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【8】再始動
迷い、戸惑い、そして理不尽
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ローズの助けによって沙蘭に到着した。
フィリップスで沙蘭が復興した知らせを見た。だが実際は、以前よりきれいなものだと感じた。ミティアはここにいる。もしかしたら、ケーシスも一緒かもしれない。ただ、再会の期待とは別に、不穏な話も耳にした。
やけに静かだ。
竜次が違和感を口にした。
「門番が不在とは、やはり何かあったのでしょうか」
かつて、また来るかもしれない、帰って来るかもしれないと話した沙蘭だ。感情が高ぶる。竜次とジェフリーは特にそうだった。
門番はスプリングフォレストからの動物や、訪問者を見張るものだが、不在でも大きな問題ではない。山菜狩りや、散歩しに行く人だっているのだから。
トランスポートの小箱を持っていたローズが、今度はタブレット端末を持っている。
理解が追いつかない技術なのだが、きれいな地図が閲覧でき、発信機の追跡をするものだった覚えがある。
科学の力だと解釈するしかない。
「コッチみたいデス……」
ローズが先頭を歩いた。街の中なのに静かだ。何かあったに違いない。以前のように、人々は避難でもしているのだろうか。役人に遭遇してもいいものだが。
しばらく行ってローズが足を止めた。一同が揃って惨状を目にした。
大きく広がった血の跡、肉片、塊、蛇か何かだろうか。見慣れない大きさだ。鋭利なもので叩き斬った痕跡がある。
キッドは辺りを見渡しながら、血の臭いに顔を歪ませている。
「冗談でしょ……またあの龍でも出たっての?」
ジェフリーもキッドに似た考えを持っていた。だが、違和感を覚えていた。
「邪神龍なら倒した時点で消えるだろうから、こいつは何て言ったらいいんだ……」
竜次も状況を確認し、戸惑っていた。状況が呑めない。
「これが、沙蘭を襲った敵でしょうか……」
ローズがタブレット端末を片手に、立ち尽くしていた。
コーディが声をかけた。
「ローズ、どうしたの……?」
立ち尽くす目の前に、血の海に沈む肉と骨。体を内側から裂かれたような散り方をしている。ローズは手元の端末と、照らし合わせて声を震わせた。
「発信機……このどこか、デス……」
血の海にピアスや指輪が見えた。剣や装飾品も歪みながら沈んでいる。どこが頭なのかも判別が怪しくひどいものだ。つまり、シフは死んだ。人と言うには怪しい形をしながら。
「敵だったかもしれませんケド、死者は死者デス……」
どこに向かって手を合わせたらいいのか定かではないが、ローズはタブレットを脇に抱え、手を合わせた。敵だったのかもしれないが、もしかしたらシフも利用されていたのかもしれない。そんな予感をローズは抱いていた。
サキが後ろで状況の整理をしていた。場の情報が多い。
「誰か、沙蘭の人はいませんか? 先生の妹さんとかお役人さんとか……」
竜次もそれが気になっていた。砕けた石畳に沈む血や肉片を見ながら、手がかりを探していた。
「姫子は第一に避難させられるでしょうけれど、光ちゃんやマナカがいてもいい気はしますね。あの子たちが、彼だかこの正体不明のものを倒したのかはまた別の話ですが」
誰もいないのが妙だ。何が起きたのかが知りたい。
一同は崩れてしまった街の中を探索する。
「ちょっと、勝手に入ったら危ないって!」
キッドの制止を振り切り、ジェフリーが崩れた民家の中に入った。
キッドはすぐにあとを追う。すると、民家は壁の向こうが見えてさらに向こうの民家も崩れていた。すさまじい破壊力だったのだろう。
キッドは勝手に進んでしまうジェフリーに腹を立てた。
「何なの……」
この状況にも理解できない。
先に進んでいたジェフリーがぴたりと足を止めている。突っ立ったまま、何も言わない。やっと追いついたキッドも目の前の光景に困惑した。
見覚えのあるものが落ちているからだ。
「ねぇ、これって……嘘よね……?」
キッドの声が震えた。ジェフリーも同じ気持ちだ。
ミティアの腰に下がっているポーチ、剣、それから縦に真っ二つに割れた腕輪が見受けられる。腕輪以外には、血がべったりとついていた。
きれいな鞘の剣にも、ポーチにも。
「何で、何でなの? いや、こんなの嫌っ!!」
キッドは叫び、咽び泣いた。その声に、ほかの四人も駆けつける。場を見て茫然としていた。
ミティアが、そう簡単に死ぬわけがない。
そう思い続けていたものが、一気に崩れた。
ジェフリーは拳を震わせ、認めたくないと首を振る。
竜次とローズは物悲しく思いながら確認をした。
「冷たい……」
「少し時間が経っていますネ……」
剣に付着した血を見て、ローズが辺りを見渡す。ミティアの腕輪も回収したが、これはもう使い物にはならないだろう。
やりきれない思い。悲壮感が一同を襲う。
訪れる夕暮れの光が、悲しさを一層増して、惨状を目に焼きつけさせる。
竜次はミティアのポーチを拾い上げた。ブロンズのチェーンが伸び、先端に引っかけるフックが見えた。こんなもの、彼女は持っていただろうか。悪いと思いながらポーチを開くと、中の魔石やポプリが血に染まっていた。これがミティアの血なら、かなりの怪我をしている。
まだ遺体を見たわけではない。ゆえに、竜次は落ち着いていた。
ブロンズのチェーンの正体がわかり、竜次は目を瞑った。そのまま立ち上がって、心を砕かれ、打ちひしがれているジェフリーにポーチとチェーンを持たせた。
「見なさい……」
声質が低くなってしまうが、怒っているわけではない。手の中のポーチに見えたのは魔法学校の懐中時計だ。父親の、ケーシスの名前があった。
つまり、父親はミティアと接触があったと、これで証明された。
ジェフリーは茫然としたまま、じわりじわりと実感がわいてきた。いっそキッドのように泣き崩れてしまいたい。
そんな空気の中、サキが張り詰めた空気を打ち破った。
「どうして、ミティアさんが死んだって決めつけるんですか? みんなで彼女を探しましょうよ。悲しむのは、まだ早いと思います」
サキだって物悲しい表情をしている。だが彼が言うように、決めつけるのはまだ早い。
ジェフリーは顔を上げ、潤んだ目をごまかしながら深く頷いた。
詰まったときに知恵を貸してくれるのもサキだ。本当に頼もしい。海底にでも沈んだような空気を這い上がらせてくれた。
まだ、希望は残っている。
サキのカバンの中から声がした。
「ねーねぇ、余計なことかもしれないけど、この先で話し声がするよ」
圭馬の声だ。遠回しだが、まずは動けと導いてくれている。
「そうだな、まだ、諦めたらいけないな……」
ジェフリーは泣いて肩を揺らすキッドの背中を押した。
「触らないで、変態……」
キッドは鼻をすすりながらジェフリーを睨んだ。まだ憎まれ口を言う元気がある。
圭馬が言うように、裏通りのさらに先、路上で役人に指示出しをしている女性を見つけた。とても見覚えがある。髪をお団子に結って、長刀を持ち、腰には剣を下げている。
「マナカ!!」
「えっ、竜兄さん!」
竜次が声を上げた途端、マナカは長刀を向けた。この反応力は大したものだ。
ぞろぞろと皆も駆けつける。マナカは目を丸くして驚いていた。。
「な、何やら新顔さんもいらっしゃいますが、それはともかくとして、どうして連絡もなくこちらへ?」
新顔、とマナカが指すのはコーディのだろう。不審よりも疑問が上回っているようだ。ただ、思い当たる節があることを言う。
「もしかして、お連れ様を迎えに来たのですか?」
マナカの態度に、ジェフリーが激しく食いついた。
「お連れ様って、まさか……」
「えぇっと、ミティアさんでしたよね。大浴場の掃除を手伝っていただきましたし、覚えておりますよ?」
「ミティアはどこにいる!?」
「あ、えっと、今は東殿で……」
マナカが言いかけたところで、ジェフリーは返事もせず、走って行った。あまりのせからしさにマナカは呆気にとられた。
「えぇっ、ジェフ兄さん?」
驚くマナカの眼前で、キッドも追って走った。
竜次もマナカに説明を急かした。
「マナカ、詳しい事情は後で話します。ミティアさんは、お父様と一緒ではありませんでしたか?」
マナカはこの状況に整理が追いつかないのか、やはり困惑している。突然兄たちが押しかけ、状況の説明を求められているのだ。気持ちはわかるが、彼女にも仕事がある。
「お父様はご一緒ではありませんでした。ご一緒だったのは、銀髪で黒マントの……」
言いかけて、今度は竜次が血相を変えて全力疾走して行った。
マナカは竜次に対しても呆れていた。自分の家族だから許せるが、大して親しくもない人が土足で家に上がり、バタバタと騒ぎ立てられる気分だ。
マナカの話を聞き、ローズが独り言を呟いた。
「オトーチャンがここへ……?」
「シルバーリデンスさん……な、気がしますね」
サキも嫌な予感を口にした。もし、本当にクディフだったら衝突が起きるかもしれないと気持ちが焦ってしまう。それと同時に、ローズとクディフにつながりがあることが判明した。今は詮索をせず、サキは黙っていた。
沙蘭の勝手がわかるジェフリーと竜次が離脱してしまった。マナカは残った者たちを客人としてどう扱うか、困っていた。
「わたくし、まだこの区画の安全確認が完了しておりませんので、戻るのはもう少しお時間いただきます。ご案内までもう少しお待ちください」
マナカは数人の役人しか引き連れていない。案内に人為を割けないと正直に詫びた。
「それじゃ、俺っちが案内を引き受けるっス」
黒髪の青年が走って来た。マナカの義弟である、光介だ。マナカと同じように、街中の安全確認をしていたようだ。数人の役人と合流した。
「北と西は安全確認完了っスよ。東が遅れているって聞いたので来ましたけど、あと三区間っスね。お客様は俺っちが案内しまっせ」
変わらない軽さと明るさだ。手が空いていると主張した。役人と一緒になって街の治安維持に出ているのも驚くが、この口調や性格とは裏腹に真面目でしっかりしている。
マナカは兄の客人を放置するわけにもいかず、困っていた。だが、ここに手が空いている者がいるならば、仕事は振るべきだろうと判断する。
「わかりました。丁重にご案内しなさい。あと、客人にはお茶を出しなさいね」
マナカは説教のように言う。光介はいい加減に頷いて流していた。
「お客様ご案内っと」
コーディはあえて会話には加わらなかったが、この一家だけで本が一冊書けてしまうのではないかと観察していた。
この国の人たちとは初対面なのに、分け隔てのない接し方をしてくれるし、どこか暖かみを感じる。野生動物の凶暴化や邪神龍で人の心に余裕がなくなってきているのに、珍しい光景だ。
「う、うん……?」
歩き出してすぐ、コーディは光介にトランクを持たれた。
「お荷物、お持ちしますよっと」
「あ、ありがと……」
こんな扱いは初めてだ。悪くない気持ち。人に親切にされたいわけではないが、この外見のせいで人からの親切が身に染みる。
東殿へは何となくは知っているとジェフリーは先を走った。あとから追って来たキッドの足が速い。ジェフリーの横に並び、煽った。
「もっと速く走ってちょうだい」
さっきまで泣いておとなしかったのに、切り替えが早い。それがキッドのいいところなのだとジェフリーは認めていた。
一刻も早くミティアに会いたかった。マナカの様子から、無事なのだろう。詳しい話はまったく聞かず、感情だけで動いてしまったが後悔はしていない。ジェフリーは心穏やかではなかった。
東殿に到着するなり、二人は履き物を脱いでバタバタと駆け上がった。
しっかりとキッドがついて来る。彼女も親友に対する思いが強い。
息を切らせながら、上層の大きい部屋に入った。
大判のフカフカした布団の前で、黒髪のポニーテールの女性が座っていた。正姫だ。
ジェフリーもキッドも、ノックもせずに寝室に入った。
「なに奴……って、ジェフ!?」
驚くのも無理はない。ポニーテールがバサバサと乱れた。
布団の枕元で見覚えのある赤毛の女性が眠っているのに、安堵の息が漏れた。
「ミティア……」
ジェフリーは感情を抑えているというのに、キッドはミティアに飛びついた。
「ミティア!! よかった、無事で……!」
見た限り、怪我している様子はない。だが、眠っている。すぐには目を覚ましてくれないだろう。腕輪がないということは、おそらく嫌な予感は正解だ。ジェフリーは状況を理解し、正姫に詫びた。
「騒がしくしてごめん。ミティアを助けてくれてありがとう……」
親族の誰かが助けてくれた。ジェフリーはそう思い、詫びながらも深く礼を告げた。
だが、正姫は手のひらを差し出し、部屋の隅に向けた。
「何を言っておるのだ。我々が助けたのではないぞ? あちらの人だ」
正姫の手の先をジェフリーが追う。部屋の隅で壁に寄りかかり、腕を組む銀髪で黒いマントの男性、クディフが冷めた視線をこちらに向けていた。まったく気配を感じなかった。思わぬ疑いをかけたくなった。
「てめぇ、まさか……」
ジェフリーはクディフに憎しみの言葉を浴びせた。
「ミティアに何をした!!」
ジェフリーの様子を見たキッドも立ち上がった。当然、怒りの矛先を向ける。
「あんたがミティアをこんなにしたんでしょ!! どうしてこの子をそっとしておいてくれないの!?」
キッドは今にも殴りかかりそうな勢いだ。
一触即発の状態を見て、正姫は手を振りながら慌てふためいている。
「ど、どうした。こんな場所でやめぬか」
一方でクディフは様子をうかがっているが、何も答えようとしない。その目は呆れているようにも、哀れんでいるようにも見える。
この空気の中、バタバタと足音が響いた。足音の正体は竜次だった。騒がしく部屋に滑り込んだ。
「ま、待ちなさい、二人とも!!」
ノックもなく寝室に人が加わった。
正姫は竜次が場に加わったことを嘆いた。
「竜次お兄様まで……」
正姫は額に手をつき、混乱が増したことにめまいを感じたようだ。自分が敬愛し、信頼を寄せているのはもちろんだが、話に首を突っ込んではややこしくするのも承知している。その読みは的中した。ジェフリーと竜次がぶつかり合った。
「兄貴は引っ込んでいてくれ!!」
「いけませんジェフ! 少しは人の話を聞きなさい。物事には、やり方ってものがあるでしょうに!」
竜次は何のためにこの場に駆けつけたのだろうか。本当に場を引っ掻き回しに来ただけかもしれない。
キッドも握り拳を震わせ、今にも右脚から得物を抜きそうだ。
収拾がつかない。クディフは呆れ、ため息をついた。
「彼女が命懸けで守りたかった者がこんなに善し悪しもわからぬ子どもでは、目を覚ましたところで哀れだな……」
やっとクディフは口を開いたが、それは豪快に逆撫でをする発言だった。これでは火に油。ジェフリーもキッドも限界だ。
ジェフリーはここで剣の柄に手をかけた。
「もう我慢ならない。俺がこいつと決着をつける!!」
丁寧な効果音をつけるとしたら、今のジェフリーはぶちぶちと頭の血管を切らせているのかもしれない。その様子を見て、竜次が割り込んだ。
「いけません!! と、言うかこの人と決着をつけるのは私ですから……」
兄弟喧嘩まで発展する始末。キッドも目が据わっていた。もうここで争いが始まりそうだ。
「えーっと、失礼します!」
サキの声だ。ノックではないが、断りを入れた。
クディフの眉が上がった。
「少しは話のわかりそうな者が来たか……」
場の混乱に今来たばかりのサキも驚いた。
眠るミティア、介抱している正姫、キッドとジェフリーが銀髪の黒マントの男性クディフに対し一触即発の状態、それを竜次が止めに入ろうとして成り立っていない状態。
なるほど、外でやってもらいたい。場の状況を推測するサキの背後では、ローズとコーディも心配そうに見守っている。
サキは争うのではなく、話すべきだという考えだ。
「僕は、話を聞くべきだと思います。何があったのか、ご存じだと」
サキの言葉に、クディフが動いた。どこか馬鹿にするような笑みを浮かべているが、この展開を予想していたのだろうか。
「冷静な判断ができるお前となら話をしてもいいと思っている。誤解をしているようだが、俺はその娘に何もしていない。見届けることはしたがな……」
クディフは一瞬だけサキと目を合わせ、横をすり抜けて退室してしまった。目を合わせた。つまり、クディフはサキを指名した。
混乱が収まったところで、正姫はジェフリーと竜次に言う。
「あの剣士は化け物を倒してくれた者です。この子を運んでくれたのだって……何と失礼な……」
正姫はやっと説明を開始した。クディフにはまだ疑惑がかけられている。
竜次も話を聞く姿勢を見せた。
「姫子、事情を説明していただけますか?」
「沙蘭にわたくしを出せと暴れる荒くれ者が襲撃してきました。人質を彼女が助けたのだが、その荒くれ者が化け物になったと。にわかには信じられませぬが、人質になった者がそれを目撃しておる」
目撃者という裏も取れている。つまり、今までの経験だけでクディフに誤解をしていたと、ここで判明した。
荒くれ者はシフだ。発信機とアクセサリーで間違いないだろう。荒くれ者が化け物になった。よく考えたら、対人で民家を貫く衝撃を食らうだろうか。ミティアはどんな大怪我を負ったのだろう。
徐々に点が線となって過程をつなぐ。
「少し考えればわかる判断材料は街の中で見ましたね。僕、あの剣士さんときちんと話してみます」
頭に血が昇っているジェフリーとキッドには、ここでおとなしくしていてもらいたい。
サキは率先して席を外した。そのあとをローズと、なぜかコーディも追った。
残された形の竜次が肩を落とした。
「なるほど……今回は、以前とは違うみたいですね」
竜次の言葉を聞いても、キッドはまだ誤解をしているようだ。
「なるほどって、あいつはミティアを殺そうとしていたんじゃないの? 今回は違うって断定できるんですか?」
やっと落ち着きを取り戻したのか、ジェフリーも竜次に確認をした。
「いや、あいつはミティアに禁忌の魔法を使わせたかっただけだ。ミティアの中のもう一人の人に会いたいがために、存在を反転させるとか難しいことを言っていたよな?」
ジェフリーは冷静になり、行ってクディフの話を聞いてもよかったかもしれないと思った。だが、今はミティアのそばを離れたくない。
竜次も気にはなっていたがどうしたものかと迷っていた。
「ここはサキ君に任せましょう。彼なら賢いので話がしやすいと思います」
サキは賢いが、それだけではない。フィラノスの歴史についても詳しい。よって、クディフと話す距離を感じなくて腹を割って話しやすい可能性を考えた。竜次が勝手にそう思っているだけで、実際にサキがどんな対話をするのかはわからない。気にはなっていた。あとで様子を見に行こうと思っていた。
ジェフリーの視線がミティアに行った。目を覚ましてほしい、声を聴きたい。
正姫がジェフリーに席を譲った。
「お前の大切な人だろうに?」
姉の正姫からの言葉にジェフリーは目を丸くした。気まずさから、目を逸らした。
「モロわかりだな。さて、お兄様、お話が……」
正姫は竜次を手招きし、部屋の外に出た。
聞こえて困る話ではないので、少し距離を置いて話したいという意図だった。
「彼女のほかに誰かいたと証言もあって、お兄様たちではないですよね?」
「いえ、私たちは、今さっき沙蘭に着いたばかりです。ミティアさんのほかに誰が?」
「特徴が少なくて、わかりません。金髪でネクタイの男と子どもだと……」
「もしかして、お父様では……」
子どもはともかく、金髪でネクタイの男と聞いて竜次が思い浮かべたのはケーシスだった。だが、これだけでは確証にはならない。
確証にはならないが、ミティアは父親の懐中時計を持っていた。可能性は高い。
ジェフリーは疑問を抱いた。
「親父が一緒にいた可能性があるのはわかる。だったら、どうしてミティアを助けてくれなかったんだ……」
まさか、ケーシスはミティアを見捨てたのだろうか。負のスパイラルが加速する。ただでさえ、何があったのかが明白になっていない。ジェフリーは苛立った。
この場にいたキッドがぴしゃりと言う。
「そんなの、ミティアから聞けばいいのよ」
気持ちが沈みかけたジェフリーを助けるような言葉だった。もちろんキッドには、そんな気遣いはない。ただ、親友が目を覚ましてほしい一心だった。真っすぐな言葉だ。
キッドは現実を見据えている。余計なことは考えない。ジェフリーはキッドの邪念のなさが今もっとも必要とするものかもしれないと思った。
ここで憶測だけで話を進めるのは良くない。それは誰しもわかっていた。
少し距離を取って話していた竜次は、ジェフリーとキッドの話に耳を傾けながら正姫に言う。
「と、とにかく、姫子や沙蘭が無事でよかった。これだけは絶対に間違いないです」
落ち込んでいる正姫を気遣い、竜次がぐるりと話題を変えた。
ところが、正姫はこれに対しても渋い反応を見せた。
「わたくしや沙蘭も危ないと思ったのでしょう。フィリップスのクレスト殿から手紙をいただきました。それもあって、街の者に死者は出ておりません。お兄様、クレスト殿に親書をお渡ししただけではなく、何かお話を?」
竜次は眉をひそめ、考え込んだ。クレスト王子はフィリップスのギルドで行方不明と耳にしたが、わざわざ沙蘭へ手紙をよこしていたとは妙だ。
正姫は竜次に手紙を渡した。封にフィリップスのシンボルフラワー、ひまわりの印も見受けられ、サインもある。間違いなく本物だ。
竜次は開いて文章を読む。まるで今日、襲撃があると示唆しているようにも思える。
「忠告と言うか、宣告にも思えますね。ですがこんな手紙、これから攻撃を仕掛ける国におくるでしょうか……」
正姫も小さく唸った。
「知らせるのが目的なら、防御を張れとも読めます。有事に備えてはみたのですが」
被害はほとんど出なかった。数件の民家や道は崩されたが、死者は出ていない。
「事前にいただいたこの手紙のおかげで、ほとんど街に被害は出ませんでした。まぁ、逃げ遅れた人はいましたが、死者は出ていない。クレスト殿は間接的にだが、守ってくれたのかもしれませぬ……」
竜次も読みは同じだと頷く。沙蘭とフィリップスは親交が深い。悪い気はしなかったが、気味が悪かった。こんな機密情報を漏洩したら、クレスト王子だってただでは済まされない。行方不明になった原因にもなりかねないだろうが、これも判断材料が少ない。
「少し時間を置いてみなさい。あとからわかる情報もあります。すぐに返事を出さないといけないわけではないでしょう?」
「そうですね……」
「今は自国のことを考えなさい。必要ならば、近隣の貿易都市ノアやギルドも情報源として使って。助けが必要なら中立の都市に声をかけなさい」
竜次は正姫に気をしっかりと持てと励ましたつもりだ。だが、ずいぶんと具体的な指示まで口にしている。そういった教育は受けて来たが、正姫は腑に落ちないようだ。
「お兄様がこの国を引っ張ってくだされれば、どんなによかったか……」
いつかは言われると思っていた。周りの大人から言われることはあっても、妹から言われたのは初めてだった。
正姫にも積りに積もった不満はあったのだろう。だが後悔したのか、激しくかぶりを振った。
「戯言を申し訳ありませんでした。わたくしは持ち場に戻ります。今は、わたくしがしっかりしないと」
正姫は己が背負ったものの重さに対する弱音を聞いた。
竜次は強く深い罪悪感に襲われた。妹の正姫は自分勝手な生き方をした兄を見て、何も思わないはずがない。きっとジェフリーもよくは思っていなかっただろう。この溝を埋めるのは容易くない。そしてまた、人の気持ちを理解していない罪深さを知った。
大きな畳の部屋にテーブルと肉厚の座布団。だが、座らない。座ってゆっくりと話す雰囲気ではない。
サキはクディフと対峙した。敵かもしれない。味方かもしれない。それを明らかにする形になるとは、サキも予想はしていなかった。
「僕はサキと申します。直接お話したことは、ないですよね?」
旧・種の研究所では会ったが、言葉は交わしていない。サキは律義に挨拶をした。だが、クディフは鼻で笑った。
「あの銭ゲバ王女が、どうやったらこんなよくできた弟子を取れるのか、面白い……」
アイラを知っているようだ。銭ゲバと比喩されるとは思わなかった。少なくとも、サキには悪い印象を抱いていないようだ。
親子の会話を交わしたいローズを、コーディが止めていた。ここはサキに任せたいと、彼女も思っているらしい。
「僕からは、何と呼よびしたらいいですか?」
「好きに呼べばいい。どうせ、お前も俺に敵意しかないだろう」
「僕と話をしている時点で敵ではないです。見るからに貧弱で、ましてや魔導士です。一方であなたは名を馳せた剣豪。捻り潰すのでしたら一瞬ですよね?」
乗るかと含んだ笑みを浮かべるサキに対し、クディフは警戒を解いた。
「誰かに似て、面白い奴だ。単細胞やイノシシ女よりは話し甲斐がありそうだ」
単細胞、イノシシ女、思わずくすっと笑ってしまう。サキは大きく笑うことは堪えた。代わりに背後で待機していたローズが、噴き出して屈んでいる。名前を呼んでいないが誰を指しているのか、わかってしまうのが悔しい。
サキはクディフとの会話を楽しんでいるようだった。
「僕なりの考えを述べます。本当は敵対など不本意だったのではないですか?」
気を取り直して本題に入った。クディフはサキに対しては警戒を解いている。
「なぜそう思う?」
「あなたも騙された。違いますか?」
「ほぅ……」
今までと違う反応を見せた。何を考えているのか難しい表情だが、本当は素直かもしれないと期待を持った。
ほのかに青みをまとった銀髪に裾は解れ気味のマント。剣士、剣豪とは耳にしていたが、一人の人だ。そして、誰かの父親である。何かの争いに巻き込まれたのではないかとサキは予想した。
クディフは偽りなく、素直に答えた。
「正解だが不正解だ。先に持ちかけたのは俺の方だからな」
「持ちかけた? あなたはミティアさんの中のもう一人にお会いしたくて接触したのですよね?」
そんな話だったはずだ。だが自信がない。サキは首を傾げる。予習不足だ。ジェフリーや竜次の方がこの件に関しては詳しい。断片的な情報だけしかない状態で、少し意図を動かしながら会話を続けた。
「ミティアさんは天空都市の人、そして地上では長く生きるのが難しい不完全な人。いえ、難しい話なのはわかっていますが」
「調べがついているのなら、簡単な話だ。その器に、適合率の高い者を入れても負担が少なかった。そういう意味だ……」
点が線になったかもしれない。サキは手応えを感じて小さく頷いた。
「それが、あなたの会いたがっていた人ですね。そして、都合がいいことに禁忌の魔法も使える人だった」
「話しやすくて助かるな。まどろっこしい無駄話をしなくていい……」
クディフはいい反応をした。あっているようだ。
サキはここで自分の知識と結び付けた。
「それはフィラノスの前身、ヒアノスの王女様。なるほど……」
「なぜお前はそこまで知っている? 都合が悪い歴史は抹消されているはずだ」
「僕も詳しくは知りません。知ろうとしても、資料がない。そういう本もない。得られない知識に憤りは感じます」
これだけは正直な気持ちだった。クディフの心に響くものがあったのか、あれだけ物静かだった表情にうっすらと笑みを浮かべている。
「だが、今から得るのは難しいだろうな。当時を知る者は少ない」
「あなたはいますけど……」
サキの言葉に、クディフはくすりと笑った。馬鹿にしているとは違うと思うが、どうも慣れない。
隠れていたローズは会話から得た情報を整理し、つなげようと試みていた。それが独り言になってぶつぶつと撒き散らされる。
「騙す、利用……そうか、だからルーはミティアちゃんを義理の妹にしてまで連れ出し、禁忌の魔法が使えるように、育てた、とでも言えばいいのか……でも、うーん、なんか言い方が違うような……ムムム……」
ルッシェナが何を狙っていたのか、段々と読めてきた。
クディフも知っている情報を開示した。
「邪神龍はルッシェナ・エミルト・セミリシアの所有物。あんなハイリスクなものを、村で放ってテストした。狙いは禁忌の魔法の実験だった。だが、それは失敗した。『彼女』の力は不完全、潜在的なもの。それだけの絆を築けなかったルッシェナもお粗末だったな」
ジェフリーとキッドが聞いていれば、持っている情報から、違う反応を見せたかもしれない。
「あの者が義理の兄妹として接し、家族を演じても築けなかったのだ。どんな家族を演じていたのかは知らない。それでもダメだったのなら、俺がその絆を築けるはずがない」
部屋の障子に違う人の気配がした。まるでクディフの話に反応するかのようだった。
「あなたが築けなかったものを、私たちに築かせようとした。と、いう魂胆ですね」
障子に影になっていたのは竜次だ。
「立ち聞き、盗み聞きみたいになってすみません。途中からですが、何となく話が読めました」
「剣神……」
クディフが睨むように竜次を見ている。憎しみを向けているわけではないが、あまり好きではないようだ。クディフの態度は急変した。竜次とどうしても衝突してしまう。
「薄々、悪い人ではなかったのはわかっていました。でも、その絆を築かせるための旅を利用し、ミティアさんを壊そうとした。私はあなたを許せません」
「どうしても殺したいのなら好きにするがいい。もう未練はないのだから」
「いえ……」
あとから来たはずなのに、竜次が話の主導権を握った。
遅れて来たヒーローとでも言うべきか。それにしては、情けなくも抜けている部分が多い気がする。
「これからはその剣を、ミティアさんのために振るってください」
そう言い放った竜次は、勝ち誇ったように口元を緩めている。
事実上、手を組めという形になる。もっと言うと、味方になれ……かもしれない。
一同の表情が明るくなった。
クディフは首を傾げながら眉をひそめている。何が気に食わないのだろうか。
「そのつもりなのだが……?」
「えっ……?」
空気が凍った。竜次は半歩退いて、苦笑いをしている。
「だ、だって、さっき殺せと言ってたじゃないですか?」
「俺は『どうしても』と言ったが、聞こえなかったか?」
「ゔぅっ……」
竜次はもごもごと文句でも言いたそうに口を窄めている。完全な空回りだ。悪い癖だが、勝手に話を進めてしまうのは発作のようなものだ。
クディフは竜次にかまわず、意味深なことを言う。
「あの娘は目が覚めるとは思うが、何か失っているかもしれない。死んだ際に反転した王女によって禁忌の魔法が放たれた。さらにもう一度、反転している」
その意味深な発言に、ローズが反応した。
「んン? と、いうことは、今のミティアちゃんは、もう禁忌の魔法を使えない……?」
ローズは深く唸りながら考えている。懸念が残っているからだ。
「禁忌の魔法を使ったなら、また記憶がないのでは。いえ、それはまだ、わからないデス……よね……」
ローズは額に手をつき、今にも崩れそうだ。想像してはいけない負のスパイラスである。
話が一区切りしたところで、クディフが一同の中を抜け退室しようとする。そこで、今まで会話を交わさなかったコーディに声をかけた。
「コーデリア・イーグルサント、話がある」
「わっ、油断した……」
クディフはコーディを知っている。わざわざ指名をした。コーディは不思議に思いながら、クディフについて行った。
あとに残された者たちの自発的な反省がはじまった。
ローズはまたも爆弾発言で嘆いている。
「オトーチャン……やっぱりワタシには目もくれませんネ……」
娘に一言もかけない父親もどうかと思うが、ローズはやはり悔しがっている。進んでは話さないが、クディフは父親だと暴露していた。きちんと話の場を設けるべきか。それもすでに遅いだろう。
もっと悔しがってぺたんと座り込む者がいた。フカフカの座布団を掴みかかっている竜次には迫力があった。
「わ、私って何ですか!! 本当に、いや、ほんっとうにもう、何なんですかね。真剣に話していたのに!!」
念仏のようにぶつぶつと言っている竜次は置いておいて。
サキは、ジェフリーとキッドにも話しておくべきだと思った。ただ、クディフが言った『未練はない』というのが気にはなった。予想しかできないが、口振りから、望んでいた王女には会えたのだろう。伝えたいことを伝えられたのだろうと、勝手に解釈した。
もちろん、サキの中だけで。
別の部屋に入るのかと思ったが、下層の庭先の縁側で気軽な雰囲気だった。夜風が抜ける。話し込んでしまい、日が沈んでいたことに気が付かなかった。
警戒はしていないが、コーディはトランクを置き、立ったままクディフに話しかける。
「私に話って何?」
「文豪なのだろう……?」
「えっ? あ、もしかして、そういう話?」
クディフは縁側に腰かけ、手入れのされた庭を眺めている。その目は優しい目をしていた。どこか、肩の重荷が降りたような開放感を噛み締めているようにも思える。
「我が主君の埋もれた行いと言葉、活動、フィラノスになる前の話を本にしてはいただけないだろうか?」
「ひ、ひえーっ!! も、もっとほかの人に頼めばいいのに……」
コーディに対しては逆撫でをするような言動がない。むしろ縁側に腰かけて、無防備とまで言っていい。
クディフもただ、何の意図もなくコーディに頼むわけではなかった。
「ドラグニーの始祖が存在する話を読んだ」
「え……」
驚くのも無理はない。コーディが出した数少ない本を、クディフは読んだのだと言う。
「あ……あの本、読んだ人、ほとんどいないと思ってたのに」
「都合の悪い情報は消し去る。人間以外の種族を認めない学者が葬ってしまったのだろうな。今では物好きの書庫くらいにしかないだろう」
「そっか、おじさんは読んでくれたんだ」
おじさんと言われ、クディフは一瞬だけ引きつった顔をした。
クディフは続けた。
「人間と親しくなると別れがつらい思いに共感した。どうしても人間は、親族よりも先に死ぬからな」
確かクディフは、アリューン神族と人間のハーフだったはず。さらに言うと、ローズはクオーターくらいだったと誰かの話で聞いた。コーディは考え込んだ。
つまり、クディフが愛した人は人間だった。そして、その子どものローズは自分より早く死ぬかもしれない。だから親しくはならないようにしている。
コーディはそこまで読めた上で、深く頷いた。
「私、まだ十六歳だからわからないけど、きっと同じ気持ちになるんだと思う。みんなと一緒に老いていい人生だったってなりたいね」
「なぜ、自分より別れが早いとわかっていて、ギルドの賞金ハンターをしながらあの者たちと行動をともにしているのだ?」
クディフの疑問に答えるのは、コーディには難しい。
「理由はいっぱいあった気がするんだけど、そんなものなくても一緒にいたいと思ったからじゃないかな」
ギルドのハンターとして手を組もう、ミティアの情報を集めよう、種の研究所を……色々あったのに、今はそんなものに縛られなくても一緒がいい。
「こういう人間もいるんだって、真実を本にしたい。知るべきものは埋もれさせないためにも……」
手放しだったが、伝わってくれたようだ。クディフは振り返った。
「その話、生きているうちに目にしたいものだな」
「じゃあ、おじさんは最初の読者になってね。はい、約束」
「ふっ、そうか……」
笑い合っている間に、コーディがトランクを開けてネタ帳とペンを取り出した。取材の準備をしようという姿勢だ。
戸の淵を叩くノックする合図を耳にした。
「おっ、こちらでしたかっと……」
盆を持った光介が訪れた。コーディはこの人に案内してもらった。道中で紹介してもらったが、竜次やジェフリーの義理の弟さんだ。
性格は明るくて、とても軽いがきちんとしている。マナカにお茶を出せと言われたのを果たしに来たようだ。
茶托の上に丁寧に置いて、一礼するとトントンと足音が上がって行く。これから上にいる人にも届けるのだろう。
沙蘭のお茶はおいしいと有名だが、置かれて行ったのは湯気も立たないぬるいものだった。
「あったかいのがよかったなぁ……」
出されたものに対し、軽く残念がったコーディだが、その横ではクディフがちゃっかりいただいていた。
「おいしい淹れ方を知っているいい使いだ……」
フィリップスで沙蘭が復興した知らせを見た。だが実際は、以前よりきれいなものだと感じた。ミティアはここにいる。もしかしたら、ケーシスも一緒かもしれない。ただ、再会の期待とは別に、不穏な話も耳にした。
やけに静かだ。
竜次が違和感を口にした。
「門番が不在とは、やはり何かあったのでしょうか」
かつて、また来るかもしれない、帰って来るかもしれないと話した沙蘭だ。感情が高ぶる。竜次とジェフリーは特にそうだった。
門番はスプリングフォレストからの動物や、訪問者を見張るものだが、不在でも大きな問題ではない。山菜狩りや、散歩しに行く人だっているのだから。
トランスポートの小箱を持っていたローズが、今度はタブレット端末を持っている。
理解が追いつかない技術なのだが、きれいな地図が閲覧でき、発信機の追跡をするものだった覚えがある。
科学の力だと解釈するしかない。
「コッチみたいデス……」
ローズが先頭を歩いた。街の中なのに静かだ。何かあったに違いない。以前のように、人々は避難でもしているのだろうか。役人に遭遇してもいいものだが。
しばらく行ってローズが足を止めた。一同が揃って惨状を目にした。
大きく広がった血の跡、肉片、塊、蛇か何かだろうか。見慣れない大きさだ。鋭利なもので叩き斬った痕跡がある。
キッドは辺りを見渡しながら、血の臭いに顔を歪ませている。
「冗談でしょ……またあの龍でも出たっての?」
ジェフリーもキッドに似た考えを持っていた。だが、違和感を覚えていた。
「邪神龍なら倒した時点で消えるだろうから、こいつは何て言ったらいいんだ……」
竜次も状況を確認し、戸惑っていた。状況が呑めない。
「これが、沙蘭を襲った敵でしょうか……」
ローズがタブレット端末を片手に、立ち尽くしていた。
コーディが声をかけた。
「ローズ、どうしたの……?」
立ち尽くす目の前に、血の海に沈む肉と骨。体を内側から裂かれたような散り方をしている。ローズは手元の端末と、照らし合わせて声を震わせた。
「発信機……このどこか、デス……」
血の海にピアスや指輪が見えた。剣や装飾品も歪みながら沈んでいる。どこが頭なのかも判別が怪しくひどいものだ。つまり、シフは死んだ。人と言うには怪しい形をしながら。
「敵だったかもしれませんケド、死者は死者デス……」
どこに向かって手を合わせたらいいのか定かではないが、ローズはタブレットを脇に抱え、手を合わせた。敵だったのかもしれないが、もしかしたらシフも利用されていたのかもしれない。そんな予感をローズは抱いていた。
サキが後ろで状況の整理をしていた。場の情報が多い。
「誰か、沙蘭の人はいませんか? 先生の妹さんとかお役人さんとか……」
竜次もそれが気になっていた。砕けた石畳に沈む血や肉片を見ながら、手がかりを探していた。
「姫子は第一に避難させられるでしょうけれど、光ちゃんやマナカがいてもいい気はしますね。あの子たちが、彼だかこの正体不明のものを倒したのかはまた別の話ですが」
誰もいないのが妙だ。何が起きたのかが知りたい。
一同は崩れてしまった街の中を探索する。
「ちょっと、勝手に入ったら危ないって!」
キッドの制止を振り切り、ジェフリーが崩れた民家の中に入った。
キッドはすぐにあとを追う。すると、民家は壁の向こうが見えてさらに向こうの民家も崩れていた。すさまじい破壊力だったのだろう。
キッドは勝手に進んでしまうジェフリーに腹を立てた。
「何なの……」
この状況にも理解できない。
先に進んでいたジェフリーがぴたりと足を止めている。突っ立ったまま、何も言わない。やっと追いついたキッドも目の前の光景に困惑した。
見覚えのあるものが落ちているからだ。
「ねぇ、これって……嘘よね……?」
キッドの声が震えた。ジェフリーも同じ気持ちだ。
ミティアの腰に下がっているポーチ、剣、それから縦に真っ二つに割れた腕輪が見受けられる。腕輪以外には、血がべったりとついていた。
きれいな鞘の剣にも、ポーチにも。
「何で、何でなの? いや、こんなの嫌っ!!」
キッドは叫び、咽び泣いた。その声に、ほかの四人も駆けつける。場を見て茫然としていた。
ミティアが、そう簡単に死ぬわけがない。
そう思い続けていたものが、一気に崩れた。
ジェフリーは拳を震わせ、認めたくないと首を振る。
竜次とローズは物悲しく思いながら確認をした。
「冷たい……」
「少し時間が経っていますネ……」
剣に付着した血を見て、ローズが辺りを見渡す。ミティアの腕輪も回収したが、これはもう使い物にはならないだろう。
やりきれない思い。悲壮感が一同を襲う。
訪れる夕暮れの光が、悲しさを一層増して、惨状を目に焼きつけさせる。
竜次はミティアのポーチを拾い上げた。ブロンズのチェーンが伸び、先端に引っかけるフックが見えた。こんなもの、彼女は持っていただろうか。悪いと思いながらポーチを開くと、中の魔石やポプリが血に染まっていた。これがミティアの血なら、かなりの怪我をしている。
まだ遺体を見たわけではない。ゆえに、竜次は落ち着いていた。
ブロンズのチェーンの正体がわかり、竜次は目を瞑った。そのまま立ち上がって、心を砕かれ、打ちひしがれているジェフリーにポーチとチェーンを持たせた。
「見なさい……」
声質が低くなってしまうが、怒っているわけではない。手の中のポーチに見えたのは魔法学校の懐中時計だ。父親の、ケーシスの名前があった。
つまり、父親はミティアと接触があったと、これで証明された。
ジェフリーは茫然としたまま、じわりじわりと実感がわいてきた。いっそキッドのように泣き崩れてしまいたい。
そんな空気の中、サキが張り詰めた空気を打ち破った。
「どうして、ミティアさんが死んだって決めつけるんですか? みんなで彼女を探しましょうよ。悲しむのは、まだ早いと思います」
サキだって物悲しい表情をしている。だが彼が言うように、決めつけるのはまだ早い。
ジェフリーは顔を上げ、潤んだ目をごまかしながら深く頷いた。
詰まったときに知恵を貸してくれるのもサキだ。本当に頼もしい。海底にでも沈んだような空気を這い上がらせてくれた。
まだ、希望は残っている。
サキのカバンの中から声がした。
「ねーねぇ、余計なことかもしれないけど、この先で話し声がするよ」
圭馬の声だ。遠回しだが、まずは動けと導いてくれている。
「そうだな、まだ、諦めたらいけないな……」
ジェフリーは泣いて肩を揺らすキッドの背中を押した。
「触らないで、変態……」
キッドは鼻をすすりながらジェフリーを睨んだ。まだ憎まれ口を言う元気がある。
圭馬が言うように、裏通りのさらに先、路上で役人に指示出しをしている女性を見つけた。とても見覚えがある。髪をお団子に結って、長刀を持ち、腰には剣を下げている。
「マナカ!!」
「えっ、竜兄さん!」
竜次が声を上げた途端、マナカは長刀を向けた。この反応力は大したものだ。
ぞろぞろと皆も駆けつける。マナカは目を丸くして驚いていた。。
「な、何やら新顔さんもいらっしゃいますが、それはともかくとして、どうして連絡もなくこちらへ?」
新顔、とマナカが指すのはコーディのだろう。不審よりも疑問が上回っているようだ。ただ、思い当たる節があることを言う。
「もしかして、お連れ様を迎えに来たのですか?」
マナカの態度に、ジェフリーが激しく食いついた。
「お連れ様って、まさか……」
「えぇっと、ミティアさんでしたよね。大浴場の掃除を手伝っていただきましたし、覚えておりますよ?」
「ミティアはどこにいる!?」
「あ、えっと、今は東殿で……」
マナカが言いかけたところで、ジェフリーは返事もせず、走って行った。あまりのせからしさにマナカは呆気にとられた。
「えぇっ、ジェフ兄さん?」
驚くマナカの眼前で、キッドも追って走った。
竜次もマナカに説明を急かした。
「マナカ、詳しい事情は後で話します。ミティアさんは、お父様と一緒ではありませんでしたか?」
マナカはこの状況に整理が追いつかないのか、やはり困惑している。突然兄たちが押しかけ、状況の説明を求められているのだ。気持ちはわかるが、彼女にも仕事がある。
「お父様はご一緒ではありませんでした。ご一緒だったのは、銀髪で黒マントの……」
言いかけて、今度は竜次が血相を変えて全力疾走して行った。
マナカは竜次に対しても呆れていた。自分の家族だから許せるが、大して親しくもない人が土足で家に上がり、バタバタと騒ぎ立てられる気分だ。
マナカの話を聞き、ローズが独り言を呟いた。
「オトーチャンがここへ……?」
「シルバーリデンスさん……な、気がしますね」
サキも嫌な予感を口にした。もし、本当にクディフだったら衝突が起きるかもしれないと気持ちが焦ってしまう。それと同時に、ローズとクディフにつながりがあることが判明した。今は詮索をせず、サキは黙っていた。
沙蘭の勝手がわかるジェフリーと竜次が離脱してしまった。マナカは残った者たちを客人としてどう扱うか、困っていた。
「わたくし、まだこの区画の安全確認が完了しておりませんので、戻るのはもう少しお時間いただきます。ご案内までもう少しお待ちください」
マナカは数人の役人しか引き連れていない。案内に人為を割けないと正直に詫びた。
「それじゃ、俺っちが案内を引き受けるっス」
黒髪の青年が走って来た。マナカの義弟である、光介だ。マナカと同じように、街中の安全確認をしていたようだ。数人の役人と合流した。
「北と西は安全確認完了っスよ。東が遅れているって聞いたので来ましたけど、あと三区間っスね。お客様は俺っちが案内しまっせ」
変わらない軽さと明るさだ。手が空いていると主張した。役人と一緒になって街の治安維持に出ているのも驚くが、この口調や性格とは裏腹に真面目でしっかりしている。
マナカは兄の客人を放置するわけにもいかず、困っていた。だが、ここに手が空いている者がいるならば、仕事は振るべきだろうと判断する。
「わかりました。丁重にご案内しなさい。あと、客人にはお茶を出しなさいね」
マナカは説教のように言う。光介はいい加減に頷いて流していた。
「お客様ご案内っと」
コーディはあえて会話には加わらなかったが、この一家だけで本が一冊書けてしまうのではないかと観察していた。
この国の人たちとは初対面なのに、分け隔てのない接し方をしてくれるし、どこか暖かみを感じる。野生動物の凶暴化や邪神龍で人の心に余裕がなくなってきているのに、珍しい光景だ。
「う、うん……?」
歩き出してすぐ、コーディは光介にトランクを持たれた。
「お荷物、お持ちしますよっと」
「あ、ありがと……」
こんな扱いは初めてだ。悪くない気持ち。人に親切にされたいわけではないが、この外見のせいで人からの親切が身に染みる。
東殿へは何となくは知っているとジェフリーは先を走った。あとから追って来たキッドの足が速い。ジェフリーの横に並び、煽った。
「もっと速く走ってちょうだい」
さっきまで泣いておとなしかったのに、切り替えが早い。それがキッドのいいところなのだとジェフリーは認めていた。
一刻も早くミティアに会いたかった。マナカの様子から、無事なのだろう。詳しい話はまったく聞かず、感情だけで動いてしまったが後悔はしていない。ジェフリーは心穏やかではなかった。
東殿に到着するなり、二人は履き物を脱いでバタバタと駆け上がった。
しっかりとキッドがついて来る。彼女も親友に対する思いが強い。
息を切らせながら、上層の大きい部屋に入った。
大判のフカフカした布団の前で、黒髪のポニーテールの女性が座っていた。正姫だ。
ジェフリーもキッドも、ノックもせずに寝室に入った。
「なに奴……って、ジェフ!?」
驚くのも無理はない。ポニーテールがバサバサと乱れた。
布団の枕元で見覚えのある赤毛の女性が眠っているのに、安堵の息が漏れた。
「ミティア……」
ジェフリーは感情を抑えているというのに、キッドはミティアに飛びついた。
「ミティア!! よかった、無事で……!」
見た限り、怪我している様子はない。だが、眠っている。すぐには目を覚ましてくれないだろう。腕輪がないということは、おそらく嫌な予感は正解だ。ジェフリーは状況を理解し、正姫に詫びた。
「騒がしくしてごめん。ミティアを助けてくれてありがとう……」
親族の誰かが助けてくれた。ジェフリーはそう思い、詫びながらも深く礼を告げた。
だが、正姫は手のひらを差し出し、部屋の隅に向けた。
「何を言っておるのだ。我々が助けたのではないぞ? あちらの人だ」
正姫の手の先をジェフリーが追う。部屋の隅で壁に寄りかかり、腕を組む銀髪で黒いマントの男性、クディフが冷めた視線をこちらに向けていた。まったく気配を感じなかった。思わぬ疑いをかけたくなった。
「てめぇ、まさか……」
ジェフリーはクディフに憎しみの言葉を浴びせた。
「ミティアに何をした!!」
ジェフリーの様子を見たキッドも立ち上がった。当然、怒りの矛先を向ける。
「あんたがミティアをこんなにしたんでしょ!! どうしてこの子をそっとしておいてくれないの!?」
キッドは今にも殴りかかりそうな勢いだ。
一触即発の状態を見て、正姫は手を振りながら慌てふためいている。
「ど、どうした。こんな場所でやめぬか」
一方でクディフは様子をうかがっているが、何も答えようとしない。その目は呆れているようにも、哀れんでいるようにも見える。
この空気の中、バタバタと足音が響いた。足音の正体は竜次だった。騒がしく部屋に滑り込んだ。
「ま、待ちなさい、二人とも!!」
ノックもなく寝室に人が加わった。
正姫は竜次が場に加わったことを嘆いた。
「竜次お兄様まで……」
正姫は額に手をつき、混乱が増したことにめまいを感じたようだ。自分が敬愛し、信頼を寄せているのはもちろんだが、話に首を突っ込んではややこしくするのも承知している。その読みは的中した。ジェフリーと竜次がぶつかり合った。
「兄貴は引っ込んでいてくれ!!」
「いけませんジェフ! 少しは人の話を聞きなさい。物事には、やり方ってものがあるでしょうに!」
竜次は何のためにこの場に駆けつけたのだろうか。本当に場を引っ掻き回しに来ただけかもしれない。
キッドも握り拳を震わせ、今にも右脚から得物を抜きそうだ。
収拾がつかない。クディフは呆れ、ため息をついた。
「彼女が命懸けで守りたかった者がこんなに善し悪しもわからぬ子どもでは、目を覚ましたところで哀れだな……」
やっとクディフは口を開いたが、それは豪快に逆撫でをする発言だった。これでは火に油。ジェフリーもキッドも限界だ。
ジェフリーはここで剣の柄に手をかけた。
「もう我慢ならない。俺がこいつと決着をつける!!」
丁寧な効果音をつけるとしたら、今のジェフリーはぶちぶちと頭の血管を切らせているのかもしれない。その様子を見て、竜次が割り込んだ。
「いけません!! と、言うかこの人と決着をつけるのは私ですから……」
兄弟喧嘩まで発展する始末。キッドも目が据わっていた。もうここで争いが始まりそうだ。
「えーっと、失礼します!」
サキの声だ。ノックではないが、断りを入れた。
クディフの眉が上がった。
「少しは話のわかりそうな者が来たか……」
場の混乱に今来たばかりのサキも驚いた。
眠るミティア、介抱している正姫、キッドとジェフリーが銀髪の黒マントの男性クディフに対し一触即発の状態、それを竜次が止めに入ろうとして成り立っていない状態。
なるほど、外でやってもらいたい。場の状況を推測するサキの背後では、ローズとコーディも心配そうに見守っている。
サキは争うのではなく、話すべきだという考えだ。
「僕は、話を聞くべきだと思います。何があったのか、ご存じだと」
サキの言葉に、クディフが動いた。どこか馬鹿にするような笑みを浮かべているが、この展開を予想していたのだろうか。
「冷静な判断ができるお前となら話をしてもいいと思っている。誤解をしているようだが、俺はその娘に何もしていない。見届けることはしたがな……」
クディフは一瞬だけサキと目を合わせ、横をすり抜けて退室してしまった。目を合わせた。つまり、クディフはサキを指名した。
混乱が収まったところで、正姫はジェフリーと竜次に言う。
「あの剣士は化け物を倒してくれた者です。この子を運んでくれたのだって……何と失礼な……」
正姫はやっと説明を開始した。クディフにはまだ疑惑がかけられている。
竜次も話を聞く姿勢を見せた。
「姫子、事情を説明していただけますか?」
「沙蘭にわたくしを出せと暴れる荒くれ者が襲撃してきました。人質を彼女が助けたのだが、その荒くれ者が化け物になったと。にわかには信じられませぬが、人質になった者がそれを目撃しておる」
目撃者という裏も取れている。つまり、今までの経験だけでクディフに誤解をしていたと、ここで判明した。
荒くれ者はシフだ。発信機とアクセサリーで間違いないだろう。荒くれ者が化け物になった。よく考えたら、対人で民家を貫く衝撃を食らうだろうか。ミティアはどんな大怪我を負ったのだろう。
徐々に点が線となって過程をつなぐ。
「少し考えればわかる判断材料は街の中で見ましたね。僕、あの剣士さんときちんと話してみます」
頭に血が昇っているジェフリーとキッドには、ここでおとなしくしていてもらいたい。
サキは率先して席を外した。そのあとをローズと、なぜかコーディも追った。
残された形の竜次が肩を落とした。
「なるほど……今回は、以前とは違うみたいですね」
竜次の言葉を聞いても、キッドはまだ誤解をしているようだ。
「なるほどって、あいつはミティアを殺そうとしていたんじゃないの? 今回は違うって断定できるんですか?」
やっと落ち着きを取り戻したのか、ジェフリーも竜次に確認をした。
「いや、あいつはミティアに禁忌の魔法を使わせたかっただけだ。ミティアの中のもう一人の人に会いたいがために、存在を反転させるとか難しいことを言っていたよな?」
ジェフリーは冷静になり、行ってクディフの話を聞いてもよかったかもしれないと思った。だが、今はミティアのそばを離れたくない。
竜次も気にはなっていたがどうしたものかと迷っていた。
「ここはサキ君に任せましょう。彼なら賢いので話がしやすいと思います」
サキは賢いが、それだけではない。フィラノスの歴史についても詳しい。よって、クディフと話す距離を感じなくて腹を割って話しやすい可能性を考えた。竜次が勝手にそう思っているだけで、実際にサキがどんな対話をするのかはわからない。気にはなっていた。あとで様子を見に行こうと思っていた。
ジェフリーの視線がミティアに行った。目を覚ましてほしい、声を聴きたい。
正姫がジェフリーに席を譲った。
「お前の大切な人だろうに?」
姉の正姫からの言葉にジェフリーは目を丸くした。気まずさから、目を逸らした。
「モロわかりだな。さて、お兄様、お話が……」
正姫は竜次を手招きし、部屋の外に出た。
聞こえて困る話ではないので、少し距離を置いて話したいという意図だった。
「彼女のほかに誰かいたと証言もあって、お兄様たちではないですよね?」
「いえ、私たちは、今さっき沙蘭に着いたばかりです。ミティアさんのほかに誰が?」
「特徴が少なくて、わかりません。金髪でネクタイの男と子どもだと……」
「もしかして、お父様では……」
子どもはともかく、金髪でネクタイの男と聞いて竜次が思い浮かべたのはケーシスだった。だが、これだけでは確証にはならない。
確証にはならないが、ミティアは父親の懐中時計を持っていた。可能性は高い。
ジェフリーは疑問を抱いた。
「親父が一緒にいた可能性があるのはわかる。だったら、どうしてミティアを助けてくれなかったんだ……」
まさか、ケーシスはミティアを見捨てたのだろうか。負のスパイラルが加速する。ただでさえ、何があったのかが明白になっていない。ジェフリーは苛立った。
この場にいたキッドがぴしゃりと言う。
「そんなの、ミティアから聞けばいいのよ」
気持ちが沈みかけたジェフリーを助けるような言葉だった。もちろんキッドには、そんな気遣いはない。ただ、親友が目を覚ましてほしい一心だった。真っすぐな言葉だ。
キッドは現実を見据えている。余計なことは考えない。ジェフリーはキッドの邪念のなさが今もっとも必要とするものかもしれないと思った。
ここで憶測だけで話を進めるのは良くない。それは誰しもわかっていた。
少し距離を取って話していた竜次は、ジェフリーとキッドの話に耳を傾けながら正姫に言う。
「と、とにかく、姫子や沙蘭が無事でよかった。これだけは絶対に間違いないです」
落ち込んでいる正姫を気遣い、竜次がぐるりと話題を変えた。
ところが、正姫はこれに対しても渋い反応を見せた。
「わたくしや沙蘭も危ないと思ったのでしょう。フィリップスのクレスト殿から手紙をいただきました。それもあって、街の者に死者は出ておりません。お兄様、クレスト殿に親書をお渡ししただけではなく、何かお話を?」
竜次は眉をひそめ、考え込んだ。クレスト王子はフィリップスのギルドで行方不明と耳にしたが、わざわざ沙蘭へ手紙をよこしていたとは妙だ。
正姫は竜次に手紙を渡した。封にフィリップスのシンボルフラワー、ひまわりの印も見受けられ、サインもある。間違いなく本物だ。
竜次は開いて文章を読む。まるで今日、襲撃があると示唆しているようにも思える。
「忠告と言うか、宣告にも思えますね。ですがこんな手紙、これから攻撃を仕掛ける国におくるでしょうか……」
正姫も小さく唸った。
「知らせるのが目的なら、防御を張れとも読めます。有事に備えてはみたのですが」
被害はほとんど出なかった。数件の民家や道は崩されたが、死者は出ていない。
「事前にいただいたこの手紙のおかげで、ほとんど街に被害は出ませんでした。まぁ、逃げ遅れた人はいましたが、死者は出ていない。クレスト殿は間接的にだが、守ってくれたのかもしれませぬ……」
竜次も読みは同じだと頷く。沙蘭とフィリップスは親交が深い。悪い気はしなかったが、気味が悪かった。こんな機密情報を漏洩したら、クレスト王子だってただでは済まされない。行方不明になった原因にもなりかねないだろうが、これも判断材料が少ない。
「少し時間を置いてみなさい。あとからわかる情報もあります。すぐに返事を出さないといけないわけではないでしょう?」
「そうですね……」
「今は自国のことを考えなさい。必要ならば、近隣の貿易都市ノアやギルドも情報源として使って。助けが必要なら中立の都市に声をかけなさい」
竜次は正姫に気をしっかりと持てと励ましたつもりだ。だが、ずいぶんと具体的な指示まで口にしている。そういった教育は受けて来たが、正姫は腑に落ちないようだ。
「お兄様がこの国を引っ張ってくだされれば、どんなによかったか……」
いつかは言われると思っていた。周りの大人から言われることはあっても、妹から言われたのは初めてだった。
正姫にも積りに積もった不満はあったのだろう。だが後悔したのか、激しくかぶりを振った。
「戯言を申し訳ありませんでした。わたくしは持ち場に戻ります。今は、わたくしがしっかりしないと」
正姫は己が背負ったものの重さに対する弱音を聞いた。
竜次は強く深い罪悪感に襲われた。妹の正姫は自分勝手な生き方をした兄を見て、何も思わないはずがない。きっとジェフリーもよくは思っていなかっただろう。この溝を埋めるのは容易くない。そしてまた、人の気持ちを理解していない罪深さを知った。
大きな畳の部屋にテーブルと肉厚の座布団。だが、座らない。座ってゆっくりと話す雰囲気ではない。
サキはクディフと対峙した。敵かもしれない。味方かもしれない。それを明らかにする形になるとは、サキも予想はしていなかった。
「僕はサキと申します。直接お話したことは、ないですよね?」
旧・種の研究所では会ったが、言葉は交わしていない。サキは律義に挨拶をした。だが、クディフは鼻で笑った。
「あの銭ゲバ王女が、どうやったらこんなよくできた弟子を取れるのか、面白い……」
アイラを知っているようだ。銭ゲバと比喩されるとは思わなかった。少なくとも、サキには悪い印象を抱いていないようだ。
親子の会話を交わしたいローズを、コーディが止めていた。ここはサキに任せたいと、彼女も思っているらしい。
「僕からは、何と呼よびしたらいいですか?」
「好きに呼べばいい。どうせ、お前も俺に敵意しかないだろう」
「僕と話をしている時点で敵ではないです。見るからに貧弱で、ましてや魔導士です。一方であなたは名を馳せた剣豪。捻り潰すのでしたら一瞬ですよね?」
乗るかと含んだ笑みを浮かべるサキに対し、クディフは警戒を解いた。
「誰かに似て、面白い奴だ。単細胞やイノシシ女よりは話し甲斐がありそうだ」
単細胞、イノシシ女、思わずくすっと笑ってしまう。サキは大きく笑うことは堪えた。代わりに背後で待機していたローズが、噴き出して屈んでいる。名前を呼んでいないが誰を指しているのか、わかってしまうのが悔しい。
サキはクディフとの会話を楽しんでいるようだった。
「僕なりの考えを述べます。本当は敵対など不本意だったのではないですか?」
気を取り直して本題に入った。クディフはサキに対しては警戒を解いている。
「なぜそう思う?」
「あなたも騙された。違いますか?」
「ほぅ……」
今までと違う反応を見せた。何を考えているのか難しい表情だが、本当は素直かもしれないと期待を持った。
ほのかに青みをまとった銀髪に裾は解れ気味のマント。剣士、剣豪とは耳にしていたが、一人の人だ。そして、誰かの父親である。何かの争いに巻き込まれたのではないかとサキは予想した。
クディフは偽りなく、素直に答えた。
「正解だが不正解だ。先に持ちかけたのは俺の方だからな」
「持ちかけた? あなたはミティアさんの中のもう一人にお会いしたくて接触したのですよね?」
そんな話だったはずだ。だが自信がない。サキは首を傾げる。予習不足だ。ジェフリーや竜次の方がこの件に関しては詳しい。断片的な情報だけしかない状態で、少し意図を動かしながら会話を続けた。
「ミティアさんは天空都市の人、そして地上では長く生きるのが難しい不完全な人。いえ、難しい話なのはわかっていますが」
「調べがついているのなら、簡単な話だ。その器に、適合率の高い者を入れても負担が少なかった。そういう意味だ……」
点が線になったかもしれない。サキは手応えを感じて小さく頷いた。
「それが、あなたの会いたがっていた人ですね。そして、都合がいいことに禁忌の魔法も使える人だった」
「話しやすくて助かるな。まどろっこしい無駄話をしなくていい……」
クディフはいい反応をした。あっているようだ。
サキはここで自分の知識と結び付けた。
「それはフィラノスの前身、ヒアノスの王女様。なるほど……」
「なぜお前はそこまで知っている? 都合が悪い歴史は抹消されているはずだ」
「僕も詳しくは知りません。知ろうとしても、資料がない。そういう本もない。得られない知識に憤りは感じます」
これだけは正直な気持ちだった。クディフの心に響くものがあったのか、あれだけ物静かだった表情にうっすらと笑みを浮かべている。
「だが、今から得るのは難しいだろうな。当時を知る者は少ない」
「あなたはいますけど……」
サキの言葉に、クディフはくすりと笑った。馬鹿にしているとは違うと思うが、どうも慣れない。
隠れていたローズは会話から得た情報を整理し、つなげようと試みていた。それが独り言になってぶつぶつと撒き散らされる。
「騙す、利用……そうか、だからルーはミティアちゃんを義理の妹にしてまで連れ出し、禁忌の魔法が使えるように、育てた、とでも言えばいいのか……でも、うーん、なんか言い方が違うような……ムムム……」
ルッシェナが何を狙っていたのか、段々と読めてきた。
クディフも知っている情報を開示した。
「邪神龍はルッシェナ・エミルト・セミリシアの所有物。あんなハイリスクなものを、村で放ってテストした。狙いは禁忌の魔法の実験だった。だが、それは失敗した。『彼女』の力は不完全、潜在的なもの。それだけの絆を築けなかったルッシェナもお粗末だったな」
ジェフリーとキッドが聞いていれば、持っている情報から、違う反応を見せたかもしれない。
「あの者が義理の兄妹として接し、家族を演じても築けなかったのだ。どんな家族を演じていたのかは知らない。それでもダメだったのなら、俺がその絆を築けるはずがない」
部屋の障子に違う人の気配がした。まるでクディフの話に反応するかのようだった。
「あなたが築けなかったものを、私たちに築かせようとした。と、いう魂胆ですね」
障子に影になっていたのは竜次だ。
「立ち聞き、盗み聞きみたいになってすみません。途中からですが、何となく話が読めました」
「剣神……」
クディフが睨むように竜次を見ている。憎しみを向けているわけではないが、あまり好きではないようだ。クディフの態度は急変した。竜次とどうしても衝突してしまう。
「薄々、悪い人ではなかったのはわかっていました。でも、その絆を築かせるための旅を利用し、ミティアさんを壊そうとした。私はあなたを許せません」
「どうしても殺したいのなら好きにするがいい。もう未練はないのだから」
「いえ……」
あとから来たはずなのに、竜次が話の主導権を握った。
遅れて来たヒーローとでも言うべきか。それにしては、情けなくも抜けている部分が多い気がする。
「これからはその剣を、ミティアさんのために振るってください」
そう言い放った竜次は、勝ち誇ったように口元を緩めている。
事実上、手を組めという形になる。もっと言うと、味方になれ……かもしれない。
一同の表情が明るくなった。
クディフは首を傾げながら眉をひそめている。何が気に食わないのだろうか。
「そのつもりなのだが……?」
「えっ……?」
空気が凍った。竜次は半歩退いて、苦笑いをしている。
「だ、だって、さっき殺せと言ってたじゃないですか?」
「俺は『どうしても』と言ったが、聞こえなかったか?」
「ゔぅっ……」
竜次はもごもごと文句でも言いたそうに口を窄めている。完全な空回りだ。悪い癖だが、勝手に話を進めてしまうのは発作のようなものだ。
クディフは竜次にかまわず、意味深なことを言う。
「あの娘は目が覚めるとは思うが、何か失っているかもしれない。死んだ際に反転した王女によって禁忌の魔法が放たれた。さらにもう一度、反転している」
その意味深な発言に、ローズが反応した。
「んン? と、いうことは、今のミティアちゃんは、もう禁忌の魔法を使えない……?」
ローズは深く唸りながら考えている。懸念が残っているからだ。
「禁忌の魔法を使ったなら、また記憶がないのでは。いえ、それはまだ、わからないデス……よね……」
ローズは額に手をつき、今にも崩れそうだ。想像してはいけない負のスパイラスである。
話が一区切りしたところで、クディフが一同の中を抜け退室しようとする。そこで、今まで会話を交わさなかったコーディに声をかけた。
「コーデリア・イーグルサント、話がある」
「わっ、油断した……」
クディフはコーディを知っている。わざわざ指名をした。コーディは不思議に思いながら、クディフについて行った。
あとに残された者たちの自発的な反省がはじまった。
ローズはまたも爆弾発言で嘆いている。
「オトーチャン……やっぱりワタシには目もくれませんネ……」
娘に一言もかけない父親もどうかと思うが、ローズはやはり悔しがっている。進んでは話さないが、クディフは父親だと暴露していた。きちんと話の場を設けるべきか。それもすでに遅いだろう。
もっと悔しがってぺたんと座り込む者がいた。フカフカの座布団を掴みかかっている竜次には迫力があった。
「わ、私って何ですか!! 本当に、いや、ほんっとうにもう、何なんですかね。真剣に話していたのに!!」
念仏のようにぶつぶつと言っている竜次は置いておいて。
サキは、ジェフリーとキッドにも話しておくべきだと思った。ただ、クディフが言った『未練はない』というのが気にはなった。予想しかできないが、口振りから、望んでいた王女には会えたのだろう。伝えたいことを伝えられたのだろうと、勝手に解釈した。
もちろん、サキの中だけで。
別の部屋に入るのかと思ったが、下層の庭先の縁側で気軽な雰囲気だった。夜風が抜ける。話し込んでしまい、日が沈んでいたことに気が付かなかった。
警戒はしていないが、コーディはトランクを置き、立ったままクディフに話しかける。
「私に話って何?」
「文豪なのだろう……?」
「えっ? あ、もしかして、そういう話?」
クディフは縁側に腰かけ、手入れのされた庭を眺めている。その目は優しい目をしていた。どこか、肩の重荷が降りたような開放感を噛み締めているようにも思える。
「我が主君の埋もれた行いと言葉、活動、フィラノスになる前の話を本にしてはいただけないだろうか?」
「ひ、ひえーっ!! も、もっとほかの人に頼めばいいのに……」
コーディに対しては逆撫でをするような言動がない。むしろ縁側に腰かけて、無防備とまで言っていい。
クディフもただ、何の意図もなくコーディに頼むわけではなかった。
「ドラグニーの始祖が存在する話を読んだ」
「え……」
驚くのも無理はない。コーディが出した数少ない本を、クディフは読んだのだと言う。
「あ……あの本、読んだ人、ほとんどいないと思ってたのに」
「都合の悪い情報は消し去る。人間以外の種族を認めない学者が葬ってしまったのだろうな。今では物好きの書庫くらいにしかないだろう」
「そっか、おじさんは読んでくれたんだ」
おじさんと言われ、クディフは一瞬だけ引きつった顔をした。
クディフは続けた。
「人間と親しくなると別れがつらい思いに共感した。どうしても人間は、親族よりも先に死ぬからな」
確かクディフは、アリューン神族と人間のハーフだったはず。さらに言うと、ローズはクオーターくらいだったと誰かの話で聞いた。コーディは考え込んだ。
つまり、クディフが愛した人は人間だった。そして、その子どものローズは自分より早く死ぬかもしれない。だから親しくはならないようにしている。
コーディはそこまで読めた上で、深く頷いた。
「私、まだ十六歳だからわからないけど、きっと同じ気持ちになるんだと思う。みんなと一緒に老いていい人生だったってなりたいね」
「なぜ、自分より別れが早いとわかっていて、ギルドの賞金ハンターをしながらあの者たちと行動をともにしているのだ?」
クディフの疑問に答えるのは、コーディには難しい。
「理由はいっぱいあった気がするんだけど、そんなものなくても一緒にいたいと思ったからじゃないかな」
ギルドのハンターとして手を組もう、ミティアの情報を集めよう、種の研究所を……色々あったのに、今はそんなものに縛られなくても一緒がいい。
「こういう人間もいるんだって、真実を本にしたい。知るべきものは埋もれさせないためにも……」
手放しだったが、伝わってくれたようだ。クディフは振り返った。
「その話、生きているうちに目にしたいものだな」
「じゃあ、おじさんは最初の読者になってね。はい、約束」
「ふっ、そうか……」
笑い合っている間に、コーディがトランクを開けてネタ帳とペンを取り出した。取材の準備をしようという姿勢だ。
戸の淵を叩くノックする合図を耳にした。
「おっ、こちらでしたかっと……」
盆を持った光介が訪れた。コーディはこの人に案内してもらった。道中で紹介してもらったが、竜次やジェフリーの義理の弟さんだ。
性格は明るくて、とても軽いがきちんとしている。マナカにお茶を出せと言われたのを果たしに来たようだ。
茶托の上に丁寧に置いて、一礼するとトントンと足音が上がって行く。これから上にいる人にも届けるのだろう。
沙蘭のお茶はおいしいと有名だが、置かれて行ったのは湯気も立たないぬるいものだった。
「あったかいのがよかったなぁ……」
出されたものに対し、軽く残念がったコーディだが、その横ではクディフがちゃっかりいただいていた。
「おいしい淹れ方を知っているいい使いだ……」
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