トレジャーキッズ

著:剣 恵真/絵・編集:猫宮 りぃ

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【2】疑惑

記憶の中の小さな手

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 川沿いで陣を取った。ある程度の視界が開け、水場の近くでもある。一休みをするには好条件だ。
 ミティアと竜次がはぐれてしまったせいで、皆の口数は少なかった。この場にいる誰も、はぐれた二人が気になって仕方ない。
 ジェフリーはマッチで火を起こそうと試みる。だが、湿気ですぐに消えてしまった。焦げの臭いが風に乗っただけだった。ランタンの方がまだ頼りになる。
 キッドは川を警戒したが、小さな魚が生息するだけで害はなさそうだ。
 一同は座って一息ついていた。その中で急にジェフリーが立ち上がり、言った。
「俺、ちょっと川沿いを見て来る……」
 いても立ってもいられないのか、ジェフリーがランタンを持って皆の返事を待たずに歩き出した。
「待つデス、ジェフ君、一人で出歩くのは危険デス!」
 ローズがすぐに追い駆けた。ランタンの大きな明かりが遠退き、サキのフェアリーライトの明かりが残る。
 疲弊しているサキが、寒さ凌ぎに外套を羽織って縮こまった。フェアリーライトを近くに寄せる。
「ジェフリーさんを追わないのですか?」
 サキは、周囲を警戒しているキッドに向けて言った。
「あんたを一人にするわけにもいかないでしょ?」
 キッドだって本当は探しに行きたいはずだ。それでも無理にサキを連れ回そうとはしない。
「顔色が悪いわよ。無理をしないで横になってなさい」
 キッドはきつい口調だが、なぜか優しい。サキは、彼女が気を遣ってくれているのが気になった。
「誰にも言わないんですね」
「何が?」
「僕が『拾った親』に会ったことです……」
 ずっと気になっていた。なぜ、キッドは仲間に話さなかったのだろう。
 キッドは馬鹿らしいと鼻で笑った。
「くだらないわね。あんたはもう自由なんだから関係ないでしょ。必要以上の話をして、何か変わるの?」
「いえ……」
 確かにキッドにとっては、くだらないかもしれない。
「別の質問をしてもいいですか?」
「あんたって本当に質問の多い子ね」
 キッドはそう言いながら、弓矢を構えている。遠くで動物の鳴き声がした。
「猛獣かと思ったら鹿かしら……脅かさないでほしいわね」
 キッドが弓を下げ、サキに向き直る。
「で、何?」
「どうして僕に優しくしてくれるんですか?」
「……さぁ?」
 質問に対し、キッドの答えはいい加減だ。納得する答えではない。もちろんサキは食い下がる。
「おかしいです。ジェフリーさんにはあんなに厳しく当たるじゃないですか」
「細かいことにうるさいわね。馬鹿じゃないの?」
「僕は馬鹿でかまいません! それより質問に答えてください!!」
「どうでもいいでしょ!?」
 キッドは吐き捨てて腕を組んだ。もちろんサキは納得しない。

 近くの茂みから音がした。キッドが再び弓を構える。だが、彼女の視線の先にはオオカミが二匹。
「騒いだせいで動物が来ちゃったじゃない!」
 一瞬見ただけの判断だが痩せている。相手はオオカミだ。腹をすかせているに違いない。
「早いわ……あんたは逃げなさい!!」
 キッドは右足のスリットを翻した。そのときすでに二匹とも向かって来ていた。オオカミは血肉にありつこうと必死だ。当然のように襲い掛かって来た。
「こんのぉ!!」
 一匹がキッドの持つ鉈の刃に噛みついた。だが、牙にはまって押し切れない。そのすぐうしろに二匹目が見えたと思ったら、心許ない光と一緒にサキが飛び入っていた。
「馬鹿、逃げなさいっ!!」
 サキが右手の拳を振り上げた。口が二言三言分動いた。
「グラビティパンチ!」
 サキは拳から圧力衝撃波を放った。風圧で外套が翻る。オオカミが突き飛ばされ、暗闇に消えた。情けない鳴き声がこだました。これは断末魔だろうか。
 サキがキッドに向き直る。キッドは刃を喉に押し込んで切り裂いていた。
「大丈夫ですか、血が……」
 キッドの右手が肘まで血まみれだ。だが、彼女の血ではないようだ。
「ん? あぁ、あたしのじゃないわ……」
 キッドは周囲を確認し、川へ向かった。そのまま川の水で血を洗っている。
「あの、僕が騒いだせいですよね? ごめんなさい……」
 サキはすり寄って謝罪した。キッドはおかまいなく濡れた手を払ってしぶきを飛ばす。
 キッドはサキの身を心配した。
「歩ける? 血の臭いがするから、もっと来るかもしれない」
「どうして僕を怒らないんですか?」
「怒ってる時間が無駄なの。それとも、食べられたかった?」
 キッドはサキを叱った。言い方は厳しいが、彼女は頼もしい。右手に怪我がないのを確認して、手袋を絞りながら確認する。
「あいつとローズさんが向かったの、こっちよね? 報告しないと」
 キッドは左手でサキの腕をつかんで引いた。そのまま川に沿って歩き出す。
「腕、細いわね。もっと食べなさい」
 キッドは小言を言う。魔法使いは嫌い、信用してない。それなのに、こんなにサキの面倒を見ている。
サキは魔法に長けている。知識を生かしたいから加えてもらった。だが、実際は誰かに面倒を見てもらってばかりだ。足を引っ張っているもどかしい思いを燻ぶらせていた。
「言っておくけど、さっきは、あんたのせいじゃないから」
「えっ?」
「すごいじゃない。あのへなちょこパンチ、笑ったわ。いい根性してるじゃない」
 キッドが皮肉交じりのない純粋な笑顔を見せた。緊張の続く中、心の距離が縮まった。サキはうれしくなって笑み返す。
「……もっと、褒めてもいいんですよ」
「何それ、変なの」
「えへへ……」
 以前、フィラノスで拾った親から庇ってくれた理由を、『弟みたいだったから』と聞いた覚えがある。サキもまた、ぼんやりとしか覚えていない姉の背中を追い駆けている気持ちだった。献身的に面倒を見ているのはその理由なのかもしれない。
 何かの巡り合わせがあるのなら、偶然も必然もあるのなら信じたいと期待を寄せる。
 本当の姉を覚えていない。今は生きているのかもわからない。
 気にしないようにしていたのに、忘れたままでいいと思っていたのに、サキの心の闇がそっと足音を立てた。

 独断で捜索に出てしまったジェフリーは川沿いを歩いていた。下流に向かっている。何かしていないと気が狂ってしまいそうだった。
「ジェフ君、これ以上離れては危険デス!!」
 ローズが走って回り込み、ジェフリーの前を遮った。
「おばさんは森を抜けられればいいんだ。関係ないだろう!?」
 ジェフリーは足を止めて睨みつける。ひどい悪態だと自身でも思っていた。
「その目、ケーシスとよく似ていますネ」
「あんた、親父を知っているのか!?」
 ローズから思わぬ不意を突かれた。この人は自分が知らない父親を知っていると、ジェフリーは疑念を抱いた。セーノルズ家を知っているだけではない。もしかしたら自分は読みを誤ったのかもしれない。もっと疑いを持つべきだったと後悔した。
 ジェフリーの質問に、ローズは答えた。
「知っています。でも、今は話せません」
 ふざけた語尾を解き、ローズは真面目な口調で訴えた。
 自分の手の内は明かせない。でも、信じてほしい。ローズは悲痛な表情を浮かべている。ランタンの明かりでもわかるほどだ。彼女は続けた。
「ケーシスは目的のためなら手段を問わない人です。何を犠牲にしても、理想を得るために……」
 あまりに意味深だ。
 川のせせらぎがうるさく感じるくらいには雑念が邪魔をする。
「ジェフ君、どうか『今』を見て。ケーシスと同じ道を歩んでほしくないの、です……」
 ローズは何を知っているのだろうか。この言い方だと、自分たちよりも真理に近い人かもしれない。同じ道を歩んでほしくない。それが何を意味するのかは現時点ではわからない。だが、これだけは汲み取れる。おそらく今、ジェフリーは判断を誤っていると言いたいのだろう。
 立ち止まってジェフリーは思い出した。サキとキッドを放置してしまった。心配のあまり心を乱し、周りが見えなくなっていた。
「ごめん。戻ろう……」
「よかったデス……」
「もっとちゃんと現状を見ないといけなかったな……」
 ジェフリーが詫びると、ローズは安堵の息をついた。

 ローズはジェフリーの暴走を止めた。彼女の読みはこうだ。
 兄弟の父親を知っているローズは、ジェフリーに面影を感じた。この短い間に面影だけではないと察しがついた。同じ道を歩んでほしくないと言った。その言葉に偽りはない。
 
 大切なことを見落とすところだった。気づかせてくれたローズにジェフリーは質問をする。
「今まで態度が悪くてごめん。何て呼んだらいいんだ?」
 ローズに今までの悪態を詫びた。その上でジェフリーはローズに『仲間』という意識を持った。
「そうですね、ワタシのことはお気軽に『博士』とお呼びください!」
 親しみを込めて接してくれているのはジェフリーも理解した。『博士』というのは自分が呼んでもらいたいだけなのではないかと思った。それでもジェフリーは了解した。
 ローズもここまで踏み込んでしまったのだから、もう他人ではない。こうなるのではないかと予想はしていたが、本当にこの旅路は得るものが多い。

 来た道を戻っていると、ローズが周囲を気にしていた。
「博士、どうかしたのか?」
 ジェフリーはさっそく呼び方を変えて質問をした。ローズが足を止める。
「いえ、変な音がするデス……」
 ジェフリーも足を止めた。川のせせらぎで微かにしか拾えないが、砂利を蹴る音がする。バサバサとした布の音もした。その次にはぼんやりと白い影が見えた。
「博士、何かいるぞ!」
 ジェフリーは剣の柄に手をかけながら、ローズを背に庇った。
「あれ、白いお化け、どこに行ったんだろう?」
 明るく無邪気な声だ。幻聴ではない。しかも、聞き覚えがある。ジェフリーは顔をしかめた。
 明るく陽気な声が遠退く。
「先生、早く!! こっちですよ!!」
 白い影がぼやけて見えなくなった。
 ジェフリーから見れば、この影こそ白いお化けだ。ランタンを持っていたと思い出し、前にかざす。ぼんやりと赤い色が見えた。何となくの予想はついていたが、声の主を確認する。
「ミティアか!?」
「そ、その声、ジェフリーさんですか!?」
 向こうも気づいたようだ。砂利を蹴る音が大きくなる。
「ど、どこですか!?」
「そのまま上流に向かって真っすぐだ! 待ってろ、今明かりを大きく……」
 ジェフリーはランタンの摘ままみを捻ろうとした。すると、思わず落としそうになるほどのぬくもりを感じた。遅れていい香りがした。
「ジェフリーさん、よかった!!」
 明かりを頼りにしたのだろう。ミティアがジェフリーに抱き着いた。ランタンの明かりでわかったが、目は潤み、なぜか白衣を着ている。
「わっ、ちょっと待て。落ちつけ!!」
「もう会えないかと思いました!!」
 ジェフリーは顔を真っ赤にし、ミティアを振り払おうとする。だが、そのまま彼女に泣かれてしまった。
「いいなぁ、ジェフばっかり……」
 ペンライトの小さい明かりと、光に反射する三日月のピアス。恨めしそうな声の主は、疲労を笑顔で隠す竜次だった。
「おぉ、剣神サン!!」
 ローズが手を叩きながら竜次を迎え入れた。

「うっわぁ……ないわ……」
 ジェフリーの背後からキッドの声がした。彼女の横から明かりとともにサキが姿をあらわした。二人は揃ってジェフリーを蔑んでいた。
「さっさと離れなさい。ミティアに何かしたら許さないんだから」
「へぇ、ジェフリーさんって女性を泣かせる悪い人だったんですね」
 キッドとサキは、やけに息の合った罵り方をしていた。ごくごく自然にジェフリーは悪者にされた。
 再会をよろこぶ余裕はない。
「誤解されてる、離れろ……」
「嫌です。今だけは!!」
「俺はミティアの保護者じゃないぞ!?」
 ジェフリーはミティアを突っぱねようとする。胸の中の彼女は再会をうれしく思い、泣きながら笑っていた。
 竜次はじっとミティアの表情を見ていた。弟に接する表情も態度も、どうしてこんなにも自分とは違うのだろうか。微かに嫉妬を燻らせていた。

 散ってしまった『仲間』は無事に再会を果たした。

 再会をよろこぶのもほどほどに、上流に戻ろうとジェフリーが先導する。だが、キッドが止めた。
「さっきの場所に戻るなら待って!」
「何かあったのか?」
 ジェフリーが質問をする。説明をしたのはサキだった。
「ジェフリーさんたちが離れた後にお腹をすかせたオオカミが二匹ほど……」
「この子はうまく払ってくれたけど、あたしが刃物を使ったせいで血の臭いを撒いちゃったのよ。だから戻るのはナシにしてもらえる?」
 事態を聞いたジェフリーは黙り込んだ。キッドとサキは、自分が勝手な行動をしたせいで、危険な目に遭わせてしまった。その責任が重く圧しかかる。
 キッドが頭を下げた。
「明日がこの場所からになって、ごめんなさい」
 キッドが謝るのはおかしい。サキが声を上げた。
「キッドさん、だってあれは僕が騒いだからいけないのに……」
「うるさいわね。あんたは悪くないって何回言わせるのよ!!」
 キッドはサキを庇って謝っていた。大袈裟に思えるくらいだ。
「ごめん、俺がいけない。二人は悪くない」
 ジェフリーがキッドに頭を下げた。
「どうしても心配で、いても立ってもいられなかった。結果的にはよかったかもしれないけど、二人を危険な目に遭わせたのは申し訳ない」
 あまりに真剣なジェフリーの様子にキッドは困惑した。
「ち、調子狂うわね。この子を見捨てたわけじゃないんでしょ? なら、これで『おあいこ』にしてもらえる? あたしも悪いんだし……」
 キッドはサキを庇っていた。異常なまでに思える。違和感を覚えたが、ジェフリーは顔を上げ深く頷いた。
「わかった。もうこの話はナシにしよう……」
 ジェフリーとキッドは『おあいこ』で納得した。いつまでも尾を引いて、後腐れするのが嫌だったからだ。

「そっちはどうだったんだ?」
 ジェフリーはミティアと竜次にも話を振った。これにはミティアが答えた。
「わたしは怪我をして動けなくて、ライトを持った先生がいたのがわかって……わたしが怪我をしたせいで、川まで辿り着くのに時間かけちゃったけど……」
 右手の腫れは引いたが、足はまだ赤い。
 ミティアが、竜次を庇っていたのはわかっていた。だが竜次は仮にも医者なのだから、怪我人を無理に引っ張るとは思えない。
 竜次に目をやると、左手の手袋の隙間から白い包帯が見えた。彼も怪我をしているようだ。
「手……大丈夫なのか?」
 ジェフリーに指摘され、竜次は反射的に手を引っ込めた。
「動かすのはできます。ですがたぶん、靭帯を痛めています。捻挫……悪くて骨をやったか」
「どうするんだ。兄貴を頼りにしていたのに……」
「強敵に遭遇したら、私では勝てませんね。代わりにジェフが頑張ってください」
 竜次は吐き捨ててそっぽを向く。人によっては、八つ当たりかと捉えられるかもしれない。もしかしたら、これはジェフリーに対する嫉妬かもしれない。
「ちょっといいデス?」
 ローズが横から覗いた。
「これ、何の処置したデス?」
 口頭で聞くころには、もう手袋を外して手を眺めている。
「湿布は初期処置にはよくないデス、もっと冷やしてネ?」
 有無を言わせず、包帯を解き出した。忘れていたが、ローズも医者だ。それは出会ってすぐに判明している。
「ま、待ってください、私、川は……水が苦手なんです!!」
「オトコノコは騒がないの、デスヨ」
 竜次はローズに引きずられて行った。川岸で処置が施される。
「……とりあえず、陣を取って仕切り直すか」
 ジェフリーがランタンに虫除けを混ぜた。周囲に強いハーブのような香りが広がる。
「こうなると虫より獣のほうが怖いわね、獣除けってないのかしら」
 虫除けの独特な臭いに顔をしかめながら、キッドも外套を羽織った。
「獣除けかぁ……」
 サキが何か思い出したように、右のポーチから本を取り出した。
「あれ、その本、古本屋で買ったやつでしょ?」
 キッドが指摘すると、サキは小さく頷いた。放っていたフェアリーライトを指で招く。
「ここで読むの!? 目、悪くなるわよ?」
 さらに指摘するも、サキの手にはすでに眼鏡ケースがあった。茶色い革製で細かい模様が特徴のケースだ。
中から眼鏡を出してかけた。日常的に使っているのか、馴染んで似合っている。
「獣除けになるかはわからないですが、数分おきに爆竹のような小爆発を起こす魔法はありますね」
「ま、魔法って……つか、それはうるさいから却下ねぇ……」
 キッドにダメ出しをされ、サキは違うページをめくりだした。
「つか、あんた寝なさいよ」
「読み飽きたら寝ます」
「強情ねぇ……」
「知識に対して貪欲と言ってください」
 サキが人差し指を立て、自慢げに鼻を鳴らした。疲れていたのではないかと疑問だが、キッドは息をついてうとうと意識を落とそうと試みている。サキはきっと足を引っ張ったと気にしているのだと、キッドの中で解釈した。変に問い詰めるよりも、緊張続きで休みたい欲が勝る。
「ミティアちゃんも寝てしまっていいデスヨ? 見張りはヤローどもに任せておくのがイイデス」
 白衣を着たままだが、ミティアも縮こまった。誰も白衣を着ていることを指摘しなかった。逆にこの環境で目立つので、脱げとも言わない。最もはぐれそうだし、はぐれては困る。
「兄貴も休んでいいぞ、見張りなら俺が受ける……」
 テーピングを施され、すっかりしょぼくれている竜次にも声がかかった。だが、竜次は立ち上がってジェフリーを見下ろす。
「ジェフ、少しいいですか?」
 ジェフリーは起きているサキとローズに振り返る。
「僕にはおかまいなく」
「いてらさいデス」
 本に夢中なサキと、気さくに手を振るローズの反応と返事を聞いて、ジェフリーは立ち上がった。
「見える範囲にしてくれ」
「もちろん……」
 兄弟は揃って砂利道を歩き出した。

 目で追ってある程度の距離でサキが小言をぼやいた。
「僕は知り合って数日なのですが、気難しいご兄弟なのでしょうか……」
「そっくりだと思いマス」
 ローズは小箱を取り出し、がちゃがちゃと金属を広げていた。手には何かに引っ掛けるパーツとコアとなる部分が置かれている。
 読書もいいが、ローズの作業が気になる。サキは覗き込むように背筋を伸ばし、質問をした。
「それは機械ですか?」
 サキは好奇心から、見慣れないものに目を奪われた。ローズの膝元には、ネジが並べられていた。彼女のライセンスには機械整備士もあった。間違いなく機械だ。
 ローズはルージュの引かれた唇を縮め、口角を上げた。興味を持たれてうれしいようだ。
「機械……補聴器、デス」
「補聴器? えっと、耳の?」
 サキも名前は知っている。実際に目にする機会はあまりない。ましてや、整備など間近で見られるとは。本を閉じてローズの隣に座り直した。
「ワタシが沙蘭に行きたい理由デス。ギルドの依頼で、これをほしがっている子がいましてネ」
 ローズは皆に言わず、サキにだけ打ち明けた。これにはサキも驚いた。一行の手動を握っているわけではないからだ。
「未来ある若人に、こうした社会貢献もあるのだと学んでほしくてネ」
「は、はぁ……」
 一行の中で際立って若いのはサキだ。ローズは自分の目的を語り出した。

 陣を取っている仲間の姿が確認できる距離で足を止めた。気を遣って、会話が聞こえる距離ではない。川のせせらぎが邪魔なくらいだが。
 ジェフリーから声を上げた。
「兄貴から話があるって珍しいな」
 呼び出すなんてよほどの話だろうと構えた。
 竜次は自分で呼びつけておいて、話しにくそうに目を逸らす。
「何だ? また俺と真剣勝負でもしたいのか?」
「いえ。でも、そうかもしれない……」
 竜次は言って唇を噛み締めた。何か話があったのではなかろうか。
「兄貴、何かおかしいぞ? 頭でも打ったのか?」
 ジェフリーが厳しく指摘をする。竜次はこれも完全には否定できなかった。
「確かに頭は打ちましたが、そうではなくて……」
 ジェフリーは苛立ったのか、腕を組んだ。嫌らしい質問を吹っかける。
「――惚れた、のか?」
 わざわざ呼び出して話したいなんて妙だ。考えすぎかと思ったが、情報の共有や、家族の話だったらもっとすんなり話す。ジェフリーは心当たりを口にした。
「そう……かも。ごめんなさい、ジェフ……」
「いや、俺に謝られても……」
 竜次は思い詰めた表情のまま、観念したと首を垂れた。
 ジェフリーは察しながら、『誰』なのかを言わない。
「知り合って何日だ? 手が早いな」
「私も……そう思います」
「何か話したのか?」
 ジェフリーの察しがいい分、話の進みは早かった。
「私の過去や医者になった理由を話しました。ジェフは知りませんよね?」
「もちろん知ってたさ。俺は兄貴の面倒を見るように、姫姉に頼まれた」
「じゃあ、あなたは全部知ってて私を……?」
 ジェフリーは大きく頷いた。知っていたがあえて口にしない。その会話も交わす機会がなかった。ただそれだけだった。
「ミティアに泣かれたんじゃないか?」
「大泣きをされてしまいました……」
「だろうな、あれは泣くと思う」
 話が読めてきて、ジェフリーは腕を解いた。
「いいじゃないか、好きなら好きで」
 竜次だってわざわざ呼び出して、そんな話がしたいわけではない。
「違うのです。私はきっと、埋まらない孤独をミティアさんで満たそうとしたのです。自分が最低だと思います。これは裏切りでしょう?」
「どこが裏切りなのかわからない。気持ちなんて、どうしようもないと思う」
 考え方が違うだけ。竜次はジェフリーに気を遣っている。
「俺に宣戦布告でもしたいのか?」
 じれったい。長話が疲れると思ったジェフリーは話を進めた。
「そうかもしれません……」
「俺が兄貴の気持ちに対して文句を言う権利はない」
 虫唾が走る。ジェフリーはわかっていて、突っぱねようとしていた。これで竜次が納得するはずがない。
「ジェフ……あなたは、ミティアさんが好きではないのですか?」
「お互いをよく知らないのに、好きも嫌いもないだろう」
「そうやって『逃げる』のですね……」
 竜次は鋭く睨みつけた。
 苛立ったのはジェフリーも同じだ。竜次の言葉が何を意味するのかを理解している。つまりは、フィラノスでも引きずっていた『過去』を清算しろというあおりだ。
「早くけじめをつけて、私と同じ場所に立ってください」
「兄貴はどうかしてる」
「そうです、私はどうかしてます。一度死のうとした時点でどうかしてる。そんなの知っているくせに!」
 強めの反論だ。おそらく皆に聞こえてはいないだろうが、ジェフリーは一度振り返った。
「兄貴が立ち直ってくれるなら、俺は応援してる」
 ジェフリーにとってうれしいと思える。どこかで納得はしていないが、気持ちを縛ることはしたくない。
 竜次はジェフリーの優しさに甘えてしまいそうになった。だが、『気持ち』を言っておかないといけない。
「ジェフ、これだけは言わせてください。私は、『今まで』はあなたの保護者として同行していました」
 あやふやな言い方ではない。力強く、意志がはっきりとしている。
「でも、今は違います。ミティアさんを守ってあげたい。禁忌の魔法の謎を解いて、普通の女の子として暮らせるようにしてあげたい。それが、理由です」
「……」
 ジェフリーは疑いを持った。行き着いた最終的な理由はそうかもしれないが、そこまでの『過程』があるに違いない。あえて触れないのは、それこそがうしろめたい理由だからだ。
 竜次には愛する人を失って悲観し、自殺未遂を起こした『前科』がある。そして『禁忌の魔法』が使えるミティアに出会った。守りたいと言っているが、その言葉を疑っていた。
「守りたいのは、仲間として当然だと思う。今は、森を抜けることを優先しよう」
「あっ、ジェフ……」
 ジェフリーは言及を避け、話を終わらせた。皆の場所へ戻ろうと、足早に歩き出した。
 竜次は満足の行く話ができなかった。不完全燃焼だ。弟の気持ちが知りたい。遠くなるジェフリーの背中に、悔しい思いをぶつけた。
「ミティアさんはジェフを頼りにしているのに……」
 今はまだ形は違うかもしれないが、守らないといけない存在は二人の中で『守りたい』へ変化していた。 

 仮でも偽りでもない、血のつながった兄弟なのに。どこで違ってしまったのだろう。
 竜次は幼い頃から立派な人間になるためにたくさん勉強させられた。いつしか会話も遊ぶ時間もなくなった。
 ジェフリーは沙蘭を訪れたフィラノスの令嬢に見初められた。そのまま婚約となり、沙蘭を去ってしまった。
 ジェフリーがいなくなった後も、妹と仲良くやっていたと思う。学歴を積み、家庭教師をしてくれていた少し年上の女性を好きになった。周りからは、貧しくて身分相応ではないと反対された。だが、妹は好きに生きたらいいと何年もかかって、国という柵から自由にしてくれた。妹にも感謝している。結果、多くのものを失った。
 今ここにいるのだって信じられない。失った分、何かを得たくて、完璧な自分を演じ続けている。これも。いつまで耐えられるかわからない。
 崩れたときは、また死ぬのだろうか。竜次は小さくも大きい恐怖に怯え続けていた。

 心地よい揺らぎ、浅い眠りが家族を振り返らせる。が、揺らぐ理由がわからない。
「んんっ?」
 目を覚ますと、目の前には白衣を着たミティアの顔があった。目覚めは上々かもしれない。あたりを見ると皆は身支度を整えている。
「あれ、私、最後でしたか」
 竜次は昔を思い耽ったまま眠ったようだ。
 三日に一回、六時間眠れればいいと仕事のリズムを謳っていたが、慣れない野戦と野営に体は悲鳴を上げていたらしい。凛とした顔があくびでだらしなく崩れた。
「そこに完徹をしたのが二人いるらしいぞ」
 ジェフリーに視線をおくられたのは、サキとローズだ。
「えっ、あんた寝てないの!?」
 キッドが朝から元気に声をひっくり返す。サキはケロッとした顔でキッドを見上げていた。少しは仮眠したものだと思っていたからだ。
「この本、面白かったので……」
「呆れた。道中で倒れても知らないわよ?」
 サキは立ち上がって伸びをした。
「もう少し……あと二本デス」
 ローズが小さい試験管に真っ青な液体を流し込んでいる。
「兄貴も顔くらい洗っとけ」
「そうですね。って、あいたた……あちこち傷みます」
「運動不足かジジイだな」
「うるさい、誰がジジイだっ!!」
 竜次は自分の口調が砕けて慌てて口を塞いだ。注目の的になって咳払いをする。
「な、何でもないです」
 寝起きは悪いが、だらしない点に加えて、ガラの悪い口調が漏れた。はぐらかすように川岸に行って、タオルを濡らして絞っている。
「完璧人間のメッキが剥がれて、素が出て来たな……」
 ジェフリーがにやにやと嫌らしく笑った。弟なのだから、完璧な人間の仮面を被っていることは知っている。
 皆の前ではいい顔をしようと必死なのも、当然理解してこの反応だ。いくら隠していても、いつかはバレると見ていた。早いか遅いかの違いで。
「……そっくりですね」
 サキが竜次の背中を見て呟いた。彼は竜次の本質を早く見抜けるかもしれない。
 準備を整えて出発する。

 昨日四人で陣を取って休憩した場所に、動物の骨が散らかっていた。キッドが言ったように、戻ったら危険だった。
「明るいうちにできるだけ進んでおきたいな、この先は沼地だけど……」
 ジェフリーが先頭を歩いた。昨日よりは明るく視界がいい。
「沼地って、今よりも足場が悪くなるんですよね?」
 サキがジェフリーの真うしろにくっついて歩いた。
「そういえば、動物が少なくなって、虫が増えたわね」
 キッドがサキの横で警戒をしている。羽虫が視界を遮るのが気になるようになった。
「ジェフ、昼間に焚くのはよくないですが、ランタンに虫除けを混ぜましょう」
 足を止めてジェフリーが持つランタンに虫除けを入れた。
「私が前を歩きましょうか?」
「怪我人はうしろに引っ込んでろ」
「口悪いですね、もうっ……」
 今日のジェフリーは竜次に当たりがきつい。本当に怪我に気を遣っているのか定かではない。もしかしたら、昨晩話し込んだ内容のせいで気を悪くしているのかもしれない。
 喧嘩しても空気が悪いだけ。竜次が後衛に戻ると、隣をミティアが寄り添った。おそらく彼女は近くにいるように気を遣っている。
「先生、今日も元気ないですね……」
 ミティアが可愛らしくも顔を覗き込んだ。この、遊んでくれないのかとねだる猫のような可愛さが反則だ。知らずのうちに彼女が癒しになっていた。
「いつまでもこういうサバイバルは慣れませんネ……」
 足元を気にしながらぼやくローズ。気にするのも無理はないが、彼女は高さのある靴を履いている。よくここまで遅れずについて来るものだ。
「ローズさんは旅慣れしているんですか?」
 歩きながらミティアは世間話を振っている。この雰囲気は本当に大切だ。
 あまり進んで会話に混ざらないが、ローズも話は好きらしい。
「世界を回りたいと思ったので、ここ十年くらいデス。ワタシは学者なので昔のことを調べておりマス」
「昔のことですか? 何を調べていたのですか?」
 何となく嫌な予感がするが、一同黙って彼女たちの会話に耳を傾ける。
「種族戦争デス」
 やっぱりそうだった。だが、これだけではなかった。
「ワタシ、アリューン神族の混血デス」
 あまりにさらっと言うので、皆は聞き逃しそうになった。
「へっ?」
 ミティアがローズの顔を見る。赤いルージュでわかるように笑っている。
 黙って聞いていた一人、サキが口を挟んだ。
「アリューン神族の末裔や混血の方は、身分を明かさないだけで、意外とたくさんいますよ? 純血はこの世界にはほとんどいないだけで……」
 この魔導士、さらに学者のような補足する。
 ローズが足を止めて困惑の表情だ。化粧っ気があるせいで、誤魔化しが利きにくい。リアクションが大きい分、表情もわかりやすい。
「ローズさん……?」
 ミティアが声をかける。ローズは苦笑いをしていた。
「博士も部外者だとか他人では済まないな……」
 ジェフリーが諦めの息をついた。
「あたしは黒い龍とか剣士の人に遭遇してるけど、込んだ話には無関係よ……」
「僕も直接は関係ないですが……」
 キッドとサキだけは、この入り組んだ話に今のところ無関係だ。
 キッドはミティアの親友。サキはジェフリーの友だち。残りの四人には共通点が生まれた。ローズがミティアを見て少し悲しそうな顔をしている。
 もしかしたら、ローズはこの中の誰よりも真理に近い場所にいるかもしれない。
「あー……ワタシ、その、あまり武器を持ったり戦ったりはできないデス……」
 一番の弱点はこれだと思う。若干の魔法は使えるが、森を一人で越えられるような身体能力もない。
「これはもしかしなくても、長い付き合いになりそうだな」
 ジェフリーはローズに向けて意味深な言い方をした。詳しくは言わなかった。
「えぇっと……ワタシだから、皆さんみたいに逞しくはないデスヨ?」
 ローズは早々に理解したのか、あまり気が進まないようだが。
「お嫌ですか?」
 竜次の誘いにも首を縦には振らない。
「足を引っ張る要素しかないデス……」
 森を越えたいから、お供をギルドに依頼していたとは言っていた。
 だが、行動をともにはしたくない様子だ。
「森は越えたい。追うものは一緒、目的も一部が一致、僕たちは加えてミティアさんのお力について調べていますが」
 サキが判断材料を述べる。
「ローズさん……」
 ミティアが祈るように手を組んだ。それに負けたのか、ローズは渋々頷いた。
「ワタシ、一定の人と長く組んだいい思い出がなくて……」
 おそらくそれだけではない。目的がある程度一致しているからこそ、触れてほしくない部分がある。直感でジェフリーは思ったが、これを黙った。いくらこちらから歩み寄っても、しつこくすれば遠ざけてしまう原因になる。
「ギルドの冒険者さんの中には悪い人もいます。そういう理由でしたら察しがつきますよ。ですが、僕や皆さんはギルドの人じゃないですし、個人的に動いているので、そうですね……この中で一番悪いことしそうなのは……」
 サキが気持ちを汲み取って笑いを誘った。チラッとジェフリーに視線をおくった。
「何で俺なのか理由を言え」
「ジェフリーさんとは言っていません」
 笑いを誘って空気を和やかにした。これがだめならきっと、竜次の笑顔の威圧が入る。
「最初は胡散臭いと思ってたけど、一緒に行動しない理由のほうが少なさそうね」
 キッドもローズに視線をおくった。
「途中まではご一緒しマス……ワタシもやりたいことがあるので、こればかりはすみませんデス。これでいかがデスカ?」
 渋々この先も行動をともにするのを了解してくれた。ぼちぼち進むのを再開したところで、再びミティアがローズに話しかけた。
「さっきの、ローズさんが言っていたやりたいことって何ですか?」
 下手な蒸し返しにも思えたが、今度のローズは目を輝かせていた。
「機械整備士の技術を生かして、空を飛ぶ船を作って、空中都市に行ってみたいという野望がありましてネ……」
「くうちゅうとし?」
 ミティアがお決まりの小動物に似た反応を見せる。
「私も聞いたことはありますが、あれって架空の話ではありませんでした?」
 竜次も話に食いついた。夢のある話は場の空気が和やかになる。
「僕も実在はすると聞いたことがあります。でもその情報は、ギルドが出どころですよね? 信じていいのやら……」
 サキは本当に物知りだ。ギルドを疑いながら、一応チープな話も耳にはしているらしい。チェックに抜かりないあたりはさすがだ。
「船乗りが世界の中心で見たというのですから、信じてマス!  いつか絶対作るデス!」
 ローズが拳を握って熱弁している。ロマンを語り、輝く漢のようだ。
「空を飛ぶ船……いいなぁ!!」
 キラキラした目でミティアも羨ましがったが、その前でキッドが震えている。
「あたし、あんまり高いところ好きじゃないなぁ……夢があっていいとは思うけど」
 キッドは高いところが苦手だ。興味はあるが、あんまり気乗りはしていない。空を飛ぶという単語もそうだが、世界の中心で船乗りが見たと聞いて、竜次が青ざめている。海の上だ。川でさえ嫌々なのに、海なんかに出たら竜次は卒倒でもするのだろうか。

 川沿いで休憩を挟んだ。
「ただでさえ刃こぼれしてたのに、これじゃあもっと切れなくなるな……」
 ジェフリーが川の水で剣をバシャバシャと洗っている。振り回す用途の剣に切れ味など期待していない。だが、植物の樹脂や樹液で黒ずんで青臭い。今は雑な手入れしかできないが、しないよりはましだろう。
 先頭を歩き、行く手を阻む茂みや低い草木を片っ端から切り崩しているからだ。お陰で今日は難なく進めている。森らしく虫が多いのが気になる。昨日と違って視界がいい。それも早く進んだ理由だ。
 腰を下ろして一同は携帯食料をかじる。シリアルにも似たさくさくとした食感が特徴だ。腹もちは悪いが、高カロリーで栄養が凝縮されている。特別おいしいものではない。
 学校の野外授業で馴染みがあったジェフリーが言うに、昔は味の種類がなかったらしい。
 キッドは食べ終わったら見張りに立つつもりでいた。だが、半分を食べたところで、横にいたサキが寄りかかってうたた寝をしているのに気がついた。
「えっ、ちょっとあんた……」
 徹夜の反動だろうか。身を任せるほど慕われているうれしい思いはあった。だが、ここは大自然の中だ。キッドはあえて起こそうとする。
「俺が見張るからあと十分寝かせてやれ」
 声をかけたのはジェフリーだった。彼は立ち上がって背の高い岩に乗った。
「……悪いわね」
 キッドはジェフリーの厚意に甘えた。いつも毛嫌いをしているのに、この態度は珍しい。
「面倒な子を連れて来たと思ったけど、いい子じゃない……」
「そいつ、賢いから話が面白いだろ?」
「そうね。少なくとも、あんたとは大違いよ」
 話題を振ったが長続きしなかった。ジェフリーが舌打ちをして川沿いを警戒する。
 サキと接するようになって、キッドの口調も態度も優しくなった。だが、ジェフリーとはまだまだ親しい間柄にはならない。
 サキはすやすやと寝息を立てている。
 ジェフリーは警戒をしながら、キッドに質問をした。
「いい機会だから質問するが、俺を毛嫌いする理由が知りたい」
 キッドは携帯食料の包み紙を握り、手を震わせた。だが、これはいい機会かもしれないと思ったのだろう。じろりとジェフリーを睨みながら答えた。
「あんた、いつも言葉にしないけど、自分にとっての損得を考えてるでしょ。思慮深いというか、そういう人と話すと疲れるのよ。顔に出ないからなおさらね」
 思ったよりも真面目な返答だ。ジェフリーは驚きつつ、眉間にしわを寄せた。利己的な点は否定できない。なぜなら、自分は退屈な日常を抜け出したいから同行を願い出た。変わるためのキッカケを求めていた。確かにジェフリーの考えは、自分にどう作用するのかを主軸に置いている。
「この子は賢いから、嘘もつかないしごまかさない。思っていることが顔に出ているからずっと話しやすいわ」
 キッドとまともに話し込んだのは初めてだ。胸の内を話してくれたのだから、感謝しかない。
「キッドが言いたいことはよくわかった。最初は自分の都合のいいように考えていたさ。だけど、今の俺は自分のためだけに頭を使っているわけじゃないからな?」
「そうしてもらえる? あんたの自分勝手で誰かが死ぬ前に、ね?」
 ジェフリーはキッドから殺気を感じ、表情を渋めた。念を押されたようにも思える。急になぜ、ここまでの信頼を寄せてくれるようになったのだろう。
 なし崩しに自分がリーダーの存在になっている。ジェフリーはやっとそのことに気がついた。判断を誤ってはいけない。一瞬の判断で誰かが傷つくかもしれない。もし自分の判断ミスで怪我や、命を落とすことになったらと考えると責任は重大だ。気を引き締めようと意識をあらためる。
 
 竜次が場所の確認と偵察から帰って来た。手にはコンパスと頼りにならないが地図を持っている。
「少し南に戻っていますが、想定範囲内ですし、大丈夫だと思います」
 竜次がミティアの手もとを見て目を輝かせる。
「あ、先生、おかえりなさい。どうしました?」
「そ、それは……」
「これですか? ローズさんにお借りしました。退屈しのぎにどうぞって」
 竜次が目を輝かせたまま、ローズに振り返った。
「私もやっていいですか!?」
 ローズはびっくりしている。手を添えてどうぞと頷いた。ミティアが竜次に手渡すと、まるで子どものようにはしゃいでいる。
「懐かしい。知恵の輪です……」
 出会ってからはじめて見るかもしれない、純真なはしゃぎ方には一同驚く。
「この一番大きな輪っかは取れないです、どうやるんですか?」
 鉄格子の鍵のようなタイプのものだ。二つ小さいのがぶら下がっている。ミティアは興味津々だ。
「この一番大きいのは動きません。なので小さいのを押してこの角度で」
 引っ張ったら解除できた。
「わっ、先生すごい!!」
 同じ要領でもうひとつも解除した。
「うん、何かいい技、思い出せたかも!」
 以前知恵の輪でもガチャガチャしたら、忘れた技を思い出せるかもしれないと言っていた。押したり捻ったり引いたりの、不規則な動かし方で剣技なんて思い出せるのだろうかという疑問もあるが、これで変な自信がついたらしい。
「不規則な動かし方って、先生の剣みたいですね」
「ミティアさん、わかってくれるんですね!?」
 二人だけで異様な盛り上がりをしている。同じような剣技なのだから、話しも合うだろう。二人の明るい表情が眩しい。
 少し離れてキッドとジェフリーが苦笑いしていた。
「この大自然に囲まれた環境なのに楽しそうね……」
「まぁ、息抜きは必要だけどな」
「ほぉら、起きなさい。先に進むわよ?」
 移動開始時間だ。キッドはサキの体を揺すって起こした。
 仮眠をしたサキは眠そうだ。あくびをしながら身形を整え始めた。冷たい川の水で顔を洗っている。
 ジェフリーが警戒を解き、全員揃っているかと確認した。
 寝ぼけ眼で顔を洗いに行ったサキの頭がびしょ濡れだった。それを見たキッドが世話を焼いている。
「ほら、ちゃんとしなさい。前髪びしょびしょじゃないの」
 キッドがタオルでサキの顔を覆う。サキの返事がないところを見ると、まだ眠いようだ。
「キッドはサキの姉貴みたいだな……」
 ジェフリーは些細なことを口にした。だが、キッドは答えずに自身の身支度を整える。

 方角はあっていたが、地図とは地形が違っていた。何年も経っているのだから地形も変わるだろう。
 進むにつれて、地面のぬかるみと霧が増した。虫も増えたが、植物の生い茂り具合が悪化して度々足を止める。どさくさに紛れて昨日のようなお化け植物も出て来たが、明るい環境で撃退するのは、さほど難しくなかった。
「虫除けが効かなくなってきたな……」
 先頭を一人で歩くのがきつくなってきたサインだ。
 ジェフリーが仲間を振り返った。誰か指名しようとするも、陣を崩すのを戸惑った。
 突然『べちゃっ』と、嫌な音がした。剣を持っている手が濡れた。
「冷たっ……」
 ジェフリーが立ち止まる。だが、前方を確認するも、向こう側は見える。
「ジェフ! 下がりなさい!!」
 竜次に言われて下がった。
「な、何だ。今の……」
 うしろを振り返ると、みんなは首が痛くなりそうなほどの角度で上を見ていた。
「あ、あれが出た……」
 竜次が柄に手をかけながら前に出た。
 全長は十メートルか、もう少しあるかもしれない。下は水を吸い上げるせいかほぼ透明、上は泥の塊が見える。この異様な変異体はジェフリーも見覚えがあった。
「やっぱりまだいたのかこいつ……」
「小さいころにこれに遭遇して死ぬ気で逃げましたね!」
 兄弟がこの森で迷って、遭遇したとフィラノスで話していた。
「こ、こんなに大きいと魔法なんて……」
「デカすぎデス……」
 サキが手の内に困った様子で後退る。ローズが彼よりもさらに後退した。彼女はほとんど戦えない。認識したのか、後退している四人に向かって泥を吐き捨てて来た。
 ぼとぼとと吐き捨てた泥を被った草木が、瞬時に蒸気を立てて枯れている。
「はぁ!? な、何よ、この触ったらおしまいみたいなの!!」
 キッドがサキの手を引っ張って二人分回避する。速さだけを見たら、ミティアも回避は難しくないようだ。攻撃を仕掛けて来たのだ。突破しなければ。
「ダイダラボッチさん、消えてもらいますよっ!!」
 竜次は前に切り抜けた。ふわっと髪がなびく。だが何も変化が起きない。
「えっ、今、一閃しましたよ?」
 手応えはあった。確かに切った。刃を見ると、水をかぶったように滴っている。
「兄貴、もしかしてこいつ……」
「ひょっとしなくても、斬れませんねぇ」
「全力で逃げるか? いや、無理だ……」
 逃げるべきなのはわかっていたが、後退したローズとミティアが逃げ遅れてしまう。ここで相手をして倒すしかない。
 ローズが木の陰に隠れてしまった。騒ぎながらうろうろされても守れる保証はない。実はこの行動は誰にも迷惑がかからずに助かる。
「ねぇ、先生の攻撃……効いてないみたいなんだけど、あんた頭いいなら何か策は思い浮かばない?」
 キッドがサキの手を握ったまま小さく話しかけた。
「悪いけど、あんたのこと、結構頼りにしてるのよ?」
 窮地で吐かれたキッドの本音。サキは震えながら思考を巡らせる。
「あんなに大きかったら凍らせてもほとんど削れないし、火で一気に……ううん、この環境と大きさじゃ……」
 ぶつぶつと案を呟いている間に、また攻撃が来た。
「オォォォォォ!!」
 上の泥の部分が口のように開いて、雄叫びが放たれた。あたりが振動する。原理はわからない。耳が痛い、頭も軋むような痛さだ。
 予測できなかった攻撃に加えて、触手のように伸びたものがミティアを弾き飛ばした。
「あぐっ……」
 飛ばされた彼女が、木にぶち当たった。地に崩れ、ぐったりとしている。
「ミティアさんっ!!」
 竜次が耳を押さえながら駆け寄ろうとする。だが、ジェフリーが手を引き、これを止めた。
「よせ、兄貴。今勝手に動いたら……」
「離しなさい!」
 もたついたせいで回避ができなかった。兄弟揃ってミティアを弾いた触手の餌食になった。総崩れを喰らっている。
 地面を抉る強さだ。ジェフリーはすぐに起き上がれたが、竜次は地に伏せている。
 そういえば、竜次は昨日頭を打ったと言っていた。怪我もしていた。休んだが、彼がそんなに打たれ強いとも思えない。
「くそっ……」

 惨状に立ち尽くす。茫然としていたサキに、キッドが手を放して振り返った。
「しっかりしなさい、あんたはこの状況を打開できるはずよ」
「ま、待って、僕一人じゃ何もできない……」
 キッドは右足のスリットに手を伸ばそうとしている。サキはキッドの腕につかみかかった。
「行かないで、姉さ、ん……!!」
 サキ自身でも失言だと自覚していた。それでも彼女を頼りたいという極限から出てしまった。
 キッドの手が止まる。大きく息を吸って振り払った。
 右手がスリットではなく、矢筒に行った。左手では弓を構えている。弓矢を上に構え、頭に向けて放った。
 先ほど雄叫びがしたのも、泥を吐いたのもここだ。
 強い引きだ。勢いよく当たると、今までより激しく動き出した。
「効いてるみたいね」
 キッドがサキから離れた。歩きながら次の狙いを定めてもう一発放った。触手がキッドに襲い掛かったが、キッドの素早さに追いついていない。彼女は囮になっていた。
「サキ君、雷……デス。電気を通してしまえば、あの大きさを保てないかもしれないデス」
 木陰からローズが声を震わせている。戦術アドバイザーと言っていた彼女の導きだ。
「かみ、なり……そうだ!」
「小さくなれば、水を得る前に蒸発させることが可能デス」
 ローズのヒントを聞いて、サキは何かひらめいたようだ。小走りでジェフリーに駆け寄る。
「ジェフリーさんはまだ動けますよね!?」
 息が上がっている。だが、多少騒いでもキッドの囮で安全が確保されてはいる。
「何か考えがあるんだな?」
「僕にできることはこれくらいですが」
 サキが詠唱しながらジェフリーの剣をなぞって頷いた。
「思いっきりお願いします!! バラバラにしてください!」
 そう言ってサキが後退し、左のポーチから大きめの赤い魔石を取り出した。
「わかった、お前を信じる!!」
 ジェフリーが剣を振り上げた。
「いきますよ。思いつきですが、魔法剣です」
 サキの援護だ、何の効果があるのかはわからない。だが、剣が急に軽くなった。振り上げただけなのに、あたりの木々が切り伏せられている。
「な、何だこれ!?」
 剣がぼんやりと光り、長さが伸びている。しかも雷を帯びていた。
 剣を思いっきり振り下ろすと、落雷の音がした。ダイダラボッチの土台がどろりとミルクのように溶け出し、蒸気を上げている。
 泥の部分だけが、イソギンチャクのような小さい角を立てて情けなく地面を這い、行き場を探している。
 剣が大きくなったのも驚いた。雷を帯びたのも驚いた。
 その一振りが雷を招き、感電させた。一気に蒸発させた、くらいの考えでいいだろう。
「ジェフリーさん、下がって!」
 合図で後退すると、サキが赤く大きな魔石を弾いた。
「唸れ炎獄えんごく! インシネレーション!!」
 赤い円が包囲した後、竜巻のように炎が舞った。湿地では火の魔法の効力が乏しくなるが、魔石で強化されている。しゅうしゅうと音を立て、炎が収まったころには焦げ跡がない。強力に見えたが、環境が悪いせいで蒸発させるが限界だったのだろう。
 魔法のせいか、あたたかい空気になり霧が薄くなった。
 サキはぺたんと座り込んだ。
「や……やった……」
 疲労の深い息だ。剣を鞘に収めながらジェフリーが駆け寄る。
「大丈夫か? すごかったけど……」
「僕よりも、先生やミティアさんを……」
 言ってから目で探すも、すぐ脇に竜次が頭を抱えながら立っていた。
「面目ない。私は大丈夫です」
 つらそうな表情をしているが、動く分には問題なさそうだ。
「お前には助けてもらってばかりだな……」
「ローズさんに弱点のアドバイスをもらいました。それができたのは、キッドさんが囮になってくれたおかけです」
 サキは呼吸を整えていた。
ミティアはローズに介抱されていた。ローズは木陰に隠れながら、ミティアに処置を施していたようだ。
 ミティアは笑顔を浮かべていた。大丈夫みたいだ。
「本当に、情けない……」
 竜次はひどく落ち込んでいた。ミティアを守れなかったからだ。
 キッドが落ち着いた中で静かに右腕を眺めていた。『姉さん』と呼ばれたかもしれない。耳に感覚が残っている。
「すごかったじゃないか、大活躍で驚いた」
 声の主はジェフリーだ。キッドは思い耽るのを瞬時にやめた。
「別に……」
「囮になって注意を逸らさせるとは、思いつかないぞ」
 キッドはいちいちむかつくとでも言わんばかりにため息をついた。気が立っていた。
「こんな調子で、この先どうするのよ。あたしは死にに来たわけじゃないわ」
 ストレートな言い方だ。キッドは自身の苦痛を吐き出した。
 撃破したことに喜んでいたジェフリーが、急に険しい表情になった。
「悪い。確かにそうだな……」
 キッドは、ジェフリーが言われて気がつく鈍さに苛立った。そのままさらに言い当たった。
「でも、仲間を置いて逃げるなんて絶対にしたくないし、最低じゃない」
「…………そうだな、それだけはしたくない」
「何とかしてちょうだい。あんたがみんなに的確な指示を出すの!」 
 キッドはさらに大きなため息をついて、ミティアとローズの方へ足を運んだ。ジェフリーはキッドの背中をじっと見ていた。
 彼女の気を遣わない真っすぐな言葉が胸に突き刺さった。目立たないが、キッドは立ち回りがうまい。だから仲間をよく見ている。動ける範囲を把握している。口ではきつく当たることがあっても、本当は仲間思いだ。
 狩猟の経験があるのだから、ほんの一瞬でも判断を誤れば動物に襲われる。個人では強いかもしれないが、あくまでも個人だ。先ほどのように、一人なら気を回せるかもしれないが、集団行動になると難しいのかもしれない。


 突き刺さる言葉……仲間を置いて逃げるなんて絶対にしたくない。これから先、どうしようもない強敵を前にしても、仲間を置いて逃げるなんてあっていいわけがない。
 強くなりたい。ジェフリーは意識を強め、拳を震わせた。

 十年前と、同じ過ちを繰り返さないために……。
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