ゴールドレイン

小夏 つきひ

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3つの星

3つの星⑧

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百貨店清掃の仕事が始まり拓人は新しい業務を覚えることに集中した。
業務内容は主に各階トイレの衛星チェックとフロアの床掃除だが、それぞれ使用する道具の場所や広いフロアの移動については覚えるまで少々時間がかかった。
営業中の時間帯は客や店員の邪魔にならないよう気遣いながら作業するよう求められる。床掃除をする時以外はできるだけ端を歩くよう言われているが、うっかり目立つ場所を歩いてしまうなどして他の清掃スタッフに注意されることもある。
平日の昼間、まだ人の入りが少ない午前に拓人は3階のトイレチェックを終えてフロアを移動していた。1つ前の階でトイレチェックをした際に洗剤ボトルを出したままにしていることを思い出し、少し急ぐこともあって普段は歩かないようにしている通路を通った。見つかるとまた注意を受けるためできるだけ早く足を進めた。
子供服売り場の前を横切ろうとした時、後ろから声をかけられた。
「あの」
足を止めて振り向くと売り場の制服を着た女の店員が立っていた。
拓人は店員に注意されるかもしれないと思った。
「落としましたよ」
店員は拓人が腰につけているポーチに入っていた拭き上げ用の雑巾を手にしていた。
「すみません」
拓人は頭を下げると目も合わさず雑巾を受け取り立ち去った。
階段のところまで来ると店員の表情がどうだったのかが気になった。フロアの通行について後で清掃会社でクレームを入れられては困る。
子供服売り場の方を向くと見える限りでは店員は1人しかいない。さっき声をかけてきたのはあの店員だろう、そう思ったが少し遠く肝心な表情までは見えなかった。
階段を降りながら拓人は頭の片隅で引っかかるものについて考えた。違和感があるのだが我ながら何なのか見当がつかない。しかし、次のフロアに足をつければまた別のことに集中しなければならずその違和感はいつのまにか消えていた。

思い出されたのは翌日になってからだった。
バックヤードの清掃後、床の掃除をするため道具の準備をしてフロアに出た。ゴミが落ちていないか見て回っていると小さな子供が母親に叱られていた。どうも先程買った菓子を食べたいとごねているらしい。
結果、母親はため息をついて鞄から菓子を取り出した。
「1つだけだからね」と言ってラムネのようなものを渡すと子供は喜んで口に放り入れた。
拓人は親子の横を通り過ぎた。そのまま真っ直ぐに歩いていると後ろで音が鳴った。
笛のように高く、それでもって素朴な音ーーーーー
拓人はその音を耳にして昨日の違和感にハッとした。

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