27 / 35
うっかり渡っちゃった編
マモン勧誘す
しおりを挟む
「くそくそくそっ!王子様は僕のなのに!」
今回異世界に渡る任に選ばれたのに、神のうっかりで渡れなくなってしまった夕凪は密かに荒れていた。
外では猫を被り良い子を演じているので、物を投げたり暴れるのは部屋の中だけ。渡れなくて同情をえるように悲しそうな態度を取るが、心の中では悪態をついている。
神狐族の中で底辺である茶毛一尾で産まれた夕凪は、向上心がバカ高く嫉妬心も大きい。
同時期に産まれた玉藻が族長の息子として産まれただけでも羨ましいのに、神力が多い白銀九尾という珍しい毛色と尻尾の多さと誰が見ても可愛いと声を上げるほどの容姿。そして神のお気に入り。そう、平凡な夕凪にとって玉藻の全てが妬みの対象だった。
渡りは並の眷属では見る事すら叶わない神から直接任を任される誉れある役目で、指名された者は周りから羨望の目を向けられる。今回任を玉藻より自分に任された事に自尊心が満たされていた。実際は玉藻は産まれた時から神の側に置かれる事が決められていた為、渡る候補から外されていただけなのだがそれを夕凪は知らなかった。
それなのに夕凪の代わりに玉藻が渡ってしまった。
原因は神なのだが夕凪の怒りは玉藻に向いている。
神力が強い者にありがちな強気な性格ではなくぽやぽやとした性格、甘え上手で周りから愛され、夕凪が話しかけても華炎と黒曜は相手にしてくれないのに玉藻には甘い顔をする。2人は媚びるように話しかける夕凪に嫌悪感を持っていてその態度になっているのだが、夕凪は気づいていない。
(あーーー!今回王子様と運命で結ばれて権力財力を手にして愛されるはずだったのに!)
魔族襲来を退けるという本来の目的をすっかり忘れ、王子とのラブロマンスを繰り広げる妄想しか頭に無い夕凪は今怒りを枕にぶつけているのである。
「ハハッ、嫉妬と怒り・・・・・・いいねぇ」
「誰っ⁉」
自分しかいないはずの部屋に響いた声に肩を震わせる部屋を見渡すと、何もない空間に切れ目が入っていてそこから少年が面白そうに夕凪を見ていた。黒髪に赤い目の綺麗な顔は、何度か玉藻達と話しているのを遠目から見たことがあった。
「なあお前、俺と玉藻が渡った世界に行かないか」
「はあ?お前魔族だろ。何か企んでそうなんだけど目的は何?」
夕凪としては渡るはずだった世界に行くのは願ったりだが、魔族が善意で連れていくとは思っておらず警戒する。
「なあに、俺はちょっと引っ掻き回して手に入れたいものがあるだけだ。でもまあ俺の願いを聞いてくれるならお前の王子様に会わせてやるよ」
「・・・・・・願いって?」
「玉藻を俺の所に連れてくること。簡単だろ」
確かに一族の中で底辺とはいえ異世界に渡った夕凪は強者の部類になると聞いていたから簡単だろう。でも簡単すぎないか?とぐるぐると考えていると目の前の少年がただし、と付け加える。
「無傷でな」
それなら警戒心のカケラもない玉藻など夕凪の口車にのり簡単に連れて来れるはず。余裕じゃないかとほくそ笑む。
「それだけ?」
「ああ、それだけだ」
「いいよ、お前と一緒に異世界に行くよ」
「契約成立だ」
そういう夕凪にニヤリと笑みを浮かべ手を差し出す少年。その手を迷いなく取ると夕凪の手首が淡く光り契約紋が浮かび上がる。
「何これ」
「契約成立の証だ。お前が玉藻を連れて来た時点で消える」
「ふうん・・・」
あまり気にしていない夕凪だが契約紋を手首にされる前にしっかりと契約内容を聞いておけば良かったと、それ以前に知っていれば始めから契約しなかったと後悔するのは異世界に渡ってすぐだとは魔族の事に疎い夕凪はまだ知る由もない。
「よし行くぞ」
「ちょっと待って!僕何も準備してない!」
「大丈夫だ。向こうで全て用意してやる」
「わっ!」
その日から夕凪の姿は神域から消える事になる。
永遠に。
今回異世界に渡る任に選ばれたのに、神のうっかりで渡れなくなってしまった夕凪は密かに荒れていた。
外では猫を被り良い子を演じているので、物を投げたり暴れるのは部屋の中だけ。渡れなくて同情をえるように悲しそうな態度を取るが、心の中では悪態をついている。
神狐族の中で底辺である茶毛一尾で産まれた夕凪は、向上心がバカ高く嫉妬心も大きい。
同時期に産まれた玉藻が族長の息子として産まれただけでも羨ましいのに、神力が多い白銀九尾という珍しい毛色と尻尾の多さと誰が見ても可愛いと声を上げるほどの容姿。そして神のお気に入り。そう、平凡な夕凪にとって玉藻の全てが妬みの対象だった。
渡りは並の眷属では見る事すら叶わない神から直接任を任される誉れある役目で、指名された者は周りから羨望の目を向けられる。今回任を玉藻より自分に任された事に自尊心が満たされていた。実際は玉藻は産まれた時から神の側に置かれる事が決められていた為、渡る候補から外されていただけなのだがそれを夕凪は知らなかった。
それなのに夕凪の代わりに玉藻が渡ってしまった。
原因は神なのだが夕凪の怒りは玉藻に向いている。
神力が強い者にありがちな強気な性格ではなくぽやぽやとした性格、甘え上手で周りから愛され、夕凪が話しかけても華炎と黒曜は相手にしてくれないのに玉藻には甘い顔をする。2人は媚びるように話しかける夕凪に嫌悪感を持っていてその態度になっているのだが、夕凪は気づいていない。
(あーーー!今回王子様と運命で結ばれて権力財力を手にして愛されるはずだったのに!)
魔族襲来を退けるという本来の目的をすっかり忘れ、王子とのラブロマンスを繰り広げる妄想しか頭に無い夕凪は今怒りを枕にぶつけているのである。
「ハハッ、嫉妬と怒り・・・・・・いいねぇ」
「誰っ⁉」
自分しかいないはずの部屋に響いた声に肩を震わせる部屋を見渡すと、何もない空間に切れ目が入っていてそこから少年が面白そうに夕凪を見ていた。黒髪に赤い目の綺麗な顔は、何度か玉藻達と話しているのを遠目から見たことがあった。
「なあお前、俺と玉藻が渡った世界に行かないか」
「はあ?お前魔族だろ。何か企んでそうなんだけど目的は何?」
夕凪としては渡るはずだった世界に行くのは願ったりだが、魔族が善意で連れていくとは思っておらず警戒する。
「なあに、俺はちょっと引っ掻き回して手に入れたいものがあるだけだ。でもまあ俺の願いを聞いてくれるならお前の王子様に会わせてやるよ」
「・・・・・・願いって?」
「玉藻を俺の所に連れてくること。簡単だろ」
確かに一族の中で底辺とはいえ異世界に渡った夕凪は強者の部類になると聞いていたから簡単だろう。でも簡単すぎないか?とぐるぐると考えていると目の前の少年がただし、と付け加える。
「無傷でな」
それなら警戒心のカケラもない玉藻など夕凪の口車にのり簡単に連れて来れるはず。余裕じゃないかとほくそ笑む。
「それだけ?」
「ああ、それだけだ」
「いいよ、お前と一緒に異世界に行くよ」
「契約成立だ」
そういう夕凪にニヤリと笑みを浮かべ手を差し出す少年。その手を迷いなく取ると夕凪の手首が淡く光り契約紋が浮かび上がる。
「何これ」
「契約成立の証だ。お前が玉藻を連れて来た時点で消える」
「ふうん・・・」
あまり気にしていない夕凪だが契約紋を手首にされる前にしっかりと契約内容を聞いておけば良かったと、それ以前に知っていれば始めから契約しなかったと後悔するのは異世界に渡ってすぐだとは魔族の事に疎い夕凪はまだ知る由もない。
「よし行くぞ」
「ちょっと待って!僕何も準備してない!」
「大丈夫だ。向こうで全て用意してやる」
「わっ!」
その日から夕凪の姿は神域から消える事になる。
永遠に。
2
お気に入りに追加
270
あなたにおすすめの小説
皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ
手塚エマ
BL
テオクウィントス帝国では、
アルファ・べータ・オメガ全階層の女性のみが感染する奇病が蔓延。
特効薬も見つからないまま、
国中の女性が死滅する異常事態に陥った。
未婚の皇帝アルベルトも、皇太子となる世継ぎがいない。
にも関わらず、
子供が産めないオメガの少年に恋をした。


美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

有能官吏、料理人になる。〜有能で、皇帝陛下に寵愛されている自分ですが、このたび料理人になりました〜
𦚰阪 リナ
BL
琳国の有能官吏、李 月英は官吏だが食欲のない皇帝、凛秀のため、何かしなくてはならないが、何をしたらいいかさっぱるわからない。
だがある日、美味しい料理を作くれば、少しは気が紛れるのではないかと考え、厨房を見学するという名目で、厨房に来た。
そこで出逢った簫 完陽に料理人を料理を教えてもらうことに。
そのことがきっかけで月英は、料理の腕に目覚めて…?!
料理×BL×官吏のごちゃまぜ中華風お料理物語、ここに開幕!
拾った駄犬が最高にスパダリ狼だった件
竜也りく
BL
旧題:拾った駄犬が最高にスパダリだった件
あまりにも心地いい春の日。
ちょっと足をのばして湖まで採取に出かけた薬師のラスクは、そこで深手を負った真っ黒ワンコを見つけてしまう。
治療しようと近づいたらめちゃくちゃ威嚇されたのに、ピンチの時にはしっかり助けてくれた真っ黒ワンコは、なぜか家までついてきて…。
受けの前ではついついワンコになってしまう狼獣人と、お人好しな薬師のお話です。
★不定期:1000字程度の更新。
★他サイトにも掲載しています。
運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー
白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿)
金持ち社長・溺愛&執着 α × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω
幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。
ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。
発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう
離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。
すれ違っていく2人は結ばれることができるのか……
思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいαの溺愛、身分差ストーリー
★ハッピーエンド作品です
※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏
※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m
※フィクション作品です
※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです


王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる