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うっかり渡っちゃった編
モエル狂騒曲
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王宮からモエル侯爵邸へ帰って来たキャスリーナは、自分の部屋に戻り、バスケットから子狐を出しソファーへ置く。
「おかしいわね、元気がないみたい」
「お腹が空いているんじゃないでしょうか」
ぐったりしている子狐を見てメイドがそう言うと納得し、何か食べ物を持って来るように指示する。
メイドが食べ物を持って来る間子狐の両脇を掴み持ちじーっと見つめる。
「それにしても白銀の狐なんて珍しいわね。どこの誰のか知らないけど私が拾ったから私のものよ。ふふっ、みんなに自慢してやるんだから」
上機嫌でくるくると周り振り回すも子狐はぐったりとしたまま弱々しくきゅうんと鳴くだけ。メイドが持って来たミルクや生肉も口をつけない。
「旦那様にお聞きしたらいかがですか?」
「そうね、お父様に聞いてみましょ」
キャスリーナは子狐を抱き上げ部屋を出る。食堂に着くと、既に両親と下の兄ベンジャミンが席に着いていて待っていた。上の兄マックスは学園の寮に入っている為、ここにはいない。
「キャスリーナそれは何だい?」
「子狐です!拾いました!」
兄に聞かれ元気よく答える。それを母親はあらあらと微笑ましそうに見ている。
「へえ、珍しい色をしてるね。どこで拾ったんだい?裏庭かな?」
「王宮で拾いました!」
えっへん、どドヤ顔を決めるキャスリーナに両親や兄、そこにいるメイド達の動きが止まり、ピシリという空気が流れる。
「お・・・・・・王宮ぅ?」
父親であるモエル侯爵がうわずった声でキャスリーナに確認する。見ると目を見開き変な汗をかきグラスを持つ手が震えている。母親は真っ青になり両手で口を押さえている。兄は固まったままだ。
「はい、王宮で拾ったので持って帰りました!」
「メグーーーーー!!」
「はい~~~旦那様!!」
メグと呼ばれたキャスリーナ付きのメイドは、侯爵に悲鳴のような返事をし深々と頭を下げる。
「お前は何をやっていたんだ!!」
「申し訳ございません!」
「・・・・・・何故持ち帰ったか説明しろ」
「・・・はい」
さらに深く頭を下げるメグ。それを見て一度深く息を吐き、頭を上げ説明を求める。
「キャスリーナお嬢様は王子様との面会を断られ、中庭に行き花壇の花を抜き始めました」
「花を・・・・・・ぬきっ・・・」
この時点で母親はめまいを起こし、椅子の背もたれに寄りかかり額に手をあて上を向く。
「抜くのを止め手を拭いている時に子狐が庭に転がってきてお嬢様が持って帰ると・・・・・・」
「何故止めなかった!」
「止めましたがクビにすると言われて・・・・・・」
話を聞き侯爵は頭を抱える。屋敷で働いている侍従やメイドは全員子爵や男爵家の出で、下位貴族とあって王宮には侯爵家のお付き以外では登城する事はないが、登城するにあたって作法や約束事は叩き込まれている。
それはキャスリーナも同じ。それを理解出来ていなければ登城は出来ない。だからこそ今この状況に頭を抱えてしまっているのだ。
「キャスリーナ」
「はい!」
「何で子狐を持ち帰ったのだ?」
「それは珍しい色をしていたからです!それに周りに持ち主がいなかったし、わたしが拾ったからわたしのものです!」
「(うわぁぁぁぁぁぁ!!)」
見事なジャイアニズムを発動している娘に心の中で絶叫する。母親は魂が抜けた状態になっている。壁に並んでいるメイド達も一様にして顔が青い。
王宮の作法や約束事は色々あるが、その中に「王宮にあるものを故意に傷つけ破壊、持ち去る事を禁ず」という文言がある。周囲に持ち主がいないという事は即ち王宮のものの可能性が高い。下手をすると王族が飼い主という事も。
それでなくても拾ったから自分のものという考えは、貴族としてあるまじき考えである。
「ハッ!悠長な場合ではない!ラウロ、手紙を書くから王宮に馬を走らせてくれ!」
「分かりました!」
手紙を書く為に慌てて執事と食堂を後にする。一刻も早く事の次第を書き送らねば侯爵家がどうなるか分からないからだ。放って置くと最悪お取り潰しになる可能性もある。
食堂を出ていく父親の後ろ姿をキャスリーナだけがキョトンとした顔で見送るが、他の者はお通夜状態。母親に至っては抱えられるようにして部屋に戻って行く。
よく分からないのでキャスリーナはいつも通り食事をするが、ベンジャミンは半分以上残し言葉少なく自室へ戻って行く。
「なによ、みんな変なの。せっかく自慢しようと思ったのに」
そう言って不貞腐れるキャスリーナに周囲が「お前が原因だ!」とは思っても一応雇われている身なので口にしない。
◇◇◇◇◇
侯爵は執務室で震える手を叱咤し書き上げた手紙を屋敷にいる一番速い馬で王宮に走らせ、祈るように執務室で返事を待つ。どうか大した事ではありませんようにと。
しかし数刻後、使いが震えながら手渡してきた蝋封された手紙を読み侯爵は膝から崩れ落ちる。
「終わった・・・・・・」
そこには子狐が国王一家が保護しているものである事、女神アマンベール謁見時に連れて行く予定だった事、それが無くても王宮のものを持出した事は許されるものではない事、明日の朝、子狐を迎えに行く旨が書かれていた。
そしてそれまで子狐を丁重に扱うようにと。
「まずいぞ!」
慌ててキャスリーナの部屋に行くも、九本の尻尾全てにぎっちぎちにリボンをつけ、満足気に寝ている娘を見て屋敷に絶叫が響き渡ったのは夜も深くなる頃だった。
「おかしいわね、元気がないみたい」
「お腹が空いているんじゃないでしょうか」
ぐったりしている子狐を見てメイドがそう言うと納得し、何か食べ物を持って来るように指示する。
メイドが食べ物を持って来る間子狐の両脇を掴み持ちじーっと見つめる。
「それにしても白銀の狐なんて珍しいわね。どこの誰のか知らないけど私が拾ったから私のものよ。ふふっ、みんなに自慢してやるんだから」
上機嫌でくるくると周り振り回すも子狐はぐったりとしたまま弱々しくきゅうんと鳴くだけ。メイドが持って来たミルクや生肉も口をつけない。
「旦那様にお聞きしたらいかがですか?」
「そうね、お父様に聞いてみましょ」
キャスリーナは子狐を抱き上げ部屋を出る。食堂に着くと、既に両親と下の兄ベンジャミンが席に着いていて待っていた。上の兄マックスは学園の寮に入っている為、ここにはいない。
「キャスリーナそれは何だい?」
「子狐です!拾いました!」
兄に聞かれ元気よく答える。それを母親はあらあらと微笑ましそうに見ている。
「へえ、珍しい色をしてるね。どこで拾ったんだい?裏庭かな?」
「王宮で拾いました!」
えっへん、どドヤ顔を決めるキャスリーナに両親や兄、そこにいるメイド達の動きが止まり、ピシリという空気が流れる。
「お・・・・・・王宮ぅ?」
父親であるモエル侯爵がうわずった声でキャスリーナに確認する。見ると目を見開き変な汗をかきグラスを持つ手が震えている。母親は真っ青になり両手で口を押さえている。兄は固まったままだ。
「はい、王宮で拾ったので持って帰りました!」
「メグーーーーー!!」
「はい~~~旦那様!!」
メグと呼ばれたキャスリーナ付きのメイドは、侯爵に悲鳴のような返事をし深々と頭を下げる。
「お前は何をやっていたんだ!!」
「申し訳ございません!」
「・・・・・・何故持ち帰ったか説明しろ」
「・・・はい」
さらに深く頭を下げるメグ。それを見て一度深く息を吐き、頭を上げ説明を求める。
「キャスリーナお嬢様は王子様との面会を断られ、中庭に行き花壇の花を抜き始めました」
「花を・・・・・・ぬきっ・・・」
この時点で母親はめまいを起こし、椅子の背もたれに寄りかかり額に手をあて上を向く。
「抜くのを止め手を拭いている時に子狐が庭に転がってきてお嬢様が持って帰ると・・・・・・」
「何故止めなかった!」
「止めましたがクビにすると言われて・・・・・・」
話を聞き侯爵は頭を抱える。屋敷で働いている侍従やメイドは全員子爵や男爵家の出で、下位貴族とあって王宮には侯爵家のお付き以外では登城する事はないが、登城するにあたって作法や約束事は叩き込まれている。
それはキャスリーナも同じ。それを理解出来ていなければ登城は出来ない。だからこそ今この状況に頭を抱えてしまっているのだ。
「キャスリーナ」
「はい!」
「何で子狐を持ち帰ったのだ?」
「それは珍しい色をしていたからです!それに周りに持ち主がいなかったし、わたしが拾ったからわたしのものです!」
「(うわぁぁぁぁぁぁ!!)」
見事なジャイアニズムを発動している娘に心の中で絶叫する。母親は魂が抜けた状態になっている。壁に並んでいるメイド達も一様にして顔が青い。
王宮の作法や約束事は色々あるが、その中に「王宮にあるものを故意に傷つけ破壊、持ち去る事を禁ず」という文言がある。周囲に持ち主がいないという事は即ち王宮のものの可能性が高い。下手をすると王族が飼い主という事も。
それでなくても拾ったから自分のものという考えは、貴族としてあるまじき考えである。
「ハッ!悠長な場合ではない!ラウロ、手紙を書くから王宮に馬を走らせてくれ!」
「分かりました!」
手紙を書く為に慌てて執事と食堂を後にする。一刻も早く事の次第を書き送らねば侯爵家がどうなるか分からないからだ。放って置くと最悪お取り潰しになる可能性もある。
食堂を出ていく父親の後ろ姿をキャスリーナだけがキョトンとした顔で見送るが、他の者はお通夜状態。母親に至っては抱えられるようにして部屋に戻って行く。
よく分からないのでキャスリーナはいつも通り食事をするが、ベンジャミンは半分以上残し言葉少なく自室へ戻って行く。
「なによ、みんな変なの。せっかく自慢しようと思ったのに」
そう言って不貞腐れるキャスリーナに周囲が「お前が原因だ!」とは思っても一応雇われている身なので口にしない。
◇◇◇◇◇
侯爵は執務室で震える手を叱咤し書き上げた手紙を屋敷にいる一番速い馬で王宮に走らせ、祈るように執務室で返事を待つ。どうか大した事ではありませんようにと。
しかし数刻後、使いが震えながら手渡してきた蝋封された手紙を読み侯爵は膝から崩れ落ちる。
「終わった・・・・・・」
そこには子狐が国王一家が保護しているものである事、女神アマンベール謁見時に連れて行く予定だった事、それが無くても王宮のものを持出した事は許されるものではない事、明日の朝、子狐を迎えに行く旨が書かれていた。
そしてそれまで子狐を丁重に扱うようにと。
「まずいぞ!」
慌ててキャスリーナの部屋に行くも、九本の尻尾全てにぎっちぎちにリボンをつけ、満足気に寝ている娘を見て屋敷に絶叫が響き渡ったのは夜も深くなる頃だった。
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