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最終章 ~ 掌 ~

掌⑭

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「すいません、5分くらいで済みます」
「うん」
「夕夏ちゃんの事なんですけど」
外をもう一度確認してから話した。
「蓮と夕夏ちゃんって、あの病院で初めて会ったんですよね?」
「そうだけど、それはお前も知ってるだろ?」
「でも、なんかそれよりも前から知り合いだったんじゃないかなって思って」
「どういうことだ?」
「例えば、本当は知り合いなのに初めて会った振りしてたとか」
「そんな訳ないだろ。仮にそうだとして何のメリットがあるんだ?」
柳瀬さんは笑っている。
「まぁ、そうなんですけど…」
「でも気になることはあったな」
「気になること?」
「一度病院で偶然橋詰さんと会ったことがあるんだ。それで後日会社で会ったときに色々聞かれて」
「どんなこと聞かれたんですか?」
「んー、蓮が数年ぶりに意識が戻った時に行ったんだけど、やたら詳しく知りたがってたな。倒れた時期とか場所とか」
「理由は言ってなかったですか?」
「そうだな。だから気になってはいたんだけど、結局そのまま忘れてた。あ、あと名前もだ。前は違う名前だったのかって。何て名前だったかな」
「…なんでそんなこと聞いたんですかね」
「さぁ、なんでだろうな」
柳瀬さんは首を傾げた。
「引き止めてすいませんでした。戻らないといけないんですよね」
「ああ、そうだな。じゃ、また今度」
「ありがとうございました」
柳瀬さんは車を降りて歩いていった。
20分ほど待つと夕夏ちゃんが会社から出てきた。まずは花屋に向かった。フラワーアレンジを注文して出来上がるまで車の中で待った。夕夏ちゃんに、柳瀬さんからさっき俺と会ったことを聞いたと言われた。探ってることがバレるとまずいと思った。それでデートにオススメの場所を教えてもらってたと説明した。俺は思わず「あ、」と声を出した。デートと言ってしまったからだ。
夕夏ちゃんは黙った。俺はこんなタイミングで気持ちを知られてしまうのか?
ドキドキしながら次の言葉を待った。すると夕夏ちゃんは「そういう子がいたんだね」と返してきた。
俺はその言葉の裏を読んだりした、けど、表情からして自分の事だとは1ミリも思ってなさそうだ。ほっとしたような、残念なような感情が混ざり合った。
いっそのこと来月のデートで告白するか?……いや、今はまだ自信がない。
時間が経って夕夏ちゃんはフラワーアレンジを取りに行った。その間、どうして柳瀬さんにあんなことを聞いてしまったんだろうと思った。もうこれからのことしか考えないって決めたんだ。俺は夕夏ちゃんとの時間を思いっきり楽しむんだ。

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