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【7】くずれゆくもの
弱き者・強き者
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夜の王都フィリップス、乾いた木の音が広場に響いた。木々に囲まれて、よく整備されているので地面は蹴りやすい。
竜次もキッドという珍しい稽古相手だ。強くなりたい、己を高めたい思いは一緒だった。
竜次に対して手厳しく、苦言だらけだったキッドが、指名したのが意外だった。
「先生、どうしたんですか? あたしに遠慮なんていりませんよ!!」
木刀がへし折れて壊れそうな打ち合いだ。これでも割れないのだから、よく馴染んでいる。
「先生のやり方ってこうですか?」
キッドが強く踏み込み、押し返す。竜次は身を引いて回避をする。
「そう取らせはしませんよ? 勢い任せが多いので、左脇が甘いです!」
キッドに合わせているせいか、小太刀を扱う踏み方になってしまう。このクセがつくと不利だ。メインは長い刀なのだから。
「もう少し早く動かないと、あたしは取れません、よっと!」
左脇に入り込めたと思ったら、素早く後退された。そのまま間合いを取る。
動きの激しい打ち合いだ。お互いが息を乱した。
「やはり場数が違いますね。自然を相手にしていたのですから、捕まらないのも納得します」
竜次は少し諦めるような言い方だった。だが、完全にそうではない。むしろ、火のついた目をしている。
「ならば、私は技を磨きましょう」
「えっ? あの下手っぴな銃ですか?」
「ち、違いますっ!!」
「あっははは、先生ったらむきになって、子どもみたい」
真剣だったのに、その気持ちを丸ごとへし折られた。キッドから小馬鹿にされるような笑いを受けるも、不思議と嫌な気分ではない。竜次は慌てて言い訳をする。
「マスケットはあくまでも予備の手段です。ギルドからいただいてしまったので持っていますが、あれがメインにはならないですから」
「先生は剣神なんでしょ? なら、剣技を極めるべきじゃないですか」
「これから先、剣技だけでは役に立たない可能性がありますから。魔法でも習った方がよかったかもしれませんね……」
魔法はジェフリーとコーディも使おうとしている。あえてその選択肢を選ぼうと思わなかったが、意見次第では取り入れも視野に入れるべきか、竜次は悩んではいた。
キッドは誤解をしているのではないかと、遠回しに言う。
「からかってごめんなさい。でも、先生は先生の個性があるじゃないですか。あんまり考え込まない方がいいですよ」
どうも会話がちぐはぐだ。竜次は真意を汲み取れず、自分の気持ちを話した。
「私、皆さんを守れるくらい強くなりたいです。そもそも、ここ数日で皆さん成長し過ぎなのですよ。私のスキルやライセンスは、目立たなくなってしまいました。これでは弱々です……」
「先生が目立たない? それはないですよ」
キッドは小さく笑った。ごくごく自然な笑い方だが、出会った頃よりずっと柔らかくなった笑みだ。
「空回りをしていますが、今は誰よりも頑張ってるじゃないですか。何かを得ようと必死になって、全部は悪く思えません。でも、どうしてそんなに必死なんですか?」
キッドが指摘をするように、竜次は何かを得ようと必死だ。空回りもそうかもしれない。何度躓けば、先に進めるのだろう。不甲斐なくて自然と視線が落ちた。
「ジェフが、どんどん先に行ってしまう。私のうしろをついて来るような子だったのに、いつの間にか前を行っていました。何だか、悔しくて……」
これが、竜次が誰にも言えずに抱えていた本音だ。いつ、抜かされてしまったのだろうかと、悩むも手遅れだった。
「先生、もしかして劣等感を抱いています?」
鋭い指摘だ。竜次は深く頷いた。
「私は居場所がなくなるのではないかと怖いです。もしかしたら、もうすでにないのかもしれない。孤独になるのが怖くて、こんなの情けなくて」
脆くて壊れそうな自分を、キッドの前で曝け出した。
キッドは首のうしろをカリカリと掻きながら、大きくため息をついた。
「うーん、あたしもそうだしなぁ」
キッドらしくない一面だ。一緒になってしんみりした空気になってしまった。
「あの子もミティアも強いから、あたしよりもずっと。何倍も、比べものになんてならないくらい」
「落ち込んでいるのを怒られるかと思いました。意外です。強気なあなたらしくない」
今度はキッドが、サキやミティアを思い浮かべながら落ち込んだ。
「魔法無効能力者だって言われても、わかんなかったです。こんな能力のせいで争いが起きたなんて」
キッドはそう言って両手を頭のうしろに回し、踵で地面を蹴って弄んだ。
「いつまでも落ち込んでいるのも、あたしらしくないかな。だから強くなりたいって、ね?」
キッドは構え、何もない空間に突きをしてすぐに直った。
竜次は控えめな発言をする。
「私がお守りします……って言えるような人だったら、どんなによかったでしょうね」
せっかくのチャンスかもしれなかったが、図々しさを抑え込んだ。よく言えば、謙虚になるかもしれない。だが、それよりも気持ちの面で謙虚にならざるを得ない状況ではあった。
ギルドでコーディと話した内容を思い出したのだ。『脈ナシ』という言葉を。
竜次の気も知らず、キッドは笑い飛ばした。
「そこは一応、カッコつけるところじゃないんですか? 頼りないなぁ先生は……」
「えぇっ!? あ、えっと……」
竜次は思わず言葉が詰まってしまった。キッドの真意がわからない。もしかして、反応を遊ばれているのだろうか。
キッドは視線だけ竜次に向け、悪巧みをするように口角を上げた。
「ねぇ、先生? 弱っちい者同士、組んでみません?」
「あなたと……組む?」
「あたしは早さ、先生は技術。組めば最強じゃないですか?」
言ってからキッドは悩ましげに眉を乱す。
「や、最強は言い過ぎかも……」
もちろん今のままでは、という意味だ。言い直そうとしたキッドに、竜次は食らいついた。これが、いい提案だったのは間違いない。
「その話、乗ります!!」
お互いが変化を望んでいた。ひょんなことから手を組むことになり、話が弾む。
「あっ、ジェフが聞いたら怒ると思うので、今はまだ内緒にしてください」
「あいつに言う理由がありません。むしろ、ぎゃふんと言わせるまでありますよ」
「ふふふ……これは面白くなってきましたね」
弱い者同士、組もうという同盟が結成された。お互いの行動範囲の確認と、内容を相談し合う。少し、また少し、お互いの距離が縮まっていく。
お互いの長所と短所を把握するところからだったが、徐々に楽しくなっていた。
薄暗い地下書庫で、ジェフリーとサキは地図帳と書物を照らし合わせていた。
家の中だがランタンを利用しないと、本のひしめきで明かりが届かない。本棚の数も多い。大図書館と違って広さに限りがあり、空気も悪くて埃っぽい。
本棚の背表紙をなぞる作業をここでもする。
「自治問題や、ニュースのまとめなんてないよな?」
地図帳の観光案内があるページを見ながら、ジェフリーがため息をついた。少しでも何かないものか。一緒になって本棚を見ていた。
「ねーねぇ、これ、参考にならない?」
どさくさに紛れて圭馬が大判の紙束を引っ張って来た。バサバサと雑な音と埃が散る。
舞い上がった埃を払いながら、ジェフリーが受け取る。参考どころの話ではなかった。
「これ、ギルドの月間ニュースまとめじゃないか。何年分だ?」
一番上の日付は三年ほど前だ。ノックスがフィリップスの管轄になった記事が載っている。嫌な予感がしたので十年遡ったが、魔導士狩りの記事があった。信用していい情報だ。
「もしかして、博士じゃなくて先生の趣味か?」
ジェフリーが言う先生は竜次ではない。剣術学校の先生で、ローズの兄を指す。
今は何をしているのかは不明らしい。この書物の山も、ローズのものもあるが、その先生が集めたものだと言っていたし、剣術学校の先生をしながら一体何をしていたのか気になった。
「うーん、やっぱり魔鉱石とやらは、天空都市を浮かべている動力源と見てよさそうですね。それなら、ノックスの採掘の過程で魔鉱石が出てしまうのも納得します。魔鉱石を利用すれば、天空都市に行けると考えていいです」
「問題はその技術とやらをどうやって得るか、だな? サキはそういう知り合いはいないのか?」
「無茶振りですね。僕は実習以外で、フィラノスから出た経験がないんですよ?」
要するに心当たりはない。純血のアリューン神族なんて、この世界に存在するのかと疑問に思った。
今までに得た情報だと、秘密主義のようだ。確かに己の素性など、黙っていればわからない。普通の人間に溶け込んで生活するのなら、悪いことでもしない限り身分など明かさないだろう。
ふと、ジェフリーの手が止まる。知っている名前を見つけた。
圭馬とショコラも覗き込む。
アイシャ・ドルール・アリューン(アイラ・ローレンシア)ギルド公式、レジェンドハンター就任。とある。魔導士狩りが起きる少し前だ。
「これ、キミのお師匠さんの名前じゃない?」
圭馬がサキを呼びに行く。見せると、小さい字に目を凝らし、眼鏡を取り出してかけた。これも彼らしい光景だが、近眼か、乱視だろうか。
受け取って記事を見ると、賞金総額三千万リースとある。
魔法学校の学費が半分、あとは生活費くらいになっていたのだろうが、賞金総額よりも名前を気にするべきだと、ジェフリーは自分の中で軌道を修正した。
名前が気になって仕方がない。
「兄ウサギが、種の研究所で、お師匠さんを『アイシャ』と呼んでいた気がする」
ジェフリーが指摘を入れる。種の研究所で再会を果たした際、圭白はアイラに特殊な呼び方で接していた。圭馬も名前に注目した。
「あぁっ!! そうだったね! この名前はどういう意味なんだろう? まさか、本当にヤバい暗殺組織の人なのかな?」
質問に物騒な返しをするものだから、ジェフリーがぽんぽんと叩く。注目すべきはそこではないと、一応の突っ込みだ。
「名前にアリューンと入っておりますなぁ? はぁて、どこかで聞いた覚えがあるような、ないような……」
「何でババァが知ってるんだよ?」
「わしゃ、本を書いていたくらいだよぉ?」
惚け気味のショコラに、口の悪い圭馬。薄暗い地下書庫だというのに賑やかだ。
「お師匠様が、偽名を? じゃあ、ローレンシアは存在しない名前?」
サキが記事を見て困惑している。存在しないとなると、この名前には縛られなくていいのだが。
「のぉん……」
ショコラが自分が書いた本を取りたがっているようだ。
引っ張って出すと、ショコラがジェフリーを見上げる。
「この本に書いたかもなのぉ! アリューン神族の三姉妹の話ぃ!」
「さ、三姉妹……って、わかったから爪を立てるな。どのページだ?」
ショコラがカリカリと爪を立てながらジェフリーの腕にしがみついた。
「ジェフリーお兄ちゃん、この項目だよ。アリューン界についてだ」
圭馬が横からページを急かせた。
ページを開いてランタンを寄せ、揃って読み始める。
アリューン神族の王族についての記載がある。ショコラがシルバーリデンス公より聞いたアリューン界の話が記されているが、ここでどうしても指摘を入れておきたい。ジェフリーは怪訝な表情を浮かべた。
「あんた、あの銀髪黒マントの剣士を知っているのか?」
「のぉん? あの方はわしが馬車に轢き殺されそうになったのを助けてくれた流浪の剣士よぉ? 混血はアリューン界にいられなくて追放されたとか、難しいことを言うてたのぉ。わしゃ人間界に来たばかりだったから、話し込んで面白かったからのぉん」
ショコラが知るクディフは、ジェフリーの知る情報とは違う。ヒアノス国に仕える前の話のようだ。
圭馬も気になってショコラに質問をした。
「ボクはチラッと見た程度しか知らないけど、まぁいいや。それで、その剣士と何を話したのさ?」
確かに圭馬は種の研究所で少し見た程度しかクディフを知らない。
ショコラは続ける。
「アリューン界は女性が仕切るのが主流でのぉ。王族の三姉妹さんのうち、三女のメイアがアリューン界を統べる者になり、上の姉妹、ホトリとアイシャはこの世界に来たと言われているのぉん。多分、すごぉく長くこの世界で暮らしているはずなのぉん」
すごく長く、と言われて魔法や身のこなし、物知りな点も納得がいく。アイラがサキの育てとはいえ、母親である感情も、長い年月で薄れていた感情を呼び起こされたのかもしれない。
長寿であるがゆえに薄れてしまう、『情』だろう。掲げていた人情もそうだ。
複雑なようで単純なアイラの歩みが見えた。
話の中でより鮮明になったアイラの存在。自分たちが求めている『真実』により近い存在であるのはほぼ確実だろう。
「お師匠さん、どこかで探さないといけなくなったな」
ジェフリーに言われるも、サキはもう一つ引っかかっていた。
「お師匠様がそうなら、ラーニャ母さんもそうなりますね……」
拾った親だ。虐待をされ、ひどい仕打ちを受け、縁を切った人だ。サキは塞ぎ込んだ。
ジェフリーは余計な心配と知りつつ、サキを気遣った。
「そうだろうけど、復縁でもするのか? お前、ひどい目に遭っただろ。身体はだいぶよくなっただろうけど、やっぱりキツイよな」
「ラーニャ母さんには、会いたくないです。また、叩かれるなんて嫌だ……」
拾った親を頼る選択肢も考えた。だが、サキは拒絶反応を起こす。怯え、震え、吐き気を抑え込むように口を塞いだ。
「わかった、わかったから……安心しろ、な?」
ジェフリーが背中をさすろうとすると、サキはビクッと反応した。改善したと思ったら、忌まわしい記憶が蘇る。サキは異常なまでに過呼吸を起こした。
圭馬は幻獣であるがため、長寿だ。サキの育ての親であるアイラの気持ち、拾った親のラーニャの気持ちを察した。
「たまーにいるよね、子どもの愛し方がわからない親……」
圭馬はサキの顔を覗き込んだが、どうしても顔色がすぐれない。
ジェフリーは決断した。
「もう、ここを出て休もう……」
軽くギルドのニュースの束と、ランタンを片付けた。
ジェフリーは涙ぐんでしゃくり上げるサキの手を引いた。嫌な話だっただろう。悪いことをしたと罪悪感を抱いた。
階段を上がると、ミティアと鉢合わせた。サキの異常さを見て、ローズを呼びに走って行った。
異常を察知したのはコーディもそうだった。
「サキお兄ちゃん、どうしたの?」
コーディは一行に加わって日が浅い。まだ知らない一面を見て驚いていた。
ジェフリーはコーディにも協力を頼んだ。
「悪いコーディ、水持ってきてくれ」
コーディは台所に走った。サキをカウンター前のイスに座らせる。弱々しく背中を丸めて両腕を抱え込んだ。ひどく怯えているようだ。
タイミング悪く、玄関のドアが開いた。竜次とキッドが帰って来た。
玄関から、冷え切った空気が吹き込む。サキの心を凍らせるような冷気も招かれた。
「ただい……」
キッドが血相を変えて駆け寄る。
「どうしたの! あんた、何かした!?」
キッドは真っ先にジェフリーが疑う。だが、今回はその疑いは正解だ。
竜次もアドバイスをしながら目線を合わせた。まずは安心させなくてはいけない。
「過呼吸……辛いかもしれませんが、息を吸って、ゆっくり吐いて……」
ミティアもローズを連れてバタバタと階段を降りた。
同タイミングで水差しとグラスを持ったコーディも到着した。
ジェフリーは事情を説明する。
「調べ物をしてた。その過程で、こいつのお師匠さんと拾った親は、アリューン神族の王族の可能性が出てきた。その話をしていたら、虐待されたのがフラッシュバックしたらしい。思わぬ地雷を踏んだ……」
「虐待……」
コーディが眉をひそめながら水を差し出した。親に関して、いい思い出がないのは共通している。
ローズも手が真っ黒のままだが、竜次にいったん任せ、手を洗いに行った。
調べ物のつもりが大ごとになってしまった。ジェフリーは深く詫びた。
「今回は悪いことをした。すまない」
「調べ物をしていたなら事故です。いい薬ではないですが、落ち着いて眠れますよ」
竜次はカバンから錠剤を取り出した。
サキは落ち着いてから飲むように説明を受ける。仲間の顔を見て幾分か落ち着いたようだ。
竜次は追い打ちをかけるような一言を添える。
「ローズさんにお注射してもらってもいいのですけれど……」
注射という単語で更にビクッとなり、サキは慌てて錠剤と水を口にした。飲んで涙を拭った。しばらく見なかった反応に皆も騒然とした。
「すぐ眠れると思うデスケド、ワタシが付き添いマス」
サキの顔色が悪くないと確認し、ローズは手を引いて三階へ上がって行った。
残念ながらこれで差別をする人もいる。仲間は思いやりのある、理解者ばかりだ。
サキを見届けて、キッドが辛辣な表情を浮かべた。
「あたしが、あたしが守ってあげなきゃ……」
悔しそうに拳を震わせている。
騒ぎが落ち着き、ジェフリーは再び地下へ行こうとする。キッドは八つ当たりをするように言葉で噛みついた。
「あんた、まだ調べ物するつもり?」
「あと一つだけ、どうしても把握しておきたい。それが済んだら俺も休む」
ジェフリーはキッドの言葉を遮った。
そそくさと地下書庫に戻って行くジェフリーを見て、ミティアが心配をする。
「ジェフリー、大丈夫かな?」
「ほっときなさい、あんな奴。最近自分勝手な行動ばかりじゃない」
「ん、キッドも先生もケーキ食べてお風呂入ったら休もうね」
こんな状況でもミティアは食べもののミティアは六等分のうちのひとつ、それをさらに半分にしたチーズケーキを差し出した。
食べないとミティアが食べてしまいそうだ。
「なんか、みんな頑張ってるよね。わたしも何か力になれたらいいな……」
水差しとグラスを片付けるミティアだが、コーディがいないことに気がついた。先に寝たかな? と、首を傾げながら洗い物をする。
アイラの手紙にあった、ノックスの教会だけは先に調べたかった。
ジェフリーは再びランタンに火を入れた。ギルドのニュース記事を引っ張り出し、指で追う。
教会が焼かれた記事を見つけ、手を止めた。
「フィラノスの視察、か……」
フィラノスが領土にしたいと、目論んでいたのが見受けられた。それにしては場所が離れ過ぎて、フィリップスを跨ぐ形になる。領土の拡大はどこも目論むだろうが、あまりにも無茶ではなかろうか。
自分には無縁と感じていた領土争いの攻防を、くだらないと思いながらジェフリーは目的の情報を拾おうとする。
教会が焼けた日は偶然にも、フィラノスの関係者が視察に来ていたとある。
時刻は深夜。火は木造の教会を焼き、ほぼ全焼した。その全焼したはずの教会の地下から女の子が救出された。不思議なことに、街の誰もその女の子の存在を知らなかったという。
女の子は無傷だったが、深く眠っていた。
ジェフリーは不可解に思った。この女の子はフィラノスの関係者が保護したと記載されている。教会の者が不在だったのをいいことに。淡々と記されているが、火事の騒動に紛れ込んだ『人さらい』ではなかろうか。
もっと不可解なのが、添えてある写真には、女の子に足枷がついているようだった。
救出された女の子の名は……。
「それが、ミティアお姉ちゃんって言いたいの?」
ジェフリーは読み耽ったまま、背後に意識がなかった。
コーディが覗き込んでいた。ジェフリーは黙って記事を伏せる。
「おかしいと思った。サキお兄ちゃんと、秘密でも作っているの?」
コーディの表情は渋い。仲間内で秘密を作っていて、いい気はしないだろう。
「私は作家を目指しているんだから、誤魔化せないよ」
「コーディはみんなにばら撒くような奴じゃないからな」
「別にいいけど。追い詰められた人ってとんでもないことするから、協力者よりは見張り役かな」
見張り役、ジェフリーには心強い。コーディは淡々としているが、厳しい目も持ち合わせている。確かに彼女の指摘は一理ある。追い詰められて道を外した心当たりは、父親のケーシスだ。
コーディはただ、ジェフリーの様子を見に来ただけだった。
疑われても仕方ない。最近おかしいのはジェフリーも自覚をしている。
「心配をかけた。もう戻るし、休む……」
「ジェフリーお兄ちゃん、体だけは壊さないでね」
「そのつもりではいる。ありがとう」
コーディは言及をしなかった。これも、彼女の特徴だ。話す機会があったら、話してしまってもいいだろう。
年月が経過しているので、教会に情報が残っている可能性は低い。だが、アイラの手紙からすると、そこに何か手がかりはあるはずだ。
予習はこれくらいにしておこう。サキが一緒にいる方がいい。
ジェフリーはランタンの火を消し、一応戸締まりをした。
救出された女の子は、一部の過激な考えを持つ人が奇跡の子どもだと崇めるかもしれない。フィラノスが孤児院に連れて行く口実で、種の研究所に連れて行った可能性もある。これくらいの仮説にしよう。まだミティアだとは決まっていない。
複雑怪奇なミティアの生い立ち、これから朽ちる運命。
そんなものは打開する。
皆と出会えた。ミティアに出会えた。この限られたいいものだけは絶対に残したい。ほしがって、簡単に得られるものではないのだから。
ジェフリーは感傷に浸りながら焦りを感じていた。
竜次が座ってお茶を飲み、一息ついた。ジェフリーが置いて行った地図帳を捲っている。ミティアも隣で一緒になって読んでいた。
「こういうのに沙蘭ってどう書いてあるのか気になりますね」
「わぁ、やっぱりお城とか、独特の文化がいっぱい書いてありますね!!」
ミティアは目を輝かせている。実はちゃんと読む暇がなかったので、改めて見ると知らなかった情報がたくさん載っている。
「あ、先生の名前が書いてある!! しかも剣神とまで書いてありますね!!」
「存在した、と過去形で書いてあるのがまた……こういうの、余計ですよね」
竜次は苦笑しながら首を垂れた。写真はなかったが、名前はきっちりと書いてある。何の断りもなく、本に載っているのが恥ずかしくもあり、うれしいような、悲しいような、微妙な気持ちにさせる。
ページを捲ると、スプリングフォレストの案内だった。だが、地形の紹介だけでほとんど説明はない。やはり足を踏み入れる者は少ないのだろう。
ミティアがふと思い耽る。
「何だか、今までの旅を振り返っているみたい……」
いい思い出も、悪い思い出もある。いい思い出の方が多いかもしれない。
「あの剣士の人が選択肢としてくれた歩みかもしれませんけど、わたしは楽しかったです。本当はもうない命だったのに、今もみんなと一緒にいられるのが、本当にうれしい……」
ミティアは感傷に浸った。思い返してみれば、自分のせいで始まった旅だ。今は違う主目的で動いているが、一緒に歩んでくれるありがたみを噛み締めていた。
「全部片付いたら、何でもない旅団みたいになってもいいかもしれませんね。それこそ、探検とか厄介者の退治とか。あ、でも私はお医者さんの腕も磨きたいので、その修行を兼ねてもいいですね」
特にそういう予定はないものの、未来について話し出している。
「わぁ、楽しそう! わたし、完璧な地図が作りたいです!」
「あ、ミティアさんの案、すごくいいですね!」
話が弾んでいる。離れてコーディが聞いていた。そのコーディの視線の先には暗い影を落とすジェフリーの姿があった。
「のぉん……」
難しい顔をするローズの足元で、鯖トラ猫のショコラが心配していた。
「眠ったのでとりあえずは大丈夫デス」
ショコラは同行するようになって間もない。サキが抱える闇に驚きもした。
圭馬もサキを気遣った。
「ボクも触りしか知らないから、この子がどんな仕打ちを受けて来たのかはわからない。だけど、明らかに異常な怯え方だったね。あれは簡単には癒えないよ。精神面の問題でもある。戦ってる時に思い出さないといいんだけど」
少しは味方らしい発言をするようになった圭馬だが、毒舌から気遣うのも増えた気がする。魔力共有の契約をしているのだから心配をするのは本来自然だ。
ローズが明かりを消して下に降りた。二階のベッドではキッドが寝る支度をしながらも、ローズを待っていた。
専門のローズに任せてはいたものの、やはり心配のようだ。
「あんまり心配しすぎも良くないデス」
下からも足音がぞろぞろと、男性は三階で寝ているのだから自然と二階に集結する。
「何かあったら私が診ます」
竜次は軽く頭を下げ、ジェフリーと上がって行った。
ミティアもキッドに声をかける。
「いつも通りに接してあげるといいって先生も言ってたよ。寝よう? キッドも」
「う、うん……」
いつも通りがサキを楽にする。腫れ物に触るような接し方はよくない、と、竜次の助言を受けたようだ。
確かに、気落ちしているときこそ、普段の何でもないことが回復につながる。
布団で丸くなりながら、キッドは声を殺して泣いていた。サキが虐待され、心に深い傷を負ってしまったのは自分のせいだと。
自分を責めても何もならないのはわかっている。だが、心苦しかった。すべては自分が魔法無効能力者であるせい。そのせいで魔導士狩りが起きた。サキが生きているだけでも奇跡かもしれないが、やっと再会したのに自分はサキに何をしただろうか。
失った時間は取り戻せない。
何かを変えたい。弟に、何かをしてあげたい。
支えたい。強くなりたい。混在する意識が眠りを浅くする。
竜次もキッドという珍しい稽古相手だ。強くなりたい、己を高めたい思いは一緒だった。
竜次に対して手厳しく、苦言だらけだったキッドが、指名したのが意外だった。
「先生、どうしたんですか? あたしに遠慮なんていりませんよ!!」
木刀がへし折れて壊れそうな打ち合いだ。これでも割れないのだから、よく馴染んでいる。
「先生のやり方ってこうですか?」
キッドが強く踏み込み、押し返す。竜次は身を引いて回避をする。
「そう取らせはしませんよ? 勢い任せが多いので、左脇が甘いです!」
キッドに合わせているせいか、小太刀を扱う踏み方になってしまう。このクセがつくと不利だ。メインは長い刀なのだから。
「もう少し早く動かないと、あたしは取れません、よっと!」
左脇に入り込めたと思ったら、素早く後退された。そのまま間合いを取る。
動きの激しい打ち合いだ。お互いが息を乱した。
「やはり場数が違いますね。自然を相手にしていたのですから、捕まらないのも納得します」
竜次は少し諦めるような言い方だった。だが、完全にそうではない。むしろ、火のついた目をしている。
「ならば、私は技を磨きましょう」
「えっ? あの下手っぴな銃ですか?」
「ち、違いますっ!!」
「あっははは、先生ったらむきになって、子どもみたい」
真剣だったのに、その気持ちを丸ごとへし折られた。キッドから小馬鹿にされるような笑いを受けるも、不思議と嫌な気分ではない。竜次は慌てて言い訳をする。
「マスケットはあくまでも予備の手段です。ギルドからいただいてしまったので持っていますが、あれがメインにはならないですから」
「先生は剣神なんでしょ? なら、剣技を極めるべきじゃないですか」
「これから先、剣技だけでは役に立たない可能性がありますから。魔法でも習った方がよかったかもしれませんね……」
魔法はジェフリーとコーディも使おうとしている。あえてその選択肢を選ぼうと思わなかったが、意見次第では取り入れも視野に入れるべきか、竜次は悩んではいた。
キッドは誤解をしているのではないかと、遠回しに言う。
「からかってごめんなさい。でも、先生は先生の個性があるじゃないですか。あんまり考え込まない方がいいですよ」
どうも会話がちぐはぐだ。竜次は真意を汲み取れず、自分の気持ちを話した。
「私、皆さんを守れるくらい強くなりたいです。そもそも、ここ数日で皆さん成長し過ぎなのですよ。私のスキルやライセンスは、目立たなくなってしまいました。これでは弱々です……」
「先生が目立たない? それはないですよ」
キッドは小さく笑った。ごくごく自然な笑い方だが、出会った頃よりずっと柔らかくなった笑みだ。
「空回りをしていますが、今は誰よりも頑張ってるじゃないですか。何かを得ようと必死になって、全部は悪く思えません。でも、どうしてそんなに必死なんですか?」
キッドが指摘をするように、竜次は何かを得ようと必死だ。空回りもそうかもしれない。何度躓けば、先に進めるのだろう。不甲斐なくて自然と視線が落ちた。
「ジェフが、どんどん先に行ってしまう。私のうしろをついて来るような子だったのに、いつの間にか前を行っていました。何だか、悔しくて……」
これが、竜次が誰にも言えずに抱えていた本音だ。いつ、抜かされてしまったのだろうかと、悩むも手遅れだった。
「先生、もしかして劣等感を抱いています?」
鋭い指摘だ。竜次は深く頷いた。
「私は居場所がなくなるのではないかと怖いです。もしかしたら、もうすでにないのかもしれない。孤独になるのが怖くて、こんなの情けなくて」
脆くて壊れそうな自分を、キッドの前で曝け出した。
キッドは首のうしろをカリカリと掻きながら、大きくため息をついた。
「うーん、あたしもそうだしなぁ」
キッドらしくない一面だ。一緒になってしんみりした空気になってしまった。
「あの子もミティアも強いから、あたしよりもずっと。何倍も、比べものになんてならないくらい」
「落ち込んでいるのを怒られるかと思いました。意外です。強気なあなたらしくない」
今度はキッドが、サキやミティアを思い浮かべながら落ち込んだ。
「魔法無効能力者だって言われても、わかんなかったです。こんな能力のせいで争いが起きたなんて」
キッドはそう言って両手を頭のうしろに回し、踵で地面を蹴って弄んだ。
「いつまでも落ち込んでいるのも、あたしらしくないかな。だから強くなりたいって、ね?」
キッドは構え、何もない空間に突きをしてすぐに直った。
竜次は控えめな発言をする。
「私がお守りします……って言えるような人だったら、どんなによかったでしょうね」
せっかくのチャンスかもしれなかったが、図々しさを抑え込んだ。よく言えば、謙虚になるかもしれない。だが、それよりも気持ちの面で謙虚にならざるを得ない状況ではあった。
ギルドでコーディと話した内容を思い出したのだ。『脈ナシ』という言葉を。
竜次の気も知らず、キッドは笑い飛ばした。
「そこは一応、カッコつけるところじゃないんですか? 頼りないなぁ先生は……」
「えぇっ!? あ、えっと……」
竜次は思わず言葉が詰まってしまった。キッドの真意がわからない。もしかして、反応を遊ばれているのだろうか。
キッドは視線だけ竜次に向け、悪巧みをするように口角を上げた。
「ねぇ、先生? 弱っちい者同士、組んでみません?」
「あなたと……組む?」
「あたしは早さ、先生は技術。組めば最強じゃないですか?」
言ってからキッドは悩ましげに眉を乱す。
「や、最強は言い過ぎかも……」
もちろん今のままでは、という意味だ。言い直そうとしたキッドに、竜次は食らいついた。これが、いい提案だったのは間違いない。
「その話、乗ります!!」
お互いが変化を望んでいた。ひょんなことから手を組むことになり、話が弾む。
「あっ、ジェフが聞いたら怒ると思うので、今はまだ内緒にしてください」
「あいつに言う理由がありません。むしろ、ぎゃふんと言わせるまでありますよ」
「ふふふ……これは面白くなってきましたね」
弱い者同士、組もうという同盟が結成された。お互いの行動範囲の確認と、内容を相談し合う。少し、また少し、お互いの距離が縮まっていく。
お互いの長所と短所を把握するところからだったが、徐々に楽しくなっていた。
薄暗い地下書庫で、ジェフリーとサキは地図帳と書物を照らし合わせていた。
家の中だがランタンを利用しないと、本のひしめきで明かりが届かない。本棚の数も多い。大図書館と違って広さに限りがあり、空気も悪くて埃っぽい。
本棚の背表紙をなぞる作業をここでもする。
「自治問題や、ニュースのまとめなんてないよな?」
地図帳の観光案内があるページを見ながら、ジェフリーがため息をついた。少しでも何かないものか。一緒になって本棚を見ていた。
「ねーねぇ、これ、参考にならない?」
どさくさに紛れて圭馬が大判の紙束を引っ張って来た。バサバサと雑な音と埃が散る。
舞い上がった埃を払いながら、ジェフリーが受け取る。参考どころの話ではなかった。
「これ、ギルドの月間ニュースまとめじゃないか。何年分だ?」
一番上の日付は三年ほど前だ。ノックスがフィリップスの管轄になった記事が載っている。嫌な予感がしたので十年遡ったが、魔導士狩りの記事があった。信用していい情報だ。
「もしかして、博士じゃなくて先生の趣味か?」
ジェフリーが言う先生は竜次ではない。剣術学校の先生で、ローズの兄を指す。
今は何をしているのかは不明らしい。この書物の山も、ローズのものもあるが、その先生が集めたものだと言っていたし、剣術学校の先生をしながら一体何をしていたのか気になった。
「うーん、やっぱり魔鉱石とやらは、天空都市を浮かべている動力源と見てよさそうですね。それなら、ノックスの採掘の過程で魔鉱石が出てしまうのも納得します。魔鉱石を利用すれば、天空都市に行けると考えていいです」
「問題はその技術とやらをどうやって得るか、だな? サキはそういう知り合いはいないのか?」
「無茶振りですね。僕は実習以外で、フィラノスから出た経験がないんですよ?」
要するに心当たりはない。純血のアリューン神族なんて、この世界に存在するのかと疑問に思った。
今までに得た情報だと、秘密主義のようだ。確かに己の素性など、黙っていればわからない。普通の人間に溶け込んで生活するのなら、悪いことでもしない限り身分など明かさないだろう。
ふと、ジェフリーの手が止まる。知っている名前を見つけた。
圭馬とショコラも覗き込む。
アイシャ・ドルール・アリューン(アイラ・ローレンシア)ギルド公式、レジェンドハンター就任。とある。魔導士狩りが起きる少し前だ。
「これ、キミのお師匠さんの名前じゃない?」
圭馬がサキを呼びに行く。見せると、小さい字に目を凝らし、眼鏡を取り出してかけた。これも彼らしい光景だが、近眼か、乱視だろうか。
受け取って記事を見ると、賞金総額三千万リースとある。
魔法学校の学費が半分、あとは生活費くらいになっていたのだろうが、賞金総額よりも名前を気にするべきだと、ジェフリーは自分の中で軌道を修正した。
名前が気になって仕方がない。
「兄ウサギが、種の研究所で、お師匠さんを『アイシャ』と呼んでいた気がする」
ジェフリーが指摘を入れる。種の研究所で再会を果たした際、圭白はアイラに特殊な呼び方で接していた。圭馬も名前に注目した。
「あぁっ!! そうだったね! この名前はどういう意味なんだろう? まさか、本当にヤバい暗殺組織の人なのかな?」
質問に物騒な返しをするものだから、ジェフリーがぽんぽんと叩く。注目すべきはそこではないと、一応の突っ込みだ。
「名前にアリューンと入っておりますなぁ? はぁて、どこかで聞いた覚えがあるような、ないような……」
「何でババァが知ってるんだよ?」
「わしゃ、本を書いていたくらいだよぉ?」
惚け気味のショコラに、口の悪い圭馬。薄暗い地下書庫だというのに賑やかだ。
「お師匠様が、偽名を? じゃあ、ローレンシアは存在しない名前?」
サキが記事を見て困惑している。存在しないとなると、この名前には縛られなくていいのだが。
「のぉん……」
ショコラが自分が書いた本を取りたがっているようだ。
引っ張って出すと、ショコラがジェフリーを見上げる。
「この本に書いたかもなのぉ! アリューン神族の三姉妹の話ぃ!」
「さ、三姉妹……って、わかったから爪を立てるな。どのページだ?」
ショコラがカリカリと爪を立てながらジェフリーの腕にしがみついた。
「ジェフリーお兄ちゃん、この項目だよ。アリューン界についてだ」
圭馬が横からページを急かせた。
ページを開いてランタンを寄せ、揃って読み始める。
アリューン神族の王族についての記載がある。ショコラがシルバーリデンス公より聞いたアリューン界の話が記されているが、ここでどうしても指摘を入れておきたい。ジェフリーは怪訝な表情を浮かべた。
「あんた、あの銀髪黒マントの剣士を知っているのか?」
「のぉん? あの方はわしが馬車に轢き殺されそうになったのを助けてくれた流浪の剣士よぉ? 混血はアリューン界にいられなくて追放されたとか、難しいことを言うてたのぉ。わしゃ人間界に来たばかりだったから、話し込んで面白かったからのぉん」
ショコラが知るクディフは、ジェフリーの知る情報とは違う。ヒアノス国に仕える前の話のようだ。
圭馬も気になってショコラに質問をした。
「ボクはチラッと見た程度しか知らないけど、まぁいいや。それで、その剣士と何を話したのさ?」
確かに圭馬は種の研究所で少し見た程度しかクディフを知らない。
ショコラは続ける。
「アリューン界は女性が仕切るのが主流でのぉ。王族の三姉妹さんのうち、三女のメイアがアリューン界を統べる者になり、上の姉妹、ホトリとアイシャはこの世界に来たと言われているのぉん。多分、すごぉく長くこの世界で暮らしているはずなのぉん」
すごく長く、と言われて魔法や身のこなし、物知りな点も納得がいく。アイラがサキの育てとはいえ、母親である感情も、長い年月で薄れていた感情を呼び起こされたのかもしれない。
長寿であるがゆえに薄れてしまう、『情』だろう。掲げていた人情もそうだ。
複雑なようで単純なアイラの歩みが見えた。
話の中でより鮮明になったアイラの存在。自分たちが求めている『真実』により近い存在であるのはほぼ確実だろう。
「お師匠さん、どこかで探さないといけなくなったな」
ジェフリーに言われるも、サキはもう一つ引っかかっていた。
「お師匠様がそうなら、ラーニャ母さんもそうなりますね……」
拾った親だ。虐待をされ、ひどい仕打ちを受け、縁を切った人だ。サキは塞ぎ込んだ。
ジェフリーは余計な心配と知りつつ、サキを気遣った。
「そうだろうけど、復縁でもするのか? お前、ひどい目に遭っただろ。身体はだいぶよくなっただろうけど、やっぱりキツイよな」
「ラーニャ母さんには、会いたくないです。また、叩かれるなんて嫌だ……」
拾った親を頼る選択肢も考えた。だが、サキは拒絶反応を起こす。怯え、震え、吐き気を抑え込むように口を塞いだ。
「わかった、わかったから……安心しろ、な?」
ジェフリーが背中をさすろうとすると、サキはビクッと反応した。改善したと思ったら、忌まわしい記憶が蘇る。サキは異常なまでに過呼吸を起こした。
圭馬は幻獣であるがため、長寿だ。サキの育ての親であるアイラの気持ち、拾った親のラーニャの気持ちを察した。
「たまーにいるよね、子どもの愛し方がわからない親……」
圭馬はサキの顔を覗き込んだが、どうしても顔色がすぐれない。
ジェフリーは決断した。
「もう、ここを出て休もう……」
軽くギルドのニュースの束と、ランタンを片付けた。
ジェフリーは涙ぐんでしゃくり上げるサキの手を引いた。嫌な話だっただろう。悪いことをしたと罪悪感を抱いた。
階段を上がると、ミティアと鉢合わせた。サキの異常さを見て、ローズを呼びに走って行った。
異常を察知したのはコーディもそうだった。
「サキお兄ちゃん、どうしたの?」
コーディは一行に加わって日が浅い。まだ知らない一面を見て驚いていた。
ジェフリーはコーディにも協力を頼んだ。
「悪いコーディ、水持ってきてくれ」
コーディは台所に走った。サキをカウンター前のイスに座らせる。弱々しく背中を丸めて両腕を抱え込んだ。ひどく怯えているようだ。
タイミング悪く、玄関のドアが開いた。竜次とキッドが帰って来た。
玄関から、冷え切った空気が吹き込む。サキの心を凍らせるような冷気も招かれた。
「ただい……」
キッドが血相を変えて駆け寄る。
「どうしたの! あんた、何かした!?」
キッドは真っ先にジェフリーが疑う。だが、今回はその疑いは正解だ。
竜次もアドバイスをしながら目線を合わせた。まずは安心させなくてはいけない。
「過呼吸……辛いかもしれませんが、息を吸って、ゆっくり吐いて……」
ミティアもローズを連れてバタバタと階段を降りた。
同タイミングで水差しとグラスを持ったコーディも到着した。
ジェフリーは事情を説明する。
「調べ物をしてた。その過程で、こいつのお師匠さんと拾った親は、アリューン神族の王族の可能性が出てきた。その話をしていたら、虐待されたのがフラッシュバックしたらしい。思わぬ地雷を踏んだ……」
「虐待……」
コーディが眉をひそめながら水を差し出した。親に関して、いい思い出がないのは共通している。
ローズも手が真っ黒のままだが、竜次にいったん任せ、手を洗いに行った。
調べ物のつもりが大ごとになってしまった。ジェフリーは深く詫びた。
「今回は悪いことをした。すまない」
「調べ物をしていたなら事故です。いい薬ではないですが、落ち着いて眠れますよ」
竜次はカバンから錠剤を取り出した。
サキは落ち着いてから飲むように説明を受ける。仲間の顔を見て幾分か落ち着いたようだ。
竜次は追い打ちをかけるような一言を添える。
「ローズさんにお注射してもらってもいいのですけれど……」
注射という単語で更にビクッとなり、サキは慌てて錠剤と水を口にした。飲んで涙を拭った。しばらく見なかった反応に皆も騒然とした。
「すぐ眠れると思うデスケド、ワタシが付き添いマス」
サキの顔色が悪くないと確認し、ローズは手を引いて三階へ上がって行った。
残念ながらこれで差別をする人もいる。仲間は思いやりのある、理解者ばかりだ。
サキを見届けて、キッドが辛辣な表情を浮かべた。
「あたしが、あたしが守ってあげなきゃ……」
悔しそうに拳を震わせている。
騒ぎが落ち着き、ジェフリーは再び地下へ行こうとする。キッドは八つ当たりをするように言葉で噛みついた。
「あんた、まだ調べ物するつもり?」
「あと一つだけ、どうしても把握しておきたい。それが済んだら俺も休む」
ジェフリーはキッドの言葉を遮った。
そそくさと地下書庫に戻って行くジェフリーを見て、ミティアが心配をする。
「ジェフリー、大丈夫かな?」
「ほっときなさい、あんな奴。最近自分勝手な行動ばかりじゃない」
「ん、キッドも先生もケーキ食べてお風呂入ったら休もうね」
こんな状況でもミティアは食べもののミティアは六等分のうちのひとつ、それをさらに半分にしたチーズケーキを差し出した。
食べないとミティアが食べてしまいそうだ。
「なんか、みんな頑張ってるよね。わたしも何か力になれたらいいな……」
水差しとグラスを片付けるミティアだが、コーディがいないことに気がついた。先に寝たかな? と、首を傾げながら洗い物をする。
アイラの手紙にあった、ノックスの教会だけは先に調べたかった。
ジェフリーは再びランタンに火を入れた。ギルドのニュース記事を引っ張り出し、指で追う。
教会が焼かれた記事を見つけ、手を止めた。
「フィラノスの視察、か……」
フィラノスが領土にしたいと、目論んでいたのが見受けられた。それにしては場所が離れ過ぎて、フィリップスを跨ぐ形になる。領土の拡大はどこも目論むだろうが、あまりにも無茶ではなかろうか。
自分には無縁と感じていた領土争いの攻防を、くだらないと思いながらジェフリーは目的の情報を拾おうとする。
教会が焼けた日は偶然にも、フィラノスの関係者が視察に来ていたとある。
時刻は深夜。火は木造の教会を焼き、ほぼ全焼した。その全焼したはずの教会の地下から女の子が救出された。不思議なことに、街の誰もその女の子の存在を知らなかったという。
女の子は無傷だったが、深く眠っていた。
ジェフリーは不可解に思った。この女の子はフィラノスの関係者が保護したと記載されている。教会の者が不在だったのをいいことに。淡々と記されているが、火事の騒動に紛れ込んだ『人さらい』ではなかろうか。
もっと不可解なのが、添えてある写真には、女の子に足枷がついているようだった。
救出された女の子の名は……。
「それが、ミティアお姉ちゃんって言いたいの?」
ジェフリーは読み耽ったまま、背後に意識がなかった。
コーディが覗き込んでいた。ジェフリーは黙って記事を伏せる。
「おかしいと思った。サキお兄ちゃんと、秘密でも作っているの?」
コーディの表情は渋い。仲間内で秘密を作っていて、いい気はしないだろう。
「私は作家を目指しているんだから、誤魔化せないよ」
「コーディはみんなにばら撒くような奴じゃないからな」
「別にいいけど。追い詰められた人ってとんでもないことするから、協力者よりは見張り役かな」
見張り役、ジェフリーには心強い。コーディは淡々としているが、厳しい目も持ち合わせている。確かに彼女の指摘は一理ある。追い詰められて道を外した心当たりは、父親のケーシスだ。
コーディはただ、ジェフリーの様子を見に来ただけだった。
疑われても仕方ない。最近おかしいのはジェフリーも自覚をしている。
「心配をかけた。もう戻るし、休む……」
「ジェフリーお兄ちゃん、体だけは壊さないでね」
「そのつもりではいる。ありがとう」
コーディは言及をしなかった。これも、彼女の特徴だ。話す機会があったら、話してしまってもいいだろう。
年月が経過しているので、教会に情報が残っている可能性は低い。だが、アイラの手紙からすると、そこに何か手がかりはあるはずだ。
予習はこれくらいにしておこう。サキが一緒にいる方がいい。
ジェフリーはランタンの火を消し、一応戸締まりをした。
救出された女の子は、一部の過激な考えを持つ人が奇跡の子どもだと崇めるかもしれない。フィラノスが孤児院に連れて行く口実で、種の研究所に連れて行った可能性もある。これくらいの仮説にしよう。まだミティアだとは決まっていない。
複雑怪奇なミティアの生い立ち、これから朽ちる運命。
そんなものは打開する。
皆と出会えた。ミティアに出会えた。この限られたいいものだけは絶対に残したい。ほしがって、簡単に得られるものではないのだから。
ジェフリーは感傷に浸りながら焦りを感じていた。
竜次が座ってお茶を飲み、一息ついた。ジェフリーが置いて行った地図帳を捲っている。ミティアも隣で一緒になって読んでいた。
「こういうのに沙蘭ってどう書いてあるのか気になりますね」
「わぁ、やっぱりお城とか、独特の文化がいっぱい書いてありますね!!」
ミティアは目を輝かせている。実はちゃんと読む暇がなかったので、改めて見ると知らなかった情報がたくさん載っている。
「あ、先生の名前が書いてある!! しかも剣神とまで書いてありますね!!」
「存在した、と過去形で書いてあるのがまた……こういうの、余計ですよね」
竜次は苦笑しながら首を垂れた。写真はなかったが、名前はきっちりと書いてある。何の断りもなく、本に載っているのが恥ずかしくもあり、うれしいような、悲しいような、微妙な気持ちにさせる。
ページを捲ると、スプリングフォレストの案内だった。だが、地形の紹介だけでほとんど説明はない。やはり足を踏み入れる者は少ないのだろう。
ミティアがふと思い耽る。
「何だか、今までの旅を振り返っているみたい……」
いい思い出も、悪い思い出もある。いい思い出の方が多いかもしれない。
「あの剣士の人が選択肢としてくれた歩みかもしれませんけど、わたしは楽しかったです。本当はもうない命だったのに、今もみんなと一緒にいられるのが、本当にうれしい……」
ミティアは感傷に浸った。思い返してみれば、自分のせいで始まった旅だ。今は違う主目的で動いているが、一緒に歩んでくれるありがたみを噛み締めていた。
「全部片付いたら、何でもない旅団みたいになってもいいかもしれませんね。それこそ、探検とか厄介者の退治とか。あ、でも私はお医者さんの腕も磨きたいので、その修行を兼ねてもいいですね」
特にそういう予定はないものの、未来について話し出している。
「わぁ、楽しそう! わたし、完璧な地図が作りたいです!」
「あ、ミティアさんの案、すごくいいですね!」
話が弾んでいる。離れてコーディが聞いていた。そのコーディの視線の先には暗い影を落とすジェフリーの姿があった。
「のぉん……」
難しい顔をするローズの足元で、鯖トラ猫のショコラが心配していた。
「眠ったのでとりあえずは大丈夫デス」
ショコラは同行するようになって間もない。サキが抱える闇に驚きもした。
圭馬もサキを気遣った。
「ボクも触りしか知らないから、この子がどんな仕打ちを受けて来たのかはわからない。だけど、明らかに異常な怯え方だったね。あれは簡単には癒えないよ。精神面の問題でもある。戦ってる時に思い出さないといいんだけど」
少しは味方らしい発言をするようになった圭馬だが、毒舌から気遣うのも増えた気がする。魔力共有の契約をしているのだから心配をするのは本来自然だ。
ローズが明かりを消して下に降りた。二階のベッドではキッドが寝る支度をしながらも、ローズを待っていた。
専門のローズに任せてはいたものの、やはり心配のようだ。
「あんまり心配しすぎも良くないデス」
下からも足音がぞろぞろと、男性は三階で寝ているのだから自然と二階に集結する。
「何かあったら私が診ます」
竜次は軽く頭を下げ、ジェフリーと上がって行った。
ミティアもキッドに声をかける。
「いつも通りに接してあげるといいって先生も言ってたよ。寝よう? キッドも」
「う、うん……」
いつも通りがサキを楽にする。腫れ物に触るような接し方はよくない、と、竜次の助言を受けたようだ。
確かに、気落ちしているときこそ、普段の何でもないことが回復につながる。
布団で丸くなりながら、キッドは声を殺して泣いていた。サキが虐待され、心に深い傷を負ってしまったのは自分のせいだと。
自分を責めても何もならないのはわかっている。だが、心苦しかった。すべては自分が魔法無効能力者であるせい。そのせいで魔導士狩りが起きた。サキが生きているだけでも奇跡かもしれないが、やっと再会したのに自分はサキに何をしただろうか。
失った時間は取り戻せない。
何かを変えたい。弟に、何かをしてあげたい。
支えたい。強くなりたい。混在する意識が眠りを浅くする。
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