花びらは掌に宿る

小夏 つきひ

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封筒

封筒22

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長谷川先輩は笑顔で手を振っている。
「どうしてここにいるんですか?」
「人と待ち合わせしてたんだ。ゆっかちゃんこそ、仕事帰り?」
「はい。そこのコンビニに傘忘れちゃって取りに戻ったとこです」
「そうなんだ。取っておいでよ」
取っておいで?
「約束してた人が今日来れなくなってさ、よかったら今からちょっと話さない?無理にとは言わないけど」
明日は休みだ。でも行ったら智香がきっと怒るだろう。
「あ、中田には言わないから安心して」
心配を読まれた、長谷川先輩は智香が好意を寄せているのを知っているのかもしれない。しかしあの合コンの日といい、あんなに積極的なら気付かないほうが鈍いか・・・
「遅い時間にならなかったら」
「よっし、じゃあ傘取ってきて車乗って」
「はい」


「しばらく降ってたけど、晴れたね」
長谷川先輩は車をすぐには出さず音楽を選び始めた。目の前を浴衣姿のカップルが通り過ぎていく。
「今日花火大会ですよね?雨止んで嬉しいだろうな」
「花火、見に行く?」
長谷川先輩と花火大会、智香が聞いたら発狂する。
「花火は彼氏と行きたいか。ごめん」
長谷川先輩は笑いながらエンジンを掛けた。
「彼氏いたら合コン行ってません」
「そうだった」
「花火、見に行きたかったんです。職場の先輩を誘ったんですけど都合がつかなかったみたいで」
そう言ってみて、励ますつもりで安西さんを誘ったけど本当は自分が花火に慰められたい気持ちだったのかもしれないと思った。
「そうなんだ。偶然、俺も花火見たかったんだよね・・」
長谷川先輩はカーナビの画面を見つめている。どこか寂しそうな横顔だ。誰と待ち合わせをしていたんだろう。
と言ってもあの日の合コンのメンバー以外に長谷川先輩の交友関係について何も知らない。誰と言われてもきっと広がらない話だ。
「そういえばゆっかちゃんはまだご飯食べてないよね?」
「まだです、長谷川先輩はもうご飯食べたんですか?」
「え、先輩?」
今のは変だった、確かに私の先輩ではない。
「ごめんなさい、智香がそう呼んでたから。なんて呼べばいいですか」
「うーん、ナオトでもナオでも」
「じゃあナオさんって呼びます」
何言ってんだろう。
「どうぞ。俺もまだ食べてないから先にご飯行こうか」
「はい」
結局遅い帰りになるなと思った。
ハンドルを切って車はロータリーを抜け出した。傘の柄が足元で邪魔になっている。
「後ろの席に置いていいよ」
「あ、はい」
シートに捕まりながら後部座席の隅に傘を立て掛けた。座席の上にカメラが乗っている、少し高そうな物だ。
「写真が趣味なんですか?」
「ああ、カメラね。時々撮ったりしてる」
「何を撮るんですか?」
「景色が多いかな。レジャー派だから」
「それで日焼けしてるんですね」
長谷川先輩は自分の腕を見て笑ってみせた。
「どんなの撮ってるか見てみたいです、後で写真見せてもらえないですか?」
「今は充電がないからまた今度見せるよ」
「楽しみにしてます」
車は夏っぽいアップテンポのBGMに包まれて国道を走り出した。花火を見られる事に胸を躍らせて過ぎていく景色を眺めた。長野に来てからやっと楽しい事に出会った気がした。さっきの雨のせいか、夕陽はいつもより綺麗に色濃く見えた。

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