 口をぱくぱくさせて赤くなるなんて初心うぶだな井上。

「えっ、じゃあ白畑ってΩ?でもネックガード付けてない…」

「白畑はαだよ」

 俺の後頭部に頬をぐりぐりしている宏太が言うとまた井上の叫びが教室にこだまする。さっきから驚きすぎだぞ井上。

「じゃあじゃあ貴島がΩ?」

「いや、俺もαだ」

「えーーーーーー⁉」

「だからうるせぇ!!」

 まあ井上が驚くのも分かるけどな。αβΩのバース性があってΩの発情期ヒートがあるし、それを行為で収めるのを推奨しているのもあって高等部に上がる前に経験済みのヤツは結構いる。
 貴島や白畑みたいに同性の男同士は極少数派だし。しかも長子のα同士。色々と苦労はあるようだけど、二人共中等部の頃からオープンにしてあっけらかんとしている。
 そういえば貴島が卒業記念に、とか言ってたな。その時ズコバコヤッたん?春休み中盛ってたん?
 でもそっかー、とうとうヤッたのかー。照れてる白畑可愛いな。

「白畑がこんなんって事は姫もか!」

 おん?
 矛先が俺のトコにきたぞ。

「井上~、今からそんなに騒いでたら身が持たないぞ。高等部は全寮制で色々濃いし、ヒートもあるから毎日誰かが前日セックスしましたって顔してるぞ」

「そうだよ。特に相手がいるαは自分の匂いを毎日付けて周りを牽制したい生き物だしね」

「それって毎日セッ……」

「違う違う。確かにセックスが一番手っ取り早いけどこう……擦り付けたり匂いを纏わせる?そんな感じ」

「ハア、βの俺には分からん」

 中等部でも結構あったはずなんだけど井上の周りが殆どβだったらしく思い当たらないらしい。
 あまり朝から話す事ではないよなぁとダルさで思考が鈍くなっている頭で考えていると、教室の入口でクラスメイトが宏太を呼ぶ。

「チッ………愛加ちょっと待っててね」

 露骨に嫌そうな顔をした宏太がオレを椅子に降ろし廊下に出て行く。

「うおっ、爽やかイケメンが舌打ちしたっ」

「あーね、告白じゃない?」

「えっ?心配じゃないの?」

「よくある事だし?」

 井上はチラチラと廊下を見ながら聞いてくるけどホント日常茶飯事なんだよね。宏太がオレにべったりすぎて中等部の最後の方は殆どいなかったけど。
 それでも振ると分かっているけど、告白されるのが気になるしいい気はしない。中々帰って来ない宏太に痺れを切らし入口からひょっこり顔を出すと、見たことがない女生徒が宏太に張り付いていた。それは中等部でもたまにあった光景だった。

 黒髪の華奢な美人。首にネックガードをしてΩなのが一目で分かる。宏太の腕を抱きしめ媚びた目線で甘ったるい声出すΩ。αエモノを自分の物にし、庇護を得ようとする姿に自然も眉根に皺が寄る。

 オレは媚を売るのに全振りしているΩが大嫌いだ。

 Ωだからといってαに庇護されて当たり前の考えが嫌いだ。しかし、そういう家が一定数いるのは分かっている。
 多分うちが「バース性は関係ない、自分の能力を活かせ」という家系だからだろうけど。だからオレのΩ性は仕事で武器だと思ってる。インペリアルという後ろ盾のお陰で自分の手で活躍できる場があるからかもしれないが、外に目を向けずαを漁りゲットして周りにマウントを取る行為が良いとは全く思えない。

「宏太」

「愛加」

 声をかけると嬉しそうにオレの名前を呼ぶ宏太にムッとした女生徒が睨んでくる。

「ちょっと、今私が北大路くんと話してるんだから邪魔しないでくれる?」

 そう言いながら腕に胸を押し付けるようにぎゅうぎゅうと抱きついている。

「いや、あんた王子が嫌そうな顔してんの分かんない?目悪いの?」

「はあ?どこがよ。私達はね、『運命』なのよ。これから愛し合うんだから」

「えっ?」

 突っ込みを入れた井上だけじゃなくその場にいたオレ達も呆気に取られる。それを驚きと取った女生徒が高飛車な笑顔を見せる。

「そういう事なの。ね、北大路く……ん?」

 宏太の無表情に気づいた女生徒が狼狽える。宏太は無言で腕を振り払い、自分の席にある鞄からウエットテッシュを取り出し触られたトコを拭き始めた。この光景も中等部で偶に見たなぁ。

「なっ!」

「『運命』って何?口説き文句?運命感じてんのあんただけじゃん」

 ゲラゲラと笑い出した井上に顔を真っ赤にして睨んでいる。煽るの上手いな井上。

「宏太!」

 バタバタと次晴さんとキョンちゃん先輩が後ろに数人連れて走って来て女生徒を確認し、次晴さんが指示を出しわめかれながらも何処かへ連れていってしまう。

「悪いな、朝のミーティングをしていて遅れた」

 頭を掻きながらキョンちゃん先輩が渋い顔をしている。昨日結成したばかりの親衛隊内での役割分担を話し合っていていたと申し訳なさそうに話す。

「まさか早速トラブルになるとは……宏太すまなかった」

 中等部と違いアグレッシブになる生徒が多く、今みたいな生徒を遠ざけたり、ヒートなどのトラブルを防いで普通に学園生活を遅れるようにするのが親衛隊らしい。

「宏太大丈夫?」

「愛加~あのΩ臭かった~」

 そう言って抱きつき、項に顔をつけすんすんとオレの匂いを嗅ぎまくっている宏太をよしよししてやる。

「まて、あの女生徒から匂いがしたのか?」

 苦い表情をしていたキョンちゃん先輩が険しい顔になる。

「そうですね、Ωのヒートとは違うけど匂いがしました」

「外部生か?不味いな…これから俺や親衛隊を付けるから休み時間、1人で歩かないように。愛加もだ」

 2人が女生徒を外部生の可能性を示唆する。内部進学と言われる一~四宮出身であれば幼稚舎又は小等部からバース性を徹底管理されている為、αやΩの生徒は必ず抑制剤を毎日飲み、緊急抑制剤も所持している。小さい頃から学校と家庭でマナーとして叩き込まれているので、抑制剤を飲まずに生活をする事はまずない。
 しかし外部生は中学からバースが別れた生徒が多く、普通の中学校出身者が殆どでバース教育がしっかりなされておらず、フェロモンの影響や発情期ヒートを軽く見ている事が多く、抑制剤を飲み忘れたりわざと飲まない者もいる。
 特にΩが抑制剤を飲まずフェロモンを出しっぱなしにするのは襲ってくださいと言っているようなものだ。

「念の為教員と風紀、生徒会に報告しておくか」

「そうですね、新入生の意識改革は早めにしないと無駄なトラブルを招きかねませんからね」

 おおう、話が大きくなってる。でも宏太こっちも被害を被ってるし、オレも気分悪いからね。

 親衛隊結成を昨日出来たのは運がいい……風紀委員長の吉永さんが言っていたのが分かった気がする。ありがとうキョンちゃん先輩、次晴さん!


 ◇◇◇


「ふふっ、あんなんじゃダメだよねぇ。もっときちんと立ち回らないと」

「何よあんた」

「北大路宏太をものにしたいんだろ?協力してやるよ」

「はぁ?」

「僕に任せてよ。必ず番わせてやるよ。な、稲瀬」

「…………」

「顔を歪ませてやんよ、姫川愛加」





 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 ☆ミニ情報☆
 貴島と白畑は中等部から付き合ってます。出会いは貴島が茶道を習いに行った先に白畑がいたこと。
 その時貴島は白畑を女の子と勘違いしてぐいぐい距離を詰め、のち男の子と分かりショックを受ける。
 しかし「男の子でもいいんじゃね?しかも見た目Ωっぽいし」と開き直った貴島は仲を深めていくが、結局白畑がα判定を受ける。
 その頃には性別バース関係なく惚れていた為、猛アタックして付き合う事になる。
 初エッチは中等部の卒業式の日。貴島ががっつきすぎて白畑は3日間寝込む。
 両方の親公認の仲。
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