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追憶
追憶29
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恭也さんは口を開けて苦しそうに俯いている。
「遥人君、車止めて!!」
「えっ… はい!」
車は止まった。
「恭也さんが苦しそうなの、どうしよう」
肩で大きく息をしている恭也さんの額には脂汗が滲んでいる。
「救急車呼びますか?」
「お願い」
恭也さんの動きが止まった。意識を失ってしまった体を私は慌てて引き寄せた。
「恭也さん、意識がないよ…」
遥人君は電話の向こうに状況を説明してくれた。いくつか受け答えをしたあと場所を伝えて電話を切った。
「タケルさんのとこ戻りましょう、仰向けに寝かした方がいいみたいです。救急車はそこに来てくれます」
「うん…」
車はUターンをして走り出した。急ぐ車の揺れに耐えながら恭也さんの背中を擦った。シャツにも汗が滲んでいる。まだ出発して間もなかったため数分で建物のところに戻ることができた。
「タケルさん電話出ないです。あたし探してきます」
「ありがとう莉奈ちゃん」
遥人君が車を停めるとすぐ莉奈ちゃんは建物に入っていった。
「中にマットなんかないよね…」
「トランクに断熱シートならありますよ!まあまあ厚みあります」
「じゃあそれ敷こう」
「はい!」
遥人君は車を降りてトランクの方へ回った。車のドアを開けて待っていると莉奈ちゃんが建物から飛びだしてきてこっちに叫んだ。
「夕夏さん!タケルさん、タケルさん倒れてます!!」
「え?」
※
手術室に入っていく寝台を見送った後、私達はその場に立ち尽くした。廊下の静けさが抑えていた動揺を露にした。
「恭也さん、ごめんなさい… あたしのせいで…」
莉奈ちゃんはしゃがみ込み手で顔を覆った。泣くのを堪えようとしている背中を見ていたたまれなくなった。
「莉奈ちゃん、あんまり自分を責めないで」
「違うんです、あたしが余計なことばっかり言ってたから」
「余計なこと?」
「…脚立に座って待ってたとき、恭也さんに聞いたんです。2階から下りるときにノートを開いてるのが見えて、綺麗な絵があったから誰が描いたのか知りたくて」
「恭也さん、なんて言ってた?」
「…彼女が描いたって。だから私興奮して色々聞こうとしたら、彼女はもう…亡くなったって…」
莉奈ちゃんはボロボロと溢れる涙を手で拭った。
「行きの車の中で言ってた事とか思い出したら申し訳なくて…」
「それで急に立ち上がったの?」
「…はい」
莉奈ちゃんの顔色が悪かったのはこの事だったのかとやり取りを振り返った。遥人君は黙ったまま床を見つめている。
自動ドアが開く音がして目をやると捷さんが息を切らして入ってきた。
「遥人君、車止めて!!」
「えっ… はい!」
車は止まった。
「恭也さんが苦しそうなの、どうしよう」
肩で大きく息をしている恭也さんの額には脂汗が滲んでいる。
「救急車呼びますか?」
「お願い」
恭也さんの動きが止まった。意識を失ってしまった体を私は慌てて引き寄せた。
「恭也さん、意識がないよ…」
遥人君は電話の向こうに状況を説明してくれた。いくつか受け答えをしたあと場所を伝えて電話を切った。
「タケルさんのとこ戻りましょう、仰向けに寝かした方がいいみたいです。救急車はそこに来てくれます」
「うん…」
車はUターンをして走り出した。急ぐ車の揺れに耐えながら恭也さんの背中を擦った。シャツにも汗が滲んでいる。まだ出発して間もなかったため数分で建物のところに戻ることができた。
「タケルさん電話出ないです。あたし探してきます」
「ありがとう莉奈ちゃん」
遥人君が車を停めるとすぐ莉奈ちゃんは建物に入っていった。
「中にマットなんかないよね…」
「トランクに断熱シートならありますよ!まあまあ厚みあります」
「じゃあそれ敷こう」
「はい!」
遥人君は車を降りてトランクの方へ回った。車のドアを開けて待っていると莉奈ちゃんが建物から飛びだしてきてこっちに叫んだ。
「夕夏さん!タケルさん、タケルさん倒れてます!!」
「え?」
※
手術室に入っていく寝台を見送った後、私達はその場に立ち尽くした。廊下の静けさが抑えていた動揺を露にした。
「恭也さん、ごめんなさい… あたしのせいで…」
莉奈ちゃんはしゃがみ込み手で顔を覆った。泣くのを堪えようとしている背中を見ていたたまれなくなった。
「莉奈ちゃん、あんまり自分を責めないで」
「違うんです、あたしが余計なことばっかり言ってたから」
「余計なこと?」
「…脚立に座って待ってたとき、恭也さんに聞いたんです。2階から下りるときにノートを開いてるのが見えて、綺麗な絵があったから誰が描いたのか知りたくて」
「恭也さん、なんて言ってた?」
「…彼女が描いたって。だから私興奮して色々聞こうとしたら、彼女はもう…亡くなったって…」
莉奈ちゃんはボロボロと溢れる涙を手で拭った。
「行きの車の中で言ってた事とか思い出したら申し訳なくて…」
「それで急に立ち上がったの?」
「…はい」
莉奈ちゃんの顔色が悪かったのはこの事だったのかとやり取りを振り返った。遥人君は黙ったまま床を見つめている。
自動ドアが開く音がして目をやると捷さんが息を切らして入ってきた。
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