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3つの星
3つの星⑩
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少しして、拓人は横から視線を感じ目をやった。
一瞬目があったが女性はすぐさま自分が手に持っていた本に視線を移した。
拓人はあまり考えずまた本の頁をめくり始めた。そして次の本を手に取ろうとした時、女性が声をかけてきた。
「あの、すみません」
拓人は女性の顔を見た。しなやかなウェーブのかかった長い髪、年は20代に見える。
「はい」
「私達、どこかで会ったことありませんか?」
拓人は驚いた、聞き覚えのある声だったからだ。目の前にいる女性の顔にいつかの少女の面影があるように見えるのは気のせいなのか。
どう答えていいか迷っていると女性は言った。
「この間、百貨店の通路で会いましたよね?」
自分が深読みしたのとは裏腹に女性の考えていることはあっさりとしていた。
「雑巾を拾ってくれた人ですか?」
「そうです。やっぱり清掃員さんだったんですね」
「すいません、あの時急いでて」
「いえ。偶然ですね、こんなところで」
「はい」
拓人は話をどう続けていいかわからず会釈をした。女性もそれで終わりという様子で持っていた本にまた目を向けた。
しかし、1分も経たないうちに女性は話しかけてきた。
「あの…」
拓人が女性と目を合わせた瞬間、どこからか携帯電話の震える音が聞こえ始めた。
2人は数秒止まったままだったが、ついに女性が鞄から携帯を取り出した。女性は画面を見て顔を強張らせると惜しそうに頭を下げて去っていった。
戻ってくるかもしれないと思いながら拓人は引き続き本に目を通していたが、結局女性は戻ってこなかった。
別の本棚へ移動しようとその場を離れるとズボンのポケットで携帯が震えた。すぐに取り出して通知を見ると晴喜からメッセージが来ていた。
最近どうだ?
こっちは少し落ち着いてきた
お前がいけるなら今夜メシ行こう
拓人は久しく嬉しさが込み上げた。貴重な誘いを断るはずはなく晴喜に返信をして約束の時間を楽しみに待った。
待ち合わせは2人でよく行く居酒屋だった。
拓人は先に店へ入った。最後にこの店へ来たのは夏になる前だったか、そんなことを考えながら店内やメニューを眺めた。
10分ほどして晴喜がやってきた。
「お疲れ様です」
「おー、お疲れ!」
晴喜は相変わらずのにこやかさで席に座った。
「まずはビールだな」
「はい」
店員を呼んで生中2杯と酒のあてをいくつか頼んだ。
ビールが運ばれて来ると2人はよく冷えたグラスの取っ手を握り乾杯した。
拓人の顔には珍しく笑みが浮かんでいる。
一瞬目があったが女性はすぐさま自分が手に持っていた本に視線を移した。
拓人はあまり考えずまた本の頁をめくり始めた。そして次の本を手に取ろうとした時、女性が声をかけてきた。
「あの、すみません」
拓人は女性の顔を見た。しなやかなウェーブのかかった長い髪、年は20代に見える。
「はい」
「私達、どこかで会ったことありませんか?」
拓人は驚いた、聞き覚えのある声だったからだ。目の前にいる女性の顔にいつかの少女の面影があるように見えるのは気のせいなのか。
どう答えていいか迷っていると女性は言った。
「この間、百貨店の通路で会いましたよね?」
自分が深読みしたのとは裏腹に女性の考えていることはあっさりとしていた。
「雑巾を拾ってくれた人ですか?」
「そうです。やっぱり清掃員さんだったんですね」
「すいません、あの時急いでて」
「いえ。偶然ですね、こんなところで」
「はい」
拓人は話をどう続けていいかわからず会釈をした。女性もそれで終わりという様子で持っていた本にまた目を向けた。
しかし、1分も経たないうちに女性は話しかけてきた。
「あの…」
拓人が女性と目を合わせた瞬間、どこからか携帯電話の震える音が聞こえ始めた。
2人は数秒止まったままだったが、ついに女性が鞄から携帯を取り出した。女性は画面を見て顔を強張らせると惜しそうに頭を下げて去っていった。
戻ってくるかもしれないと思いながら拓人は引き続き本に目を通していたが、結局女性は戻ってこなかった。
別の本棚へ移動しようとその場を離れるとズボンのポケットで携帯が震えた。すぐに取り出して通知を見ると晴喜からメッセージが来ていた。
最近どうだ?
こっちは少し落ち着いてきた
お前がいけるなら今夜メシ行こう
拓人は久しく嬉しさが込み上げた。貴重な誘いを断るはずはなく晴喜に返信をして約束の時間を楽しみに待った。
待ち合わせは2人でよく行く居酒屋だった。
拓人は先に店へ入った。最後にこの店へ来たのは夏になる前だったか、そんなことを考えながら店内やメニューを眺めた。
10分ほどして晴喜がやってきた。
「お疲れ様です」
「おー、お疲れ!」
晴喜は相変わらずのにこやかさで席に座った。
「まずはビールだな」
「はい」
店員を呼んで生中2杯と酒のあてをいくつか頼んだ。
ビールが運ばれて来ると2人はよく冷えたグラスの取っ手を握り乾杯した。
拓人の顔には珍しく笑みが浮かんでいる。
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