ゴールドレイン

小夏 つきひ

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3つの星

3つの星⑭

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しかしその後、母親がうっかり小さく溜息をついたため長男は益々しかめっ面となった。
すっかり背を向けてしまった長男をどう宥めればいいかと拓人は考えていた。
紡は何かを察したのか急に泣き始め撮影が困難な状況となった。そこで晴喜が昼休憩を取ることを勧め両親は納得した。
「お昼はどこかへ食べに行かれますか?」
「そのつもりだったんですけど…」
母親はまだ背を向けたままの長男を見やった。
すると父親が言った。
「何か買いに行って車で食べればいいさ。それならいつでも食べられるし」
「そうね。柊、お昼ご飯買いに行こう」
母親の呼びかけに柊は応じず地面の草を足で均すように蹴っている。
「柊?」
両親は困った顔をした。その間も妹は泣き続けている。
拓人は言った。
「あの、もしよかったら僕がここで柊君と待ってます」
「えっ、そんなの申し訳ないです」
「僕は大丈夫です」
拓人は傍に置いてある小道具を乗せた台車からサッカーボールを取り出した。
「柊君、お母さん達戻ってくるまでこれで遊ばない?」
柊はボールを見ると興味を示した。
「…いーよ」
両親は驚いた顔をした。思わぬ返事だったのだろう。
「本当にいいんですか?」
「はい」
「すみません。できるだけ早く戻ります」
「気を付けて行ってきて下さい」
「ありがとうございます」
泣きじゃくっている紡を抱えて父親は歩き出した。母親は柊がやはり心配なのか何度も振り返りながら歩いている。
「柊君、僕がボール蹴るから柊君も蹴り返してくれる?」
「わかった」
2人は距離を取りボールを蹴りあった。柊は笑うことはなかったが集中していた。
晴喜は柊に気づかれないようカメラを腹の前に構えて写真を撮った。小さな子供と向き合う拓人の姿はどこか新鮮で微笑ましい。
「ねえ、リフティングやりたい!」
柊が言った。
「リフティング?」
「うん。僕できないからできるようになりたい」
柊は期待の眼差しを向けた。しかし、拓人は困っている。リフティングができないのだ。
「晴喜さん、リフティングできますか?」
「少しなら」
「すいません、俺できないんです」
「オッケー。じゃあちょっとだけカメラ持っててくれるか?」
「はい」
拓人はカメラを受け取った。
晴喜が軽くリフティングをして見せると柊は目を輝かせた。
「教えて教えて!」
晴喜は柊にフォームを説明した。はじめは低い位置からボールを足先に落としてやり、足の動きやバランスの感覚を身につけさせながら教えた。
何度か蹴っているうちに柊は勢いがつくようになり、高い位置から落としたタイミングでボールは突然遠くの方へ飛んでいってしまった。

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