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疑惑
疑惑⑯
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「明後日の日曜って空いてますか?」
会社の後輩である道畑智香(みちはた ともか)が聞いてきた。最近誘われる事が多い、俺はこの子が少し苦手だ。
「ごめん、もう予定入れてあるんだ」
「そうなんですか、残念。長谷川先輩に相談したい事があって、一緒にご飯行ってもらえないかなーって思ってたんですけど」
「相談ならいつでもしてもらって構わないよ」
「そうじゃなくて」
道畑は呟くと口を尖らせた。
「あー、ご飯ね。また今度」
「先輩から誘ってください、予定わからないですし」
「わかった」
道畑はまだこっちをみている。
「待ってます」
相談を受ける側なのに何故か追い込まれるような気持ちになる。入社してきたばかりの時は愛嬌があって気の利く子だと思っていたけど、どうも違う。相手によっては態度が違うと同僚から聞いた。どうすれば執拗に迫って来る彼女を避けられるか無意識に考えている時がある。
「あっそうだ。先輩!」
道畑が戻ってくる、周りを確認すると小さな声で言った。
「今度合コンしません?」
合コン、男の連れに誘われて参加する事はあっても女の子からの誘いではまだない。
「あんまり合コン行かないんだよね」
「私は気乗りしないんですけど男の人紹介してほしいって言ってる友達が何人かいて。彼女なしの誰かいませんか?」
いない事はない、むしろOLとの合コンといえば飛びついてくる最適の奴がいる。
「普通に紹介は駄目なの?」
「先輩って彼女いましたっけ?」
質問を回避された。
「いないよ」
「じゃあ合コン参加して下さい、長谷川先輩も入れて4人くらいがいいな」
「聞いとくよ」
「やった。絶対いいって言ってもらえると思ってました」
「はは」
つい乾いた返事になった。
「これ渡しておきますね」
道畑は携帯番号とメールアドレスを書いたメモを渡してきた。メモをポケットに入れた。
いつもより早く仕事を切り上げ車のキーを鞄から取り出しながら駐車上に向かった。普段は電車だけど今日は予定があるから車を出した。携帯電話がメールを受信している、内容を見ると相変わらず女性にしては不愛想な一言だった。
もうすぐ終わるから来て
絵文字などはない。
エンジンを掛けてナビを入力する。待ち合わせ場所はいつも向こうから指定してくる。今日は会社の近くの駅に来るよう言ってきた。
夜景の見える場所に行きたい―――
そういうのは気のある男に言うものだと思うけど、あの人の場合は違う。呼び出されるのは決まってうまくいっていない時だ、でも俺はそれでいいと思っている。今は、という話だ。
指定の駅に到着して座席を後ろに倒した。スーツのままでいるのは少し窮屈だ。格好良く見せたいというつまらない理由から着替えないでいる。バックミラーを見て髪を整えていると窓を叩く音が聞こえた。
助手席のロックを開けるといつもの香りを連れてあの人が入ってきた。
「お疲れ様」
声を掛けると俺の首元を見た。
「スーツなのね」
表情に変化がなく、どう思っているのか分からない。
「今日は着替え持ってきてなかったから」
「わざと?」
「そうじゃないよ。色々考えてたら持ってくるの忘れたんだ」
「ふーん。早く出てくれない?」
「先に飯行こう。あゆみさん、食べたい物ある?」
「別に」
「じゃ俺が決めるね」
駅のロータリーを出て暫く走ると彼女は俯いていた顔を上げて車が行き交うのを眺めた。その虚ろ気な目を見て状況が思わしくない事が分かった。
会社の後輩である道畑智香(みちはた ともか)が聞いてきた。最近誘われる事が多い、俺はこの子が少し苦手だ。
「ごめん、もう予定入れてあるんだ」
「そうなんですか、残念。長谷川先輩に相談したい事があって、一緒にご飯行ってもらえないかなーって思ってたんですけど」
「相談ならいつでもしてもらって構わないよ」
「そうじゃなくて」
道畑は呟くと口を尖らせた。
「あー、ご飯ね。また今度」
「先輩から誘ってください、予定わからないですし」
「わかった」
道畑はまだこっちをみている。
「待ってます」
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「あっそうだ。先輩!」
道畑が戻ってくる、周りを確認すると小さな声で言った。
「今度合コンしません?」
合コン、男の連れに誘われて参加する事はあっても女の子からの誘いではまだない。
「あんまり合コン行かないんだよね」
「私は気乗りしないんですけど男の人紹介してほしいって言ってる友達が何人かいて。彼女なしの誰かいませんか?」
いない事はない、むしろOLとの合コンといえば飛びついてくる最適の奴がいる。
「普通に紹介は駄目なの?」
「先輩って彼女いましたっけ?」
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「いないよ」
「じゃあ合コン参加して下さい、長谷川先輩も入れて4人くらいがいいな」
「聞いとくよ」
「やった。絶対いいって言ってもらえると思ってました」
「はは」
つい乾いた返事になった。
「これ渡しておきますね」
道畑は携帯番号とメールアドレスを書いたメモを渡してきた。メモをポケットに入れた。
いつもより早く仕事を切り上げ車のキーを鞄から取り出しながら駐車上に向かった。普段は電車だけど今日は予定があるから車を出した。携帯電話がメールを受信している、内容を見ると相変わらず女性にしては不愛想な一言だった。
もうすぐ終わるから来て
絵文字などはない。
エンジンを掛けてナビを入力する。待ち合わせ場所はいつも向こうから指定してくる。今日は会社の近くの駅に来るよう言ってきた。
夜景の見える場所に行きたい―――
そういうのは気のある男に言うものだと思うけど、あの人の場合は違う。呼び出されるのは決まってうまくいっていない時だ、でも俺はそれでいいと思っている。今は、という話だ。
指定の駅に到着して座席を後ろに倒した。スーツのままでいるのは少し窮屈だ。格好良く見せたいというつまらない理由から着替えないでいる。バックミラーを見て髪を整えていると窓を叩く音が聞こえた。
助手席のロックを開けるといつもの香りを連れてあの人が入ってきた。
「お疲れ様」
声を掛けると俺の首元を見た。
「スーツなのね」
表情に変化がなく、どう思っているのか分からない。
「今日は着替え持ってきてなかったから」
「わざと?」
「そうじゃないよ。色々考えてたら持ってくるの忘れたんだ」
「ふーん。早く出てくれない?」
「先に飯行こう。あゆみさん、食べたい物ある?」
「別に」
「じゃ俺が決めるね」
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