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入学編

親衛隊結成となりました

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「あー、オムライスぅ」

 最後まで食べられなかったオムライスを想い机に突っ伏す。また騒ぎになる前に教室に戻ったのは正解だと思うけど残したオムライスが……最後のトコが一番美味しい気がするのに悔しい!

「ほら元気出して」

「うー」

 宏太に頭をポンポンされるが気持ちは沈んだままである。

「まあまあまあ、気持ち切り替えてさ!姫川はどこの部活を見学するんだ?」

 オレの淀んだ空気を変えるように井上が話を振ってくる。

「オレ帰宅部」

「えー、つまんねぇじゃん。どっか入れば?」

「これから本格的にモデル活動するから無理」

「えっ?モデルやってたの?」

「今まではうちのブランドのお得意様限定のカタログだけしかやってなかったけど、一般向けもやる事になった」

「ブランドって?俺でも知ってるトコ?」

「ああ、『Imperialインペリアル』だよ」

「インペリアル⁉インペリアルってあのインペリアル⁉超有名ブランドじゃんか!すげぇ!」

 うひーって変な声を出して井上が驚いている。

「宏太もだぞー」

「マジで⁉」

「うん、僕は3年間限定だけどね。だから僕も部活には入らないよ」

「王子と姫のコラボレーション……最強じゃね?」

「白畑と貴島は茶道部?」

 妙にハイテンションになった井上は放っておく。

「うん」

 白畑は茶道の家元の家に産まれ今家元候補として修行中らしい。貴島の家は和菓子を全国展開させていて和菓子専門学校まで経営している。
 学園の茶道部で扱う茶菓子も貴島の家から調達しているらしい。

「白畑は息抜きだけど俺は人脈作りかな」

「ふふっ、貴島は商売人だよね」

 どうやら学園の茶道部は緩いらしく、白畑は修行の息抜きの為に入り貴島は商品をアピールする為に入るようだ。茶道の修行厳しそうだもんなぁ。

「白畑が茶道部かー、ぽいぽい」

 切れ長の目に色白、艶のある黒髪で真ん中分けの坊ちゃんカットの白畑は普段の所作から優雅で井上が頷くのも分かる。
 いつも一緒にいる貴島は家から「和菓子を扱うなら茶道を窘め!」と言われて習いに来た時からの仲らしい。あのツンツンヘアは毎日セットするのが大変そうである。

「そういうお前はどうなんだ?」

「俺?俺は空手部」

「へえ、細身だから以外」

「まだ成長段階なんだよ!北大路と姫川は知ってるか?二宮出身で八重樫って人なんだけど、ここの空手部にいて凄く強いんだ。中等部の練習試合で見て惚れたんだよ!カッチョよくて憧れてんだ」

 シュッシュッと素振りをしながらいかに凄いか熱く語り出しその熱量に少し引く。井上は語り出すと止まらないタイプのようだ。

「姫川いるか」

 語り続けられ聞くのが疲れてきた時、教室の入口から声をかけられ、見ると背が高くがたいのいい生徒と眼鏡をかけ少し目の鋭い生徒の姿がある。

「キョンちゃん先輩!」

「宏太も来て」

 オレと宏太が2人の傍に行くと井上が「八重樫さん⁉姫川八重樫さんと知り合いなのか⁉」という興奮した声が聞こえ、そういえばキョンちゃん先輩って名字八重樫だったのを思い出す。

「お前ら食堂でやらかしたなぁ」

 ニヤニヤと笑うキョンちゃん先輩は2個上の3年生。短髪でがっしりとした体型で空手部の部長だ。そして宏太を呼んだ隣の眼鏡の先輩は鹿島次晴、宏太の従兄弟だ。

「オレのせいじゃないよ」

「分かってる。帝だろ。アイツ仕方ねぇな」

「少し考えて行動してほしいものです」

「ま、しゃーねぇか。でもよ、ちょっとマズい事に騒動が既にかなり広まってるんだよな」

「マジで?」

「本当ですよ。実際食堂にいなかった俺達にも話が回ってきましたからね」

 マジかー。中等部でもそうだったけど生徒会の人気は絶大だ。
 特に会長である帝惟親の人気は別な場所にある二宮にも聞こえてくるくらい凄い。中等部は通学だったから逃げ道はあったけど高等部は全寮制、目を付けられたらどこで何があるか分からない。

「二宮出身の親衛隊は姫川と帝が近しいのは知っているが他の奴らは知らないから、注意という名の制裁をしてくるかもしれない。
 帝の親衛隊は帝至上主義で特に親衛隊隊長の南城は帝に近づく者を許さない。今頃親衛隊に制裁の指示を出して帝に詰め寄ってるかもしれん。という訳で動くぞ、姫川と北大路の親衛隊を結成させる」

「数日様子見する予定だったけどしかたありませんね。書類は揃っています。今から生徒会室と風紀室に行きますよ」

 そう言って井上の「帰って来たら八重樫さんの事教えろよー!」という声をバックに背を向け歩き出す2人に付いていく。

「あーあ、これならうざったいと思ってた中等部のファンクラブの方がマシだったなぁ」

「そうだね、向こうは遠目に見ながらキャーキャー言うだけだったからね」

 頬を膨らませ不満を言うと

「そう言うな、高等部になると親の手伝いをして権力を持たされる奴が増えて必然的に上下関係ができるんだ。権力をかさにする奴が出てくる。そういうやからを取り締まるのが風紀、守るのが親衛隊だ」

「ファンクラブが親衛隊になったとでも思ってください。顔が突出して良かったり人気があると守る為に結成されますから」

「特殊な環境だよなぁ」

「でも愛加には必要でしょ。親衛隊がいるってだけで牽制にはなるしΩなんだ、学園内で守ってくれる人が多い事に越したことはないよ」

「そうだぞー。親衛隊の幹部は全員βとΩだから安心しろ」

「宏太の幹部はαとβで揃えてますからご安心を」

「オレ普通顔なのに親衛隊作るの申し訳ないなぁ。あ、イケメンの宏太の隣にいると嫉妬されるってコト?番でも?」

「「…………」」

「姫川家は皆んな派手な顔つきだから地味に感じるかもしれないけど愛加は清楚系の超美人だよ」

 小さい頃から一緒にいる宏太に言われてもピンとこない。だってうちの家族派手な美形揃いなんだよ。家族写真撮るとオレたけぼんやりして背景に溶け込む感じがハンパないんだぜ。

「まあ危機感持てって事だ」

 キョンちゃん先輩が呆れながらずんずんと生徒会室や委員会が入っている棟に足を運ぶ。
 親衛隊結成の申請は風紀委員会に提出するらしいが、食堂の件があるから先に生徒会室に顔出ししておいた方がいいとの事で生徒会室に向かう。
 生徒会室は委員会の教室の奥にあるのだが、近づくにつれ誰かが声を荒らげているのが聞こえる。

 やだ、修羅場⁉そこに突撃するの?怖いんですけど⁉

 思わず宏太の腕をぎゅっと掴んでしまう。キョンちゃん先輩と次晴さんがやっぱりという顔で生徒会室の扉をノックすると荒げた声がピタリと止み、「はい」という澄んだ声が聞こえてきた。

「3年の八重樫と鹿島です。新たに親衛隊を結成するので挨拶に来ました」

 どうぞという声に促され入ると教室を2つほどの広さに作業用の机と会議用の机に高級感がある応接セットが置かれてあり、壁一面に本棚と資料棚が占めている。奥には給湯室があるようだ。
 全体的にここは学校だよな?と首をひねりそうになるくらい学校感がない。机や椅子がいちいち高そうだし。良いとこのお坊ちゃんにヘタなものを使わせられないって事なのかもしれない。

 そしてそのお高そうな机の一番奥、椅子の肘掛けに両肘をつけ手を組みゆったりと座っているのがこの学園のトップ、会長の帝惟親だ。その近くに憮然と立っている華奢な男子生徒を困った顔で他の役員が見ている構図。

 先ほどの声はその2人の修羅場なんだな、理解した!

「貴様!!帝様に不埒な事をされたヤツだな⁉」

「ひょえ!!」

 先輩2人に続いて入ってきたオレを見ると華奢な男子生徒が大きな瞳を見開きプルプルと指を指してくる。
 地獄の底から響くような低い声につい宏太の後ろに隠れてしまう。

 怖え!あの人絶対会長の親衛隊長でしょ。飛びかかろうとしてキョンちゃん先輩にアイアンクローされてるんだけど⁉

 見た目と違って沸点低すぎじゃね⁉
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