トレジャーキッズ

著:剣 恵真/絵・編集:猫宮 りぃ

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【3】明かされた真実

太陽と月のロマンス

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 サキは圭馬に連れられ、大広間に案内された。ちょっとしたダンスパーティでも開けそうな広さだ。部屋の中央には豪華なシャンデリアが下がっている。
「まず質問だけど、キミの得意属性は?」
 いきなり圭馬が質問をした。魔法を使う人間として、得意属性を知っておきたい思いからだ。
「光と闇と、あと火……です」
 聞いた圭馬は深く頷いた。
「相性は悪くないね。ボクも光が得意だから」
「相性……?」
「契約者とある程度は相性がよくないと、魔力が調和しないんだよ? もしかして、契約は初めてなの? 使い魔とか下級の悪魔とか契約しないんだね」
「そうですね、そもそも魔法以外はからっきしなので」
 圭馬はさらに頷いた。
「ボクはこの聖域を出たらウサギさんになってしまうから、外でこの姿になって超強力な魔法を放つには、契約の主であるキミの魔力が必要になる。ここまではわかるよね?」
 今度はサキが頷いた。
「キミの魔力媒体は何? 見た感じ、成人してないし、体力もあまりなさそうだから、生身で大きな魔法を放つとは思えないなぁ?」
 圭馬に指摘を受け、サキはポーチの中のガラス玉を弾き金属の杖を持った。
「それだけじゃないよね? まさか、魔石使い?」
 今度は左のポーチから、色のついた魔石を出して見せた。中を探って気がついたが、魔石のストックがあまりない。
「絵に描いたような魔法使いのタイプか……契約云々よりも、これじゃあこの先みんなの足を引っ張るよ?」
 サキが個人的に気にしている指摘を受けた。もう何度も足を引っ張っている。サキは何も言い返せず、塞ぎ込んだ。
 それでも圭馬はサキの力になろうとする。
「まぁ、契約するって言っちゃったから、ボクはキミのサポートをしたい。外でも暴れたいからね?」
 サキは見捨てられたわけではないと、少しだけほっとした。だが、これから先、どうやって皆を支えたらいいのか、正直わからない。
「さっき一戦交えた感じだと、一人で戦うのには慣れてないね? だって、誰かいないと火が点かない。誰かにアドバイスをもらわないと行動に移せない。誰かがいつも傍にいてくれることに甘えていたら、キミは戦場で真っ先に死んじゃうよ?」
 サキは悔しかった。圭馬の言っていることは正しい。いくつもの戦線を越え、命のやり取りをした。その中で心当たりはひとつやふたつではない。自分のことよりも、自分のせいで誰かが傷つくのは耐えられない。
「僕、強くなりたいです!! このままは嫌だ……」
 杖を握る手が震えた。
「僕に、魔法使いの戦い方を教えてください!」
 普段のあどけなさが消えた。真剣に取り組みたい。サキはそんな思いを訴えた。
 圭馬は八重歯を見せて笑った。
「いいよ。一人で立派に立ち回れる戦術を伝授してあげよう。今度みんなに自慢出来る戦い方を教えてあげる」
 藤色のローブが翻った。
 まずはお互いに距離を取って向かい合う。
「魔石はもったいないからしまっていいよ」
 皆は刃物の武器を持っている。それぞれの腕を磨けている。だが、サキだけは誰にも稽古をつけてもらえない。
 ここで成長したい。小さな魔導士は奮起した。
 
 水捌けのよい乾いた土に入り乱れた靴跡が残る。屋敷の庭は風もよく通り、庭木の手入れも行き届いていた。
 キッドと竜次はその庭で剣術の稽古をしていた。軽い手合わせをする。お互いの戦術、技量を知る貴重な機会だ。
 竜次はキッドの構え方をじっと見て、軽く注意をした。
「接近戦で大きな獲物でも追っていたのでしょうか。仕掛ける時はもう少し上に構えてもいいかもしれません」
 竜次は狩猟に関しては素人だが、剣の振りが独特だと思った。キッドは弓矢も引ける。ゆえに逞しい腕をしている。ミティアとは違うが、キッドがこれ以上の強さを求めるのは贅沢かもしれない。
「ほかに改善点はありますか?」
 キッドの真剣な眼差しに、竜次は戸惑う。実はキッドと面と向かって話す機会がなかったからだ。共に行動をしている仲間の知らない一面を知った。
「そう言われましても、キッドさんは遠近両立、それに速さもあります。周りをよく見て動かれていると思いますが、まだ何か納得していませんか?」
 竜次もアドバイスに困っていた。
「攻め込まれたら、どう守ればいいのか。後は、先生みたいな反撃ですかね」
 贅沢な注文だ。キッドはもしかしたら、自分より強くなってしまうのではないだろうかと竜次は複雑な思いを抱いた。
 それでも、真剣に取り組まないとキッドに失礼だ。
「受け身はどうしていますか? 狩猟もしていらしたのですよね?」
「いつも力押しです。そのまま投げて流したりもしますけど……」
「それではいつか剣が負けてしまいます」
 竜次は注意をしながら小太刀を抜いた。そのままキッドの刃に重ねる。
「思いっきり押してみてください」
 キッドが刃をぐっと力で押した。
「おぉっと、これは確かに返せるかもしれません」
 竜次の足が引きずられて後退する。
「ゆっくりやりますので、お手本になるかわかりませんが、これが沙蘭式の反撃です。いきますよ?」
 力ではキッドの方が今は上だ。
「今ここに力がかかっているでしょう? それを把握した上で、あえていったん引いたように動き、絡めるようにして……」
 あれだけキッドの方が優勢だったのに、右手が下に弾かれていた。
「力には流れる方向というのがあって、その勝手を知ってしまえば相手の動きを変えることも可能です」
「うわっ、なるほど……ゆっくりだからよく見えました」
 驚いているキッドを、竜次は笑った。
「これを返されても剣を持っているだけで偉いものです。大半の人は、今ので武器を持っていられなくなります」
 キッドは納得したように頷いた。
「これ、真似して取り入れてもいいですか?」
「いいですよ。使いこなすと、燕返しが楽になります。そうしたら、相手の背後にも回れますよ?」
 キッドは自信がついたように左の拳を握って顔を上げた。
 竜次はこの和やかな空気と違い、苦笑いをしていた。なぜなら、この場に二人きりではないからだ。
 二人の足元で、ローズが四つん這いになって剣技を見ていた。
「これが、沙蘭式……」
 ローズはごくりと生唾を飲み込み、喉を鳴らした。案外彼女も学者なだけに、変態気質なところがあるのかもしれない。
 
 自分が存在したせいでミティアがこんな思いをしたのに対し、つらくはないと言っていた。
 ジェフリーはミティアから責めてほしいと思っていた。怒って、悲しんで、罵ってくれれば、こんな期待をすることもなかった。必要以上の責任は感じている。起点は自分にあった。巡り合わせに関しては、誰かが仕組んだものではないかと疑った。それでも偶然は必然になった。
 つながりがあって、共通点があって、仲間がいる。
 最初は気まぐれだとか、護衛をする流れがあったかもしれない。だが、ミティアを中心に今ここにいる。ジェフリーも例外ではない。だが、なぜ彼女は彼を責めないのだろうか。気になって仕方がなかった。
「別にミティアを避けていない。どうして俺にかまおうとする?」
 竜次やサキが見たら嫉妬をするに決まっている。下手をしたら、キッドから本当に狙撃されるかもしれない。
 ミティアは小さく首を振って答えた。
「わたし、ジェフリーさんのことが知りたいです」
 それは弱々しい声だった。
「この体勢で知るも何もないと思うんだが」
「あっ、そ、そうですね」
 ミティアはやっと手を離した。ジェフリーは解放され、向き直った。
「何をそんなに焦っているんだ?」
「ジェフリーさんが何も言わないから……」
「兄貴にでも頼まれたか?」
 ミティアがここまで執着する理由は竜次が気を回したのだと判断し、ジェフリーは探りを入れた。だが、彼女は小難しい顔をしながら見上げている。
「最初はそうです。でも、わたしはジェフリーさんときちんと話したことがないので」
 崖を落ちる途中、フィラノスで墓参りの帰り、それくらいだろうか。ゆっくり話す機会なんてなかった。だいたいいつも、キッドが一緒だからだ。実はジェフリーはミティアと話すのが少し怖かった。その理由を言った。
「俺のせいでミティアはこんなことになった。俺を憎いとは思わないのか? 俺がミティアの立場だったら気を遣うし、今までと同じように接することができないかもしれない」
 どうしてもジェフリーの中でこれだけは聞いておきたかった。
 話すのも怖かったが、目を見るのも怖かった。
「自分のことを知りたい。その道を自分で選びました。だからわたしは後悔していません。それに、わたしは今の方が大切です」
 ミティアはせがむ様に顔を覗き込んだ。
「憎いとは思いません。そんなこと、思えないです! それとも、ジェフリーさんはわたしを憎んでいますか? わたしの秘密に迫ったせいで、ご両親のことやジェフリーさん自身のことが明るみになってしまったから……」
「それは違う!! ミティアのせいじゃない。これだけは絶対に言わせてくれ。俺はミティアを憎んでいない!!」
「……よかった」
 ミティアは安堵の息をついた。ジェフリーが即答するものは本心が多い。心の声を聴けてよかったと思っていた。
 ジェフリーも勢いで言い返してしまったが、少しだけ素直になれた気がした。集団行動をしている以上、心の内を知る機会はどうしても少ない。
 狙っているのか、天然なのか、本当にわからない。ミティアのこの性格のせいで、何度調子を狂わされ、話の腰を折られただろう。それも慣れてしまった。ジェフリーは諦めるように息をついて言う。
「ミティアは優しすぎるんじゃないか?」
「優しくはないです。だって、わたし、世界のために死にたくないから」
 ミティアは力強く頷いた。普段は明るく笑顔を見せるが、時折、何よりも強く見えることがある。なぜかこれを見るとジェフリーも自分が強くなれる気がした。
「世界のために誰かが死なないといけないのは間違ってる。俺はそんな考えを許さない」
 否定をすればするほど今がない矛盾を痛感する。こんな自分を慕ってくれる。ミティアがいなかったら人間としてとっくに腐っていただろう。ジェフリーはミティアが心の支えになっていると気がついた。
 この出会いだって、この気持ちだって……
 抱いてはいけない淡い思いを押し殺す。今は目的が違うからだ。

 ジェフリーは意を決したように大きく息を吸った。
「ひとつ、頼みがある」
「は、はい、何でしょう?」
 ミティアは緊張から肩を張り、何を言われるのかと身構えた。
「俺に向かって、『さん』や敬語をやめてほしい」
「えっ?」
 ミティアは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。
「け、敬語……ですか?」
 ジェフリーはミティアの髪を触り、頭を撫でた。これが精いっぱいの歩み寄りだ。
「兄貴に頼まれたのかもしれないが、腹を割って話せてよかった。だけど、ミティアが敬語で接するのなら、俺もこれ以上は親しくなれない」
「あっ……」
 一方的に言い放って、ジェフリーは部屋を出て行ってしまった。
 言い方が悪ければ、ここでミティアの気持ちを受け取らなかった。わかっていて突き放したことになる。
 胸の奥が軋むような痛さを覚えた。
 どうしても今は向き合えない、受け取れない。主目的ではない。その権利はない。言うなれば、また逃げた。自分に余裕がないのだと思った。だからミティアを突き放してしまった。もっと時間がほしいと思った。

 部屋を飛び出し、廊下を突き進む。屋敷の構造はわからない。だが、歩けば少しは気が晴れるものだと思っていた。うしろからミティアが追って来ないと確認し、壁によりかかっって息をついた。
「なぁ、カサハ、一度逃げた俺はどうしたらいいんだ」
 ジェフリーは独り言を呟いて拳を握った。許嫁を見捨てた罪の記憶がちらつく。無性に自分の呪縛を断ち切りたくなった。
 今向かっている目的には勇み足を踏んでいるくらいだ。赤の他人だったミティアにここまで入れ込んでいる。反して、心の中は弱気だった。いつまでこの強がりが続くかと考えると、心が苦しい。ミティアに打ち明ければ、確実に悲しむ。今にも自分が壊れてしまいそうだ。

「お客様、困りますねぇ。このような聖域で闇に染まった感情を振り撒かれては」
 長い廊下の先に人が立っている。いや、正確には人ではない。
 ウサギのような耳、フサフサの尻尾、圭馬と同じ藤色のローブを纏っているが赤いマントを羽織っていた。
 圭馬より大人びている男性だ。来客を待ちわびるよう露骨なほどにこにこしていて、尻尾を振っていた。先ほどの会議の中で圭馬が言っていた兄だろうか。ジェフリーは眉間にしわを寄せ、警戒をした。
「そうですよぉ、私は圭馬の兄で圭白と申します」
 ジェフリーは何も言っていない。それなのに男性は進んで自己紹介をしている。この人はなぜか会議に顔を出さなかった。何か事情があるのだろうか。
「いつも怖がらせてしまうので、なかなか来客には会わせてもらえないのですよぉ。人間のお客様なんて、お会いしたくてたまらないというのにねぇ」
 この返しに、ジェフリーは違和感を覚えた。圭白と名乗った男性はジェフリーに歩み寄った。ただにんまりとして、何も感情が読み取れない。正直、対面するだけで怖かった。
「そんなに怖がらないでください。ジェフリー・アーノルド・セーノルズ様」
 ジェフリーの直感が訴える。この人は、間違いなくヤバい人だ。
「ヤバくないです。ちょっと普通ではないだけですよぉ」
 心の中を全部拾われている。何を考えているのかわからず、恐怖心は増した。
「逃げますか?」
 この男性はずっと糸目のようだ。そして、このねっとりとする話し方も恐怖を引き立てた。だが、それよりも、ジェフリーは逃げるという単語に反射的になった。
「逃げない。あんたは何者だ?」
「何者って、私も魔人さんです。皆さんは楽しそうなのに、私だけひとりぼっちなんですよぉ? かまってくださいな」
 ジェフリーは『かまって』の意味がよくわからず、眉間のしわを深めた。圭白は圭馬に似た悪党のような顔を浮かべる。兄弟なら似るのも納得がいく。
「邪念の多き若者ですねぇ。私とお稽古しませんか?」
 この誘いは、自分のためになりそうだとジェフリーは判断した。
「ふふふっ、意外と聡明のようで」
 ジェフリーは話を振られたが、余計な言及を避けるように心を無にした。勝手がわかってしまえばこちらも手が打てる。
「ふぅむ、学ぶのが早いですねぇ」
 圭白は心が読めなくなって落胆しているようだ。
 ジェフリーは圭白に先導され、屋敷の地下へ案内された。大きな部屋だが、地下もあるとは驚いた。ずいぶんと広い屋敷だ。床はフローリングだが、滑らないように特殊な加工がされてあるようだ。
 真上が騒がしいが、今はそれよりも集中したい。
「私も生前は剣士でした」
 いきなり圭白の身の上話が始まった。ジェフリーはその内容にまたも違和感を覚えた。
「あぁ、もともと生身の人間でした。生前の功績が称えられて、死後もこんなことをしていますけど」
「言っていることが難しくてよくわからないんだが?」
「おぉ、なるほど。では、人は死んだらどうなるか、知っていますかぁ?」
「死んだら……天国か地獄に行くのか?」
 と、よく言う。なぜか、子どものころから知っている、嘘か本当かもわからない話だ。
 圭白は自慢げに鼻を鳴らし、丁寧な説明をしてくれた。
「死んだ者の魂は、閻魔様が統治する魔界に行き着きます。そこで魂の選定を受けるのです。一部の者は英雄の魂を持っています。死ぬ前に功績を残した。もしくは……」
 圭白の目つきが変わった。正確には、目もとが笑っていない程度の把握しか難しい糸目だ。
「死ぬ間際に誰かを助けた……」
 先ほど、廊下で対峙する前から心を見透かしていたいのかと思うと、怖くなった。ジェフリーは圭白が何を言いたいのかと言葉を待った。
 圭白は心を読める。ジェフリーが何を考えているのかもわかっていた。
「あなたが謝りたい人は案外待っているかもしれませんよ。あなたが何をして死ぬのかを見届けるために……」
 自分には縁のない世界線の話かと思ったが。圭白たちもそうなのかもしれない。そう思うと、途端に情けないことができなくなりそうだ。亡くした婚約者がもしかしたら今の自分を見ている。
 下手な励ましより元気になれたかもしれないとジェフリーは思った。
「今もいるのかは知りませんが、先に待っている約束は誰でもしませんか?」
 やけに説得力があった。人間ではないが、人間の観察を趣味にしているのかと疑うほど理解がある。
「余計なお世話ついでに言いますと、一度は魔界には行かねばならないと思いますよぉ? あなた方の中に、魂が半分しかない人がいますからねぇ」
「……はっ?」
 突然、圭白は意味がわからないことを言い出した。
「ふふふ……今はまだ、頭の片隅にでも置いておいてくださいな」
 表面上では冷静かもしれないが、内心は動揺していた。ジェフリーは気になって仕方がなかった。
「それよりも、また現れてしまった時のために、確実に邪神龍を討ちたいのではありませんか?」
 圭白は話を大きく逸らし、不敵な笑みを浮かべた。
 この人も戦ったことがあるのか。ジェフリーは疑問に思ったがすぐに答えが返って来た。心を読まれることを忘れていた。
「私も昔戦いましたよ? 忌々しいですねぇ……」
 圭白が右手で左の肘を抱えた。
 ジェフリーはとあることに気がついた。この人は左肘の先がないようだ。ローブの袖が不自然な揺れ方をしている。忌々しいと言った意味を理解した。
「食べられちゃったんですよねぇ、利き腕でしたのに……」
 ゆとりのあるローブなので、見ただけではわからない。
「絶対数が少なかった神族の恨みなどほんの一握り。種族戦争で一番の被害を受けたのは人間です。住む場所は廃れ、世界は壊れ、衰退した。邪神龍はその人間たちが創り出したもの。まぁ、自爆ではないかと語る者がいますが、否定はできませんねぇ」
「だから人間じゃないと倒せないって話か?」
「おわかりでしたら話は早い」
 ジェフリーは今のやり取りの中にあった疑問を解決した。邪神龍は人間の手でしか打つことができないと、圭白が核心に迫る答えを出した。
「あなたの心の邪念を少しでも払っておきたいので、いろいろと話し込んでしまいましたねぇ」
「いや、意味があるとはわかっていた」
「あなたはこのまま時間が解決してくれると思っていたのですね。それだけではここから先の強敵には太刀打ちできない。心の鎖が、これ以上強くなることを邪魔するでしょう」
 物腰柔らかな話し方は猫を被っている竜次のようだが、その話し方はごくごく自然だ。少なくとも猫は被っていない。この人の素だ。それが安心した。ジェフリーは深く頷いた。時間が何とかしてくれるという、その考えが間違いなら、もっと早くあらためるべきだったと悔いた。
「あと少しです。トラウマがあなたを縛る最大の敵ですよ」
「トラウマ、か……」
「あなたは今を生きる人です。恥ずかしがることもありませんし、それは汚点ではないと振り切らなくてはいけない。大切なのでしょう? 仲間の皆さんも、そして『彼女』も……」
 圭白は言ってから、右手で円を描いた。
 ぼんやりと光る円から線を引き、光の剣を手にしている。圭馬もそうだったが、見慣れない技を意図もたやすく使うのが不思議でならない。賢人とは聞いていたが、圭白は『格』が違う。明らかに普通ではないとジェフリーは思った。
「自覚はないと思いますが、あなただって『普通』ではありませんよ」
「……?」
 圭白が何を考えているのか、まったく読めない。この突拍子な発言はミティア以上に驚く。ジェフリーは一方的に圭白のペースに引き込まれてしまわぬよう、自我を強く保った。
「俺はきらびやかな物語の主人公じゃない。顔は悪いし、高学歴でもないし、極めつけは無職だ。これだけで普通じゃない」
「ふぅむ、確かに。その『普通』も、人間が欲するものの代表格ですよねぇ」
 圭白が人間ではないのならば、この返しに違和感はない。だが、彼が指していた『普通』ではなかったようだ。本当は何だったのか、ジェフリーは疑問に思った。
「お話が脱線しましたが、あなたには仲間を見る目がありますね。それを生かした立ち回りと、ちょっとしたアドバイスをさせていただきます」
「助かる……」
「私がお助けできるのは少しだけ。契約があって、一緒には行けませんのでねぇ……」
 圭白は自身を憐れむように視線を落とした。この表情に、ジェフリーはまさかと思って質問をする。
「まさかとは思うが、これは誰かに頼まれているのか?」
「そうですよぉ。誰とは言えませんが、あなたの味方なのは確かですから」
 圭白は詳しいことは伏せ、味方だと主張した。敵対する者がここまで親切に入れ込むことはないだろう。ただ、誰が協力者なのか、ジェフリーは気になった。

 稽古を受け、ジェフリーは気持ちが救われた気がしていた。気持ちだけではなく、実力もつけて前に進みたい。
 大切な人を守りたい気持ちが強まった。

 ちょうど真上の部屋では、サキが圭馬から厳しい稽古をつけてもらっていた。まず、動きながら詠唱するという行為からだった。
 実はこれが難しい。意識の集中をしながら歩くだけで、集中力が切れてしまい、詠唱がままならない。
「詠唱するならもっと早口で! 足を止めないの」
 サキが圭馬から受けたのは、ダメ出しだらけだった。
「そんなひ弱で誰かを守ろうなんて、激アマだね。いくら賢くても、体力もないみたいだし。誰かに守ってもらわないと魔法も放てないなんて、ただのお荷物だよ。物騒な世の中なんだから、戦艦の大砲戦法なんて信じられないね」
 圭馬は偉そうに言うが、これは間違っていない。サキにとって、悔しいものばかりを指摘される。育ての親で師匠、アイラのスパルタ指導を思い出す。いくら学校の成績がよくても、外の世界に出たら何も役に立たないことを思い知らされた。
 今までは立ち止まって、守ってもらいながら詠唱して放つ。まずはその改善と説教から入って、今にいたる。
 歩きながら意識を集中して詠唱する。その次は走りながらだったが、ここですぐに息が上がってしまうサキの弱点が浮き彫りになった。
「ホント、キミって体力がないんだね……」
 サキは大部屋を半周しただけで、息苦しくなって倒れ込んだ。意地になって立とうとしたが、すぐによろめいてしまう。技術の向上よりもまずは、基礎体力を何とかしないといけないのかもしれない。
 圭馬は呆れながら十分だけ休憩しようと提案した。

「あっれー、どうしたの?」
 圭馬はウサギ耳をピンと立て、部屋の入り口に目を向けた。
 サキが圭馬の視線を追うと、扉からこそこそとミティアが覗いていた。広い屋敷の中から、この騒がしい部屋を探し当てようだ。
「ご、ごめんなさい。邪魔はしないので、見学していてもいいですか?」
「あ、あれ、ミティアさん?」
 サキは息切れをして『ジェフリーさんは?』までは言えず、大きく息を吸った。
 圭馬が思いついたように手招きした。
「そうだ、お姉ちゃんは禁忌の魔法が使えるんでしょ?」
 ミティアは首を傾げながら、歩み寄った。
「そうみたいです。何でしょうか?」
「じゃあ、普通の魔法も使えるよね」
「わ、わたしが⁉」
 圭馬からの唐突な振りだ。ミティアは驚いて口を覆った。
「そっちの子は休憩中だから、適正属性のテストをしてあげようか」
 圭馬は袖口からカードの束を取り出した。
 まるで手品のような取り出し方だ。サキは指摘を入れたい気持ちを押さえながら黙って見ていた。
 圭馬はミティアの目の前に伏せた状態のカードを九枚差し出した。タロットカードのように細長く、繊細で綺麗な模様が入っている。
「直感でいいから、カードを三枚引いてくれる?」
「さ、三枚も、ですか?」
 ミティアはカードとにらめっこしながら困惑している。悩ましい表情ではあるが、買い物をするように楽しそうだ。
「ど、どれにしようかな? これ……うーん、こっち?」
 テストではないのだろうかと、びくびくしながら三枚引いた。
 サキはよほど気になるのか、休憩時間だというのにミティアの手元を一緒に見た。彼女の手には、赤いカード、白いカード、緑のカードがあった。
 いずれも、何かの妖精のようものが、ステンドグラス調に描かれている。おしゃれなデザインだ。
「決まったね、お姉ちゃんの適正属性」
 圭馬はカードをしまって、今度は指示棒を袖口から取り出した。
 カードを選んだだけで、何がわかるというのだろうか。ミティアは期待をする一方で何が始まるのかと身構えていた。
「あと五分あるね、まずは火の魔法からいこうか」
「ち、ちょっと待ってください! わたし、魔法なんてわからないです」
 さくさくと話を進める圭馬に対し、ミティアは引け越しだ。話が急すぎる。
「素質があるのにやらないのはもったいないと思わない? そこの体力のない魔導士クンだけで、この先の強敵をやり過ごせるとでも思っているのかい?」
 ミティアはサキに視線をおくる。サキは悔しそうな表情で深く頷いた。
「確かに、素質はあると思います。もしかしたら僕より身体能力がいい分、先制攻撃が向いているかも?」
「中繋ぎができるから、この子が大きな魔法を放ちやすくなるのもあるね」
 話が大きくなった。ミティアはまだ困惑していた。だが、力になれると聞いて考えが変わったようだ。
「わ、わたし、何をしたらいいですか?」
 やる気になったのか、胸の前で拳を握って頷いた。
「基礎魔法はパスしよう。火力出していこうじゃないか。攻撃は最大の防御だよ!」
「えっ、いいなぁ……」
 サキは恨めしそうな声を上げた。圭馬に魔法を教えてもらえるのが羨ましいようだ。そんなサキを尻目に、圭馬は指示棒を立てる。
「さて、お姉ちゃん、厳しめに行くよ。覚悟はいいかい?」
 多難だが、ミティアも自力のアップが期待できそうだ。

 一行は夕食に招かれた。人間という珍しい訪問者に対し、幻獣たちはニンジンが大量に入ったオムライスで歓迎した。
 バターを効かせた卵とニンジンの優しい香りがするオムライスだ。フィラノスを最後に、旅路では携帯食料など軽いもので胃袋を満たしていた。久しぶりに胃袋に重みを感じるご飯だ。
 一同は食事だけではなく、風呂も温かい寝床も用意してもらえた。いい宿に泊まっている気分だ。とてもありがたい。
 それぞれ腕に磨きもかけられ、充実した一日だった。
 

 屋敷のテラスで思い耽っているのは竜次だ。
 生乾きの髪の毛を夜風で乾かしているつもりなのか、手すりに寄りかかってだらんとしている。森の木々の音、虫の鳴き声、自然界の音に耳を傾けながら考えていた。
 妹が世界の生贄に対する行為を放棄したかった。
 自分が王になっていたら、同じ判断をするだろう。だが、その判断は本当に正しかったのだろうか。自分にその判断がくだせるのか、疑問にも思った。国や世界、それと一人を天秤にかけるなど馬鹿馬鹿しい。
 ましてや、あんなに自分を慕ってくれるミティアを見殺しになんて絶対にできない。
 マナカや光介にも汚い仕事をさせてしまった。
 邪神龍だって意図的に招かれたのかもしれない。
 意図的……?
 竜次はハッとして自然と背筋が伸びた。
 種の研究所でよからぬことをしていると思われる父親の存在。父親がいくら何でも自国を襲わせるだろうか。
 何かもう一枚あるはずだ。考えられるとしたら、おそらく『真の黒幕』がいるのだろう。疑惑に辿り着いて手が震えた。
 あのクディフという名の剣士だろうか。いや、違う。どちらかというと敵に近いかもしれない。だが、そうだとしたら大きく力をつける前にこちらを潰しにくるはずだ。
 まだ、誰かいる。だがこれ以上考えても、答えは見えない。

「どこにいるのかと思ったら……」
 横にジェフリーが立った。思い耽って思考を巡らせるあまり、何も見えていなかった。竜次は焦ったが、笑顔で向き直る。
「あ、あぁ、ジェフかぁ……」
「悪かったな。邪魔か?」
「いえ……ど、どうしました?」
 ジェフリーは辛辣な表情をしている。竜次には何を考えているのかわからなかった。
「兄貴に相談がある」
「私に?」
 意外だ。自分を頼るなど珍しいと竜次は思った。思いつめた表情から、これは真剣に向き合ってやらねばと、自身の邪念を払って聞く姿勢を示した。
「私でよければ相談に乗りますよ」
 
「兄貴は、好きだった人を失った悲しみから逃げずにどうやって受け入れられたんだ?」
 なるほど、その域に来たんだな。竜次は弟のジェフリーからその相談を受けるとはうれしかった。
「私は、絶望して一度は死んだ身です。厳密には私も逃げましたよ?」
「そうじゃないんだ……」
 意図がわからず、思わず首を傾げる。
「フィラノスでは自分の足で立ちたいとは言ったが、これ以上はどうすればいいのかわからなくなった。今まで引きずってないじゃないか。それはどうしてなんだ?」
「あぁ……」
 確かに竜次は引きずってはいない。
「簡単です。今を生きればいい。そりゃトラウマはあります。ですが、それは過去です」
「過去……?」
「ジェフは、今が充実しているとは思わないのですか?」
 竜次の問いかけに、ジェフリーはゆっくりと首を横に振った。
「そうだな、今の方が好きだ。失ったものを取り戻すように、何かを得ようと必死になっている自分がいる」
「誰かを失った痛みや悲しみはそう簡単には癒えません。でも、人間なので前を向くしかない。幸いにも、私もあなたも今は友人に恵まれています。こんな人たち、そういませんよ……」
 まるで自分にも言い聞かせるような口調だった。確かに恵まれている。その点はジェフリーも理解していた。

 世界の生贄という運命を背負わされているかもしれないのに、人を憎めない女の子。
 強くて過去にはこだわらない、今を見据えている女の子の親友。
 知識は豊富、自分を変えたい、誰かの役に立ちたいという男の子。
 過去に古傷を抱えながら、変わろうと頑張っている科学者の女性。

 偶然は必然になった。

 ぼんやりと考え込んでいたジェフリーに、竜次は注意を促した。
「北の山道はスプリングフォレストより緩やかな道だと思いますが、フィラノスからずっと物資の補給がありません。道具が限られる面で警戒しないと。思わぬ襲撃がないといいのですが……」
 考えてみたら、沙蘭でもここでも休めはしたが、携帯食料や野営に必要な道具の補充はまったくない。無駄な消耗だけは避けようとジェフリーは意識をした。
「何か事前情報はないのか? スプリングフォレストみたいな……」
 兄弟だけだが、動き方くらいは考えておいてもいいだろう。だが、行き先を告げても沙蘭では情報がなかった。対策のしようがない。
「詳しい地図がないので、暗くなる前には進むのをやめるべきだと思います」
 山道にはいい思い出がない。ジェフリーは必要以上に警戒した。
「また火山じゃないよな?」
「でしたら、いくら何でも行くと告げた時点で、沙蘭でも話にはなると思いますよ?」
 竜次が言うのも一理ある。何も言われないのなら、火山である可能性は低いと判断しておこう。
「怪我なく安全に気を配り、無理をせず暗くなる前に陣を取る。道具は節約を心がける。これでいいな」
 ジェフリーは話が綺麗にまとまって部屋に戻ろうとした。だが、竜次はまだまだ話が足りないようだ。別の話題を振った。
「あ、そうだ。さっき、ミティアさんと何かお話したのですか?」
 たまには長話に付き合ってもいいかと、ジェフリーも手すりにもたれかかった。
「俺に気を遣うなと言った」
「えぇっ、告白しなかったんですか⁉」
「はぁ?」
 話に付き合おうとしたまではよかったが、妙な話になった。色恋沙汰にかまう余裕はないはずだが、竜次の余計なお世話が始まった。ジェフリーは読みを誤ったと後悔した。
「ミティアさんはジェフが好きです。間違いありません。誰が見てもわかると思いますよ? 向けられている気持ちに応えないなんて、失礼です!!」
 竜次は偉そうに人差し指を立て、上下させている。
「俺は気持ちを受け取らない。受け取れるわけがない。断るまで考える」
「んもーっ!! 逃げちゃダメでしょう?」
 ジェフリーは逃げ腰だ。いくら竜次が問い詰めても、後ろめたさを抱いている。
「だって、俺のせいじゃないか。俺が生まれたせいで誰かが不幸になるなんて、それこそが理不尽だ。ミティアだけじゃない。兄貴だって、本当は……」
 もし母親が生きていたら、違う生活だったはずだ。自分さえいなかったら……そう思うと心苦しい。ジェフリーは卑屈に陥っていた。
「ジェフ、自分を責めるのはよくありませんよ」
 竜次は人差し指をジェフリーに突きつけた。学級委員のような仁王立ちだ。偉そうだが、励まそうと試みていた。
「ミティアさんから恨み節でもいただきました? そうではないでしょう?」
 きっと自分が励ましたところでたかが知れている。それでも、弟を放っておくことはできない。ここで卑屈になられては皆の歩調を乱す意味で困る。
「みんなには迷惑をかけないようにする。はったりなら、兄貴よりもうまくやれるからその心配はしないでほしい」
 ジェフリーは俯きながら、精いっぱいの強がりを見せた。この強がりなど、一時的なものにすぎない。いつか壊れてしまうものだ。竜次は心配を重ねた。
 
 テラスの下から物音がした。こんな時間に何だろうか。兄弟が覗き込むと、ミティアの姿を確認した。きょろきょろと見渡しているところ、そう時間は経過していない様子だ。まずは話を聞かれていなかったことに安心した。
 ミティアは自分の剣を引き抜き、持ち位置を確認していた。彼女が自ら進んで剣を取るなど珍しい。素振りでも始めるのだろうか。
「ジェフ、付き合ってあげたらどうです?」
「どうして俺が……」
 悪趣味だと思いながら、二人はミティアの様子を覗き続けた。彼女は精神を集中させながら剣に炎を纏わせている。
「わぁっ、できた! やったぁ……」
 夜闇に煌々とした炎、手慣れていない剣使いだが教えてもらった技なのだろう。サキがジェフリーの剣に施す魔法剣に似ている。
「おや、あれは魔法ですね」
 竜次の声に気がつき、ミティアは顔を上げた。
「わっ、見てたんですか⁉」
「そっちに行っていいですか? 近くで見たいです」
「ひゃうぁ⁉ 恥ずかしいです!」
 ミティアは慌てふためいていた。表情がころころ変わるので、正直これだけでも見飽きない。
「さ、ジェフも」
「俺は……」
「いいからっ!!」
 竜次はジェフリーの腕をつかみ、庭へ向かった。
 兄弟が庭に降りた時には、ミティアの剣から炎は消えていた。恥ずかしいのか、もじもじとしている。
「は、恥ずかしいですよぉ……」
「ミティアさん、すごく頑張っていますね。私もしっかりしないといけません」
 竜次が目を輝かせている。積極性のなかったミティアが自力アップを狙っているのは、仲間として心強い。
 ジェフリーは疑問を口にした。
「禁忌の魔法じゃないが魔法だよな? 体は何ともないのか?」
「何ともないよ。圭馬さんも、身体に負担をかけない程度なら大丈夫だろうって。でも魔力媒体がないから、次の街で何か探しなさいって言われました」
 サキは杖や魔石、ローズは試験管の媒体を持っている。
「慣れていない状態で何も持たないままの魔法は、自分の体力を削ってしてしまうので、よしなさいって……」
 ミティアは魔法を使うことに関して詳しく説明をする。何気にサキは魔法が使えるのが当たり前なので、何も知らない人にも優しい説明は助かる。
 何より、ミティアがこの短時間に魔法を習得しているのがすごい。
 竜次も質問をした。
「魔力媒体って、サキ君が持っている杖みたいなものですか?」
 興味はあった。ミティアは何を持つのだろうか。兄弟は興味深かった。
「魔力加護があったら何でもいいみたいです。特に、わたしはまだ初心者の域なので小さいもので……ピアスとかネックレスとか指輪とか……」
「「指輪ぁっ⁉」」
 兄弟は揃って声をひっくり返した。
 ミティアはその反応を見て、困惑しながら首を傾げた。
「えぇっと……」
「あ、あー……私がお好きなもの買ってあげますよ?」
 竜次が出しゃばった。露骨でわかりやすい。
 ジェフリーは呆れながら額を押さえた。
「サキが選んでくれるって言っていたので大丈夫です」
「ゔっ…………」
 ミティアは濁りのない笑顔を見せる。サキは魔法に長けているのだから、簡単な世話をしてくれるのはごくごく自然な流れ。ところが、竜次にとっては大事件だった。サキを呼び捨てにしているのもそうだが、このままでは彼と親しくなりすぎて、本当に恋人になってしまうかもしれない。
「健全じゃないです! やっぱり一度、しっかりお話をしなければ……」
 取り乱している竜次をよそに、ジェフリーは呆れ流していた。
 ミティアはジェフリーをじっと見つめている。その視線に気がつき、ジェフリーは反応した。
「どうした?」
「ふふっ、わたし、頑張るね!」
 ミティアは小悪魔のような含みのある笑い方をしている。ん、待てよ。少し口調が砕けた。ジェフリーが知らない一面を見せた。
「すぐには無理だけど、ちょっとずつでも、守られてばかりじゃないようになりたい」
 サキやキッドだけではなく、ミティアも自力アップを狙っていた。
 
 こんなに短期間で、一致団結して目的に向かって動き出そうと皆が努力するなど、学校でもあっただろうか。
 正直、あり得ない。
 信頼関係なんてものは面倒で、何日も、下手したら何年も積み上げていかなければならないものだ。それが今はどうだろう? まだ出会ってからそう長くはない。不思議だった。
 ジェフリーは今の自分が置かれている状況を立ち止まって考えた。
 旅の第一目標は、ミティアが普通の女の子として生きる道を見つけること。だが、今追っているものは複数になりつつある。最終地点は同じかもしれない目標だ。

 
 自分たちはどこまで頑張れるだろう?
 
 それぞれの想いを胸に、また歩き出す。
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