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うっかり渡っちゃった編
とある女の子の話
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王宮にある小さな庭。
その女の子はふくれっ面になりながら侍女を連れ、花壇に咲いていた花を止めるのを聞かず、ブチブチと引っこ抜いていた。
「(ああもう、最悪だわ!)」
不機嫌の原因はジークフリート王子との面会を断られたからである。
王子より一つ上で名前はキャスリーナ=モエル、モエル侯爵家の末娘だ。兄2人とは年が離れており、念願の女の子という事もあって必要以上に可愛がられて育った結果、何でも思い通りになると思うようになってしまった。
そして王子様とお姫様の童話を読んで「わたし王子様と結婚してお姫様になる!」と5歳にして王子と結婚させろと無茶な願いを両親にすることとなる。
普通の親ならハイハイ可愛いお願いね、とスルーするか窘め、子供もそうなればいいなぁくらいの思いしか持たないだろう。
ところがどっこい、キャスリーナは思い通りになると思っているので窘めてもお菓子やオモチャで釣っても「やだ、結婚するの!」と根性を出し、屋敷の中だろうが店の中だろうが思い出した途端、寝転がりながら暴れた。
末娘に甘い両親はだったらと国王に釣り書を送るが、即日送り返され「王子のバースが確定するまで婚約者は決めない」と各上位爵家に「だからお前ら釣り書をよこすんじゃねーぞ」という含みのあるお達しが出る切っ掛けを作ってしまった。
国王のお達しが出てしまったのでキャスリーナに男女の他にα、β、Ωというバースがある事、王子がもしΩの場合αではないと結婚出来ない事を懇々と説明し、納得いかないまでも頷いたので両親は安心していた。
が、キャスリーナはそれしきで諦めてはいなかった。
釣り書がダメなら直接会いに行けばいいでしょ、と。可愛いわたしが会いに行けば王子様は自分の事を好きになるし、結婚したくなるはずだと。
自己肯定感を高め過ぎた思考は都合の良いことだけをはじき出すものである。
ここまでキャスリーナが王子との結婚を強く望むのは、童話を読んだだけではない。たまたま見たジークフリート王子の絵姿に一目惚れしたからだ。
そこで無理矢理父親にくっ付いて登城し、王子に面会を申し込んだが断られてからのお花ブチブチである。
「(会ってもらえなきゃわたしの可愛さが分からないじゃない!王子が他の子と仲良くなる前にわたしが仲良くならなくちゃ!)」
確かにキャスリーナは可愛らしい顔をしているが、上位貴族になるほど見目の良いαやΩが多い為、自分より可愛い子はゴロゴロいるという事を、まだ他家と交流する前のキャスリーナは知らない。
「お・・・お嬢様、お止めください」
何度目かの侍女の制止にキャスリーナはピタリと花を抜くのを止める。やっと聞いてもらえたと侍女は安堵しているが、ただ単に飽きただけである。
「あら?」
汚れた手を濡れたタオルで拭いてもらっていると、白っぽいものが廊下からゴロゴロと庭に転がってくる。
これは玉藻が王族のプライベートエリアから出た廊下が全て大理石で出来ていて、走って止まろうとしても滑ってしまい、転がってしまった結果である。
「あれは何かしら?」
「お嬢様!」
侍女の制止も聞かず白っぽいものに近づくと、くたりとした生き物だった。白だと思ったのは白銀の毛並みで、尻尾が九本あり、子供でも抱えられるほどの動物だった。
「何これ、見たこともない動物だわ」
触り心地が良さそうな尻尾を一本握るとギャン!と鳴いたソレをそのまま持ち上げる。
「お嬢様!尻尾を持ってはいけません!」
慌てて侍女が止めるも、そのままブラブラとさせたまま見ると、痛いのか両手足をバタバタさせている。
「ふうん、結構可愛いわね。この尻尾全部くっついてあるのかしら?」
そう言うともう片方の手で別な尻尾を握る。
「ギャン!」
「へえ、くっついているのね」
興味深そうにキャスリーナは尻尾を握ったり引っ張ったりし、その度にギャンと鳴くので侍女は聞いていられなくて耳を塞いで目を閉じている。
キャスリーナが満足し地面に降ろした頃にはぐったりして動かなくなっていた。
「決めた、家に持って帰るわよ」
「だっ、駄目ですよ!王宮のものは持ち出し禁止です!」
「はあ?わたしが持って帰りたいんだからいいの!それに持ち主なんて見当たらないじゃない。そのバスケットに入れるわよ」
「本当駄目なんですってば~」
「うるさい!クビにするわよ!」
止めるも全く聞かないキャスリーナは侍女を急かしバスケットを開けさせる。
「あら?首輪をしてるわね」
「ほら、やっぱり持ち主がいるんですよ!」
「こんなセンスのない首輪をさせる貴族なんて貧乏貴族よ。うちはなんたって侯爵家よ。お金で黙らせられるわ」
そう言うと首輪を外し、髪に着けていたリボンを蝶々結びで着ける。
「グゥ・・・・・・」
「ほら、こっちの方が可愛い」
加減を知らないキャスリーナが結んだので苦しそうな鳴き声が聞こえ、居た堪れなくなった侍女がこっそりと結び直す。
バスケットにしまうと丁度父親が向かえに来たので、上機嫌で馬車に乗り王宮を後にする。
その動物を侯爵邸へ持ち帰った事が王宮で騒動となり、侯爵家がどうなるのかキャスリーナはまだ知らない。
その女の子はふくれっ面になりながら侍女を連れ、花壇に咲いていた花を止めるのを聞かず、ブチブチと引っこ抜いていた。
「(ああもう、最悪だわ!)」
不機嫌の原因はジークフリート王子との面会を断られたからである。
王子より一つ上で名前はキャスリーナ=モエル、モエル侯爵家の末娘だ。兄2人とは年が離れており、念願の女の子という事もあって必要以上に可愛がられて育った結果、何でも思い通りになると思うようになってしまった。
そして王子様とお姫様の童話を読んで「わたし王子様と結婚してお姫様になる!」と5歳にして王子と結婚させろと無茶な願いを両親にすることとなる。
普通の親ならハイハイ可愛いお願いね、とスルーするか窘め、子供もそうなればいいなぁくらいの思いしか持たないだろう。
ところがどっこい、キャスリーナは思い通りになると思っているので窘めてもお菓子やオモチャで釣っても「やだ、結婚するの!」と根性を出し、屋敷の中だろうが店の中だろうが思い出した途端、寝転がりながら暴れた。
末娘に甘い両親はだったらと国王に釣り書を送るが、即日送り返され「王子のバースが確定するまで婚約者は決めない」と各上位爵家に「だからお前ら釣り書をよこすんじゃねーぞ」という含みのあるお達しが出る切っ掛けを作ってしまった。
国王のお達しが出てしまったのでキャスリーナに男女の他にα、β、Ωというバースがある事、王子がもしΩの場合αではないと結婚出来ない事を懇々と説明し、納得いかないまでも頷いたので両親は安心していた。
が、キャスリーナはそれしきで諦めてはいなかった。
釣り書がダメなら直接会いに行けばいいでしょ、と。可愛いわたしが会いに行けば王子様は自分の事を好きになるし、結婚したくなるはずだと。
自己肯定感を高め過ぎた思考は都合の良いことだけをはじき出すものである。
ここまでキャスリーナが王子との結婚を強く望むのは、童話を読んだだけではない。たまたま見たジークフリート王子の絵姿に一目惚れしたからだ。
そこで無理矢理父親にくっ付いて登城し、王子に面会を申し込んだが断られてからのお花ブチブチである。
「(会ってもらえなきゃわたしの可愛さが分からないじゃない!王子が他の子と仲良くなる前にわたしが仲良くならなくちゃ!)」
確かにキャスリーナは可愛らしい顔をしているが、上位貴族になるほど見目の良いαやΩが多い為、自分より可愛い子はゴロゴロいるという事を、まだ他家と交流する前のキャスリーナは知らない。
「お・・・お嬢様、お止めください」
何度目かの侍女の制止にキャスリーナはピタリと花を抜くのを止める。やっと聞いてもらえたと侍女は安堵しているが、ただ単に飽きただけである。
「あら?」
汚れた手を濡れたタオルで拭いてもらっていると、白っぽいものが廊下からゴロゴロと庭に転がってくる。
これは玉藻が王族のプライベートエリアから出た廊下が全て大理石で出来ていて、走って止まろうとしても滑ってしまい、転がってしまった結果である。
「あれは何かしら?」
「お嬢様!」
侍女の制止も聞かず白っぽいものに近づくと、くたりとした生き物だった。白だと思ったのは白銀の毛並みで、尻尾が九本あり、子供でも抱えられるほどの動物だった。
「何これ、見たこともない動物だわ」
触り心地が良さそうな尻尾を一本握るとギャン!と鳴いたソレをそのまま持ち上げる。
「お嬢様!尻尾を持ってはいけません!」
慌てて侍女が止めるも、そのままブラブラとさせたまま見ると、痛いのか両手足をバタバタさせている。
「ふうん、結構可愛いわね。この尻尾全部くっついてあるのかしら?」
そう言うともう片方の手で別な尻尾を握る。
「ギャン!」
「へえ、くっついているのね」
興味深そうにキャスリーナは尻尾を握ったり引っ張ったりし、その度にギャンと鳴くので侍女は聞いていられなくて耳を塞いで目を閉じている。
キャスリーナが満足し地面に降ろした頃にはぐったりして動かなくなっていた。
「決めた、家に持って帰るわよ」
「だっ、駄目ですよ!王宮のものは持ち出し禁止です!」
「はあ?わたしが持って帰りたいんだからいいの!それに持ち主なんて見当たらないじゃない。そのバスケットに入れるわよ」
「本当駄目なんですってば~」
「うるさい!クビにするわよ!」
止めるも全く聞かないキャスリーナは侍女を急かしバスケットを開けさせる。
「あら?首輪をしてるわね」
「ほら、やっぱり持ち主がいるんですよ!」
「こんなセンスのない首輪をさせる貴族なんて貧乏貴族よ。うちはなんたって侯爵家よ。お金で黙らせられるわ」
そう言うと首輪を外し、髪に着けていたリボンを蝶々結びで着ける。
「グゥ・・・・・・」
「ほら、こっちの方が可愛い」
加減を知らないキャスリーナが結んだので苦しそうな鳴き声が聞こえ、居た堪れなくなった侍女がこっそりと結び直す。
バスケットにしまうと丁度父親が向かえに来たので、上機嫌で馬車に乗り王宮を後にする。
その動物を侯爵邸へ持ち帰った事が王宮で騒動となり、侯爵家がどうなるのかキャスリーナはまだ知らない。
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