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封筒
封筒⑦
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改札前のコンビニで傘を買った。レジで会計をするとき外側のビニールを外した方がいいか聞かれたので外してもらった。待っている間、私は一体何をしているんだろうと自分に呆れた。他人の話に触発されて突然こんな行動に出るなんてどうかしてる。だけど今日、遅れた電車をこの駅で待つことになったのも、女子高生が話がこれまで胸の中でくすぶっていたものとリンクしたのも何か意味がある気がして足を進めた。
随分前に見た景色はとても懐かしく、それと同時に滲み出す感情が脈の速度を上げている。いよいよ神社の階段の前に着くと一瞬、あの日私に告白をしてきた同級生の高橋を思い出した。もしも高橋が来るというアクシデントがなければ、花絵は計画通りに立ち去り私は隆平に想いを伝えていた。そしたらどんな返事を聞けたんだろう?いや、隆平が花絵を好きだった事実は変わらない訳だから振られてたのか。それでも隆平が花絵に告白していた事を知らずに済んでいたらあんなに傷つく事にはならなかった。神社の階段を登るごとに色濃く蘇る感情。忘れたいのに忘れられない、つまらない嫉妬だって事もわかっている。でも、どうして未だに振り切ることができないんだろう………
階段を登り切ろうとした瞬間、地割れのような大きな雷鳴が耳を突き刺して私は思わずその場にしゃがみこんだ。
鼓膜に残った余韻で雨の音が小さくなる。落雷があったのかと思う程の音だった。体をそっと伸ばして辺りを見渡した。境内には誰もいない。しばらく傘を打つ雨の音を聞きながら立ち尽くした、景色は以前よりもずっと寂しげに見える。この場所がいつまでも心の中から消えず、何年も私を苦しめている。あの女子高生が言っていた泣けてくるっていう効果は期待できないみたいだ。あれから私は2人をずっと避け続けてきた。拝殿裏を1周したら駅へ戻ろう、そしてもうここへは来ないと決めた。
砂利道を歩いていると辺りから土の匂いがした。あの時の看板が目に入り、その看板の裏に隠れて隆平の話を盗み聞きしていた私のちっぽけな姿を思い出した。隆平も隆平だ、高橋に呼び止められていたとは言え、すぐに私が来ることがわかっているのに花絵とあんな話をするなんて……
結局、思い出の場所に向き合ったところでプラスの効果は得られなかった。あの頃何も知らずに意気込んでいた自分がますます馬鹿みたいで、花絵と隆平に対する劣等感を募らせるだけだった。帰ったら温かいお風呂に入ってゆっくり休もう。そんな事を考えながら池の前を通り過ぎると大きな結び桜の木が目に留まった。
人が倒れている――――――
近付いて、横たわるその人の顔を覗いた。若い男の人だ。白いシャツを着てインディゴブルーのジーンズを穿いている。
「大丈夫ですか」
反応はない。触るには少し勇気がいるし、こういう場合は救急車を呼ぶのか、助けを求めるのが先なのか…… ためらっているうちに彼の目は開いた。
突然の事に何も言えず固まっていると、仰向けになって木を見つめた。それから視線は私に向けられ、彼は言った。
「誰ですか」
誰っていうのはこちらが訊きたいことだ。
「通りかかっただけなんですけど」
「…………」
意識が戻ったのならきっともう大丈夫なんだろう。
「私、ここもう降りますけど、大丈夫なんですよね?」
黙ったまま見つめられ、不審に思えてきた。返事をしない事に痺れを切らして立ち去ることにした。
「待って」
呟くような小さな声で私を呼び止める。振り返ると彼はゆっくりと体を起こし朦朧とした様子で辺りを見た。万が一この人に何かあったら困る、そう思って念のため聞いてみた。
「どこか痛みますか?」
「痛む…?」
彼は考えるように黙った後、首を振った。よく見ると綺麗な顔立ちをしている。
「僕は誰なんですか」
その言葉を聞いて私は凍り付いた、とんでもなくやっかいな事に巻き込まれたのかもしれない。ここで何をしていて、どうしてそんな事を言うのか、疑問がありすぎる。
随分前に見た景色はとても懐かしく、それと同時に滲み出す感情が脈の速度を上げている。いよいよ神社の階段の前に着くと一瞬、あの日私に告白をしてきた同級生の高橋を思い出した。もしも高橋が来るというアクシデントがなければ、花絵は計画通りに立ち去り私は隆平に想いを伝えていた。そしたらどんな返事を聞けたんだろう?いや、隆平が花絵を好きだった事実は変わらない訳だから振られてたのか。それでも隆平が花絵に告白していた事を知らずに済んでいたらあんなに傷つく事にはならなかった。神社の階段を登るごとに色濃く蘇る感情。忘れたいのに忘れられない、つまらない嫉妬だって事もわかっている。でも、どうして未だに振り切ることができないんだろう………
階段を登り切ろうとした瞬間、地割れのような大きな雷鳴が耳を突き刺して私は思わずその場にしゃがみこんだ。
鼓膜に残った余韻で雨の音が小さくなる。落雷があったのかと思う程の音だった。体をそっと伸ばして辺りを見渡した。境内には誰もいない。しばらく傘を打つ雨の音を聞きながら立ち尽くした、景色は以前よりもずっと寂しげに見える。この場所がいつまでも心の中から消えず、何年も私を苦しめている。あの女子高生が言っていた泣けてくるっていう効果は期待できないみたいだ。あれから私は2人をずっと避け続けてきた。拝殿裏を1周したら駅へ戻ろう、そしてもうここへは来ないと決めた。
砂利道を歩いていると辺りから土の匂いがした。あの時の看板が目に入り、その看板の裏に隠れて隆平の話を盗み聞きしていた私のちっぽけな姿を思い出した。隆平も隆平だ、高橋に呼び止められていたとは言え、すぐに私が来ることがわかっているのに花絵とあんな話をするなんて……
結局、思い出の場所に向き合ったところでプラスの効果は得られなかった。あの頃何も知らずに意気込んでいた自分がますます馬鹿みたいで、花絵と隆平に対する劣等感を募らせるだけだった。帰ったら温かいお風呂に入ってゆっくり休もう。そんな事を考えながら池の前を通り過ぎると大きな結び桜の木が目に留まった。
人が倒れている――――――
近付いて、横たわるその人の顔を覗いた。若い男の人だ。白いシャツを着てインディゴブルーのジーンズを穿いている。
「大丈夫ですか」
反応はない。触るには少し勇気がいるし、こういう場合は救急車を呼ぶのか、助けを求めるのが先なのか…… ためらっているうちに彼の目は開いた。
突然の事に何も言えず固まっていると、仰向けになって木を見つめた。それから視線は私に向けられ、彼は言った。
「誰ですか」
誰っていうのはこちらが訊きたいことだ。
「通りかかっただけなんですけど」
「…………」
意識が戻ったのならきっともう大丈夫なんだろう。
「私、ここもう降りますけど、大丈夫なんですよね?」
黙ったまま見つめられ、不審に思えてきた。返事をしない事に痺れを切らして立ち去ることにした。
「待って」
呟くような小さな声で私を呼び止める。振り返ると彼はゆっくりと体を起こし朦朧とした様子で辺りを見た。万が一この人に何かあったら困る、そう思って念のため聞いてみた。
「どこか痛みますか?」
「痛む…?」
彼は考えるように黙った後、首を振った。よく見ると綺麗な顔立ちをしている。
「僕は誰なんですか」
その言葉を聞いて私は凍り付いた、とんでもなくやっかいな事に巻き込まれたのかもしれない。ここで何をしていて、どうしてそんな事を言うのか、疑問がありすぎる。
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