ゴールドレイン

小夏 つきひ

文字の大きさ
上 下
66 / 77
3つの星

3つの星⑩

しおりを挟む
少しして、拓人は横から視線を感じ目をやった。
一瞬目があったが女性はすぐさま自分が手に持っていた本に視線を移した。
拓人はあまり考えずまた本の頁をめくり始めた。そして次の本を手に取ろうとした時、女性が声をかけてきた。
「あの、すみません」
拓人は女性の顔を見た。しなやかなウェーブのかかった長い髪、年は20代に見える。
「はい」
「私達、どこかで会ったことありませんか?」
拓人は驚いた、聞き覚えのある声だったからだ。目の前にいる女性の顔にいつかの少女の面影があるように見えるのは気のせいなのか。
どう答えていいか迷っていると女性は言った。
「この間、百貨店の通路で会いましたよね?」
自分が深読みしたのとは裏腹に女性の考えていることはあっさりとしていた。
「雑巾を拾ってくれた人ですか?」
「そうです。やっぱり清掃員さんだったんですね」
「すいません、あの時急いでて」
「いえ。偶然ですね、こんなところで」
「はい」
拓人は話をどう続けていいかわからず会釈をした。女性もそれで終わりという様子で持っていた本にまた目を向けた。
しかし、1分も経たないうちに女性は話しかけてきた。
「あの…」
拓人が女性と目を合わせた瞬間、どこからか携帯電話の震える音が聞こえ始めた。
2人は数秒止まったままだったが、ついに女性が鞄から携帯を取り出した。女性は画面を見て顔を強張らせると惜しそうに頭を下げて去っていった。
戻ってくるかもしれないと思いながら拓人は引き続き本に目を通していたが、結局女性は戻ってこなかった。
別の本棚へ移動しようとその場を離れるとズボンのポケットで携帯が震えた。すぐに取り出して通知を見ると晴喜からメッセージが来ていた。

最近どうだ?
こっちは少し落ち着いてきた
お前がいけるなら今夜メシ行こう

拓人は久しく嬉しさが込み上げた。貴重な誘いを断るはずはなく晴喜に返信をして約束の時間を楽しみに待った。


待ち合わせは2人でよく行く居酒屋だった。
拓人は先に店へ入った。最後にこの店へ来たのは夏になる前だったか、そんなことを考えながら店内やメニューを眺めた。
10分ほどして晴喜がやってきた。
「お疲れ様です」
「おー、お疲れ!」
晴喜は相変わらずのにこやかさで席に座った。
「まずはビールだな」
「はい」
店員を呼んで生中2杯と酒のあてをいくつか頼んだ。
ビールが運ばれて来ると2人はよく冷えたグラスの取っ手を握り乾杯した。
拓人の顔には珍しく笑みが浮かんでいる。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

お見合いすることになりました

詩織
恋愛
34歳で独身!親戚、周りが心配しはじめて、お見合いの話がくる。 既に結婚を諦めてた理沙。 どうせ、いい人でないんでしょ?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

マッサージ

えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。 背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。 僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...