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2人
2人⑧
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食事会は楽しかった。蓮のお兄さんにも初めて会えた。宮園さんの前ではその話題を出さないようにしている、蓮や理久君のことを知ったら変な誤解をされそうだからだ。でも、会社であってもその話をしたい理由が今日はある。
柳瀬さんの様子がおかしい。いつもなら給湯室で会えば気さくに話しかけてくれる、それなのにここ最近は「お疲れさま」と言うだけで気の抜けたような感じでいる。そして、ほぼ毎日来ていた蓮からのメッセージが途絶えた。なんとなくあの食事会が関係しているように思えて宮園さんがいないタイミングを見計らった。
退勤時間になり宮園さんはデートだと言って早々と会社を出た。柳瀬さんのアポが3時半で最終なのをボードでチェックして、帰ってくるのを待つことにした。でも、山下さんの視線は避けたくて近くのファミレスに入り柳瀬さんにはメッセージを送った。5時半を過ぎた頃、柳瀬さんからメッセージが入った。
話さないといけないと思ってた。もうすぐ会社に着くからあと少し待ってて。
思った通り、やっぱり何かあるんだ。それから数十分後に柳瀬さんは来た。
「ごめん、だいぶ待たせたね」
「いえ、話が聞きたかったので」
柳瀬さんは眉を下げた。あまりに悲しそうな顔が心配になる。
「お腹空いてない?ここは出すから好きなの頼んで」
「大丈夫です、気にせず柳瀬さんは食べてください」
「ありがとう」
店員を呼ぶと柳瀬さんはコーヒーだけを頼んだ。すぐには話し始めず手に持ったメニュー表を眺めている。何かを考えているようにも見えた。
「橋詰さんに聞きたいことがあって」
「はい」
「うちでご飯食べたとき蓮と手話してただろ?あのとき何か言ってなかった?」
「何かって、たとえば」
「……たとえば、気になるようなこと。疲れたとか、つまらないとか」
予想していなかった言葉だった。
「全然そんなこと言ってなかったですよ。楽しそうでした」
「そっか。あれから連絡とってる?」
「とってないんです。急に途絶えちゃって」
「橋詰さん」
柳瀬さんはメニュー表を閉じるとそれを端に置いて深刻な面持ちで言った。
「蓮が、非常階段から飛び降りようとした」
何を言われているのか理解できない。
「看護師が見つけて止めたから軽いケガで済んだらしいんだけど、ちょっと遅かったら取返しがつかなかった」
「…蓮がですか?」
「そう、蓮が」
「そんなはずないです、だって、あの時本当に楽しそうに笑ってたし、退院したらどこか行こうって言ってたんです」
「俺たちも、どうしてこんなことになったのかわからないんだ。捷が話しかけても無反応で、ボードを指そうともしない」
「どうして……」
2人で黙り込んだ。蓮の笑った顔を思い浮かべる、あの笑顔に隠された心の闇がどれほど深いものだったのか、私はもっと重く考えなければいけなかったみたいだ。
柳瀬さんの様子がおかしい。いつもなら給湯室で会えば気さくに話しかけてくれる、それなのにここ最近は「お疲れさま」と言うだけで気の抜けたような感じでいる。そして、ほぼ毎日来ていた蓮からのメッセージが途絶えた。なんとなくあの食事会が関係しているように思えて宮園さんがいないタイミングを見計らった。
退勤時間になり宮園さんはデートだと言って早々と会社を出た。柳瀬さんのアポが3時半で最終なのをボードでチェックして、帰ってくるのを待つことにした。でも、山下さんの視線は避けたくて近くのファミレスに入り柳瀬さんにはメッセージを送った。5時半を過ぎた頃、柳瀬さんからメッセージが入った。
話さないといけないと思ってた。もうすぐ会社に着くからあと少し待ってて。
思った通り、やっぱり何かあるんだ。それから数十分後に柳瀬さんは来た。
「ごめん、だいぶ待たせたね」
「いえ、話が聞きたかったので」
柳瀬さんは眉を下げた。あまりに悲しそうな顔が心配になる。
「お腹空いてない?ここは出すから好きなの頼んで」
「大丈夫です、気にせず柳瀬さんは食べてください」
「ありがとう」
店員を呼ぶと柳瀬さんはコーヒーだけを頼んだ。すぐには話し始めず手に持ったメニュー表を眺めている。何かを考えているようにも見えた。
「橋詰さんに聞きたいことがあって」
「はい」
「うちでご飯食べたとき蓮と手話してただろ?あのとき何か言ってなかった?」
「何かって、たとえば」
「……たとえば、気になるようなこと。疲れたとか、つまらないとか」
予想していなかった言葉だった。
「全然そんなこと言ってなかったですよ。楽しそうでした」
「そっか。あれから連絡とってる?」
「とってないんです。急に途絶えちゃって」
「橋詰さん」
柳瀬さんはメニュー表を閉じるとそれを端に置いて深刻な面持ちで言った。
「蓮が、非常階段から飛び降りようとした」
何を言われているのか理解できない。
「看護師が見つけて止めたから軽いケガで済んだらしいんだけど、ちょっと遅かったら取返しがつかなかった」
「…蓮がですか?」
「そう、蓮が」
「そんなはずないです、だって、あの時本当に楽しそうに笑ってたし、退院したらどこか行こうって言ってたんです」
「俺たちも、どうしてこんなことになったのかわからないんだ。捷が話しかけても無反応で、ボードを指そうともしない」
「どうして……」
2人で黙り込んだ。蓮の笑った顔を思い浮かべる、あの笑顔に隠された心の闇がどれほど深いものだったのか、私はもっと重く考えなければいけなかったみたいだ。
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