白銀の狐は異世界にうっかり渡り幸せになる

ネコフク

文字の大きさ
上 下
11 / 35
うっかり渡っちゃった編

とある女の子の話

しおりを挟む
 王宮にある小さな庭。

 その女の子はふくれっ面になりながら侍女を連れ、花壇に咲いていた花を止めるのを聞かず、ブチブチと引っこ抜いていた。

「(ああもう、最悪だわ!)」

 不機嫌の原因はジークフリート王子との面会を断られたからである。

 王子より一つ上で名前はキャスリーナ=モエル、モエル侯爵家の末娘だ。兄2人とは年が離れており、念願の女の子という事もあって必要以上に可愛がられて育った結果、何でも思い通りになると思うようになってしまった。

 そして王子様とお姫様の童話を読んで「わたし王子様と結婚してお姫様になる!」と5歳にして王子と結婚させろと無茶な願いを両親にすることとなる。

 普通の親ならハイハイ可愛いお願いね、とスルーするかたしなめ、子供もそうなればいいなぁくらいの思いしか持たないだろう。

 ところがどっこい、キャスリーナは思い通りになると思っているので窘めてもお菓子やオモチャで釣っても「やだ、結婚するの!」と根性を出し、屋敷の中だろうが店の中だろうが思い出した途端、寝転がりながら暴れた。

 末娘に甘い両親はだったらと国王に釣り書を送るが、即日送り返され「王子のバースが確定するまで婚約者は決めない」と各上位爵家に「だからお前ら釣り書をよこすんじゃねーぞ」という含みのあるお達しが出る切っ掛けを作ってしまった。

 国王のお達しが出てしまったのでキャスリーナに男女の他にα、β、Ωというバースがある事、王子がもしΩの場合αではないと結婚出来ない事を懇々と説明し、納得いかないまでも頷いたので両親は安心していた。

 が、キャスリーナはそれしきで諦めてはいなかった。
 釣り書がダメなら直接会いに行けばいいでしょ、と。可愛いわたしが会いに行けば王子様は自分の事を好きになるし、結婚したくなるはずだと。

 自己肯定感を高め過ぎた思考は都合の良いことだけをはじき出すものである。

 ここまでキャスリーナが王子との結婚を強く望むのは、童話を読んだだけではない。たまたま見たジークフリート王子の絵姿に一目惚れしたからだ。

 そこで無理矢理父親にくっ付いて登城し、王子に面会を申し込んだが断られてからのお花ブチブチである。

「(会ってもらえなきゃわたしの可愛さが分からないじゃない!王子が他の子と仲良くなる前にわたしが仲良くならなくちゃ!)」

 確かにキャスリーナは可愛らしい顔をしているが、上位貴族になるほど見目の良いαやΩが多い為、自分より可愛い子はゴロゴロいるという事を、まだ他家と交流する前のキャスリーナは知らない。

「お・・・お嬢様、お止めください」

 何度目かの侍女の制止にキャスリーナはピタリと花を抜くのを止める。やっと聞いてもらえたと侍女は安堵しているが、ただ単に飽きただけである。

「あら?」

 汚れた手を濡れたタオルで拭いてもらっていると、白っぽいものが廊下からゴロゴロと庭に転がってくる。

 これは玉藻が王族のプライベートエリアから出た廊下が全て大理石で出来ていて、走って止まろうとしても滑ってしまい、転がってしまった結果である。

「あれは何かしら?」

「お嬢様!」

 侍女の制止も聞かず白っぽいものに近づくと、くたりとした生き物だった。白だと思ったのは白銀の毛並みで、尻尾が九本あり、子供でも抱えられるほどの動物だった。

「何これ、見たこともない動物だわ」

 触り心地が良さそうな尻尾を一本握るとギャン!と鳴いたソレをそのまま持ち上げる。

「お嬢様!尻尾を持ってはいけません!」

 慌てて侍女が止めるも、そのままブラブラとさせたまま見ると、痛いのか両手足をバタバタさせている。

「ふうん、結構可愛いわね。この尻尾全部くっついてあるのかしら?」

 そう言うともう片方の手で別な尻尾を握る。

「ギャン!」

「へえ、くっついているのね」

 興味深そうにキャスリーナは尻尾を握ったり引っ張ったりし、その度にギャンと鳴くので侍女は聞いていられなくて耳を塞いで目を閉じている。

 キャスリーナが満足し地面に降ろした頃にはぐったりして動かなくなっていた。

「決めた、家に持って帰るわよ」

「だっ、駄目ですよ!王宮のものは持ち出し禁止です!」

「はあ?わたしが持って帰りたいんだからいいの!それに持ち主なんて見当たらないじゃない。そのバスケットに入れるわよ」

「本当駄目なんですってば~」

「うるさい!クビにするわよ!」

 止めるも全く聞かないキャスリーナは侍女を急かしバスケットを開けさせる。

「あら?首輪をしてるわね」

「ほら、やっぱり持ち主がいるんですよ!」

「こんなセンスのない首輪をさせる貴族なんて貧乏貴族よ。うちはなんたって侯爵家よ。お金で黙らせられるわ」

 そう言うと首輪を外し、髪に着けていたリボンを蝶々結びで着ける。

「グゥ・・・・・・」

「ほら、こっちの方が可愛い」

 加減を知らないキャスリーナが結んだので苦しそうな鳴き声が聞こえ、居た堪れなくなった侍女がこっそりと結び直す。

 バスケットにしまうと丁度父親が向かえに来たので、上機嫌で馬車に乗り王宮を後にする。

 その動物を侯爵邸へ持ち帰った事が王宮で騒動となり、侯爵家がどうなるのかキャスリーナはまだ知らない。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

皇帝にプロポーズされても断り続ける最強オメガ

手塚エマ
BL
テオクウィントス帝国では、 アルファ・べータ・オメガ全階層の女性のみが感染する奇病が蔓延。 特効薬も見つからないまま、 国中の女性が死滅する異常事態に陥った。 未婚の皇帝アルベルトも、皇太子となる世継ぎがいない。 にも関わらず、 子供が産めないオメガの少年に恋をした。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

有能官吏、料理人になる。〜有能で、皇帝陛下に寵愛されている自分ですが、このたび料理人になりました〜

𦚰阪 リナ
BL
琳国の有能官吏、李 月英は官吏だが食欲のない皇帝、凛秀のため、何かしなくてはならないが、何をしたらいいかさっぱるわからない。 だがある日、美味しい料理を作くれば、少しは気が紛れるのではないかと考え、厨房を見学するという名目で、厨房に来た。 そこで出逢った簫 完陽に料理人を料理を教えてもらうことに。 そのことがきっかけで月英は、料理の腕に目覚めて…?! 料理×BL×官吏のごちゃまぜ中華風お料理物語、ここに開幕!

拾った駄犬が最高にスパダリ狼だった件

竜也りく
BL
旧題:拾った駄犬が最高にスパダリだった件 あまりにも心地いい春の日。 ちょっと足をのばして湖まで採取に出かけた薬師のラスクは、そこで深手を負った真っ黒ワンコを見つけてしまう。 治療しようと近づいたらめちゃくちゃ威嚇されたのに、ピンチの時にはしっかり助けてくれた真っ黒ワンコは、なぜか家までついてきて…。 受けの前ではついついワンコになってしまう狼獣人と、お人好しな薬師のお話です。 ★不定期:1000字程度の更新。 ★他サイトにも掲載しています。

運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー

白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿) 金持ち‪社長・溺愛&執着 α‬ × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω 幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。 ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。 発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう 離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。 すれ違っていく2人は結ばれることができるのか…… 思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいα‬の溺愛、身分差ストーリー ★ハッピーエンド作品です ※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏 ※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m ※フィクション作品です ※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです

元ベータ後天性オメガ

桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。 ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。 主人公(受) 17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。 ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。 藤宮春樹(ふじみやはるき) 友人兼ライバル(攻) 金髪イケメン身長182cm ベータを偽っているアルファ 名前決まりました(1月26日) 決まるまではナナシくん‥。 大上礼央(おおかみれお) 名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥ ⭐︎コメント受付中 前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。 宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

処理中です...