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追憶

追憶⑲

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建物の中に入ると想像していたよりもすごい内装になっていた。床には一面ブルーシートが敷かれているものの、壁には外と同じように長い木の板が打ち付けられていてログハウスの雰囲気があり、元は仕切られていたであろう部屋は戸がすべて外されて繋がっている。
「まだちゃんとしたテーブルとかないからくつろげないと思うけど」
タケルはそう言ってクーラーボックスから飲み物を取り出して小さな木の台に置いた。
「これ、よかったら飲んで」
「ありがとうございます!すごーい、これタケルさんがやったんですか?」
莉奈ちゃんは興奮して聞いた。
「僕がやったのは途中からだよ。恭也がベースを作ってくれてた」
「へえー!すごい。見て遥人、階段がついてる!」
「うわ、まじですげえ。こんなの素人でできるなんてまじですげえ!」
恭也さんは車椅子をゆっくりと漕ぎながら部屋の奥へ進んだ。私とタケルは恭也さんに付いて歩いた。ひととおり見終わると大きな窓の前で恭也さんは車椅子を止めた。
「タケル、こんなことできるなんてどうやって勉強したの?」
「恭也が計画を立ててノートに書いてくれてたんだ。それを見て、わからないことはネットで調べながらやってる」
「すごい」
「2階はキッチンになる予定でまだここほど綺麗にできてないんだけど」
「キッチン?」
タケルは恭也さんを見た。恭也さんは車椅子の角度を少し変えてこっちを向いた。
「…ここを、カフェにしようと思ってたんだ」
恭也さんはまだ寂しさの残った表情で言った。
「カフェですか!?すごい、素敵ですね」
タケルは恭也さんを心配そうな目で見ている。カフェにするというのも真由那さんと決めたことなのかもしれない。
恭也さんはタケルの目を見ると言った。
「君が長野にいると聞いた時、まさかと思った。それもこんなに進んでるなんて…ありがとう」
「いいんだ。完成まで必ずやる。でも、その前に僕と恭也が別々に存在していて、同じ姿をしてる理由を知りたい」
「今日は、それについて話しにきた」
足音がして振り向くと遥人君と莉奈ちゃんが立っていた。
「すいません、夕夏さん、私達も入っていいですか?」
「うん、大丈夫だよ」
「ありがとうございます」
恭也さんは話を続けた。
「青谷 蓮、それが君の本当の名前だ」
「それは誰?」
「今から説明することはとても複雑で信じ難い内容だけど、一度すべてを聞いてほしい」
「わかった」
「君は自分の存在を俺のもうひとつの人格だと思っている。でも、それは違う。いま話をしているこの体は青谷 蓮という人物のものなんだ」
「わからない。恭也が青谷 蓮ってこと?」
「よく考えてみてほしい。俺がどうして君と同時に意識があって体が別々なのか。青谷 蓮と俺は中身が入れ替わってるんだ」
タケルの顔は困惑の色に変わりつつある。
「そんなことある訳ない、まるでドラマじゃないか。僕は青谷 蓮なんて知らない」
「どうして入れ替わったのかは一旦置いておこう。2年前、君は突然神社で目覚めた。その体は俺のものだったけど意識が入れ替わったんだ。目覚めたとき君は青谷 蓮の記憶をすべて失くしてしまっていた」
恭也さんはタケルが考える時間を与えるようにして少しの間説明を止めた。タケルは2年前のあの日を思い出そうとしているのか床を見つめたままでいる。
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