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出会い
出会い⑩
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「タケル・・?」
あまりに酷似しているその顔から目が離せない。
2人は部屋に入らずまっすぐこっちに来る。足が硬直して動けない。
「あら、青谷さん。髪切ったら別人みたいね」
いつのまにか看護師が充電器を手にして戻っていた。
「横になる前に売店行くことにしました、すいません」
本人は全く喋らない。私がずっと見ていたからか、彼は目を晒している。車椅子は押されてエレベーターへ向かう。
「充電器はこれで合ってますか?」
看護師が私を見る。
「はい、ありがとうございます」
充電器を受け取って私はエレベーターへ急いだ。まだ2人はエレベーター前にいる。横目で彼を見る。懐かしい名前が浮かんだ。
倉前くらまえ 恭也きょうやーーー
あの人には妹がいたけど、他に兄弟はいないはずだ。こんなにも同じ顔をしていて別人・・・?
頭が混乱する。青谷あおたに 蓮れん、この人の事を知りたい。
「美蘭みらんちゃーん、こっちだよー」
宮園さんはすっかり馴染んで柳瀬さんの愛娘みらんちゃんをあやしている。
「安西さん手伝います」
デザートを用意してあると言って冷蔵庫からケーキを取り出した安西さんの横についた。
「ありがとう。じゃあコーヒー入れてもらっていいかな?ドリップ出来てるから」
「分かりました」
宮園さんが美蘭ちゃんを抱きかかえて様子を見に来た。
「先輩、奥さんのこと旧姓で呼んでるんですか?」
私と安西さんは目を合わせて笑った。
「うん。沙織さんって呼ぶと違和感あって」
「橋詰さんはね、先輩後輩の関係が好きだから安西さんって呼びたいんだって」
「えー、なんかうらやましいな」
焼肉の鉄板を片付けながら柳瀬さんが言った。
「宮園さんと橋詰さんも仲いいよね」
「はい!先輩って話しやすいしなんか居心地いいんです。私は好きですよ、先輩っ」
褒め言葉なんて初めて聞いたから気恥ずかしくなった。
「ありがと」
「あれ?先輩は私の事好きって言わないんですか?」
「・・・言わない」
からかうと安西さんが笑った。
「先輩ひどい~」
ケーキを食べながら宮園さんは柳瀬さんに馴れ初めについて問い始めた。興奮気味に聞き入るのを見ながら、私は3年前の事故を思い出していた。
横山さんの悪質なイタズラによって鬱状態になった安西さんが柳瀬さんの車から降りた私を見て誤解し、他の車に跳ねられそうになった。安西さんを庇って車と接触した柳瀬さんは一時重傷を負った。今こうして2人がみらんちゃんと共に幸せな生活を送っている事が心から嬉しい。
突然美蘭ちゃんが大声で泣き出した。
「あー、ミルクかな」
安西さんは美蘭ちゃんを抱えたまま立ち上がり、台所でミルクの缶を取り出した。哺乳瓶にミルクの粉を入れるのが片手で大変そうだ。
「俺が抱っこするよ」
柳瀬さんが立ち上がったその時、美蘭ちゃんが振り回した手に当たったミルク缶が勢いよく床に落ちた。
「あ!」
粉は派手に広がりほとんど溢れてしまった。美蘭ちゃんは驚いてより一層大きな声で泣いている。
「やだ、予備切らしてるのに」
「今作る分は足りそうなのか?」
「うん、でもこの量じゃ朝まで持たないから買いに行かないと」
それを聞いて宮園さんは手を挙げた。
「私買いに行きます」
柳瀬さんは後で買いに行くからいいよと断った。それでも宮園さんは、すぐ用意しないと心配だろうからと言ってミルク缶の写真を携帯電話で撮った。
「これと同じのでいいんですよね?」
「うん、本当にいいの?」
「はい!」
ここから歩いて5分ほどの距離にドラッグストアがあった。安西さんは財布を出してきてお札を渡した。
「これでお願いします」
宮園さんは出掛けて行き、柳瀬さんと私で床を掃除した。ミルクの粉は思った以上に取りづらい。
あまりに酷似しているその顔から目が離せない。
2人は部屋に入らずまっすぐこっちに来る。足が硬直して動けない。
「あら、青谷さん。髪切ったら別人みたいね」
いつのまにか看護師が充電器を手にして戻っていた。
「横になる前に売店行くことにしました、すいません」
本人は全く喋らない。私がずっと見ていたからか、彼は目を晒している。車椅子は押されてエレベーターへ向かう。
「充電器はこれで合ってますか?」
看護師が私を見る。
「はい、ありがとうございます」
充電器を受け取って私はエレベーターへ急いだ。まだ2人はエレベーター前にいる。横目で彼を見る。懐かしい名前が浮かんだ。
倉前くらまえ 恭也きょうやーーー
あの人には妹がいたけど、他に兄弟はいないはずだ。こんなにも同じ顔をしていて別人・・・?
頭が混乱する。青谷あおたに 蓮れん、この人の事を知りたい。
「美蘭みらんちゃーん、こっちだよー」
宮園さんはすっかり馴染んで柳瀬さんの愛娘みらんちゃんをあやしている。
「安西さん手伝います」
デザートを用意してあると言って冷蔵庫からケーキを取り出した安西さんの横についた。
「ありがとう。じゃあコーヒー入れてもらっていいかな?ドリップ出来てるから」
「分かりました」
宮園さんが美蘭ちゃんを抱きかかえて様子を見に来た。
「先輩、奥さんのこと旧姓で呼んでるんですか?」
私と安西さんは目を合わせて笑った。
「うん。沙織さんって呼ぶと違和感あって」
「橋詰さんはね、先輩後輩の関係が好きだから安西さんって呼びたいんだって」
「えー、なんかうらやましいな」
焼肉の鉄板を片付けながら柳瀬さんが言った。
「宮園さんと橋詰さんも仲いいよね」
「はい!先輩って話しやすいしなんか居心地いいんです。私は好きですよ、先輩っ」
褒め言葉なんて初めて聞いたから気恥ずかしくなった。
「ありがと」
「あれ?先輩は私の事好きって言わないんですか?」
「・・・言わない」
からかうと安西さんが笑った。
「先輩ひどい~」
ケーキを食べながら宮園さんは柳瀬さんに馴れ初めについて問い始めた。興奮気味に聞き入るのを見ながら、私は3年前の事故を思い出していた。
横山さんの悪質なイタズラによって鬱状態になった安西さんが柳瀬さんの車から降りた私を見て誤解し、他の車に跳ねられそうになった。安西さんを庇って車と接触した柳瀬さんは一時重傷を負った。今こうして2人がみらんちゃんと共に幸せな生活を送っている事が心から嬉しい。
突然美蘭ちゃんが大声で泣き出した。
「あー、ミルクかな」
安西さんは美蘭ちゃんを抱えたまま立ち上がり、台所でミルクの缶を取り出した。哺乳瓶にミルクの粉を入れるのが片手で大変そうだ。
「俺が抱っこするよ」
柳瀬さんが立ち上がったその時、美蘭ちゃんが振り回した手に当たったミルク缶が勢いよく床に落ちた。
「あ!」
粉は派手に広がりほとんど溢れてしまった。美蘭ちゃんは驚いてより一層大きな声で泣いている。
「やだ、予備切らしてるのに」
「今作る分は足りそうなのか?」
「うん、でもこの量じゃ朝まで持たないから買いに行かないと」
それを聞いて宮園さんは手を挙げた。
「私買いに行きます」
柳瀬さんは後で買いに行くからいいよと断った。それでも宮園さんは、すぐ用意しないと心配だろうからと言ってミルク缶の写真を携帯電話で撮った。
「これと同じのでいいんですよね?」
「うん、本当にいいの?」
「はい!」
ここから歩いて5分ほどの距離にドラッグストアがあった。安西さんは財布を出してきてお札を渡した。
「これでお願いします」
宮園さんは出掛けて行き、柳瀬さんと私で床を掃除した。ミルクの粉は思った以上に取りづらい。
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