花びらは掌に宿る

小夏 つきひ

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封筒

封筒23

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「へえー、ゆっかちゃん食品会社の事務してるんだ」
「はい、でも事務なんて地味ですよね。職場の先輩は嫌味言うし」
「そっか。どこの職場にもいるもんだね、そういう人」
「そうなんですよ。あっ、あの肉ロール美味しそうじゃないですか?」
「うわ~うまそう。それにしよう」
食事をしてから花火を見に行く予定だったのに近くはどこの店も満席で1時間以上待たなければならないと言われ花火を見る川辺の屋台で買って食べることにした。そうこうしているうちにあっという間に空は暗くなった。車を止める場所を探すだけで40分も掛かった。人混みを抜けながらやっと辿り着いた屋台の列はオレンジ色合いの光に包まれて異空間を作り出している、誰かを思い出す程に懐かしく感じた。
「ゆっかちゃんって親しみやすいね。可愛いのに飾り気ないし」
たこ煎餅を思い切りかじったところで言うので少し恥ずかしくなった。
「私、男の幼馴染がいてその影響かと」
「幼馴染か、いいね。その子とは今も仲いいの?」
「こっちに来てから会ってないです」
「そうなんだ。お盆は地元に帰る予定?」
「多分帰りません、次は年末かな。はせが・・ナオさんは一人暮らしなんですか?」
「うん、実家は近いんだけどさ」
突然軽快な音が空へ登り、上を向くと既に花火が咲いていた。喜ぶ声があちこちから聞こえてくる。
「あっちで見よう」
屋台で買った物を両手に持ち川辺に向かって歩いた。


花火が上がるスピードは徐々に増していき、観客はそれに伴って熱を上げた。こんなふうにゆっくりと花火を見たのは中学の時、隆平と2人だけで地元の花火大会に行った時以来だ。私は人混みが苦手でTシャツにジーンズで待ち合わせをした。隆平は擦れ違う女の子たちが浴衣を着ているのを見て“浴衣っていいよな”と言った。勿論悪気はなかったと思う。小学校低学年頃までは浴衣を着て花絵と3人で地元の祭りに出掛けるのが恒例だった。ある年私が坂道で酷い転び方をして浴衣に大きな穴を開けてしまった。翌年からは浴衣ではなく普段着にした。私に合わせて花絵が浴衣を着なくなったのはそれからだ。
「ゆっかちゃん」
ナオさんが久しぶりに口を開いた。
「なんですか?」
「花火、付き合ってくれてありがとう」
「私こそありがとうございます」
確か、花火を見たいと先に言い出したのは私だったと思う。
夜空を再び見上げたナオさんの横顔を盗み見るようにして考えを巡らせていた。私と同様に憂鬱な何かを抱えているように感じる。花火は来年も打ち上げられる、その時私の生活は何か変わっているだろうか。未来は自分で決めるものというけれど、私には手に入れたい未来というものがない。今、花火の後ろに浮かんでいる澱んだ雲のように、ぽっかりと宙に浮いたままいつも朝を迎える。
更に勢いを増した花火を見て隣のおじさんが呟いた。
「もうすぐフィナーレだな」


胸に響く大きな音が幾重も弾けて夏の夜を華やかに締め括った。静まり返ったのも束の間、もう花火が打ち上がることはないと分かった人達はざわめきと共に一斉に解散し始めた。
「帰ろうか。近くまで送ってくよ」
「いいんですか」
立ち上がって足元がふらついた私の腕をナオさんが掴んだ。
「大丈夫?」
「ありがとうございます」
引っ張られた腕に力を入れてバランスを取った。駐車場までの道のりが遠く感じる、人の歩く方向が十字に入り混じってなかなか思うように進めない。
「これじゃ車もかなり渋滞してるだろうな」
「すごい人の数ですね」
「ゆっかちゃん、車は置いといて駅まで見送るから電車で帰った方がいいよ」
「そうします、すみません」
交通整備の笛と誘導する声が響くなか信号が青に変わるのを待った。

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