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最終章~桜~
桜①
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快速電車を待つ人の列は長く、その列の間を縫うように人が行き交っている。いつもなら携帯電話片手に疲労を感じながら電車が来るのを待つ。でも、今は腕に提げたショッピングバッグの中身を思い浮かべることで気分は高揚して身が軽い。買い物に立ち寄ったのは良い選択だった。
ネイビーのリボンが掛けられたダークブラウンの箱にはリボンと同じ色のマフラーが入っている。隙間に差し込まれた“ Merry Christmas ”のカードが大人っぽい。いい感じにラッピングしてもらえた。
――――――せっかくだから、クリスマスプレゼント用意しましょうよ!
昨日莉奈ちゃんが電話で言っていた、タケルにも同じように言ってあるらしい。自分の服を買って、そろそろ帰ろうと駅に向かう途中で目に留まったのがこのマフラーだ。マネキンに近付いて見てみると、素材はウール、ネイビーとそれより少し明るい色がリバーシブルになっていてどの服にも合いそうだし感じが良かった。タケルに似合いそうだと思っていると店員に声を掛けられた。ラッピングにどれくらい掛かるか聞くと5分と言うのでお願いした。
タケルは休みだと言っていた、少しだけ会いに行こうか迷っている。でも、考えてみればこっちからの連絡手段がない。私に連絡するとき用に渡していたテレフォンカードしか持っていないはずだ。服を買ったのは何のためだったか思い出すと気持ちが沈んだ。
家に着いて携帯電話をチェックするとナオさんからの返信があった。今週の土曜に会えないかと聞かれている。夕方なら大丈夫です、そう返事を送った。
3日後、昼間に遥人君からメールが来た。タケルが顔色を悪くしていて仕事を早めに上がったらしい。様子が気になり仕事が終わってから家に荷物を取りに帰りタケルの家に向かった。
ドアが開いた瞬間、タケルは「待ってた」と言った。その表情はどことなく曇りがちだった。
「いきなり来てごめんね、遥人君から体調悪そうって聞いて」
「頭痛がひどくて」
「熱は?」
「測ってない。それ、何?」
「うちにあったタケルの荷物、持ってきたの。あと栄養ドリンクとお粥のレトルト入れといたから」
「ありがとう。夕飯作ってないんだ」
「いいよ、顔だけ見たら帰るつもりだったから。ゆっくり休んでね」
「うん。それじゃ」
あっけなくドアが閉められた。
ハイツの階段を降りて静かな道を歩きながらさっきのことを思い返した。待ってた、と言うわりには冷たいじゃないかと悔しいような気になった。
待ってたってどういう意味だったんだろう?―――――
荷物をこのタイミングで持って行った事を後悔した。邪魔になるから持って行ったなんて思われていたら申し訳ない。急がなくてもよかった。そんな反省をしながら歩いていると携帯電話が鳴った。知らない番号が表示されている。出る事を躊躇していると留守電に切り替わった。完全に切れてから外灯の下で立ち止まり、再生ボタンを押した。
『こちらは留守番電話システムです。1件のメッセージをお預かりしています。――――――
夕夏、さっきはありがとう。これ僕の携帯らしいから登録しておいて。あと、明日の夜、来てほしい……』
タケルの声だ。来てほしい、の後に言っている言葉がはっきりと聞こえなかった。でもそれは” 必ず ”だったと思う。僕の携帯らしいから、なんて変な言い方だ。多分恭也という人のなんだろう。これからはこっちからも連絡ができる。
別々に住むようになってからまだ数日しか経っていないのに、なんだか遠くに感じるようになった。それにしても、留守電をわざわざ入れなくてもさっき会った時に言えば良かったのに。
ネイビーのリボンが掛けられたダークブラウンの箱にはリボンと同じ色のマフラーが入っている。隙間に差し込まれた“ Merry Christmas ”のカードが大人っぽい。いい感じにラッピングしてもらえた。
――――――せっかくだから、クリスマスプレゼント用意しましょうよ!
昨日莉奈ちゃんが電話で言っていた、タケルにも同じように言ってあるらしい。自分の服を買って、そろそろ帰ろうと駅に向かう途中で目に留まったのがこのマフラーだ。マネキンに近付いて見てみると、素材はウール、ネイビーとそれより少し明るい色がリバーシブルになっていてどの服にも合いそうだし感じが良かった。タケルに似合いそうだと思っていると店員に声を掛けられた。ラッピングにどれくらい掛かるか聞くと5分と言うのでお願いした。
タケルは休みだと言っていた、少しだけ会いに行こうか迷っている。でも、考えてみればこっちからの連絡手段がない。私に連絡するとき用に渡していたテレフォンカードしか持っていないはずだ。服を買ったのは何のためだったか思い出すと気持ちが沈んだ。
家に着いて携帯電話をチェックするとナオさんからの返信があった。今週の土曜に会えないかと聞かれている。夕方なら大丈夫です、そう返事を送った。
3日後、昼間に遥人君からメールが来た。タケルが顔色を悪くしていて仕事を早めに上がったらしい。様子が気になり仕事が終わってから家に荷物を取りに帰りタケルの家に向かった。
ドアが開いた瞬間、タケルは「待ってた」と言った。その表情はどことなく曇りがちだった。
「いきなり来てごめんね、遥人君から体調悪そうって聞いて」
「頭痛がひどくて」
「熱は?」
「測ってない。それ、何?」
「うちにあったタケルの荷物、持ってきたの。あと栄養ドリンクとお粥のレトルト入れといたから」
「ありがとう。夕飯作ってないんだ」
「いいよ、顔だけ見たら帰るつもりだったから。ゆっくり休んでね」
「うん。それじゃ」
あっけなくドアが閉められた。
ハイツの階段を降りて静かな道を歩きながらさっきのことを思い返した。待ってた、と言うわりには冷たいじゃないかと悔しいような気になった。
待ってたってどういう意味だったんだろう?―――――
荷物をこのタイミングで持って行った事を後悔した。邪魔になるから持って行ったなんて思われていたら申し訳ない。急がなくてもよかった。そんな反省をしながら歩いていると携帯電話が鳴った。知らない番号が表示されている。出る事を躊躇していると留守電に切り替わった。完全に切れてから外灯の下で立ち止まり、再生ボタンを押した。
『こちらは留守番電話システムです。1件のメッセージをお預かりしています。――――――
夕夏、さっきはありがとう。これ僕の携帯らしいから登録しておいて。あと、明日の夜、来てほしい……』
タケルの声だ。来てほしい、の後に言っている言葉がはっきりと聞こえなかった。でもそれは” 必ず ”だったと思う。僕の携帯らしいから、なんて変な言い方だ。多分恭也という人のなんだろう。これからはこっちからも連絡ができる。
別々に住むようになってからまだ数日しか経っていないのに、なんだか遠くに感じるようになった。それにしても、留守電をわざわざ入れなくてもさっき会った時に言えば良かったのに。
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